霧彦様が始末されたあの日から数週間が経った。
自分の夫を殺した冴子様は、特に変わった様子はない。敢えて言うのならば、ここ最近どこかに出かけることが多いぐらいだ。この前は若菜様を連れて行ったが、一体何をしているのだろうか。
そんなことを考えつつ庭仕事をしていた私の携帯に一通のメールが届く。それは冴子様から、裏の仕事に関するものだった。
【阿久津視点】
全く、何だってんだ。
今まで警察としての立場を利用して、うまく組織の連中と付き合って来たっていうのに…
俺は今、どこからか内通者である俺の存在を嗅ぎつけた奴から逃げるため、クルーザーに乗り込んでいた。
「チッ!」
思わず舌打ちをする。いつかはバレると思っていたが、まさかこれほど早く来るとは…。
それに何なんだ。何であいつが…。あいつは、溝口は確かに俺と氷室の二人で殺したはずだ…。だが、この前氷室が殺され、そして今度は俺が狙われた。
まあ良い。あいつが来ようが、もう助けは呼んだ。一度しか見たことはないが、あの化け物なら溝口をもう一度殺せるはず…。いや、最悪でも時間稼ぎ程度にはなる。その間にクルーザーで逃げさせてもらおう。
そしてクルーザーのエンジンを掛けようとした時、気配を感じた。
まさか、溝口が…。
緊張しながら近くに置いていた銃を取り出し、構える。沈黙が場を包み、心臓の鼓動だけが俺の聴覚を支配する。
そして船室のドアが開かれたその瞬間、銃を突き出すと思わず笑みがこぼれた。
「へへっ」
そこにいたのは帽子を被った若僧。何だ、びっくりさせやがって。
それにしても、こいつは誰だったか…。どこかで見たような…。
まあ良い。今更、一人や二人殺したところで変わらない。こいつにはここで消えて…、
「ちょろいな。簡単に罠にかかりやがって」
何?
そう思った瞬間、横から誰かが構えた銃を弾き蹴り飛ばす。
そこに居たのは、あの赤い服を着た若い刑事の男だった。
「阿久津。今度こそ話を聞かせてもらうぞ」
そう言って俺を強引にクルーザーから引きずり出し、地面に押さえつける。
「さあ言え。お前が仕事をやると言って連れ去った人たちはどうした?」
ハッ。やっぱりそんなことか。
「実験台にされたらしいぜ」
「実験台?」
「ガイアメモリの商品テストのな」
どいつもこいつも馬鹿な連中だったぜ。ちょっと金を見せりゃあ、すぐに食いつく。それにどうせ行方不明になろうが死のうが誰も気にしない奴らだ。ならこれぐらい構わないだろ。
だが目の前の若僧にはそうじゃなかったらしく、鬼気迫る表情を見せる。
ああ。この目だ。溝口と同じ無駄に正義感をみなぎらせた目…。世の中正義だけじゃやっていけないということに気付いていない。
そのくせ、今になって蘇りやがって…。俺と一緒に内通していた氷室を殺して…、次は絶対に俺を…。
「お前の命は刑務所で守ってもらえ!」
それを口にすると、帽子を被った若僧が怒りを見せて言う。
だが、こいつらは気付いていない。どうして俺が態々こんなことを口に出したのか。全て時間稼ぎの為だってことに…。
「いや、俺の命を守るのはこいつだ!」
やっと気づいた奴らが振り向く。
そこに居たのは、まるで巨大な化け猫のような姿をした怪物だった。
【初視点】
…あれ、いつの間に仮面ライダーは増えたのだろうか?
私は港の近くの建物の陰に隠れながら辺りを伺っていた。
今、ミックはいつものと、見慣れない真っ赤な奴の二人の仮面ライダーと戦っていた。
ミックは素早い動きで二人の仮面ライダーを翻弄しているが、あの赤い仮面ライダーの能力が分からない以上、万が一の事があるかもしれない。実際、先程赤い仮面ライダーの攻撃をミックはまともに受けている。
…ここでの私の選択は二つ。このまま傍観するか、ドーパントになって加勢するか。
傍観するとした時の問題は、ミックがやられたら確実に私の身が危険に晒されるというとこだ。ミックは園咲家の一員。その身に何かがあったら琉兵衛様から何をされるか分かった物ではない。
逆に加勢する場合、ミックがやられる危険は減る。しかし今度は私があの仮面ライダー二人にやられるかもしれない。…いや、私のメモリの特性上、そう簡単にはやられないと思うのだが…。それにそもそも面倒くさい。
やっぱりここで隠れているか、いや加勢するべきか。
〈JET〉
ん?
悩む私に向かっていきなり赤い斬撃が近づいてくる。どうやらあの赤い仮面ライダーが放った攻撃をミックが避けた結果らしい…、って落ち着いてる場合じゃない。
すぐにガイアメモリを取り出し、コネクタに挿入する。
やっぱり、私は神様に嫌われてるのかもしれない。そんなことを思いつつ、ドーパントとして二人の仮面ライダーの前へと姿を現した。
【翔太郎視点】
「ん? あいつは…」
『こいつはあの時の…』
照井が放った攻撃が建物にぶつかったことで発生した土煙。その中から、かつて霧彦と共に園崎邸に現れたあの奇妙なドーパントが姿を現した。
「何だ、貴様は?」
何も知らない照井が剣を突き付けて問いかける。しかし返ってきたのは、かつて聞いたのと同じ言葉。
「答える気は無いし、知る必要も無い」
「そうか。ならば貴様も倒すまでだ!」
照井はそのまま剣を振りかぶって突っ込む。
「おい待て、照井!」
奴の能力は未知数。まっすぐ突撃するのは危険だと言おうとするが、照井は耳を傾けず、そのまま剣を振り下ろそうとした時、一瞬動きが止まった。
そのまま、剣を振り下ろすがまるで力が入っておらず、簡単に避けられてしまう。
「くっ!?」
今度は剣を横に薙ぎ払うが、これもさっきまでとは違い動きがぎこちなく、あのドーパントには全く当たる様子がない。
「どうしたんだ?」
『っ翔太郎、気をつけろ!』
フィリップの声で我に返ると、幹部がこちらに向かって跳躍していた。
「おわっ!?」
すぐさま避けようとするが、いきなりのことで体がうまく動かず、そのまま爪による一撃を食らってしまう。
さらに幹部はこちらに追撃しようとするが、すぐにトリガーマグナムによる銃撃で牽制し、距離を取る。
「悪い。あっちに気を取られちまった」
『次からは気を付けてくれ、翔太郎。だが、それにしても…』
今度は幹部から目を離さないようにしつつ、同時に横目で照井の様子も見る。
だが、先程と同じく剣の重さに振り回されているようで、使いこなせていない。
「一体、どうなってんだ?」
あの様子。まるで変身前の時のようだ。
「だったら!」
このままでは倒せないと思ったのか照井は剣を捨て、今度は格闘戦を仕掛けた。確かにあれなら剣の重さには振り回されない。
だが、奴は全く焦ることなく、むしろ余裕といった感じで照井のパンチやキックを避ける。
さらに幹部のドーパントはこちらの射撃を避けつつ、照井に向かって走り出した。
『不味い!』
「避けろ、照井!」
声に気付いた照井がすぐに振り向いて、紙一重で攻撃を躱す。だが、
「何だ!?」
背を向けた照井に向かって、もう一方のドーパントが触手のようなものを伸ばし、手足を絡めとった。
動きを封じられもがく照井に、幹部が爪を光らせて飛び掛かる。
「フィリップ!」
『ああ!』
〈CYCLONE〉
〈METAL〉
メモリをルナトリガーからサイクロンメタルに変えると、照井が捨てた剣を拾う。右手に感じる半端じゃない重量。しかし、扱えないほどじゃあ無い。それを照井の前に投げると、背中のメタルシャフトを取り出して、幹部と照井の間に立ち、攻撃を受け止めた。
「くっ!?」
だが幹部は連続で爪を振るい、それをシャフトを使って何とか捌く。
そんな中、どこか自分に少し違和感を感じた。まるで、いつもより少し力が出ないような…。
だが、それを確かめる暇もなく、少しずつ防御が追いつかなくなりダメージを受ける。防御能力の高いサイクロンメタルでも防ぎきれないスピード…。段々と追い詰められる。
「ぐあっ!?」
そしてついに奴の攻撃を捌ききれず、シャフトを落としてしまう。そのまま奴が爪を立てようとした時、
〈ELECTRIC〉
―シャッ!?-
照井がやっと拾った剣で触手を切り落とし、さらに放った電撃で幹部へと攻撃を放った。電撃自体は避けられたものの、危機は脱したと言えるだろう。
「全く、世話が焼ける」
「何だと!? もとはと言えばな…」
照井の言葉に思わず声を荒げるが、
『そう言えば、阿久津は…』
あ、まずい!?
気が付くも遅く、既に奴はクルーザーを発進させていた。
さらにそれに気を取られている隙に、幹部がもう片方のドーパントを抱き上げて、一瞬の内に走り去る。
「野郎、逃げやがった!!」
どちらにも逃げられ、思わず叫ぶ。
だが次の瞬間、今度は阿久津が乗っていた船が突如として爆発し、今度は呆然とさせられるのだった。
【初視点】
変身を解き、近くに止めていたバイクに向かう途中、内通者が乗っていた船が爆発する光景が見えた。
…ああ、
冴子様から命じられたのは、内通者が警察に捕まらないようにしつつ、その身柄を確保。それが出来ない場合は排除するようにとのことだった。つまりあのまま逃げ出しても、末路は彼が売り払った実験台と同じということだ。
彼からすれば都合の良い取引相手だったのだろうが、組織からすれば高々一人の内通者。取引相手は他にもいるということなのだろう。
改めて考えると、私の立ち位置ってかなりやばいな…。実験台の一人かつ警察からすれば組織の一員なんだから。
溜息を吐きつつ考えると、肩に乗っていたミックが顔をこすりつけてきた。
…羨ましいな。なんて猫の立場に少し嫉妬しながら、報告のために冴子様に電話を掛けた。
組織の在り方を考えたら、阿久津の末路はどちらにしてもろくなものじゃないと思ったために、最後の部分はこうなりました。