ハイスクールD×D スカウトするためにやってきました。 作:黒部 愁矢
木が軋む音と共に、意識が覚醒する。
同時に、両手足首の不快な圧迫感も感じ、不快な気分に。
俺の移動を阻害する、まるで鳥と鳥籠、猫に鎖のように自由を文字通り封じる鉄枷を切り裂きたい衝動に駆られるが、俺の強みである意志力で我慢する。
まだその時じゃない。
……しかし、誰とも知れない奴に拘束されるのは嫌いだ。
さて、今が何時なのかは正確には分からない。
昨日、白髪青年と、茶髪少年にこの施設での基本的な一日の流れを聞いたのだが、起床時間は五時から六時の間。
体内時計に頼ろうとしても、俺がここに来た時刻が分からないうえに、俺達が過ごしている場所は光が一筋も届かない地下だ。
体内時計も狂ってしまうため、今が何時かなんて分かりはしない。
そこで、俺は遠くの壁に掛けられている物に目をやる。
電気の一つも点いていないため、一般人には何も見えていない程の暗闇だが、俺の耳にはしっかりと駆動音が聞こえる。
カチ、コチ、と規則正しく秒針が動く音が聞こえる。
つまり体内時計が狂っていようが、時計があるから別にどうということは無い。
なんとなく、肩を落とし、地面に頭をつけて項垂れたい気分になった。
「おや、起きているのかい?」
「あ、はい。おはようございます、白髪のお兄さん」
ふと、横を向けば壁に寄り掛かって、此方を見て微笑んでいる白髪青年がいた。
どうやら俺が目覚める切っ掛けとなった木の軋む音は、彼によるものだったらしい。
……それにしても、昨日見た時から思っていたが、無理をしているような笑みだ。
この青年は九年前からこの施設にいるらしいが、それは九年間日の光を浴びていないことになる。
肌の色が白いのはそのためかもしれない。
だが、体つきは決してもやしではない。どちらかというと、健康的なスポーツマンのように良く引き締まった体格をしている。
まあ、実験痕が見えているのに健康的だというのも可笑しい話だが。
どんな実験が行われているのかは知らないが、少なくとも部分的に青や赤に変色した肉体を見て、良い印象は受けないだろう。
そこまで考えたあたりで、クツクツと小さく笑う音が聞こえ、意識を戻すと白髪青年は苦笑していた。
「あはは、白髪のお兄さんって……。気軽に5番って呼んでいいよ」
「……ここでは皆そんな風に呼んでるんですか?」
「そうだよ。僕が5、そこでまだ寝ている癖毛が特徴の子が14、その隣の金髪で無口な子が16、他には後二人、君くらいの歳の女の子がいるけど、その28と32は僕らとは別の牢屋に入れられているから……まあ、昼を過ぎる頃には顔を合わせることになるさ」
「勝手にあだ名を付けちゃダメですか?」
「僕らとしては大歓迎したいところなんだけど、ここでは被検体ナンバー以外では呼んじゃいけないことになっているんだ。……もし言っちゃうとね」
そこで一旦口をつぐみ、真剣な表情を作って言葉を放つ。
「どんな例外もなく、懺悔室へ連れていかれる。そこから帰って来た者はいないよ」
緩やかに冷える思考を尻目に、白髪青年は続ける。
「どうやら、僕らに反逆の意思を起こさせないために、少しでも人間としての意識を削ろうとしているみたいだね。……そして懺悔室へ連れていかれた仲間は、一日体罰を受けた後に、見せしめとして目の前に転がされるんだ」
何がとは口には出さなかったが、白髪青年の表情と、音の無い言葉から読み取れた言葉に思わず目を細める。
「あいつらは、この者が体罰に耐えられなかったのは、神への信仰心が足りないから救済が与えられなかったのだと言うんだ。体で無事な部分が見当たらない程、鞭で打たれたり、僕らに殺してくれと泣いて頼むほどに辱めを受けたり……」
それ以上の言葉は続かなかった。きつく噛みしめられた口からは血が流れ、表情からは憤怒の色しか見えない。
「……ねえ、31番?」
皆で脱出してみたいとは思わないかい?
「っえ?」
「いや……今の言葉は忘れてくれ」
そこで話は終わったのか、白髪青年は聖書を読み始めた。
――脱走。
先程の白髪青年の言動や様子を見る限り、その意思は大分前からあるように思える。
だが、何故出来ていないのかと言えば、今来たばかりの俺でも一つ思い当たる点がある。
この施設は、脱走されることを想定しているような構造になっており、地下から抜け出す道は細長く、狭い通路一つしかない。
更にその道が異常に長かったりと、明らかに逃げる前に殺してしまおう、という意図しか考えられない。
まあ、こんな状況なのだから白髪青年も迂闊には動き出せないのだろう。
先の言葉を額面通り受け取るなら、白髪青年はここに捕らえられている者全員で抜け出すことを望んでいる。
それをするためにはかなり綿密な計画が必要だが……。
脱走について色々と考察している間に、起きたメンバー達に挨拶をしていくと六時になる。
ここまでは皆寝ぼけ眼で、ぼんやりとした雰囲気が漂っていたが、六時になった途端に空気は一転し、眉間に皺を寄せ、ピリピリとした雰囲気を作り出した。
そして、鉄扉が耳障りな悲鳴をあげながら、神父の姿を俺達の目に移させる。
「我らが主に感謝の意を籠め、聖歌を歌う。……ああ、被検体035番には、主のありがたき御言葉が記された書を渡す。一字一句心に留め、何時如何なる時もその御言葉を頭に思い浮かべよ。……きっと、信心深い者には主からの施しを受けるであろう」
濁った眼の神父によって牢屋の中に入れられた聖書を手に取り、目を通す。
聖書は英語で書かれてあり、約三百ページに渡って、びっしりと文字が詰め込まれている。
俺の本当の母国語は日本語なのだが、一応世界を旅していた経験もあり、英語もそこまで引っかかることがなく読めるのは不幸中の幸いというべきか。
慣れない聖歌を騙し騙しで歌った後、非情にけだるげな神父の声とともに、説法が始まる。
その間は祈る体勢のままであり、その説法が終わったのは、二時間のことだった。
「それでは、信仰心を高め、我らが主から賜ったものをその身に授かり、聖剣使いを目指すがいい」
「……どうせ、信仰心があろうがなかろうが……無理なものは無理に決まっている」
アーメンと呟いて去っていく神父を見て、金髪少年の16番はぼそりと呟いていた。
どうやら、実験は二つの部屋で行われ、残りの一つの部屋では剣と神器の鍛錬をするように言われているらしく、数年前から三グループに分けるのが基本となっている。
よって、少女二人は二人で組み、白髪青年と茶髪少年が組んだ。
「よろしく……何て呼べばいいんだ?」
「……16番」
必然的に俺と16番こと金髪少年がペアを組んだのだが、如何せん金髪少年の愛想が悪い。
一応質問をすれば返ってくるが、最小限の言葉によるものなので、毎回理解に時間を掛けてしまうのはなんとかしてほしい。
「……気を付けろ、死ぬぞ」
「…………おう」
無口な金髪少年と、俺は重い鉄球を引き摺りながら実験室へと続く鉄扉を開ける。
……多分、今からやる実験で気を張り詰めておかないと死ぬぞ、という忠告なのだろう。
何を指しているのか地味に分かりにくいな。
「憐れな子羊に偉大なる主の施しを与えたまえ、アーメン。……速く横になって勝手に準備をしておけ」
小太りの神父は俺達が入室した頃には、天井を向いて熱心に祈っており、俺達が入る音を聞くと、途端に冷たい声色になった。
「……ふん。バルパー様も与える意味の無いモルモットは処分してしまえばいいものを。……何故執拗なまでに残し続けるのか……私には理解出来ん」
ぶつぶつと眉間に皺を寄せつつ呟いては、右腕を仕切りに振り、やがて我に返ると俺達に檄を飛ばした。
しかし、何をやれというのか……。
「……拘束具を付けろ」
ぼそりと、神父に聞こえない音量で伝えたアドバイスに手で感謝しつつ、拘束具が取り付けられた手術台のような物に乗る。
しかし、拘束具付きの手術台も中々恐ろしいことで……などと、ふざけた思考を張り巡らせていると、その間にも金髪少年はさっさとベッドに座り込み、勝手に拘束具を体に嵌めている。
その歳で実験を受けることに抵抗が無いのか、と首を傾げたくなるが、そんな思考は脳の片隅に追いやり、俺も拘束具に手をつける。
……恐らく、俺に気を掛けるくらいには慣れているのだろう。
手枷を無表情で黙々と装着する姿を見て、何やら金髪少年が目を見開いているが、特に気にすることではない。
続いて足枷を着ける際に、「……慣れているんだな」という呟きが、俺の耳朶をしっかりと打ったが、反応したとしても返答に困る類のものであるため、しっかりと無視をする。
拷問慣れしている十歳なんて存在しない方が良いのですよ。
そもそも、俺と同年代くらいな癖に慣れているお前の方が凄いわ。
「……今回のモルモットは従順だな」
ベッドに固定するための枷を着け終えると、脚、腕、胸、頭を更に固定させるためのベルトを神父自らが手に持ち、拘束してくる。
とうとう目隠しまでされ、何故か猿轡までされている。
拘束されていない自由な部位と言えば、心臓の位置と腹部くらいである。
「それでは始める。……舌だけは噛むなよ。つっても噛みたくても噛めねえか、はっ」
暗闇の中、バリトンで不明瞭な声とカチャカチャと何かの器材を弄る音だけが、耳朶を打ち、無性に緊張感が高まらせる。
ここまで拘束して、やる実験とは一体何をするのか……。
心底恐怖心を煽られるが、残念ながらもう逃げられない。ここからは徹頭徹尾、俺達が攻められるだけだ。
注意を促す声の一つも無く、唐突に腕に鋭い、やぶ医者が注射したような痛みが走る。
そして世界が変わった。
全身に隈なく、耳の裏まで余さず焼き鏝を押されているように熱い。
筋肉全てが痙攣し、体内で何かが飛び出そうとするかのように、体が跳ねようとする。
しかし、拘束具の所為で、ベッドから体が離脱することはない。
代わりに無理矢理押さえつけられているが、その代償として、体が悲鳴をあげている。
そんな些細なことに意識を割く程に余裕はない。
……というわけでもない。……正確には、精神面ではまだ余裕はあるが、肉体面では早々に余裕は無くなっているという感じだ。
かろうじて機能している耳から、隣でも同じようなことが起きているのだと、物音で把握する。
しきりに俺の心配をしていた少年を思い、ふと、唐突に嫌な予感がした。
まるで、転生直後に命の危険を味わった時のような――。
そして背中に寒気が襲った瞬間、眼窩で爆発的な衝撃が起きる。
脳味噌に直接電撃を流し込まれた時のような、激痛と吐き気が襲い、目隠しで目を抑えていなければ目玉が飛び出るのではないか、という考えが脳裏をよぎる程にはやばい。
心配機能が数瞬止まる。
その影響で、意識が飛びかけるが、意地で手繰り寄せて正気を保つ。
両手は力の限り握り拳を作り、せめて気絶しないようにと、気合いを入れる。
何分、何十分、何時間経ったのかなんて分からない。
拘束が緩んできているのか、徐々に痙攣で飛び上がる高度が伸びてきた。
眼窩が一瞬だが、すっきりとして、目隠ししている布に何かがぶつかる。
握った拳に何かヌルリと濡れた感触がする。
やがて、痙攣では体は跳ねなくなり、体は当初とは比べてではあるが気持ち、熱くは無くなってきたため、意識に余裕が生まれ始める。残念ながら、肉体面ではあいも変わらず余裕は微塵も無いが。
というか、このレベルの痛みなら精神的には余裕で耐えられる。
……ようやく、脳みそを掻きまわされる感触や、神経を丁寧に一本ずつ切られているかの如く俺に襲いかかる激痛が引いた。
いや、正確には俺の体は飛び跳ねるぐらいには痙攣し、目玉が飛び出そうな感じだしたり、全身に隈なく焼き鏝をされるかの如き痛み等々……、激痛は継続中である。
一般的に見れば十分に大変な痛みなのだが、俺の歩んできた人生上、残念ながらこのレベルは慣れているの一言で終わらせることが出来る。
要するにやせ我慢でなんとかなるのだ。
流石に今回のような現象には出会ったことは無いが、それ以上の痛みや、似たような痛みには幾度となく邂逅を余儀なくされていた。
神見習いや、それ以上の神などの中には、俺のような元人間が神格を手に入れた者も中にはいる。
例をあげれば、理沙姉さんや、俺が最初にいた異世界での親友がそれに当て嵌まる。
……まあ、神格を得ていなくても英霊として来た友人もいるのだけど。
そして、そこに至る過程の大半は大体二つに分けられ、天賦の才で障害無く至った者と、少しある才能で血反吐を吐いて至った者がいる。
勿論俺は後者である。
……言われてみれば確かに俺は目玉を何度か失ったり、魔力を失った状態で特攻したり、死んでもいいという前提の下にに拷問を受けたり、人間よりも元から肉体の基礎スペックが低いにも拘らず、身体スペックが天元突破している吸血鬼とタイマンをしていたのだから、そうかもしれない。
光速で動いても体が崩壊する前に再生する吸血鬼は正真正銘の化け物だと思う。
……いや、全長一キロ越えのドラゴンの方が化け物か?
まあ、そんな経歴があるために俺は肉体的な痛みに対する耐性はかなりある方だと自負している。
それでも神経に直接くるような痛みなんかは耐え難いが…………まあ、我慢出来る。
……そういえば上司が言うには、俺は様々な運が重なったために、あのレベルの事でも生存出来て、人間のままだったならばショック死確実……なのだそうだ。
まあ、俺は悪運が良かったということにしておこう。
さて、ようやく痛みは引いてきた。
何を入れられて、こうなったのかは分からないが、どうしてこうなったかはなんとなく分かる。
恐らく体に絶対的に合わないものを無理矢理入れられたために、体が拒否反応を出したのだろう。
徐々に拘束具が取り外される。
「……よく死ななかったとでも言うべきか。この死にぞこないが。一時間前に被検体016番は既に拒絶反応は終えている。……貴様は聖剣の因子があるといっても、微量に過ぎないようだな。さっさと次の部屋へ行け。私は忙しいんだ」
台からゆっくりと足を下ろし、ちゃんと付いている二本の足で床を踏むが、体力的には限界らしく、ふらついた。
「……貸す」
素早く、側に寄って肩を貸してくれたことに、口パクで感謝しつつ、実験室を後にする。
「……すまないな」
掠れる声に顔を顰めつつ、次の場所へと覚束ない歩調で向かう。
「……死なれる方が困る」
「……」
返事をしようと思ったが、予想外に喉は焼けているらしく、声が出しづらいため黙っておく。
今俺達はどこに向かっているのだろうか。
先程の実験室は、俺達がいた牢屋から出て近くにあったが、今は更に奥へと向かっており、下へ向かう階段を降りている。
「……何故」
ああ、そういえば剣と神器の訓練をするんだったなと思い出すと、丁度金髪少年がぼそりと呟いて来た。
目で、続きを促すと、少し躊躇いがちに口を開く。
「……何故、35番は男みたいな話し方をしているんだ?」
……うむ、訳わからん。
まだ、鏡を見ていないから正確には分からないが、情報としては俺が母似の顔だということは知っている。
母似の顔だというだけで、俺が男の娘になるという道理にはならないと思うのだが、そこの所はどうなのだろうか。
……それとも、本当に女顔だったりするのか?
いや、それでも白髪青年は男と女で牢屋を分けているという発言をしていたのだから、それを金髪少年が知らないはずがない。
……つまりこれはジョークか。
相変わらず無愛想な表情だからジョークだと気づかなかったじゃないか。
「……男だよ」
「…………」
おい、何故そこで限界まで目を見開く。顎が外れそうになっているぞ、気を付けろ。
ジョークじゃなかったのかよ。
二人して、微妙な気持ちになりながらも、ずりずりと歩みは止めず、やがて一つの頑強そうな扉の前へと辿り着いた。
「……ん、少し遅かったね、二人とも。今終わったばかりかい……おっと」
「余所見していて大丈夫か? 今すぐにでもそのいけ好かない顔に傷を入れてやろうか? ん?」
中へと入ると既に俺達以外に四人おり、白髪青年と金髪少年が木剣を手に打ち合っている。
奥の方には二つ人影が見えるが、会ったことがないため、誰か分からないし、ここからでは顔も見えない。
茶髪少年の暴言交じりな素早い猛攻を、白髪青年は相手の打ち込みにくい位置に移動したり、木剣で受け流している。
指導のつもりかは知らないが、防戦一方の白髪青年にも茶髪少年の突きが何度か脇腹を掠り、余裕を保っていた表情もなりを潜め、顰めっ面を張り付けている。
そして、幾度かの剣戟を経て、二人は鍔迫り合いへと持ち込む。
「っく……随分と上手になったじゃないか」
「勿論。唯一の娯楽がこれだから自然と力が入る」
「そうなんだ。……後少しでそれ以外の娯楽も見つけてあげるさ」
「あ? 何か言ったか?」
ぼそりと呟いた言葉は茶髪少年には聞こえず、白髪青年は無言で、鍔迫り合いの状態から両手に力を籠めて茶髪少年を吹き飛ばす。
背中から倒れ込んだ茶髪少年はうめき声をあげながらも体を起こそうとするが、すぐさま白髪少年は木剣を首元に突き付ける。
「……参った」
「まだ単純な力では、僕の方が強いみたいだね」
「くそっ! 後少しだと思ったんだが……」
「まあ、僕は最年長だしね。まだ負けるわけにはいかないよ」
歳の割には上手な打ち合いに、内心半ば感心しつつも顔には出さずに、こちらへと歩いてやって来る二人をぼんやりと見遣る。
「お疲れ」
「ありがとう。35番も良かったね」
「……? 何がですか?」
「勿論……」
「生き残れたことだ」
茶髪少年が続きの言葉を掻っ攫い、白髪青年は苦笑いしているが、少し拗ねたように鼻を鳴らし、奪った言葉を続ける。
「俺達は腐れ神父曰く、聖剣に選ばれる素質のある因子というものがあるらしいが、その聖剣の因子が少ない者はさっきの実験で死んでしまう。……実際にここに来た次の日に死んだ奴もいる。さっきの実験でお前も想像を絶するような痛みを感じただろう? あれが長く酷い痛みで続くほど、そいつにある因子は少ない」
つまり俺は金髪少年よりも軽く見積もっても一時間は遅く拒絶反応が治まったから……かなり因子は少ないんだな。
まあ、聖剣が選ばれた者にしか使えないというのは遺憾だが、俺のそもそもの戦いは長剣主体のものではないため、あまりショックは無い。
一つだけ言うとすれば、あの痛みがこれから何度も続くということだろ
若干遠い目をしていた俺に気付いたからだろうか。怪訝な表情を二人はしている。
そこで、金髪少年は口下手なくせにいらん言葉を口にする。
「……一時間遅い」
「は?」
「…………ああっ! つまり35番は16番よりも一時間遅く痛みが治まったことだね? ……って、ええ!? それは大変じゃないか!!」
じっくりと意味を考え、正しく解釈することに成功した白髪青年は少し嬉しげに話すが、内容を理解したのか笑顔が固まり、徐々に顔が青くなっていき、とうとう叫んだ。
金髪少年も深刻そうな顔で頷き、茶髪少年も何故俺がここにいるというような目で見ている。
……そんなに深刻なことなのかい?
「……そこまでのことですか?」
「そうだ。俺と5番はどちらもそうやってパートナーが死んで来たことで、巡り巡ってこのコンビに至った。16番も同じことが言えるが……相方の口から言った方が早いな。16番、今までで一番因子が少なかった奴でお前より苦しんだ時間はどのくらいだ」
「……三十分」
「っえ……」
「そういうことだ。正直に言って俺には何で35番が生きているのかが不思議でならない」
「んー……まあ、いいじゃないか。結局は生き残れたんだからね。35番はもう少し休んでおいた方がいいよ。……っさ、14番、やろうか?」
「……今日こそは勝つ」
「まだまだ僕は負けられないよ、それこそ最年長だからね」
やる気を漲らせながら歩いてゆく二人を余所に俺は壁に寄りかかり、大きく溜め息を吐く。
「大丈夫か、随分と疲れているようだが」
無言で首を振る。勿論縦に。
一応納得した様子を茶髪少年は見せたが、俺が大丈夫でないのは一目瞭然。
気をきかせて黙ってくれたのだろうが、その配慮に無言で感謝しておく。
精神的にいくら大丈夫であっても、体が限界をむかえてしまえば意味が無い。
俺自身が何千年も修練を積み、容易く素手で斬鉄が出来たとしても、それを行使するのはまだまだ未熟な小さく、貧弱なこの体。
この体でも骨が折れようが動ける自身はあるし、俺の肉体がベースになっていることもなんとなく分かるが、魔力が無ければただの劣等人間であることも理解している。
だから、この実験は俺にとって致命的な程に命を削っているのも把握しているし、早々に精霊の力を取り戻さなければならないのもまた事実。
まあ、そんな思いを吐露するわけにもいかないために、今は魔力なしでも戦えるように肉体強化をしておくべきなのだから、体が動くようになればすぐにでも修行に取り掛かろう。
「……少し休んだら一緒に打ち合いましょう」
「別にいいが……まあ、待て。少し話をしよう」
「話……ですか?」
頷いた茶髪少年は不敵に笑う。
「35番、お前も5番から脱走の話を聞いただろう? それについてだ」
ほほう。
「……聞かせてください」
そこで、俺は茶髪少年から白髪青年の語ろうとしていた全貌を聞いた。
テオ君はやせ我慢が出来る子。
実は一万超えようと頑張ってたけど、八千五百で止まったという。
悔しいのう、悔しいのう