永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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女の子の修行1日目 前編

 ゆっくりと意識を回復する。

 女の子になって3日目の朝、俺にとっては今日は少し起きるのが遅かった。親父はもう出勤してる時間だ。

 ともあれ、今日から永原先生のカリキュラムが始まることになっている。

 ともあれ、パジャマのままではまずい。服が入ってる箪笥を引こう。

 

 

 男物の服は別の引き出しの棚に隔離されている。あれはもう使われない。

 代わって、母さんが買った女物の服が大量にある。これだけ選択肢が多いと迷う。

 

 ……そうだ! 今日は思い切ってスカート穿いてみよう!

 いきなりミニはまずそうだ……俺はそう思って、くるぶし丈のロングスカートを手に取る。

 

 これで外に出るのはまだ抵抗感があるが、そうも言ってられない。

 何分復学するには制服のミニスカートに慣れなきゃいけないわけだからな。現実逃避しても、あとでもっとひどい目に遭うだけだ。

 

 ともあれまずはロングからだ。

 幸いまだ時間はある。

 ともかく着替えよう。

 

 

「おはよー」

 

「あ、優子おはようっ! あらスカート?」

 

 スカート姿の自分を見て、母さんはとても驚いている。

 

「うん、そうだよ。お母さん、女の子がスカート穿いちゃ駄目なの?」

 

「ううん、そんなことないわよ。優子も成長したわねって。お母さん感心しちゃった」

 

 母さんが優しそうな目つきで俺を見つめてくれる。

 

「わ……私も、まだ外を出歩くのはちょっとあれかなって思うけど、まずは家の生活で慣らさないとって思ってて」

 

 でも、勇気出してスカートにしてよかった。

 

「そうよね、お母さん昨日本をゆっくり読んだわ。今日から早速カリキュラム開始よ」

 

「お、お手柔らかに? お願いします?」

 

「……今日一日は外に出ないで家の中の生活の訓練をするわよ。さ、お母さんと一緒に朝ごはんを作りましょ」

 

「え?」

 

「カリキュラムはもう始まっているのよ、今日は簡単な料理の他にも、掃除や洗濯もしてもらうわよ」

 

 料理かあ、自分は学校の家庭科でほんの少しやっただけだ。

 

「じゃあまず、ご飯を炊きましょうか」

 

 俺に課せられた最初の課題はご飯の炊き方を学ぶことだ。母さんに拠れば、基本的にはレシピの本に書いてある通りにやればいいという。

 

 慣れてきたら自分なりにアレンジしてみるのもいいが、まずはレシピ通りのことが出来るようになってから、とのことだ。

 もちろん俺はついこの間まで男子高校生だったから、家事なんて殆どやったことないから基本から勉強しなきゃいけない。

 

「はい、じゃあこのボタンを押してみて」

 

「うん」

 

 言われるがままに押す。とにかく習得しなければ。

 

「この炊飯器は『蒸らし』の機能があるから、炊けたという合図があったらすぐに盛り付けて大丈夫よ」

 

 蒸らしってなんだ? うーん、よく分からないけど、とりあえず今は炊飯器の指示に従えばいいとだけ覚えておこう。

 

「炊飯器は時間がかかるから、その間テレビでも見ててね」

 

 ということなので、リビングのテレビを見る。

 テレビではニュースをやっている。最近は殺人事件のニュースさえ珍しく、どこどこで変質者が出たとか祭り中にトラブルで数人軽傷だとか、動物園でトラブルが起きたけどけが人は居なかったとかそんなのが報じられている。

 マスコミにとってはネタ切れだが、世間にとってはまあいいことだろう。

 

 一昔前は体感治安の悪化と言われていたが、やはり本格的に犯罪が減っているらしい。いよいよマスコミも隠しきれなくなったということか。

 

 そうこうしているうちに「もうすぐ炊けるからこっち来て」と言われた。

 

「そういえば、親父の飯はどうしたんだ?」

 

「こら! 言葉遣い!」

 

「そ、そういえば、お、お父さんは、ご飯はどうしたの?」

 

「カリキュラムにお料理のこともあったから、優子にやらせるために昨日少しだけ多めに作っておいたのよ。お父さんにはそれを食べてもらったわ。さ、暗示かけて」

 

 私は女の子、私は女の子、女の子の言葉を使わなきゃいけない……

 

「か、かけたよ」

 

 あまり効いてる気がしないが、続けるのが肝要だろう。カリキュラムはまだ始まったばかりだ、焦る必要はない。

 

「ふふ、じゃあ続きをしましょう。パンを焼くわよ」

 

 我が家の朝食はご飯とパン、そしておかずは基本的には昨日の残りだ。

 パンの場所を指示され、それを開ける。トースターにはパンのワット数と必要時間が書いてあるから指示通りに合わせて起動する。

 

 トースターがパンを焼いている間に、マーガリンと麦茶、コップを2人分出す。

 そして冷蔵庫から朝食用の昨日の残りを取り出し、電子レンジの中に入れる。

 今の電子レンジは便利で、ワンタッチで「温め」が出来る。

 

「本当は微調整したほうがいいのよ」

 

 母さんがアドバイスする。

 

「でも、どれがどれくらい必要かなんてわっ、私にはわからない、わよ」

 

「それもそうね、とにかく今は作ることが肝心よね」

 

 ともあれ、電子レンジで温め終わり、自分と母親に分ける作業をした。これはそれほど難しくはなかった。

 食卓に持っていき並べ付けている間に、トースターが鳴り、パンが出来た。

 

 母さんからの「熱いから気をつけてね」という注意を聞いたので、念のために取り箸を使ってパンを取り、お皿に盛り付ける。

 

 まずはパンの皿を両手に2つ持って食卓へ、更にマーガリンも食卓へ。

 すると炊飯器が「炊き終わりました」の合図を送る。

 

 ここでも、「ご飯が熱くなっているから、蒸気でやけどしないように」と言われた。

 そこで慎重に蓋を開けてご飯を少しかき回し、二人分盛り付けて、これも食卓へ。

 

 最後に箸と箸置きを持っていって完成だ。

 

「うん、初めてにしては上出来よ」

 

「あ、ありがとう」

 

「じゃあ、いただきます」

 

「いただきます」

 

 

 朝食を食べる。俺が大事件に巻き込まれてからまだ日も浅いが、朝食自体はいつもの朝食だ。

 

「そういえば昨日風呂に入った?」

 

「うん、最後に入ったよ」

 

「そう、それは良かった」

 

「でも、この髪、手入れが大変でさ。髪を縛り上げて湯船に入らないようにするだけでも一苦労だから切りたいの」

 

「ふふっ、ダメよ。髪が短かったら男っぽくなっちゃうから。この本にも、もし髪を切りたいって言ってきたら止めるように書いてあるわ」

 

「ですよねー」

 

 まあ、だいたい予想していたことだから特段驚きはない。それに、この顔なら髪切っても美人だろうけど今ほどじゃないだろうとは思う。

 

 そうこうするうちに食は進む。男だった時は、俺のほうが食べるのは早かったが今では逆転した。

 それでも量が俺のほうが少なかったため、ほぼ同時に食べ終わった。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末様でした」

 

 

「さ、食べ終わったら次にやるのは座る練習よ」

 

「座る練習?」

 

 母さんの指導は慌ただしく続く。

 

「ほら、女の子座りよ」

 

 そう言うは早く、母さんが手本を見せてくれた。どうも次は座る課題らしい。

 

「え? こんな姿勢できないでしょ?」

 

 母さんが見せてくれたのは、足を開いて「W字」型になり、その間にお尻を落とす座り方。

 以前にも母さんがやってみせたが自分も親父もできなかったことを思い出す。

 

「まあやってみてよ」

 

「う、うん」

 

 恐る恐るW字にする。ここまででも結構痛かった記憶があるが、今回は痛くない。そのままお尻を床に持っていく。

 

 ペタン

 

「あれ? 出来た……!」

 

「ふふっ、これは女の子座りというのよ。女子の特権なのよ。ただしやりすぎると骨盤とか痛めるから程々に。ね」

 

「そしてもう一つ、これもやってみて?」

 

 今度は両膝を片側に放り投げた座り方だ。

 

「うん、やってみる」

 

 女の子座りから少し腰を浮かせ、そのまま真似てみる。うん、出来た。

 これは男の時でもできそうだが、母さんからは「スカートの時は体育座りやしゃがむような座り方とかは絶対ダメ」と言って「スカートで座り込む時はこの2つのうちどちらかをやるように」とキツく言われた。

 

 まあその理由は簡単に分かる話だ。

 

「さ、座り方の訓練はここまでよ。今後間違った座り方をしたらダメだからね」

 

「う、うん」

 

「今日は忙しいわよ、次は洗濯してもらうわ」

 

 そう言うは早く、私は脱衣所にある洗濯機に連行された。

 

「これが昨日の洗濯物、これを洗濯機の中に入れるんだけど、場合によってはこんな風に下着ごと脱いでるケースがあるから、その時はちゃんと分けてね」

 

 母さんは器用な手つきで洗濯物を確認しながら入れていく。

 

「さ、やってみて」

 

 先ほどの手本を元にやってみる。

 洗濯物を確認し、洗濯機に放り投げ、下着ごと脱いであるケースを発見し、分離していく。

 ……よし、これで最後だ!

 

「はい、よく出来ました」

 

「次に洗濯物はどこまである? 見てみて」

 

 自分は、洗濯機の中を覗いてみた。

 

「えっと、この線まで」

 

「じゃあこの線の位置とグラム数を覚えて、水を入れて見て」

 

 指示通り水を入れはじめる。

 

「そしたら、さっきのグラム数に合わせて側面に書いてある洗剤の量を入れてみて。今回は洗濯物の量が多いからちょうど1杯だよ」

 

 粉末洗剤をすくい上げ、そして側面に押し付けることでちょうど1杯になる。

 これをなるべく均等になるように入れてみる。

 

「水位が洗濯物よりも上になったら、後は『しっかり洗う』のボタンを押して待つだけよ」

 

「便利なもんだなあ」

 

「ええ、お母さんが子供の頃なんて脱水作業するためには手で移さなきゃいけなかったのよ」

 

 そうこう話しているうちに洗濯物の水位が上がってきた。

 

「そのくらいでいいわよ」

 

「はーい」

 

 そして、水を止め、洗濯機の蓋を閉じて、「しっかり洗う」のボタンを押した。

 

 

「さて、洗濯機の次は掃除機のかけ方だけど……」

 

「そ、その前にトイレいいかな?」

 

「あら、どうぞ」

 

 トイレまで歩き、電気を点けて中に入って鍵を閉める。

 ……そういえば、スカートでトイレってどうするんだ?

 

 うーん、このロングスカートだと面倒くさいな。

 とりあえず、パンツごとスカート下ろすか。

 

 ……よし、これでいい。

 

 

「あ、優子、トイレどうやって入った?」

 

 トイレから出ると母親が待ち構えていた。

 

「え? スカート床におろしてだけど」

 

「だめよ! それじゃスカート汚れちゃうわよ」

 

 わわっ急に怒られた。まずったか。

 

「え? でもどうやって?」

 

「そうねえ、明日はもう少し短いスカート穿いてきなさい。くるぶし丈じゃなくて膝丈下くらいで。いきなりそれだと難しいでしょうから、今は床につけちゃダメってだけ覚えておいて」

 

「う、うん。わかった……わ!」

 

「じゃあ掃除機のかけ方をやるわよ! 昨日わざと掃除していない部屋があるから、優子にはそれをやってもらうわ」

 

 そう言うと、近くにあった掃除機を指差した。コンセントに入れることは分かっている。

 コンセントに入れて、とりあえず見よう見真似で構えてみる。

 母さんからは特に異議はないようだ。

 

「ハイパワーにすると電気代がもったいないから普通のモードで大丈夫、ただし大きなゴミとかがあった場合は切り替えてね。じゃあやってみて?」

 

「はーい」

 

 言われるがままに掃除機のスイッチを押し掃除をしてみる。普段自分の部屋もろくに掃除していなかったから結構新鮮だ。最も、それは経験不足という意味でもあるんだけど。

 

 部屋を掃除していて気付いたが、どうもゴミは部屋の四隅や家具同士の配置で四角くなっている部分、家具の下に溜まりやすいようだ。

 そこで掃除機を使って隅を掃除しようとするが、思うように吸い込めない。

 よし、ハイパワーにしよう。

 

 ……うーん、ハイパワーでもイマイチ効果がないぞ。

 

「あ、隅はね。これを使って!」

 

 取り出したのは先端が丸い箒みたいな形のだ。

 

「先端は取り外せるようになっているからやってみて」

 

 よし、まずは一旦電源を切ってっと。

 えっと、これを引っ張って……よしっ!

 次にこれに変えて、もう一度隅をめがけて掃除機を構えて電源を押す。

 

「おお、ちゃんと取れた!」

 

「このように、部屋の真ん中の方は広いタイプで、隅や小さい所は細かいの。と使い分けるといいわよ」

 

 その後、俺は部屋を徹底的に掃除させられた。掃除機の他にもモップやはたき、エアコンの掃除何ていうのもやらされた。主婦は大変だ。

 

 

 一通り掃除が終わると、昼食の準備だ。

 昼食と言っても、今回はラーメンだ。

 インスタントというわけではなく、スーパーで売ってる麺とスープを使う。

 

「じゃあ、まずは野菜の切り方をやるわよ」

 

「えっと、猫の手だっけ?」

 

「そうね、このへんは家庭科でもやったかな?」

 

「まあでも復習しないとね。今日は覚えることたくさんよ」

 

 ともあれ、ラーメンのための野菜を切り続ける、その間に母親の方は容器を持ってきて、中にスープを入れるとラーメン用の大鍋に水を張り、IHを強火にした。

 

「野菜を切り終わったら、次は麺よ。これは袋を切って入れるだけでいいわ。今回は二人なので二玉よ」

 

 一方野菜の方も別の鍋に入れる。

 野菜と麺を茹でて、まず野菜の方の鍋をスープにしてそれと同時に麺をザルに移して均等に分けていく。

 

「二人いると助かるわ」

 

 とは昼食準備中の母さんの言葉だ。

 

「さあ、のびないうちに食べるわよ」

 

 ラーメンの容器は熱いので、まずはトレイの上に乗っけてそれで運ぶ。

 うっ、意外と重い……

 そうか、自分が女の子になって筋力が弱くなったせいだ。

 

 とは言え持てないわけじゃない。余裕で机に持っていき、対面に食器を分け、完成だ。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

 俺のラーメンの食べ方は、男の時と同じだ。久々に安らげる時間帯だ。

 

 昼食を食べながら、今日を振り返る。まだ半日だが、今日は自分にとっても昨日より充実した半日だと思う。

 新しいことを覚えるのは大変だが、一個一個身につけて行けている実感がある。

 小さなことでも積み重ねられていると感じるだけでも、全然違うものだ。そうしていけば、いつか自分もきっと、内面から女の子になれると信じたい。


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