永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
3組の教室に抜ける前、各教室の壁には「ミスコン」の全参加者のポスターとクラス代表のポスターがそれぞれ貼ってあるのだが、2組だけは明らかに異様な雰囲気だ。
永原先生とあたしと桂子ちゃんが、それぞれ思い思いにポーズを取って笑顔を振りまいている。
相乗効果もあって、他の教室のミスコンのポスターと比べても、遥かに目立つし、写真写りもとても可愛く見える。
これを見て、あたしはようやくアイドルがグループになる理由のほんの1%位を理解した気がする。
「すげえなあ……2年2組大人気だよ」
「うん、特にあたしが人気だといいなあ……」
でも実際は、結構人気が拮抗している。永原先生という存在が、特に大きい。
「でもよ……なんだかなあ……」
「浩介くん、もっと自信を持ちなよ。ミスコンで人気出るくらいの女の子と一緒に回れるんだからさ」
ついつい彼女と言いたくなってしまう。
でもまだ、反射的本能まで女の子と決まったわけじゃないから。彼女とは言えない。
確かに、徐々に削れている自覚はある。もしキスできたら……告白したい。
そんなことを思いながら、3組の教室に入る。
「あ、いらっしゃいませー」
持ち場を担当している人から、ささやかな紙のパンフレットをくれる。主人公を務める主演は今回ミスコンの代表になった女の子だ。
これはよく考えた。
やはりどこもミスコンに力を入れているのだろうか? それともクラスによって違うのかな?
まあいいや、ともあれ今はこれを楽しもう。
よく見るとお客さんは結構入っている。最初の上映だからだろう、興味本位という人が大半だ。
まああたしたちも含めてだけど。
「それじゃあ時間になりましたので上映します。上映中の私語は慎むようにお願いします」
そう言うと、3組の男子生徒が何やら後ろで機材をいじり始めた。
ともあれ映画がスタートだ。
主人公の女の子が、クラスの生徒達と何気ない日常を過ごすところで始まる。
カメラワークはそれなりに工夫されていて、かわいく映るようになっている。
さて、学園祭の映画ということで、やることと言えば、CGもなく、大根役者達による三文芝居だ。
だがそれがいいのだ。むしろ、学園祭の映画でCGをフルに使い、凄まじい演技力を見せた一流の映画を見せられても反応に困る。
そういうのは演劇部とかの仕事だ。
日常を過ごしている中で、いきなり小谷学園の「悪の組織」とやらが登場する。どうも、金に目がくらんで生徒を拉致して人身売買しているらしい。
ちなみに、「悪の親玉」も明らかに見たことある顔。
……忘れもしない、あたしが「優一」として、最後に怒鳴った人。あたしの「最後の罪」の被害者。
あたしが水飲み場でうがいをしたことに怒ったこと。罪の記憶が薄れつつあっても、この「罪」だけは忘れそうにもない。
この後の、数学の授業中に腹痛で倒れて、あたしは次に目が覚めた時に女の子になった。
そんなことを思いつつも、映画は続く。
主人公の女の子が救出のため、アジトに乗り込む。ということになっているが、明らかに日常パートと同じ校舎だ。
ともあれ敵組織の雑魚を魔法で蹴散らす。
のだが、魔法というのはどうも召喚獣らしい。
そしてこの召喚獣、明らかに人間がお面被ってるだけだ。
でも、何故か敵の雑魚は主人公が「はあっ!」と腕を前に突き出しただけで恐怖して逃げる。
というか、敵役の中に拉致された被害者役の生徒と同じ人が居たような……まあいっか。
「ふはは、よくぞここまで来たな」
「見つけたぞダークオダニマン!」
棒読み演技でお決まりのセリフを吐く。
「てやあ!」
ヒロインの女子高生がハイキックする。
更にスライディングして足払いを工夫する。スカートがその度にふわりときわどい。
上手くカメラを工夫していて、映像上では見えてないけど、これ撮影した時絶対パンツ見えまくっているよね……
そして最終的には、悪の親玉が倒され、拉致されていた生徒たちが救出され、一件落着となった。
最後は主人公兼ヒロインがスカートを摘んでギリギリのところで誘惑して終了。
何でこういうお色気シーンがあるのかと思ったら、主人公の女の子が「ミスコンへの投票をよろしくお願いします」と宣伝していた。
これで映画は終了、よく分からない微妙な出来に拍手はまばらだ。
「ありがとうございました。それでは引き続き小谷学園文化祭をお楽しみください」
「なあ、あの映画……」
浩介くんが何とも微妙そうな顔であたしを見る。
「映画というか、ミスコンの宣伝よねぇ……あれ」
「何処のクラスも必死なんだな」
「うん、とりあえずあたしはシフトもあるから2組に戻るよ。浩介くんは?」
「うーん、ちょっとあてもなくブラブラしてる」
「そう、じゃあシフト終わったらもう一度集合ね」
「おしわかった」
浩介くんと分かれ、2組の教室へ。
「あ、おかえりなさいませご主人様……って優子じゃねえか」
「もう、虎姫ちゃん」
メイド服姿の虎姫ちゃんが挨拶してくれる。よく見ると虎姫ちゃんとともにシフトを組む女子が2人いた。虎姫ちゃん、メイド服が意外に似合ってて、「着飾ればかわいい」というのは本当だった。
「それじゃっ、交代してもいいか?」
「うん、それよりもあたしのメイド服は?」
「ハンガーにあるよ。桂子がちゃんと工夫したから大丈夫よ」
「そう」
あたしはカーテンで仕切られている厨房に入る。中はかなり狭く、男子たちが所狭しと活動している。
「お、石山か。悪い、おいみんな、出るぞ」
「よし、分かった」
男子は男子でまたシフトが別らしい。中で女子が着替えているのか、男子たちが一斉に厨房から出ていく。
更に奥のカーテンを引っ張ると脱衣所にある6つのかごとメイド服のセットがあった。
「あ、優子ちゃんおはよう」
よく見るとあたしと組む予定の二人の女子が着替えていた。
あたしも間に入り、着替えを始める。すっかり女子同士の着替えにも慣れた感じ。
上手くパンツ見えないように工夫する着替え方、永原先生のカリキュラムで教わっておいてよかった。
「優子ちゃん、行こうか」
「うん」
あたしたちは挨拶もそこそこに厨房から外へ。すると男子が入ってくるかと思えば、制服へと着替える予定の虎姫ちゃんたちが厨房に入るのを確認してから入る。
なるほど「事故防止」にはああするのか。
「じゃあリハーサルの通りやろうか」
「うん」
ともあれ、ちょうど今は客足が途絶えた頃……と思っていたら……
ガララララッ
男子6人が一気に入ってくる。
「あ、おかえりなさいませご主人様ー!」
あたしが愛想よく笑顔を振りまく。
「うおおおお!!!」
男子たちがやけに気合が入っている。
「こちらにお座りください」
テーブル一箇所あたり3人から4人になっているので2組に分けて座らせる。
「ご注文お決まりでしたらお呼びください」
あたし以外の女子の2人がメニュー表を渡す。
あたしはいわば「看板娘」の役割をして、給仕の役割は他の二人に任せる。もちろん、混雑時間帯はそうでもないけど……って、また来た。
「おかえりなさいませーご主人様ー!」
あたしの笑顔にやられたのか男子の一人がビクッとなる。
こんな露骨な営業スマイルでもやっぱり本能的には「気があるんじゃね」と一瞬思ってしまうのが悲しき男の性だ。
ともあれ、先程の男子たちの近くの席に案内し、メニュー表を渡してあげる。
「いいなーあいつ、優子ちゃんがつきっきりだぜ」
「あーあ、安曇川さんのメイド服も意外とかわいかったけど、やっぱ優子ちゃんのメイド服姿が格別だよなあ」
「うんうん、特にあのダイナマイトおっぱい! もうあれ犯罪だろ犯罪!」
やっぱり男子からは性的な目で見られている。道行く人の視線もそうだし、水泳の授業でもそうだったし、もう慣れっ子だ。
「おいおい、優子ちゃんはむしろあのお腹周りがいいんだろ。健康そうだしよお」
「ほほう、さすがだなお前。目の付け所が違う」
「いや優子ちゃんは胸に隠れているけどお尻がいいと思うんだよ俺」
胸以外のあたしの魅力について熱く語る男子たち。
あたしがふと二人の女子を見る。
女子たちは嫌悪感を持ってこの男子たちを見ていた。
ダメだぞ、エッチな男子が嫌いなんて言ったら貰ってくれる男居なくなるわよ。
さて、お客さんの注文が決まったので、女子の一人が厨房にオーダー表を見せて、厨房役の男子たちがそれを掲示していく。
これに従って調理をするのことになっている。と言っても簡単なものだけど。
虎姫ちゃんの時間帯は、学園祭も始まったばかりなのであまり人も居なかった。
しかし、あたしのシフトだということは前日の時点で知られていたのか、店内はあっという間に男性客で一杯になる。
急に忙しくなる。男子たちが忙しなくメニューを作り、あたしたちは決められた番号を間違えないようにしつつ、「お待たせいたしましたーこちら何々になります」と言って、お金を徴収し、売上を入れる貯金箱へと持っていく作業を続ける。
本当は色々とサービスをしなきゃいけないんだけど、混雑時間帯故にどうにもならない。
しかもよく見ると教室の外へも行列ができている。
座席の都合上、数人組の男子がバラバラになることも多い。
そして思ったのが、あたしが接客すると男子は露骨に機嫌が良くなり、他の女子二人だと露骨に残念そうな顔をするのだ。
しかも、男子の会話もあたしのことばかり。主にメイド服が似合ってるとか顔が可愛いとか黒髪がかわいいとかという話も多いが、ダントツで多いのがあたしのおっぱいとお尻、更にちょっとかがんだりすると、あたしのメイド服のスカートの話題まで飛び交う。
中には「おっぱい触りたい」とか「パンツ見たい」という話を堂々している男子たちまでいる。
さすがに「ここはそう言うお店じゃないです」と注意しておいた。
男子たちは顔を赤くしながら「えへへ、すいませんすいません」と言っていた。なんかわざとな気がする。
座席が全部埋まり、ちょっとだけ空き時間が出来る。
「あーあ、もう何で男子ってエロい話が好きなんだろ?」
「あたしも、ああいうことに興味ある男子って嫌い」
案の定あたしと同一シフトの女子2人は不満そうだ。
「二人共、エロい男子を嫌っちゃったら貰い手なんて居なくなるわよ」
「……優子ちゃんって本当余裕だよねえ」
「うんうん、強者の余裕っていうの? 羨ましいわねえ……」
「だって、男子ってそう言う生き物だし。ああ見えて、男子はみんな年がら年中エッチなこと考えているのよ。特にこういう文化祭みたいな時は、ね」
「うあー、優子ちゃんが言うとシャレになってないわ……」
「うんうん」
やっぱり、元男子というところでこういうことに関してはあたしの言うことはみんな信用してくれている。
「あーあ、男子とどうやって付き合えばいいんだろ?」
「うん? 好きな男の子が出来るとまた違うわよ」
「篠原だっけ? 優子ちゃんはあいつの何処がいいのさ?」
「ん……それは……あっ、いってらっしゃいませご主人様ー!」
男性客が退店しそうになるのを見て、あたしたちは慌ただしく仕事を再開する。
並んでいた別の客を通し、そんなこんなでシフトの時間が過ぎていく。
「うわあ、すごい大繁盛だねえ」
やってきたのは制服姿の桂子ちゃんと他のシフトの女子2人。
「あ、ちょっと手が離せないから、先に着替えててくれる?」
「あ、うん」
桂子ちゃんたちが慌ただしく厨房へ入る。
「3人一斉に着替えてから出るから大丈夫」という声が聞こえてくる。
「お待たせー! じゃあ交代ね」
「うん、ありがとう」
「ご主人様ー! 只今よりシフトを交代いたしますので少々お待ちください」
桂子ちゃんが大きな声で言う。
「おお、次は桂子ちゃんじゃん」
「優子ちゃんもめっちゃかわいいけど、やっぱ桂子ちゃんだってすごいかわいい部類だよな」
「だよなあ、今年のミスコンはもう桂優ちゃんのどちらかで決まったようなもんじゃね?」
「いやいや、それがさ、永原先生という伏兵が居て――」
男子たちの噂話を尻目に、今度はあたしたちが更衣室に入り、制服に着替える。
ちなみに、女子3人の中で一番着替えるのが早かった。ちょっとだけ自慢。
さて、あたしはこのくらいの時間に浩介くんと約束しているんだけど……
「はいはーい、こっちに並んでくださいねー、最後尾はこちらですよー」
教室を出ると、メイド服姿の永原先生が列形成ついでにミスコン宣伝のビラを配っている。
「あ、石山さん。篠原君が呼んでたわよ」
「え? 何処に居るの? あたしも探してたんだけど?」
「ああ、ほらあそこ」
永原先生が指差す先に、浩介くんが居た。
あたしはすぐにそちらへ駆け寄ろうとする。
「あ、ちょっと待って石山さん」
「え?」
永原先生はメイド服のポケットから一枚の折られた紙を取り出す。
「石山さんはもう、反射的な本能も女の子になり始めているわ。だからこれを渡しておくわ」
「これは一体?」
「この紙にはURLが書かれているわ。もし石山さんが本当に自分は女の子になりきったと思ったら……パソコンなりスマホなりで、ここのアドレスに入ってくれる?」
「え?」
どういう意味だろう?
「今は意味がわからなくてもいいわ。でも、自分はもう完全に女の子だと確信できるまで、絶対にこのURLを開かないでね。開いたらきっと、耐え難いトラウマにもなりかねないから」
「う、うん……」
正直そんなことを言われると開くのが怖い。
「さあ、もう行ってくれる? 私はもう少しここで仕事するから」
「はーい」
今度こそ永原先生と別れ、浩介くんの元へと駆け寄る。
「浩介くん」
「あ、ゆ、優子ちゃん!」
「えへへ、シフト終わったし、もう一度回ろ?」
「お、俺……俺その……」
何か表情が不機嫌だ。
「どうしたの? 顔が不機嫌そうだよ?」
「うっ……ゆ、優子ちゃん! あんまりサービスしないでよ!」
浩介くんが嫉妬心をぶつけてくる。
「えー? それは難しいよー」
「じゃあメイド喫茶なんてやめてよ!」
浩介くんが珍しくわがままを言う。
「そういうわけにも行かないでしょ。この後午後にもシフトがあるんだから」
「で、でも……!」
「ふーん、もしかして嫉妬しているんでしょ?」
「うっ……そ、そういう意味で言っているんじゃねえし!」
そうですって言っているようなもの。
何でだろう、浩介くんがかわいい。
「もう、あたしにはお見通しよ……でも、浩介くんのヤキモチってとっても嬉しいなあ」
「むむむだからヤキモチでもないってのに……」
「どうすれば機嫌直してくれるかな?」
「え!? べ、別に機嫌悪くねえし」
浩介くんがまた否定する。
「というかさっき『サービスしないで』何て言ってたくせにぃ」
「あ、あれはその……何ていうか……その……」
浩介くんがしどろもどろになる。
「いいわよ無理しなくて。ほらっ、付いてきて?」
「え!?」
あたしは浩介くんの腕を取り、ちょっと引っ張るとあたしに付いてきてくれる。
あたしは校舎の階段を登り、一番上の屋上に来た。
「ここ、屋上……」
屋上には実は何もない。あるのはよく分からない機材と高く張り巡らされた網だけ。
最近の学校では珍しく、屋上は常時解放はされているが、正直ベンチもないので普段ここで昼食食べる人もあまり居ないし、文化祭となると更に人は居ない。
常時開放されているので変なことをしでかす人はかえって少ないらしい。
「ふふっ、文化祭の時はあまり人も居ないし入ろうか」
「う、うん……」
浩介くんの機嫌を直すためにも、あたしが更に女の子になるためにも、この屋上でのこと……す、すっごく恥ずかしいけどやらないと……
次回またエロ回です(といってもR-15で大丈夫そうな範疇でですが……)
というかこれ100話なんですね。で、後295話貼り付ける必要があると……