永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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優子の本性

 メイド喫茶はミスコンの話題で持ちきりだ。

 

「なあ、お前ミスコンで誰に入れたんだよ?」

 

「そりゃあ俺は桂子ちゃんだぜ。お前は?」

 

「もちろん優子ちゃんに決まってるだろ。あんたは?」

 

「俺は永原先生がかわいいと思ったんだよ」

 

「……見事に割れたな」

 

「お前は何で優子ちゃんじゃないんだよ?」

 

「だって優子ちゃんってあまりにかわいすぎてさあ……なんかそれがかえって昔のことを思い出しちまうんだよ」

 

「何言ってんだよ、桂子ちゃんや永原先生だってめっちゃ美人だろ?」

 

「それにいくら一生懸命だからって生まれつきの性別を簡単に変えられるのか? 表面的な振る舞いはともかく、さ」

 

「ふーん、じゃあ永原先生に入れなかったのも?」

 

「……さすがに永原先生くらい生きていればそういうのもないと思うんだけど、それでも時折出るんじゃないかって。だから桂子ちゃんにした」

 

「なるほどねえ、でもやっぱ傍から見るにしても、付き合うにしても、優子ちゃんが一番だと思うんだよねえ。実際1位だしさ」

 

 

 メイド喫茶では男子三人組がミスコンの話題だ。

 見事に3人の意見が割れてしまっているようだ。

 

 

「ねえねえ、あれ 永原先生と石山先輩じゃない?」

 

「あっ、本当だ。やっぱり二人並ぶと違うわよねえ」

 

「更に木ノ本先輩でしょ? 今年のミスコンはあの3人だよねえ……」

 

「うんうん、他の子がかわいそうになるくらい3人とも美人だし」

 

「ところで、あんたは誰に入れたのよ」

 

「私? うーん、悩んだ末に木ノ本先輩かなあ」

 

「お、気が合うじゃん。あたしもあたしも」

 

「あはは……もしかして永原先生に入れたのって私だけ?」

 

「う、うん……私石山先輩に入れたから……」

 

「え? あんた石山先輩に入れたの!?」

 

「うんそうだけど……だってかわいいし……」

 

「そりゃあ石山先輩は魅力的だし、めっちゃかわいいと思うけど……」

 

「私的には木ノ本先輩がかわいいと思うのよ」

 

「うんうん、石山先輩はちょっと浮世離れしているっていうの?」

 

「後やっぱり中身かなあ……まだ女の子になりきれてない気がするっていうの?」

 

「あーわかる。先輩の話だと、もうすっかり生まれつきの女の子と見分けつかないみたいだけど」

 

「え? そうなの? だったら石山先輩に入れても良かったなあ……」

 

「でもさあ、あたし石山先輩を見てると……何かこう……コンプレックスがねえ……」

 

「うん分かる。男だったくせに何であんなに大きいのよ……あーあ羨ましい」

 

 

 あっちでは4人組の1年生の女子がミスコンの話題だ。

 うーん、やっぱこの体だと一部の体型の子はコンプレックスになっちゃうわよねえ。

 

「石山さん、女子にもそれなりに支持されているね」

 

 永原先生が声をかける。

 

「永原先生も、生徒からの支持も多いじゃない」

 

「あはは。でも予選はともかく本戦はわからないよ。興味本位で入れてる人も多いだろうし」

 

 生徒を押しのけて先生が優勝したら確かに格好のネタにはなる。

 

「そうだねえ、本戦の一般票にどれだけ響けるか。そういう意味で、あたしは先生をアピールしていくよ」

 

「お、永原先生も気合入ってるなあ……」

 

 浩介くんも感心している。

 

「ふふっ、まだまだ若いもんには負けないわよ」

 

 永原先生が言うと重みが違う。

 でも、そんなことは絶対にさせない。改めてあたしはそのように誓った。

 

「あら、あたしだって若さを見せてやるんだから!」

 

「むむむっ……!」

 

「うえっ、女の戦場だ……!」

 

「あ、浩介くんゴメン。軽食にしようか」

 

「そ、そうだね……うん」

 

 あたしたちは永原先生の案内で空いている席に座り、それぞれ食事にする。

 さっきの話を思い出す。この前も桂子ちゃんも加わった三つ巴でにらみ合いをしていた。

 このミスコン、女の子としてのプライド、アイデンティティを賭けているという感じがする。女の戦場に足を踏み入れ、それに燃える。自分がこの学園で一番かわいいんだからという強い承認欲求。

 それはもう、ほとんど一人前の女の子として地に足を付けた証拠。

 あたしにも、女の子としてのプライドという人格が出てきたということ。

 今までは、女の子としての自覚や、それに伴う立ち居振る舞いというような、どちらかと言えば受動的なアイデンティティが多かった。

 

 でも今は違う。

 あたしは立派な女の子、かわいさには自信を持っている以上、例え桂子ちゃんや永原先生が相手でも、絶対に負けたくない。

 魅力の競い合いという意味では、男の頃よりずっと負けず嫌いになってる気がする。

 そういう意味では、今は僅差ながらも1位、それも男性票の多い1位だったというのは、あたしのプライドを相当にくすぐる感覚を覚えたのも事実だ。

 桂子ちゃんが言ってたっけ? 「女の子は男に好かれてこそ」って。今はもう、それを身をもって思い知ることになった。

 

 

「はーいご主人様、お嬢様。ご注文の品ですよー」

 

 そんなこんなで、永原先生から注文が届く。

 

「あ、お帰りなさいませーご主人様ー」

 

 それにしてもこの先生、ノリノリである。

 幸いなことに、あたしも桂子ちゃんも永原先生も2年2組ということになっているため、誰か1人抜け駆けで宣伝するということはできない。

 必ず「永原マキノ、木ノ本桂子、石山優子に清き一票を!」となる。

 そのインパクトもあるから、大半の票があたしたち3人に集中したのかもしれないけど。

 

 あたしはゆっくり軽食を食べる。さっきのアイスクリームと、トーストパン、さらにコーヒーだけの内容だ。

 うん、ちゃんとお腹膨れてくれた。

 

「さあて、残りの時間も楽しみたいけど……」

 

「石山さん、私のシフトが終わったら次の次だよ」

 

「ちょっと時間に気を付けようか」

 

「だな」

 

 あたしたちは1年生の教室へと向かう。

 1年生の催し物はやや簡素ではあるが、受験案内や学校のアピールと言った学外向けのものや、お化け屋敷何て言うのもある。

 

「お化け屋敷入ってみようか?」

 

「う、うん……」

 

 夏祭りの頃を思い出す。

 あたしは暗い空間ということで、また浩介くんに腕を絡めて胸を当てる。

 

「あっ……」

 

 浩介くんもこうした誘惑に慣れることはないみたい。やっぱり男は単純よね。

 

 

「ばあああああ!!!!」

 

「きゃああ!」

 

「うおっ!」

 

 やっぱりこの手のお化け屋敷は驚かすびっくり系だ。

 って冷静になって思い返すとまた悲鳴が女の子になってる。

 

 夏祭りの屋台以上に作り物感が強い。一方で、あそこほどはっちゃけてはいないみたいで、多分真剣という感じなんだろう。まあ全然怖くないけど。

 

 

「はあ、終わったねー」

 

 このお化け屋敷をもって学年の出し物はすべて終了。

 そろそろ戻る頃合いになった。

 

「じゃあ戻る?」

 

「うん」

 

 あたしたちはもう一度2年2組に戻ることにする。

 

「まだ時間あるから、外で待とうか」

 

「う、うん……」

 

「浩介くん一人で見に行かない?」

 

「うーん、優子ちゃんとこうやって一緒に居たいなあ……」

 

  ドキッ

 

 もうー不意打ちしないでよお。キュンと来ちゃうじゃない。

 

「ど、どうしたの優子ちゃん……」

 

「むー、そういうところだけ鈍感なんだからあ……」

 

 だから余計に惚れ込んでしまう。

 ギャルゲーなんかで鈍感主人公がモテる理由が優一の頃は全然分からなかったが、女の子になって痛いほどわかってしまった。

 

「あ、お帰りなさいませー石山さん、篠原君」

 

 再び、メイド服姿の永原先生が出迎えてくれる。

 

「じゃあ浩介くん、いったんお別れね」

 

「あ、うん」

 

「大丈夫、こ、浩介くんは特別だから」

 

 やっぱりちょっと照れてしまう。

 

「お、おう……優子ちゃんも頑張って」

 

「うん」

 

 もう一度さっきの女子たちとともに更衣室に入りメイド服へと着替える。

 

 

「永原先生、交代」

 

「はーい。がんばってねー」

 

「あ、優子ちゃん!」

 

「ん? 何?」

 

「ゆ、優子ちゃん……実は俺、今回は同じシフトなんだ!」

 

 浩介くんがそう告げる。

 

「えー、そうなの!?」

 

「うん、厨房から、み、見てるぞ!」

 

 あたしはぱあっと明るい笑顔になる。

 浩介くんが見てくれている。一層仕事への士気が上がる。

 

 永原先生たちが更衣室へと入っていく。

 

「お帰りなさいませご主人様ー」

 

 あたしは営業スマイルを心掛けながら仕事を再開する。

 しばらくすると、また男子生徒の客足が増えた。

 やっぱりあたしは男子に大人気だ。

 

 しばらくするとカーテンから制服姿の永原先生が出てくる。

 

「あれ? 永原先生また制服?」

 

「うん、客寄せの意味もあるし、この後ミスコンの予選の最終結果があるのよ」

 

「あれ? そうなの?」

 

「うん、また後で放送があるわよ。じゃあ私は外に行くわね」

 

 永原先生が外へと去っていく。

 予選の中途発表では、あたしが1位だった。永原先生と桂子ちゃんが同率で2位。あたしとの差は僅差だ。

 明日、誰が1位になってもおかしくない状況になるだろう。

 

 そう思いながら、接客を続け、特に男子を中心に笑顔を振りまく。

 浩介くんも最初は嫉妬してたけど、あたしにセクハラできるのは自分だけという特権を思い知らせた結果、うまく折り合いを付けることが出来たみたいでよかった。

 

 

「おう、優子、交代だぜ」

 

 メイド服姿の恵美ちゃんが来る。この時は少しだけ女性客が多いが、意外にも恵美ちゃんは男性にも人気らしい。

 

 男子曰く、「絶対評価では優子ちゃんたちよりもずっと下だけど、普段女らしさの欠片もないことを考えれば云々」って言ってた。

 何気にひどい話なので恵美ちゃんには内緒にしておいてある。

 

 ともあれ、ミスコンの結果には興味が無いというのが恵美ちゃんだ。他の担当女子2人もそんな感じだ。

 ちなみに、閑散期が予想されることもあって、厨房の担当はこの時に限って、恵美ちゃんに近い2人が担当することになっている。

 

 

  ピンポーン

 

「えー皆様、小谷学園ミスコンテスト、予選の結果が出ました。20分後より、発表会を行いますので、体育館までお集まりください」

 

「あ、あたし行かなきゃ」

 

「おう、頑張れよ」

 

「ありがとう……」

 

 教室を出る。

 

「あ、石山さん。行こっか」

 

「うん」

 

 あたしたちはミスコンの参加者なので、体育館の控室に入ることになっている。

 途中で桂子ちゃんに会ったので合流し、体育館の控え室前まで来る。

 

 

「あ、守山さん」

 

 守山会長がそこには立っていた。

 

「ああ、永原先生に石山さんですね、とりあえず中で待っててくれますか?」

 

 見るとあたしの他に何人かのミスコン参加者がいる。

 1年生の子や、2年3組の映画の主演の子もいる。

 

 

「出たよー本命のお出ましよ」

 

「あーあ、私がクラス一の美人だって言うから代表ってことだから出ることになったけど……あんなんに叶うわけ無いよねえ……」

 

「学校のミスコンに本職のアイドルが出てる感じだよねえ……」

 

「いっそ明日はあの三人だけにして欲しいわ」

 

「うちも同感」

 

 

「あはは、私達噂になってるね……」

 

「うーん、なんかちょっと申し訳ない気分になるわよねえ……」

 

 永原先生と桂子ちゃんが言う。

 

「うーん、確かに気の毒な気がする」

 

「でもま、私達が悪いわけじゃないし。それに優勝こそが目標よ」

 

「ええ。私も、先生と優子ちゃんには絶対負けないわよ!」

 

「あたしも。明日は絶対桂子ちゃんや永原先生よりも、たくさんの票を入れさせてやるわ!」

 

 さっきからこればっかり話している。

 女の意地を賭けての戦いは、ある意味金を賭ける以上の意味がある。

 

 その後、数人の女子が入ってきて守山会長が控室に入ってきた。

 

「はい、14人全員揃ってますね。じゃあ行きましょうか」

 

 幕が降ろされた舞台の上に登る。ここに登るのは年に一度あるかないか。生徒会とかだとまた違うんだろうけど。

 

 そしてあたしと桂子ちゃん、永原先生が中央に誘導される。

 まあ当たり前だろう。

 

 生徒会の人がマイクをセットする。

 

「それじゃあ、じっとしていてください」

 

「はい」

 

 返事したのはあたしだけ。なんかずれた感じ。

 

 

「皆様、大変長らくおまたせいたしました。これより、小谷学園ミスコンテストの予選結果を発表したいと思います」

 

  ワー! ワー!

 

 外から主に男性の声での歓声が聞こえてくる。

 

「まずはじめに、全コンテスト参加者の方にお集まりいただいておりますので、幕を上げてください!」

 

 幕がゆっくりと上っていく。

 「おおおおーーー」という男子の声が大きくなっていく。

 

 幕が上がりきると、男子の顔が見える。女子の顔の他、先生たちの顔も見えている。

 

「うおおおかわええ!」

 

 小谷学園の誇る美人が集まっている。

 その中でもあたしはど真ん中で皆の視線を浴びている。

 

「それでは、順位と獲得票数と名前を発表していきます」

 

「第14位、7票……3年4組――」

 

 その瞬間「あー」と言う声が一人の女の子の声。それにしても7票って……

 その後も1桁が続き、7位辺りからようやく10代前半の2桁票数が4位まで続く。

 

 何だか会場も察している感じがする。つまり上位の3人に票が集中していることは明らかだからだ。

 

 

「さて、BEST3の発表をしたいと思います。4位14票に対して3位はなんと98票の支持を集めました……まさかこの人が参戦してくるとは思わなかった……499歳の合法ロリこと、永原マキノちゃんです!!!」

 

「あちゃー!」

 

 永原先生が苦笑いするが、観客は大歓声だ。

 にしても、なんだこの痛い紹介文。

 守山会長が必死になって考えている所を想像するといたたまれない気持ちになる。

 

「そして第2位、こちらは100票と言う得票数を得ました……学園のアイドル、美人の名をほしいままにする天文部の……木ノ本桂子ちゃんです!!!」

 

 桂子ちゃんは無表情、やっぱりかなあと考えているようにも見えるが、観客は3桁の大台に大拍手だ。

 そしてこの瞬間、あたしの1位が決まった。

 

「そして、第1位! 異色の経歴を持つ、爆乳美少女……かつての性格はそこにはもうない……その名の通り心優しい女の子……石山優子ちゃんが103票で1位だあ!!!」

 

 「うおおおおお!!!!!」と言う男子の野太い歓声が聞こえる。

 皆の拍手と、あたしに当てられるスポットライト。

 

 あたしは誰に指示されるでもなく、自然と横並びになっていた14人から前の列に乗り出して手を振る。

 

「優子! 優子! 優子!」

 

 あたしの脳汁が溶けそうな快感。

 あたしが、この女どもを負かしたんだという自負と強い自信。

 そして、まだ予備選挙で、それも僅差で1位になってるだけだと言うのに、あたしこそが小谷学園一の美少女。いや、世界一かわいいのはこのあたしだという、根拠もない自信が湧いてくる。

 

 気をつけないといけないという理性は、この大歓声の声であっという間に崩壊してしまう。

 

「これよりミスコン予選最終発表を終了いたします。みなさん、退場していくミスコン参加者に熱い拍手をお送りください」

 

 周りが舞台から降りるのを見て、あたしも慌ててそれに続く。

 そして冷静になり、あたしは「たかが学園のミスコン」ということを思い出す。

 でもこの調子で、明日も頑張っていこう。

 

 

「いやーやっぱ優子ちゃん強いねえ」

 

「えへへ……」

 

「でも、まだまだ予選。ここから挽回可能だからね。私も負けないわよ」

 

「うん。受けて立つ」

 

 一方で、他のミスコンの女の子の顔は軒並み憂鬱だ。

 やっぱり女の子の容姿と言うのは残酷な格差だと思った。

 

「さて、そろそろ今日の学園祭も終わりだけど、石山さんはどうする?」

 

「あたしはこのまま帰るけど」

 

「そう」

 

 実は親と学校への届け出等があればお泊りイベントもあるのだが、あたしは浩介くんとともに不参加だ。

 

 あたしたち3人が会場の片隅で話し込んでいると浩介くんが駆け寄ってくる。

 

「いやー。優子ちゃん凄かったなあ!」

 

「ふふん、そんなミスコン1位のあたしを独占できる気分はどう?」

 

 あたしが煽る。

 

「うん、最高!」

 

「ちょ、ちょっと、二人共何したのよ?」

 

 桂子ちゃんが問い詰めてくる。

 

「あはは、別に……まだしてないだから安心して?」

 

 浩介くんも赤くなっている。

 

「優子ちゃん、行こうか」

 

「あ、うん……」

 

 浩介くんに連れられて2年2組の教室へ。永原先生たちも付いてくるけど。

 

 

「今日はこれで下校時間です。お泊りイベントに参加する人はお気をつけて、それ以外の人は明日に向けてゆっくり休んでください。解散!」

 

 制服姿の永原先生がそのまま帰りのホームルームのようなことをして解散になる。

 

 あたしは浩介くんを呼び、一緒に帰るように誘う。

 帰りはミスコンの話題だった。浩介くんとしてもやっぱりあたしの1位は自慢だそう。

 うん、明日。本戦は一般の人も投票に参加する。その時に予備選挙の結果も表示されるだろうから、さあどうなるかな?


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