永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
私服から水着に着替える。
この赤いスカートをうまく使い、以前夏で海に来た時と同じように水着に着替える。
今回は審査なので特に水に濡れることがないので、そのあたりが安心だ。
ところで、全裸になって着替えるという横着をしている女子が1人いたけど、案の定最下位の子だった。
まあ、もう殆どあたしと永原先生と桂子ちゃんのイベントになっちゃったから気にしても仕方ないけど、ともあれ今年は例年以上に二極分化が激しいらしい。やっぱり飛び抜けた美人がいるとこうなっちゃうんだろうなあ。
というか、あたしや桂子ちゃんが卒業したら永原先生が連覇しまくりそうで怖い。
……って、今年優勝の可能性もあるのよね。永原先生は、今はあたしの倒すべき相手だ。
「さあ、みなさんお待ちかね、小谷学園が誇る美少女たちが水着になってくれたよー!」
幕が下りているのに、割れんばかりの音量で歓声が聞こえてくる。
他のミスコンの子は表情からも明らかに敗戦処理モードで、中には学校指定のスク水そのままの子もいる。
それどころか「本当はマイクロビキニにしようと思ったけど、やったってどうせ挽回できないからこれにした」とか言っている人もいた。
「それでは、幕を上げてください」
守山会長の号令のもと先程と同様に幕が上がりきる。
観客のボルテージが上がっていく。
幕が上がりきると、特に中央にあたし、桂子ちゃん、永原先生が固まっていたため、観客のほぼ全員があたし達を見ている。
4位以下は露出もかなり控えめな水着にしていて、守山会長も一応名前を呼び上げて、参加者に対しても水着で一礼して挨拶はしているが、観客も申し訳程度に拍手しているだけだ。
「えー、もうぶっちゃけちゃっていいですか? 正直ここからが本番ですよね? 予選3位は先生ながらミスコンに乱入してきた……本人は30歳を名乗るけど実年齢はもっと上!? 永遠の美少女、永原マキノちゃんです!!!」
永原先生が呼ばれ、観客の歓声が幕を上げる時以上になる。
永原先生の水着は海に行った時と同じ緑色を基調とし、ショーツにかわいらしく、エロくフリルがあしらわれた水着で、露出度もミスコン参加者の中では結果的に一番高い。
永原先生は身体を前かがみにし、その小さな体に似つかわない大きめの胸を強調し、それを見た観客は一層の歓声を上げる。
守山会長からマイクを受け取り「みんなー私に投票してね! でも投票してくれたからと言ってテストや通知表は融通しないよ」と永原先生が言うと、会場からは笑いも出る。
永原先生は場をなごませるのが本当に上手い。美人で親しみやすいし伊達に教師歴130年を誇っていない。
「さあ予選2位は学園一の美少女との異名も持ち、美人すぎて高嶺の花とも言われている木ノ本桂子ちゃんです!!!」
水着姿の桂子ちゃんが手を挙げて前へ出る。
あのオレンジ色の水着でいきなり座り込んでくるりと前転。
あれじゃもちろんパレオの中は丸見えの上、全身が余すことなく見えることになる。
桂子ちゃんが大胆になると、観客の歓声が更に凄まじくなる。
桂子ちゃんもマイクを受け取り、煽るように「私こそ、一番女子力が高いのよ!!! 元男には負けないわ!!!」と宣言。会場からも「うおおおおお!!!!!」という声が聞こえてくる。
元の位置に戻る時に少しだけ前かがみになり、お尻が強調されるように工夫する。
なるほど、かわいさのアピールにはいいが、あたしから見ると、エロさのアピールがもう一歩というところ。
やはりさすがの強敵だが、同時に勝算もつかめた。
「さあ、いよいよ予選1位、女の子らしさが日に日に高まる……優しい心を手に入れた……石山優子ちゃんです!」
あたしが前に出る。
観客の声、あまりの音量に、爆発が起きたのではないかと思ってしまった。
人間ってここまで大きな声を出せるのかと感心してしまう。
あたしはこの水着審査には絶対の自信がある。
まず、身体の素質が他の子とは違う。
毎日の生活の中で、男女の視線、男の性的な視線と女の嫉妬の視線に晒されている。
だから、この場で何をするべきなのかは分かっている。
意を決して身体を前に屈め、おっぱいを寄せて、ただでさえ大きな胸を更に強調する。
観客の誰かが「もっと、もっと、もっと」と手を叩きながら煽り始めたのか、やがてそれが観客全体に伝染する。
あたしはある程度強調したら、予定通り両足を肩幅にするとその場で一回転ターンする。
「わああああああああああああああああ!!!!!!!!」
超ミニのパレオが遠心力で舞い上がり、中の白い水着がちらちら見える。
観客の視線が一気に下半身へと向けられたところでもう一回転。観客が何かを期待するように煽り続けるような声を出しているので、ここであたしは座り込んで、体育座りになる。
観客の歓声が最高潮に達する、鼓膜が破れると思ってしまうほどだ。
桂子ちゃんのようにいきなり丸見えにするのではなく、徐々に股をゆるくすることで、男子の性欲を煽ることが出来る。
そしてそのまま女の子座りになって、パレオの中をちらりと見せつつ再び胸を強調。下からちょいと持ち上げると、己の性欲に忠実になった男の観客たちの声にも気合が入る、会場をよく見ると、数人の男性客が慌てて体育館のトイレの方向へ駆け出す姿も見える……勝った!
あたしは立ち上がって一礼し、マイクを受け取りすぐに喋らず、もう一度一回転してから「あたしに投票してくれるかな?」と言いながら胸を強調する。
そして後ろに振り返り、桂子ちゃんと同じようにお尻をやや強調しながら列に戻る。
「さあ、これで小谷学園ミスコンテストの全審査が終了となります、生徒会では皆様の清き一票をお待ちしております!」
あたしたちが昨日と同じように退場する。永原先生、桂子ちゃん、あたしには特に惜しみない拍手が送られた。
「はあー終わった終わったー」
水着から着替えたあたしたちを前に、制服姿の永原先生が背伸びする。
「永原先生、何でまた制服?」
ミスコンの審査発表の終了後も永原先生は制服姿のままだ。
「ああ、うん。今日はこれで来たから」
「「えっ……ええ!?」」
あたしと桂子ちゃんが同時に驚く。
「えへへん、男性の視線もいつもより釘付けだったわよ。やっぱり制服っていいわね……私もお金貯めたら一度くらい女子高生になりたいわねえ……他にも仕事あるから無理だけど」
そういえば、永原先生はTS病になったの20歳の時だから480年近く前だもんなあ……永原先生にも、そう言う青春への憧れがあるのだろうか?
そう言えば、永原先生はあたしのこと「羨ましい」って言ってたよね。
でも、今はあたしが永原先生を羨ましいと思う。
あれだけの年月を行きてきたのに、生徒だけでやっていたミスコンに混じって、一番生き生きしているし。
「じゃああたしは浩介くんと回ってくるから」
永原先生と桂子ちゃんと別れ、会場にいるだろう浩介くんを探す。
さすがに人数が多いからか、なかなか見つからない。
「あ、浩介くん!」
「ゆ、優子ちゃん……!」
人が引けてきて、浩介くんを見つけることが出来た。あたしが近付く。
「えへへ。あたしどうだった?」
「あ、ああ……かわいかったぞ!」
「ふふっ、いつもより?」
「あ、うん……」
なんかまた機嫌悪くなっている。
あーあ、また恥ずかしいけど嫉妬心沈めないとダメかな?
「ほら、部活棟、続きまわろうよ」
「あ、うん……」
今は気持ちを切り替えよう。あたしも浩介くんもそう思った。
「次は茶道部だよ」
「茶道ってどんな感じなんだろ?」
「あたしもよく分からないわ」
そんな感じで部活棟へ行く。
あたしは浩介くんとともに茶道部の前にやってくる。
それにしても茶道かぁ……出来るようになればなんか教養が磨けそうな気もする。
「左足から、座布団の縁に足を載せないように――」
「んっ……」
あたしと浩介くんは指導役の茶道部員の人に茶道を教わる。
ちょっとだけ足がしびれる。
「これの蓋をこう……あっちそっち向きじゃなくて……柄杓は親指と人差指の間で――」
正直に言うとすげえ細かい。
「お茶を飲む時は……こうやって……『お点前頂戴いたします』と言うのです」
「お、お点前頂戴いたします……」
こんなのいっぺんに覚えられない。
浩介くんの方をちらりと見ると、やはり悪戦苦闘している様子だった。
ともあれ、あたしがいれたお茶……気に入ってくれるといいけど。
ともあれ、体験講習みたいなのが終わった。
「浩介くん、茶道部ってどう?」
「どうも何も……お茶は美味しかったけどさ、面倒すぎて」
「ねー」
次に来たのが新聞部。ここでは新聞部で発行していた学級新聞の紹介で、一般向けだ。
「あれ、今日発行のもあるぞ」
「え? あ、本当だ」
そこにあるのは一面トップに映るあたしと永原先生と桂子ちゃんの写真、そして見出しにあるのは「小谷学園ミスコンテスト、事実上3人に絞られる」「まさかの乱入者永原先生により上位3人は混戦模様」とある。
本文は主に票数の結果があり、桂子ちゃんについては「学園一の美少女という名前も優子ちゃんの登場であまり言われなくなったものの、癖がなく手堅い人気がある」とか言う分析がある。
そして、永原先生については「教師票が多く、インパクトと話題性、コネで上り詰めたイメージだが、実際には制服姿の見た目を見ればこの順位も納得」と書いてある。
最後にあたしの分析、「新聞部では当初圧倒的1位を予想していた。その容姿やもはやアイドル以上と言ってよく、一方で性格面は優一だった頃の性格とは正反対で、心優しいだけではなく、泣き虫な一面もあり、それが更に男性の保護欲を刺激する。また、髪も黒髪ロングストレートと文句なし。ただし、混戦となったのはTS病属性が永原先生と重なってしまった上に、女性票を伸ばせられていない所にあるだろう。また、TS病ということを除けば完璧すぎる美少女な上に、狙いすぎているのかもしれない」とある。
「うーん、どうなの?」
「狙いすぎているのはあると思うぞ」
浩介くんも新聞部の書評に同意している。
「そ、そうかなあ……」
うーん、男は単純だから、全体的には間違ってないと思うんだけどね。
「よし、じゃあ漫画研究会に行こうか」
「そうだね」
うーん、やっぱり浩介くん、なんか不機嫌っぽいなあ。
しょうがない、メイド喫茶のシフトが終わったらまた機嫌取ってあげないと。
あうう……思い出しただけで恥ずかしい……
「優子ちゃんどうしたんだ?」
「あ、うん、ゴメン。行こうか」
あたしたちは漫画研究会に行く。
ところが、迎えていたのは文芸部と瓜二つ。200円の部活の合同同人誌を販売するものだ。
それどころか「票を入れてあげたら買ってあげる」→「それは部活の規則出来ない」→「しょうがない、買ってあげよう」というところまで同じだった。
「優子ちゃん、もうすぐシフトの時間だけど大丈夫?」
時間を確認、まだ余裕がある。
「あ、うん、まだ1箇所は回れるよ。天文部に行こう」
「天文部って優子ちゃんと木ノ本の部?」
「後は3年生の坂田部長もいるわよ」
「ああ、あのお嬢様の坂田舞子先輩か」
坂田部長も、その上品さからミスコンの代表と言う声もクラスであったが、坂田部長まで出ると天文部に人がいなくなるということで辞退にこぎつけた。
まあ、出たら出たであたしたちの3人の牙城は崩せないだろうし、そうなると下手をすると関係も悪くなる可能性もあるから良かったかも。
「じゃあ、行こうよ」
「うん」
あたしは天文部のドアを開く。
「あら、石山さん、いらっしゃい……あら、その子は?」
「あ、うん。と……友達の浩介くん」
まだ彼氏彼女というわけではないから友達として紹介する。
「篠原浩介です。はじめまして坂田先輩」
「あらあら。こんにちは」
「天文部どうですか?」
「端っことあってそこまで入場はよくないですわ。でもそのほうが気楽でいいですわよ」
天文部の展示と言っても、中が暗いわけではない。それどころか、坂田部長はのんきにパソコンでゲームをしていた。
「おいおい、こんなんでいいのかよ天文部」
「ええ。天文部は緩いですから、篠原さんも歓迎ですわよ」
「え、いや俺はその……」
「石山さんが惚れ込む相手ですわよね? 悪い人とは思えないですわ」
坂田部長が部員を勧誘する。
「うーん、俺は遠慮しておくわ」
「そういえば浩介くんは部活って?」
「あー俺は入ってないわ」
「え? じゃあ天文部の時って――」
「ああいや、部活入っていないって言っても、大体は筋トレとかして過ごしてたからさ。いつも通りだよ」
浩介くんが弁解してくれる。
「うん、それはよかった」
「ところで、この2つの展示、左側は何となく分かるけど……右側って?」
「太陽系のご近所さん……といってもものすごい遠くだけどね。例えばこの白いのが――」
「あ、私のパソコンで説明するといいですわ」
いつの間にかゲームをやめていた坂田部長が、例の宇宙ソフトを起動する。
「うわあ、こんなソフトあるんだ……」
「しかも無料で使えるんですわ」
浩介くんは興味津々だ。なにせ広い宇宙がパソコンの中で表現されているのだから。
ともあれ、白い大きな球が冬の空のシリウスだということは理解してもらった。
「へえ、太陽って星の中でも大きい方だったんだ」
「ええそうですわ」
「小さい星かあ……太陽から一番近い星は肉眼でも見えないのかあ……」
「ええ」
あたしは時計を見る。もう少しだけ余裕がある。
浩介くんに天文部のことを紹介する。
浩介くんはあたしに似ていて結構面白そうだと思うと聞き入るタイプらしい。
時間になったら2年2組のメイド喫茶まで戻ることにした。