永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

107 / 555
優子の歪んだ心

「じゃあ行きますので準備してください」

 

「「「はい」」」

 

 守山会長の号令のもと、あたしたちは舞台に進む。

 この段階ではまだ、投票結果がどうなったかは不明だ。

 

 

「さあ、みなさん、お待たせしました! 只今よりミス・小谷学園コンテストの結果発表会を行います。皆さんも知っての通り、今回のミスコンは事実上3人に優勝が絞られています。今回はその3人に来ていただきました!」

 

 守山会長がそう言うと、舞台の幕が上がり、あたしたちは観客たちの歓声に包まれる。

 やっぱりこの瞬間は気持ちいい。特に今回は3人しかいないから、なおのこと注目が集中する。

 

「えっとですね、ただいま200票まで集計が行われていまして、181票がこの3人に集中しています!」

 

 残り19票は身内票とかそういう類だろう。

 

「内訳はですね……木ノ本桂子ちゃんが59票、石山優子ちゃんが60票、そして永原マキノちゃんがトップの62票です!」

 

「「「うおおおおおおおお!!!!!」」」

 

 観客は大混戦に歓声を上げる。

 でもあたしの内心は穏やかではない。暫定でしかも僅差とはいえ、あたしは初めて永原先生に「敗北」したのだ。

 

 落ち着きながら「まだまだ」と言い聞かせる。

 

「お、たった今次の50票が集計し終わりました! 石山優子ちゃんが16票、永原マキノちゃんが15票、木ノ本桂子ちゃんが17票です!」

 

 まだ永原先生がトップ、更に桂子ちゃんにも並ばれる。

 

 その後も、一進一退の攻防が続く。

 ちなみに、途中発表に拠れば、生徒・先生と言った身内票が約400票、更に一般の人が約600票で、合計は約1000票となっているそうだ。

 

 ちなみに、予選の時以上にあたしたちへの一極集中は凄まじく、ほぼ9割以上があたしたち3人のいずれかに投票されているという。

 極稀に、2年3組のクラス製作映画の子などに票が入っているくらいだが、守山会長があたしたち以外に票が入っていることを伝えると、観客は不可思議な反応をする。さすがに可哀想に思った。

 

 一方で、あたしたち3人はデッドヒートを続けている。一時、あたしが2位に10票ほどリードした瞬間もあったものの、すぐに次の50票で7票差に、更にその次では4票差、その次で1票差と、すぐに縮まってしまう。

 

 そして、3人がほぼ並び、最後の50票が開票されることになった。ちなみに、パフォーマンスのためか、端数はこの前段階で処理してしまっていた。

 

「さあ、ここからは一票一票読み上げていきます……どうやら、この50票は全てここに居る3人のいずれかのようです!」

 

 現在あたしが3票差で桂子ちゃんをリード、更に桂子ちゃんを永原先生が1票差で追う展開だ。

 

「えーでは最初は……木ノ本桂子ちゃん、永原マキノちゃん、永原マキノちゃん、石山優子ちゃん、木ノ本桂子ちゃん、石山優子ちゃん、石山優子ちゃん、石山優子ちゃん……」

 

 

 読み上げが進むとともに、徐々にあたしが引き離していく。それでも1桁の票差。

 とはいえ、残り票数が少なくなるにつれ、あたしの逃げ切りの算段が高まり、横に立っていた永原先生と桂子ちゃんの表情に、徐々に焦りが出始めていた。

 

「さあ、残り10票です。現在石山優子ちゃんが永原マキノちゃんと木ノ本桂子ちゃんをそれぞれ4票リードしています」

 

「1票目……永原マキノちゃん!」

 

「2票目……木ノ本桂子ちゃん!」

 

 更に桂子ちゃんがもう一票、これで残り7票。

 

「4票目……石山優子ちゃん!」

 

「5票目……木ノ本桂子ちゃん!」

 

「さあ、これで残り5票となりました! 6票目は……石山優子ちゃんです!」

 

 観客の歓声が更に大きくなる。

 ここで残り4票、永原先生の単独1位はもうなくなった。4票全て永原先生でなければ1位は取れない。

 

「7票目……木ノ本桂子ちゃん!」

 

 永原先生が一瞬天を仰ぎ、すぐに下を向く。よく見ると顔を手で覆っている。歓声に混じって泣き声が聞こえる。もしかして永原先生が泣いているのだろうか?

 ともあれ、これで桂子ちゃんとは2票差、桂子ちゃんが逆転、あるいは同率1位になるためにはもうあたしに1票も許されない。

 逆にいえば、あたしに1票でも入ればその時点で優勝決定だ。

 

「8票目……石山優子ちゃん!」

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」

 

「やっやった!!!!」

 

 観客の割れんばかりの大歓声、あたしに1票入ったことで、あたしの単独優勝が決まった。

 残りの2票も、いずれもあたしに対する投票で、終わってみればあたしが逃げ切った形になる。

 

「うわあああんん、うっ……悔しいよお……うぇぇん……!!!!!」

 

「うえええええええんんん……ぐずっ……うわああああああああああああんんんん!!!!!」

 

 隣の桂子ちゃんを見る。桂子ちゃんもまた、顔を下に伏せながら手で覆っている。

 桂子ちゃんと永原先生が、この歓声の中で聞こえるほどに、大きな声を出して泣いている。

 あたしが泣いていなくて、他の女の子が泣いているこの光景は珍しい。だっていつも、泣き虫だったのはあたしだったから。

 あたし、初めて他の女の子を泣かせちゃったかもしれない。

 

 あたしには、永原先生と桂子ちゃんに声をかけることは出来ない。

 数秒の間、あたしの中で、歪んだサディズムの感情が芽生えたからだ。この二人をもっと大声で泣かせたい、あたしに楯突いたこの女を罵って、虐めて、この観客の前で辱めて精神をズタズタにしてやりたい。

 「何てひどいことを考えるのよ優子! それじゃ最低よ」あたしはそう自分に言い聞かせる。

 

 それでも、少し時間が経って冷静になれば、あたしは「優子」を取り戻し、そうした醜い感情もなくなり、嬉しいというよりむしろホッとしたという感情になる。

 

 二人とも強敵だった。もしあたしが居なくても、他の年ならば優勝間違いなしの素質だった。

 

「それではですね、優勝者から3位までの方には、記念トロフィーを差し上げます」

 

 その声を聞いて、永原先生と桂子ちゃんが何とか涙を拭き、泣き止んで表彰式へと入る。

 

「第3位は、先生という立場ながらも今回まさかの参加となって、見事に多くの票を獲得しました永原先生です!」

 

 永原先生に投票したと思しき観客からの歓声と、盛大な拍手が送られる。

 銅色の小さなトロフィー。永原先生はしんみりと受け取る。

 

「おめでとうございます! 先生の立場でのミスコン参加は初めてですし、大健闘でした!」

 

「はい……」

 

 永原先生はやや涙声で挨拶している。やっぱりまだ泣き足りないという感じ。

 

「第2位は、木ノ本桂子ちゃん! 特に女性票を集めての人気です」

 

 銅色のトロフィーよりやや大きい銀色のトロフィー。桂子ちゃんが受け取る。

 

「自然な美少女ということで、男性票は特に一般の中年以上に人気でした」

 

「んー、若い男性の票が取れないといけなかったかなあ……」

 

 桂子ちゃんは永原先生ほどミスコンへの思い入れがなかったのか、既に冷静な反省を行っている。

 そうか、若い男性はあたしに票を取られたのね。

 

「さあ、お待ちかね、第1位は、5月はじめまで男性だった、まだ女の子になって半年足らずの爆乳美少女、石山優子ちゃんです!」

 

 守山会長が一際大きい金色のトロフィーを渡してくれる。

 

「おっとっと……」

 

 非力なあたしの力ではちょっとだけよろけてしまう。

 

「優子ちゃんは特に男子学生の中では圧倒的な支持を集めました。また、一般票では性別年代問わず人気でしたが、やはり男性の得票率が圧倒的に高かったです」

 

 あたしはこの優勝で特に自信を得られた。

 男性票が圧倒的に多い形での優勝と聞き、あたしはまた桂子ちゃんと永原先生に対する優越感に支配される。

 観客たちの「優子ちゃん」コールを聞いてあたしこそ、この小谷学園の女王なんだという気持ちが出る。

 

 女の子として、男に好かれた上で優勝できたということは、特にあたしの中で、嬉しさと征服感がこみ上げてくる。

 

 ああ、ゾクゾクする。今は永原先生と桂子ちゃんは強がっているけど、きっと悔し涙をもっと流したいはず。

 もっと泣かせたい、あたしの覇道を邪魔した二人に対する邪悪な感情。

 

 ……ああ、そうか、これがあたしの女としての「もう一つの醜い部分」なんだ。

 

 あたしは、自分のことを美少女だと信じて疑わなかった。

 それは多分、このミスコン優勝で客観的な裏付けも取れた。

 でも、他の美少女を蹴落としてやろうとか、恥をかかせてやろうとか、そういう気持ちは微塵もなかった。

 なのに、今はさっきあたしに負けて泣いていた永原先生と桂子ちゃんを見てひどく荒んだ心になった。

この気持ちは、受け入れるべきなのか、それとも必要ないのかあたしには分からない。

 

 でも、今までの「知識」から言えば間違いなく捨てるべきものだということは分かる。

 だから、あたしは、自分の中に存在する「ブス」を殺すことにした。

 何故なら、この心を捨てないと、性格そのものに悪影響を及ぼす、そしてそれは最終的に容姿にも跳ね返ってくると思ったから。

 小谷学園のミスコンで桂子ちゃんと永原先生を退けた以上、あたしはこれまで以上に女の子らしくならないといけない。

 

 もし、これに舞い上がって性格を悪くしたら、浩介くんに振られちゃうかもしれないと思い、あたしは桂子ちゃんと永原先生に向き直る。

 

「2人とも、凄かったよ。あたしだって、2人から学ぶことは多いんだから」

 

「優子ちゃん……ええそうね。優子ちゃんは確かに優勝したけど、女の子として、まだまだ私に負けているところがあるんだから」

 

「ええそうね。私も、これからも石山さんに『男』が出たらビシバシやっていくから覚悟してね?」

 

「ふふっ、ありがとう!」

 

 トロフィーで手が塞がっていて、握手は出来ない。

 でも、あたしたちの様子を見て観客の歓声が大きくなる。そうだ、健闘を称え合う方がよっぽどいいじゃないか。

 

「さあ、ここまでは3人のみでしたが、最後に今年のミス小谷学園コンテストに参加してくださった代表者を全員呼んでいます。どうぞ!」

 

 観客の拍手とともに、11人の仲間が現れる。

 

「えーまずは能登川明美ちゃん」

 

 呼ばれた女の子がそれぞれ一礼する。

 

「――最後に、永原マキノちゃん、木ノ本桂子ちゃん、石山優子ちゃんです!」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 あたしたちがトロフィーを持ったまま深く頭を下げる。

 そして、他の代表たちが舞台から消え、そして最後に守山会長とともに、あたしたち3人が舞台から出る。

 

 幕が降ろされ、観客の歓声と拍手も徐々に遠くなっていった。

 

 

「それでは、お疲れ様でした。優勝者は石山優子ちゃんになりました。おめでとうございます!」

 

 控え室で、あらためて守山会長があたしをたたえてくれる。

 

「うん、ありがとうね」

 

「でも、永原先生と木ノ本さんも、上手く大会を盛り上げてましたよ」

 

「ああ、うん。私、来年も出たい」

 

 永原先生が意気込みを語る。

 

「えー、先生は来年勘弁してよ。来年は私が優勝するんだから」

 

 桂子ちゃんが言う。ミスコンは一応一度優勝した人は出られないことになっている。

 まあ、そのためにケチが付くこともあるけど。

 

「でも、やっぱり負けたくないのよ。このままでは終われないっていうの?」

 

「もう、先生は再来年も、その次の年も……それこそ100年後だってあるんでしょ?」

 

 桂子ちゃんが言う。

 

「あ、あはは……100年後も小谷学園があるかわからないけど、そうだね。私は何度でもチャンスがあるよね……でもさ、ほら、来年はちょうど500歳だから」

 

「それでもですよ。私はもう来年しかチャンスないのよ。去年は何となく目立ちたくなくて出なかったけど、それでも後悔してるわよ」

 

「あー、木ノ本さん、去年だったら石山さんも居ないし確かに優勝間違いなしだったよね」

 

「うんうん」

 

 桂子ちゃんと永原先生が泣いていたことには触れないでおきたい。あたしの荒んだ気持ちに対する整理が、あたし自身まだ出来ていないから。

 

「さて、ここにはもう長居は無用だね。石山さんおめでとう。さあ、行きましょうか」

 

「「はい!」」

 

 あたしたちは控え室を出る。トロフィーは持ったままだから、嫌でも目立つ。

 観客からも祝福の声を聴くことができる。一応準優勝と3位も記録には残るし、場合によっては3人で行動することもある。

 

 特に永原先生の場合は生徒ではなく先生という立場、しかもTS病で不老ということで、今後学校は大きな宣伝ポイントにできそうだ。

 

「さて、そろそろメイド喫茶に行きましょう。あたしたち3人と河瀬さんで特別シフトにしますよ」

 

「ええ」

 

 あたしたちは人混みを押しのけて2年2組の教室に戻る。

 文化祭も残り少し。この後の後夜祭に向けての活動も増える。

 文化祭実行委員の人が教室前にある出し物の「いいね!」票を入れる箱から投票箱を回収している。

 こちらは学生と先生には投票権はなく、一般の人に投票権があることになっている。

 

「あ、安曇川さん、交代」

 

「お、いよいよ特別シフトですか」

 

「ええ、後夜祭の前半まで」

 

「分かりました」

 

 虎姫ちゃんの他、女子生徒二人が留守居役をしてくれた。

 

「いやー放送では聞いてましたけど、終わってみれば優子が優勝かあ……」

 

「虎姫ちゃんは誰にいれたの?」

 

「ああー、私は桂子に」

 

「お、ありがとう」

 

 桂子ちゃんがお礼を言う。

 

「ま、そんなことより早く着替えなよ。特別シフトだってことで、お客さん殺到するよ」

 

「おっとそうだった」

 

 あたしたちは、急いで更衣室に入る。ちなみに、ミスコン開催中は人も少ないため、厨房もさっきの女子生徒が兼任していたのだが、こちらはすでに男子生徒4人が入っていて、そこには浩介くんと高月くんもいた。

 なるほどミスコン終わった後に探してもいなかったのは、ここを目指していたからなのね。

 

 あたしたちは更衣室に入り、見納めとなる最後のメイド服に着替える。

 よく見ると龍香ちゃんがカチューシャを付ける所だった。

 

「さ、行きましょうか」

 

「「「はい!」」」

 

 永原先生の誘導で、あたしたちはメイド喫茶に入る。

 まだお客さんはいない。

 

「それでさー吹奏楽部と合唱部の合同演奏凄かったよ」

 

「へえ、優子ちゃん、どんな感じだったの?」

 

「曲はよく分からないけどモーツァルト尽くしだったよ」

 

「そうなんだ、私も去年はいたけどその時はバッハ尽くしだったよ」

 

 永原先生が去年の文化祭の話をする。

 

「あれ、そう言えば永原先生って……」

 

「ふふんっ、モーツァルトやバッハよりも私のほうが年上だよ」

 

 ですよねー。あんな歴史に名を残した人より年上って。

 

「そう言えば物理でニュートンってやってたけど……」

 

 桂子ちゃんが何の気なしに言う。

 

「うん、ニュートンやガリレオより年上だよ私」

 

「本当に恐ろしい人よね……先生って」

 

 そんな人とミスコンで戦ったんだからすごいわな。

 

 

「あっ、おかえりなさいませご主人様ー!」

 

 一般客の人が2人見えるので、あたしが笑顔を振りまく。

 

 

「おいおい、さっきミスコンで優勝してた子じゃん」

 

「いやまてよ、2位と3位の子もいるぞ、もう1人の子も美人だし……すげえ、特別シフトに来てよかったー!」

 

 あたしが机に案内する。

 

「ご注文、どうなさいますかご主人様ー?」

 

 すかさず、引き継いだ桂子ちゃんが注文を問う。

 

「ああえっと、ブラックコーヒーと――」

 

 注文を書き留め、厨房にオーダーを出す。

 更に集まったお客さんの案内を永原先生が、列の形成を龍香ちゃんが担当する。

 あっという間に噂が噂を呼んだのか、メイド喫茶は大盛況になる。

 クラスに居た虎姫ちゃんの話だとある程度の盛況を見越して追加で仕入れの買い物したのでまだ余裕があるらしいが、一部商品は売り切れにせざるを得ないという。

 

 だけど、お客さんは皆喜んでくれる。

 一般の男性客が大半だが、みんなミスコンの話をしている。

 優勝したあたしだけではなく、桂子ちゃんや永原先生に関する称賛の声も多い。

 「優子ちゃんが規格外なだけで、桂子ちゃんや永原先生だってアイドルとして十分すぎるほどやっていける」という声も聞こえる。

 

 それを聞いた桂子ちゃんと永原先生も、何となく表情が柔くなった気がする。

 

 文化祭はもう間もなく終了する、それとともに、一般客が少なくなる。

 後夜祭は再び、小谷学園だけのお祭りに戻るのだ。




第四章ももうすぐ終わります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。