永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

108 / 555
後夜祭 ~優子の最後のご主人様~

「只今より、平成29年度小谷学園文化祭を終了いたします。一般のお客様は速やかにご退場願います。なお、これより後夜祭を開始いたします」

 

 守山会長の放送で、後夜祭に入る。

 後夜祭は前半と後半があり、前半はまだ日が完全に落ちきっていないため、文化祭の延長のような形になる。、

 あたしたちメイド喫茶も最後の営業を行う。文化祭実行委員の人と、生徒会の人が、大急ぎで教室前の箱を回収する。

 あの中には、一般客が入れた「いいね!」の紙が入っていて、これの数を持って、部活別、クラス別の出し物の優勝が決まる。

 後夜祭の前半戦はいわばそれまでの時間稼ぎという意味もある。

 

 後夜祭の後半戦は、校庭でイベントが行われる予定になっている。

 数年前まではキャンプファイヤーで、様々なイベントを催すということになっていたけど、昨今色々うるさいせいで別のイベントになっている。

 最近の後夜祭は校庭で音楽を鳴らしながら皆で色々なボードゲームやカードゲームをするということになっている。

 去年はマジックを披露したりする人も居たっけ?

 あたしは浩介くんと2人で出来ることを今から考えている。

 

 一方で、祭りの夜の学校という神秘からか、カップルが屋上で告白したり、更に都市伝説レベルながらも、部活棟の奥や人気のないトイレ、体育倉庫や鍵をかけた教室などで性行為に及ぶカップルまでいるという。

 後夜祭に参加する生徒は実は多くない。

 2年2組でも、半分の生徒は帰宅した。

 

 もちろん、浩介くんは帰宅していない。

 一般客は途絶え、いるのは学校の生徒と先生たちの一部。

 男子生徒たちが一様にあたしたちのミスコンでの活躍を噂している。

 

 そして「お前は誰に入れた?」「俺は優子ちゃん」といった会話をしている。

 男子の中では「もっと優子ちゃんが引き離すと思った」という声もある一方「いや、俺は桂子ちゃんに」「俺は永原先生に」という声も聞こえてくる。

 

 あたしに入れなかった男子は、その理由としては「やはりどうしても優一の影がちらつく」とか「あまりにもかわいすぎてちょっと」とか「水着審査がエロすぎて直視できなかった」という意見もあった。

 

 いずれにしても、男子の心を鷲掴みにしたのだけは事実みたいだ。

 

「いってらっしゃいませーご主人様ー」

 

 クラスの他の後夜祭の参加者に拠れば、後夜祭にも引き続き出すという他のクラスの出し物はそこまで多くない。

 例えば、3組の自主制作映画が後夜祭上映中止になってしまった。

 ミスコンの結果があまりに悲惨だったせいだろう。

 

 1組のフリースローの記録は、何と最初の最初に浩介くんが記録した記録がまだ破られていないという。

 ボールがバスケで使うボールとはまた違うので感覚が狂うのかもしれない。

 

 

「オーダー、トーストとアイスコーヒー!」

 

「了解!」

 

 後夜祭、ミスコンTOP3を含む特別シフトということでメイド喫茶に生徒が集中し、また混雑してくる。

 あたしは忙しなく動く。これで見納めと思ったのか、男子生徒のみならず、女子生徒も、ミスコンのTOP3がメイドしているとあって駆け込みでの利用者も多い。

 

 中には単に記念撮影したいだけのお客さんもいた。

 

 

  ピンポーン

 

「えー小谷学園の皆さん、あと15分ほどで、後夜祭後半戦に入ります。後夜祭後半戦では、文化祭での出し物は全て終了します。校庭でもカードゲームイベントの他、クラス別・部活別の出し物ランキングの発表を行いたいと思います! 皆さんは校庭へとお集まりください。」

 

 守山会長のアナウンスが聞こえてくる。

 

「えー皆さん、大変申し訳無いのですが、後5分でラストオーダーにします! 既に食べ終わった人は速やかに次の人に座席を譲ってください!」

 

 桂子ちゃんが宣言する。

 生徒たちが次々と出ていく、そして皆急いでオーダーを出す。

 中には食物と飲み物を受け取ると、すぐに食べ終わって出ていくお客さんも多い。

 

 そして列の一番最後のお客さんがラストオーダー20秒前に入る。

 

「優子ちゃん、レギュラーコーヒーお願い」

 

「え? 浩介くん厨房じゃ――」

 

 そこにいたのは浩介くんだった。

 しかもわざわざあたしを指名している。こんなお客さん初めてだ。

 

「コーヒー、お願いしていい? できれば、優子ちゃんが淹れてさ」

 

「あ、はい!」

 

 あたしはニッコリしながら厨房へ駆け込んでいく。

 

「ん? 優子ちゃんどうしたの?」

 

 厨房担当の高月くんが入ってきたあたしに怪訝そうに言う。

 浩介くんの声が聞こえなかったのだろうか?

 

「ああ、うん。最後のお客様、あたしの淹れたコーヒーがほしいということなので」

 

「あ、そうなんだ……」

 

 高月くんが呆然としている中で、あたしはコーヒーを淹れる。

 インスタントじゃないコーヒーだから、よく説明書を見ながら……よし!

 

 説明書通りに淹れたコーヒーをトレイに起き、最後のお客様に出す。

 

「お待たせしましたご主人様、レギュラーコーヒーになりまーす」

 

 ふう、終わった。あたしは安堵しようとして踵を返そうとする。

 

  ガシッ

 

「え……?」

 

 浩介くんに腕を掴まれる。

 

「あ、あの……」

 

 あたしは何も言い出せない。

 

「もう誰も居ないだろ? ラストくらい特別サービスしてよ」

 

「う、うん……」

 

 あたしは浩介くんの隣の客席に座る。

 他のお客さんは、みんな後夜祭に向けて出ていってしまった。

 いるのはもう、僅かなクラスメイトだけ。

 

 メイド喫茶最後のお客さん、浩介くんがコーヒーを飲み始める。

 

「うん、おいしい」

 

「ホント? ありがとう!」

 

 あたしがニッコリ笑う。

 

「もしかしたら……ああいや、うん……その……」

 

「どうしたの?」

 

「あ、うん……教室中が見てるから」

 

 浩介くんが言う。確かに、そうだ。今いちゃつくのは色々と危ない。

 文化祭開始当初も、それでやらかしてしまったことを思い出す。

 浩介くんが一口一口、丁寧に飲んでいく。

 

「ふぅ……」

 

 浩介くんがコーヒーを全て飲み干せば、小谷学園2年2組のメイド喫茶も閉店になる。

 外は夕日が傾き、オレンジ色の空がだんだん黒に変わりかけていた。

 

「ふう……さあ、次の一口で最後だね」

 

「ご主人様、名残惜しいです」

 

 あたしが演技して言う。

 

「何、後夜祭があるさ」

 

 よく見ると、メイド服なのはもうあたしだけ、永原先生も含め、他の人は全員制服姿になっている。

 

「ずずずっ……ぷはぁ……!」

 

 浩介くんが飲み終わる。

 

「はい、それじゃあ閉店だね! みんな、後夜祭に行くわよ! 石山さんもお疲れ様。着替えてすぐに校庭に来てね!」

 

「おー!」

 

 永原先生がそう宣言すると、クラスメイトたちが一斉に校庭へ向けて歩き出す。

 あたしは呆然としながらそれを眺め、いつの間にか教室に浩介くんと二人っきりになってしまう。

 

「あたしたちも行こう……ちょっと待っててね」

 

 あたしは席を立ち、厨房から更衣室に入ろうとする。

 

「……」

 

 浩介くんまで中に入ってくる。

 

「ちょ、ちょっと出てってよ!!!」

 

 あたしが顔を赤くして言う。

 

「いやほら、誰も居ないだろ。ちょっと着替えてるの見せてよ」

 

「やーだー」

 

 実は寒くなってきたことや夜まで居ることを想定して、上もシャツを着ているし、もちろんパンツ見えない着替え方は知っているから、下着を見せることはない。

 でも、着替えを見られるという恥ずかしさは、そういうので割り切れるものではない。

 それに、そういう着替え方したら、浩介くんが現実を知っちゃって不機嫌になっちゃいそうだし。

 

「固いこと言わずさあ……」

 

「だーめー!」

 

 あたしはいやいやをするが、浩介くんはてこでも動きそうにない。

 あうーしょうがないわね……

 

「はぁ……分かったよ。恥ずかしいけど見ていいわよ」

 

「わーいありがとうー!」

 

 子供みたいにはしゃぐ浩介くん。

 あまりにも直球過ぎてあたしもこれには毒気を抜かれてしまう。

 

「じゃあ行くよ……」

 

 あたしはまずワンピースになっているメイド服の特性を考え、まず制服のスカートを取る。

 そのままメイド服のスカートを穿いたまま、制服のスカートを内側から重ねるように穿く。

 次に背中に手を伸ばしてファスナーを下ろし、メイド服が重力に沿ってストンと落ちる。

 

 途中浩介くんは息を呑んでいたが、残念無念。

 インナーとして白いTシャツを着ていたので、ブラジャーが見えない。

 とは言え、その強烈な胸の大きさは知ることが出来る。

 

 そのまま制服のブラウスを着て、更に胸のリボンを付け、曲がってないか確認し、そして上着のブレザーを着て、下に落ちたメイド服を畳み、最後にカチューシャを外して完成。

 

「むぅ……」

 

 浩介くんが不満そうな表情をする。

 

「残念でした。女の子の着替え方の現実はこうなのよ」

 

 あたしが勝ち誇ったように言う。

 

「うぐぐっ……」

 

「浩介くん、だからあたし嫌だって言ったのよ」

 

「だ、だったら見せればいいだろ!」

 

「嫌よ恥ずかしいし……ましてや浩介くん相手なんてぇ……」

 

 今度は甘えたように言う。

 浩介くんに好かれたいがために、こういう使い分けが本当に上手になった。

 

「うっ……」

 

 浩介くんがまた動揺している。

 

「ねえ、それよりもさ、後夜祭行こう? ミスコンで優勝したあたしは、どうも記念のお菓子をもらえるみたいなのよ」

 

「へえ、記念のお菓子?」

 

「ほら、明後日ハローウィンでしょ? そのためみたいよ。お菓子の種類と量にもよるけど……もしよかったら、浩介くんにも分けてあげる」

 

「あ、ありがとう……」

 

「さ、みんな待ってるわよ。後夜祭に行こう」

 

「うん……」

 

 あたしと浩介くんは二人っきりで校庭へと行く。途中下駄箱が男女別になっているので、そこで一旦分かれる。

 そして外履きのローファーに履き替えている間に「後夜祭後半戦をはじめます」という守山会長のマイクの音声が聞こえてきた。それを聞き、浩介くんとともに急いで校庭へ歩いていく。

 

 でも、あたしは割りと早めの小走りだったのに、浩介くんは早歩きに近かった。それは身体能力の差。

 どうしても、浩介くんに強くて逞しい様子を見せられる度に、あたしはますます浩介くんの中にのめり込んでいるんだと自覚してしまう。

 

 校庭に付くと、カードゲームの他にもボードゲームに講じている集団もある。

 そんな中で、先生たちが麻雀に講じているのを見つけた。

 

 

「ツモ! 8000・16000!」

 

「な、何だよそれ! おいおい……」

 

「すげえぞ、俺も生で見たことねえぜ!」

 

「くそー僕の親被りだあ!」

 

 麻雀はよく分からないけど、何やら永原先生がすごいことをしたということは分かる。

 

「あ、あれは永原先生じゃない」

 

「あら、石山さん、篠原君」

 

 制服姿の永原先生が他の先生達と麻雀をしている。

 

「これはどういう状況……って、永原先生それ……!」

 

「えへへ、私の勝ちなのよ」

 

 永原先生は「一萬」と書かれた麻雀牌が3枚、更に「二萬」と書かれた麻雀牌から「八萬」と書かれた麻雀牌が、「六萬」のみ2枚で残りはそれぞれ1枚ずつ、そして「九萬」と書かれた麻雀牌が3枚という組み合わせになっている。

 「萬」で統一されていて、何となくすごそうなのは分かる。

 

「この役をあがるのは……インターネットも含めて2回目かしらね」

 

「え!? 永原先生、以前にもこれをあがったことあるんですか?」

 

 他の先生が驚く。

 

「ええ。あがってないのはもう後は四槓子だけですよ」

 

「ひえー、やっぱ永原先生って恐ろしいわ」

 

 先生たちが驚いている。

 

「これ出にくいんですか?」

 

 あたしが質問する。

 

「おいおい、出にくいってもんじゃねえぞ。永原先生もうすぐ死ぬんじゃねえか?」

 

「あら? この役なら36年前にも一回あがったけど私はピンピンしてますよ」

 

 永原先生が言う。

 

「永原先生って麻雀よく打つの?」

 

「まあねえ。先生仲間と打ったりインターネットで打ったりしてるよ……あ、賭けマージャンはしてないわね」

 

 永原先生、意外な趣味があったのねえ。

 それにしても、永原先生だけ制服姿だから、女子高生が麻雀を打っているようにしか見えない。

 ……と言うよりも傍目には小さな一人の女子高生に手玉に取られているオヤジ三人組という絵面にしか見えない。

 

「というか、先生いつまで制服姿なんですか?」

 

 浩介くんが気になっている。

 

「あー今日はこれで来たから。帰りも生徒気分で帰るわよ」

 

 永原先生が笑顔で言う。今日制服で来たということを知っているのはミスコンに参加していたあたしと桂子ちゃんだけ。

 他の先生も一瞬「おいおい」という顔をしたものの、むしろ女子高生よりも女子中学生に近い雰囲気なので、違和感は全く無いのが幸いだ。

 よく見ると、永原先生はスカートの上にお菓子を広げている。

 知らなかった、ミスコンのお菓子は3位までもらえるんだ。

 

「さ、あたしたちはまず守山会長のところに行きましょ」

 

「あ、うん……」

 

 浩介くんを引き連れ、守山会長を探す。

 生徒会長は案外すぐに見つかる。

 トランプ、UNO、カードゲーム、ボードゲームをしている生徒たちの合間を縫う。みんな座っているから、くれぐれも浩介くん以外の人に見られないように、スカートの角度には注意しないと。

 

「あ、守山会長!」

 

「お、石山さん来たんだね」

 

 守山会長は生徒会の仲間たちとババ抜きと思しきトランプ大会をしていた。

 

「そこのかごのお菓子。石山さんのだよ。かごは手作りだからそのままかごごと持ってっていいよ」

 

「ありがとう」

 

 あたしはかごを持ち、お菓子を見る。

 どれも市販の、それも安い駄菓子だが、ただで貰っている以上文句は言えない。

 

「浩介くん、一緒に食べようよ」

 

「あ、うん……でもちょっと待って」

 

 浩介くんが何か言いたそうだ。

 

「ん?」

 

「ほら、中庭」

 

 浩介くんが中庭という。

 

「ん? どうして? みんな集まっているのに」

 

「ゆ、優子ちゃんと、静かに二人で過ごしたい!」

 

 そうは言っても、小谷学園の校庭に音楽が流れている。中庭にもそれなりの音量で聞こえるはずだ。

 でも、今は浩介くんの意思を尊重したい。

 

「あ、うん。分かったわ」

 

 あたしたちは、ゲームに夢中になっているみんなを置いて、もう一度下駄箱を履き替え、中庭を目指す。

 

 夜の校舎、校庭が盛り上がる中で、校舎は怖いくらい静まり返っている。

 文化祭の飾り付けはそのままで、あたしたちは中庭を目指す。

 

 中庭も無人で、誰もいない。

 かすかに音楽が聞こえてくる。二人だけの空間。

 あたしと浩介くんは中庭の二人がけのベンチに腰掛ける。

 

「お菓子、あげるね」

 

 浩介くんにお菓子を手渡しする。

 

「あははっ、少し早いハローウィンだね」

 

 浩介くんが笑う。本当に素晴らしい時間。

 あたしと浩介くんの二人っきりの、かけがえのない時間。

 

 安らぎの中で、あたしもお菓子の袋を開けて、ポリポリと食べ始める。

 

「ねえ、もう一つくれる?」

 

 浩介くんがおねだりする。

 あたしは一つのことを思いつく。

 うん大丈夫、誰も見てないから。恥ずかしくないよ優子。

 そう言い聞かせ、もう一つ、お菓子の袋を開ける。

 

「浩介くん」

 

「ん?」

 

「はい、あーん!」

 

「え? あ、あーん……」

 

 浩介くんが一瞬動揺し、顔を赤くしながらも、口を開けてお菓子を食べてくれる。

 あたしも、恥ずかしいけど嬉しかった。自然と、ニッコリした笑みが浮かぶ。

 

 浩介くんを「あーん」させて食べさせてあげると、今度は浩介くんが板チョコの袋を開けてくる。

 

「優子ちゃん……その……あーん……」

 

 今度は浩介くんの「あーん」返し。

 

「あうう……あーん」

 

  パクッ

 

 板チョコの一部を食べる。

 やっぱり恥ずかしい……

 

「おいしい?」

 

「う、うん……」

 

「どれ俺も……」

 

 浩介くんが、あたしの食べたチョコレートを食べる。

 

「ふふっ、間接キスになっちゃったな」

 

「も、もう……」

 

 改めて言われるとすごい恥ずかしい。

 一人では多いと思ったお菓子の袋も、二人ではあっという間になくなってしまう。

 

 

「ねえ、優子ちゃん、ひとつ……話があるんだ」

 

 お菓子を食べ終わると、浩介くんが言ってくる。

 

「うん、何?」

 

「とても、大切な話。文化祭での優子ちゃんなら、大丈夫だと思うから……」

 

 そう言うと浩介くんは、ベンチの裏、中庭に埋められている木の下に移動し、あたしもそれに続く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。