永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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浩介くんの告白

 夜の中庭の樹の下で、あたしと浩介くんが見つめ合う。

 短い時間だけど長い沈黙。

 

「俺……俺、優子ちゃんが好きだ! 彼女に、彼女になって欲しい!」

 

「……」

 

 意を決した浩介くんが放った言葉、それがあたしへの愛の告白だということは分かっていたけど、やっぱり面と向かって言われるとドキッとしてしまう。

 浩介くんは本音では、多分球技大会の頃から、告白したかったに違いない。その時はまだ、あたしの浩介くんの恋心に気付けなかった。

 

 本当なら2ヶ月前に、林間学校の帰りに、ナンパから守ってくれた浩介くんと恋に落ちた時に、あたしが告白するべきだった。

 もしあの時キスできていれば、もう彼氏彼女になって2ヶ月ということになるはずだった。

 でも、あたしがまだ、本能的反射神経に男が残るという身体のせいで、お互い告白ができなかった。なったのは「友達」というものだった。

 

 恋人ともなればこれまで以上に身体の触れ合いも多くなる。

 それを拒絶した形で恋人になるなんて、浩介くんにとってあまりにも残酷だからと、あたしたちは彼氏彼女としての関係になっていなかった。

 そのせいで、友達という関係のまま、恋人同士でも滅多にしないようなことを時にはした。

 そうすることで、あたしの中に残る「男」を追い出せると思ったから。実際、それはうまくいっている、確実に、あたしの中で、「男」が消えていく。

 

「あ、あの……浩介くん……」

 

「優子ちゃん……」

 

 ちょっとだけ見つめ合う。短くてとても長い時間。

 でも、このままじゃダメ、一歩前に、進まなきゃ!

 まだ不安があるということを、伝えないと……!

 

「あのね、あの……ね、あたしも、浩介くんのこと大好き! 愛してるわよ! でも――」

 

「じゃあいいじゃないか」

 

「え?」

 

 浩介くんがいいじゃないかと言う。

 

「優子ちゃん、優しいから俺に気を配ってたんだろ? 男の気持ちが分かるもんな」

 

「うん……浩介くんも男の子だし、やっぱり身体を触れ合えないのに恋人なんて出来ないよ」

 

「それも踏まえてだよ。優子ちゃん、昨日今日と回った文化祭のこと、思い出してみて? 優子ちゃんはもう、大丈夫だよ」

 

 そうだといい。お尻を触られても、スカートをめくられても、それどころかパンツの中に手を入れられて直接触られても、あたしから「男」が出ることはなかった。

 間違いなく、夏休みの時より進歩していたというのは分かる。

 あたしと浩介くんは、少しずつ触れ合いを増やしながらここまで来た。今だって、大好きな男の子と2人っきりで、今すぐ浩介くんとキスしたくてたまらない。

 でも本能が言うことを聞かないんじゃないかという不安が、どうしても頭をよぎってしまう。

 

 更に今後のことにも不安がある、そのせいで、一歩を踏み出せない。

 それは多分、浩介くんは老化して、あたしはしないということの違いも意識してしまっているんだと思う。

 

 浩介くんがあたしの両手を掴み、そしてお互いの中間地点に持っていく。

 先に声を出したのはあたしの方だった。

 

「あのね、あたし、告白されたのとっても嬉しい、でもやっぱり、あの時がまだトラウマに残ってて……それにやっぱりあたしの病気は――」

 

「うん、優子ちゃん、『優一』らしいね。本当に優しい女の子だよ。俺にはもったいないくらい」

 

 浩介くんがあたしの昔の名前を言う。「一番優しい子に育って欲しい」というその名前。

 そういえば、浩介くんは「優一」へのトラウマも、解消してくれたんだっけ?

 

「……」

 

「優子ちゃん、普段優しい優子ちゃんが、ちょっとわがままになるのも、かわいいと思うぞ」

 

「もうっ……」

 

 浩介くんがキュンとくるセリフを言う。でも、浩介くんは真剣だ。

 

「優子ちゃん、もう一回言うよ? 俺、優子ちゃんのこと好きで好きでたまらないんだ。ずっと、ずっと一緒にいたい」

 

 浩介くんがあたしの目を見つめて言う。

 ずっと一緒にいたい。でもその「ずっと」というスケールの違いで、どうしてもあたしは戸惑ってしまう。

 

「うん……でも、あたし……きゃっ!」

 

「わっ……わっ……」

 

 まだ迷っているという意思を伝えるため、手を握られたまま後ろに下がろうとしたあたしは、中庭に突き出ていた木の根に足を取られ、仰向けに転倒してしまう。

 手を握ったままだった浩介くんも折り重なるように倒れていく。

 

「ったった……あっ……」

 

 胸に何かが当たっている感触がする。目を開いて見てみると、あたしは、一緒に倒れ込んだ浩介くんの右手に、左胸を触られていた。

 夏の時には出ていた反射的な嫌悪の信号は全く無い。心も体も、今すぐに受け入れたい。早く浩介くんと愛し合いたいという気持ちで満たされていく。

 

「んっ……」

 

 あたしは、呆然としている浩介くんに対し、目を瞑って口をほんの少しだけ尖らせ上に突き出す。

 

  ドキドキドキ

 

 早く、早くキスしたい。まだ知らない、男の子とのキスの味を知りたい。

 

「んっ……ちゅっ……」

 

「むぐっ……んんっ……」

 

 ほんの数秒だけど、長い、長い時間。まるで永遠に時が止まったかのように長い時間。

 浩介くんの唇があたしの唇と触れる。柔らかい唇の感触に、あたしの頭の中がところてんのように溶けていく。

 

 あたし……浩介くんとキス……しちゃった……

 

「ぷはっ……」

 

 浩介くんが唇を外す。

 あたしが目を開ける。目の前には、浩介くんの顔。

 ああ、これならもう大丈夫。あたしはそう思えた。

 そしてあたしは改めて「もう二度と、男には戻りたくない」と思った。

 

「あのね、あたし……浩介くんが好き。彼氏に……なってほしい」

 

 浩介くんに、あたしからも告白する。もう、迷いはない。

 

「うん、ありがとう……俺……俺も、優子ちゃんが好き」

 

 浩介くんがまた告白してくる。

 

「んっ……」

 

 あたしがもう一度、目を瞑って口を少しだけ尖らせて前に突き出す。

 浩介くんに「キスして」のおねだり。

 

  チュッ

 

 また唇が触れ合う。破裂するんじゃないかというくらいに心臓がドキドキする。

 でも、今は何回だってキスができそうな気がする。

 

「あ……ごごご、ごめん」

 

 浩介くんが胸を触っているのに気付き、手を引っ込めようとする。

 

  ガシッ

 

「ゆ、優子ちゃん?」

 

 あたしが浩介くんの腕を掴み、もう一度胸へと持っていく。

 

「いいの、いいのよ。恋人同士なんだから、このくらい」

 

 恥ずかしいけど、でも浩介くんにこの大きくて柔らかい感触を味わって欲しい。

 

「え? で、でも……」

 

「いいのよ浩介くんだけの特権だよ」

 

 浩介くんの深層心理あるあたしを独占したいという欲望を呼び起こす言葉を言う。

 それを刺激すれば、浩介くんはますますあたしにのめり込んでくれる。

 好きな人に好かれたい、思って欲しい。あたしだけを見て欲しい。

 浩介くんの欲望を刺激すると同時に、あたし自身の欲望も刺激する。

 

「じゃ、じゃあ――」

 

  むにっむにっ

 

「やーん」

 

 浩介くんに、両手で胸をむにっと触られる。

 うん、やっぱり恥ずかしい。

 

「あっ……んぁ……」

 

 胸から伝わる刺激で、ちょっとだけ艶めかしい声を上げるあたし。

 

「やっぱりさ……優子ちゃんってエロいよね」

 

「あうぅ……あたしやっぱり、えっちな女の子?」

 

「そりゃあそうだろう? 夏の海の時だって、日焼け止めクリーム塗らせようとして……俺が誘惑に耐えられなくなってさ」

 

 確か最後の方で、浩介くんがクリームを奪ったんだっけ?

 

「だって、それはあたしの……あ、あれは反射的本能をむ、無理に治そうとしただけで――」

 

 動揺してしまってちょっと舌足らずになる。

 

「夏祭りの時だって、黙っていればよかったのにノーブラノーパンで来たなんてわざわざ俺に申告してさ」

 

「あうぅ……」

 

 確かに、言わなくてもいいことだったかもしれないと今になって思い始める。

 

「昨日と今日だって、俺の嫉妬直したいからって、あそこまで……本当は、優子ちゃんもされたかったんだろ?」

 

「……」

 

 浩介くんがまた胸を揉み揉みする。あたしの顔がどんどん赤くなっていく。胸を揉まれているのに加え、浩介くんの追求で図星を突かれたせいだ。

 

「はぅ……んっ……その……」

 

 浩介くんの手のひらがあたしの身体を優しくなで続ける。でもやっぱり、ちょっとした拍子でどこかで乱暴な感じにもなってしまう。

 

「あ、悪い……でも優子ちゃんがえっちな女の子なのには変わらないぞ」

 

「だから……浩介くんだから……えっちになっちゃうんだよお……」

 

「それは認めているってことだな」

 

「あうぅ……」

 

  チュッ……

 

 また浩介くんが胸を触りながらキスしてくる。

 

「でもね、俺はそんなえっちな優子ちゃんも好きだぞ」

 

 お決まりのセリフ。でもやっぱり、あたしはそういうセリフには負けちゃう。

 

「……浩介くんってずるいよね」

 

「どうして?」

 

「だって、あたしが惚れちゃう台詞を、簡単に言っちゃうんだもの」

 

「そう、じゃあ思う存分、俺に惚れちゃってよ」

 

「うん、そうする……」

 

 もう、あたしは全て女の子になれたわ。以前までのように、あたしはもう「男」の面影に怯えることはないわ。

 浩介くんに両手で胸を揉まれ、ますます興奮が高まる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 明らかに性的に興奮した様子で、浩介くんが息を荒くする。

 その時だった。

 

  じわっ……

 

 あたしの身体の何処かが濡れる感覚がした。もしかして、汗かな?

 一体何が起きたのか? 胸を揉まれている間に思考回路が回らない中、あたしは反射的に足を閉じる。

 しばらくすると、浩介くんの左手が胸から外れる。

 

 右手では相変わらず胸を触られ続ける。

 

  ピラッ

 

「やーん」

 

 また、浩介くんにスカートをめくられてパンツ丸出しにされる。

 

「やっぱり、優子ちゃん下半身もかわいいよね」

 

「もお、浩介くん、えっちなんだからあ……」

 

「だってよお、優子ちゃんのこの肉付き……男には刺激が強いんだよ」

 

 浩介くんに下腹部をむにむにと触られる。

 

「う、うん……そうだよね……」

 

 実際、あたしのこれはむちむちな安産型という体型でもあるわけだし。

 

「……ねえ浩介くん」

 

「何?」

 

「浩介くん、あたしのお腹に赤ちゃん作らせたいって思った?」

 

 あたしが甘えた声で言う。浩介くんが固まっている。

 

「お、おまっ……そ、そういうこと言うなよ!」

 

「ふふっ、どうなの?」

 

「正直に言うけどよ、まだそこまで考えたことねえぜ。俺たちまだ高校2年生だしさ」

 

「あはは、そうだったね、ゴメン」

 

「ったく、そんなだからえっちな女の子なんだぞ!」

 

 浩介くんがしつけるように言う。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ちょっとだけ沈黙が流れる。校庭の方角からは、相変わらず色々な音楽が流れている。

 

「ねえ優子ちゃん、そろそろ戻ろうか」

 

「あ、うん、そうだね。みんな心配しているし……でも……」

 

「でも?」

 

「スカート元に戻してよお……恥ずかしいから……」

 

「あっ……わっ、うん……ごめん」

 

 浩介くんがスカートを元に戻してくれる。

 浩介くんがまず立ち上がり、そしてあたしも立ち上がる。ここでも、立ち上がれば普通にスカートが戻ることに気付いたのは立ち上がってからだった。

 

「ねえ、このことは……」

 

「うん、俺達だけの秘密にしよう」

 

「そうだね……」

 

 何時間にも感じられた長い時間、でも時計を見ると大した時間も経っていなくて、後夜祭がまだまだ続いている。

 

「あ、でも……もう恋人同士だからさ」

 

「そうだね……」

 

 あたしは浩介くんと腕を絡めて、胸に当てる。文化祭・後夜祭を通じて初めてのことだ。

 

「ふっ……」

 

 浩介くんが短く笑う。

 

  わさわさっ……

 

 浩介くんに、またスカートの中に手を入れられ、パンツの上からお尻を触られる。

 

「きゃあっ! ……もう、浩介くん、スケベ!」

 

「ふふっ、優子ちゃんに誘惑されたらしたくなっちゃうだろ……!」

 

「もうっ……!」

 

 暗い文化祭の跡を見たくて、浩介くんと校庭までちょっと回り道してから行く。

 下駄箱までの道を、今度はちょっといちゃつきながら歩く。

 

 冷静になって気付く、さっきのこと。女の子として、心から浩介くんに興奮している証拠だった。

 もう、あたしは戻れない。戻ろうとも思わないけど……でも、やっとこれで、あたしも他の女の子たちと同じラインに並べた。

 愛する人と、やっと愛し合える関係になれたことだけじゃない。

 これで、長くあたしと浩介くんの恋路を邪魔してきた反射的本能を、あたしは克服できた。そう思う。

 

 そうだ、このこと、ちゃんと永原先生に言ったほうがいいかな?

 

 

 校庭に戻ると、相変わらず、みんなゲームに講じている。

 永原先生は……あ、あそこかな?

 

「ロン! 2000点!」

 

「うーん、この半荘も永原先生の1位かあ……」

 

「くそーもうちょっとで清一色だったのに!」

 

 永原先生の「ロン」という声が聞こえる。

 

「あ、石山さんに篠原君」

 

「永原先生、また勝ったんですか?」

 

「ええ。それよりも、石山さん、どうしたんです?」

 

 いちゃついているあたしたちを見てちょっと不思議そうに言う。

 

「あ、あの……」

 

「ここじゃ話しにくい? じゃああそこに行きましょうか」

 

 永原先生が校庭の端、校門の近くを指差す。

 

「うん」

 

「じゃあ私、悪いけど抜けますね」

 

「あ、はい。じゃあ他の先生を呼びますか」

 

 

 あたしたちは、永原先生についていく。

 そしてちょっと離れた所に行く。

 

「それで、話って何かしら?」

 

「あの、あたし……浩介くんに告白されました」

 

「あらっそれで、石山さんは?」

 

「あたし、受けることにしました。もう、『男』は出てこないと思いますので」

 

「そう、何か根拠はある?」

 

「あ、あの……恥ずかしいから言いたくないです……」

 

「そう……でも、それがもう答えみたいなものね……石山さん、昨日私が渡した紙のこと、覚えてる?」

 

「う、うん……」

 

 確かURLがあったあの紙だよね。

 

「もし、何か下の方にきっかけを掴めたなら、もう開いてもいいわよ」

 

「下の方?」

 

「ふふっ、よく考えてね」

 

 浩介くんがちょっとそわそわしている。

 でも、あたしには心当たりがあった。多分それが、最後にあたしが確信を持てたことだから。

 

「でもね、石山さん、それでも覚えておいてほしいことがあるの」

 

「ん?」

 

「実はまだ、石山さんは、『男』が完全に消えたわけじゃないのよ」

 

 永原先生の一言。

 

「え!? で、でも……」

 

「石山さん、今の石山さんは、いうなれば敵の最後の砦を落とした状態。あなたの心の中にあった頑固な石、それを金槌で割ったようなものよ」

 

「どういうこと?」

 

「確かに石は割れたわ。でも割れた大きな石は幾つもの破片になっているわ」

 

「破片?」

 

「もちろんそれらも少しずつ、消えて行くわ。でも、石山さんは16年間男の子だった。だからどうしてもどこかでその感覚が出ることがあるし、それが完全に消えるのは……とても難しいことなのよ」

 

 あたしはちょっとだけ憂鬱になる。まだ、まだダメなのかと。

 

「でも気に病まないで。生まれつきの女の子でも、男っぽくなっちゃうことあるのよ……田村さんみたいに」

 

「あっ……!」

 

「今の石山さんは、もう下手な女の子より女の子らしいわよ。それにもう、心も体も、女の子として、男の子が好きになったんでしょ?」

 

「うん!」

 

「じゃあきっと大丈夫。もう男の影に怯えなくてもいいわ。あなたは幸せになれるわよ」

 

 永原先生が言う。

 そうだ、あたしはもう大丈夫。浩介くんと、これから新しい生活が始まるんだ。

 

「さあ、後夜祭はまだまだ続くわよ。一緒に楽しみましょう」

 

「「はい!」」

 

 あたしと浩介くんは、永原先生とともに、さっきの麻雀卓の所へと戻った。




これで第四章は終わりです。時系列では中途半端ですが、優子の成長という意味ではここが大きな区切りになります。

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