永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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女の子の修行1日目 後編

 昼食を食べ終わって数時間の休憩の後、今度は「洗濯物を干す」という作業が俺を待っていた。

 まずは洗濯機から洗濯物を入れ物に移す作業、これは反復的な力仕事だ。女の子には辛い。

 

 母さん曰く、「今日は天気が良いから外に干しましょう」ということなので、今度は洗濯物のかけ方を習う。

 服を干すための洗濯バサミの使い方や、どこに干すのが良いのかといったことも言われた。

 

「いい優子、洗濯物は、ベランダや庭などに干すのが基本よ」

 

「はーい」

 

 庭に出て物干し竿が段々になっているものを指差し、そこに洗濯物を置いていく。

 

 一通り干し終わると、今度は「部屋干しの仕方を教えるね」と言われた。一旦室内での部屋干しでのやり方も習うのだろう。

 

「さ、部屋干しをやるから一旦これは部屋に戻すわよ」

 

「え? 外に干したのにまた部屋に戻すの?」

 

 何のためにここに干したんだ……

 

「ふふっ、これは学習も兼ねてるからよ」

 

 無為な行動といえばその通りだが、これも自分の学習のためということか。

 

「今後優子が女の子として生きていく上で、家事ができないと立派なお嫁さんにはなれないわよ」

 

 お、お嫁さんって。でも女の子ってそういうものだよな。以前も誰かの嫁になる自分を想像したが、まだ想像しきれない。

 

「そもそも……わ、私をお嫁さんにもらってくれる男なんて居る、の?」

 

「あら、優子ほどの超がつくような美人なら引く手数多よ」

 

母さんは楽観的な様子で話している。

 

「でも、老けないってマイナスじゃないの? 最初の20年くらいはよくてもさ」

 

「うーん、お母さんはそこまで想像できないな~。でも少なくとも家事ができないなんてなったら美人でも愛想つかされちゃうわよ」

 

 そもそも、不老の病気はTS病だけだ。換言すれば不老になる方法なんて男がこの病気になる以外の道はない。

 

 仮に女として生きていくとして旦那を貰ったとして、間違いなく先立たれる。先立たれた後も100年200年と人生が続いていく。

 

「うーんでもさ、母さん思うんだけど、ずっと独身で一人過ごすとしてもさ。今やってる家事は重要だと思うのよ。つまりどっちにしても、女の子は家事を学習しておく必要があるわ」

 

「そうだね、覚えて損はないよね」

 

「じゃあ、部屋干しの仕方を始めるわよ」

 

 部屋干しで気をつけなきゃいけないのは「臭い」だという。そのため、なるべく部屋の中央に干しておくということを言われた。

 

「晴れた時に出しやすいからって窓の近くで干すと乾きにくいわよ。それでも、スペースがなくてどうしても端に置かなきゃいけない時は、扇風機を使うのよ」

 

「はーい」

 

「更に臭いを取るためには、時折空気を換気扇で入れ替えたりしてね」

 

「うん」

 

「さ、部屋干しはこの辺にして、もう一回干す所はお母さんがやっておくから、その間にポスト見てきてくれる?」

 

「はーい」

 

 玄関から外に出る。何気にスカートで外に出たの初めてだ。

 

「こんにちは」

 

「こ、こんにちは」

 

 誰かが声をかけてきた。聞き覚えのある声だと思って振り向く。

 

「あ、あの、石山優一さんの、お姉さんですか?」

 

 そこにいたのは制服姿の木ノ本桂子だ。そうか、そろそろ学校も終わる頃合いなのか。

 

「えっと……」

 

 待て待て、こんな姿で「俺が優一だ」なんて言っても信じてもらえるわけがない。

 

「そ、その……し、親戚です」

 

「優一、あの日倒れてからずっと学校に来てなくて、心配になったのでプリントを渡すついでに来てみたんですけど……」

 

「その、優一……なら来週には復帰するつもりですよ」

 

うー、罪悪感が半端ねえ……

 

「ど、どういうことですか?」

 

「ちょっと大変な病気になっちゃって……で、でも命に別状はないから心配しないで」

 

「そ、そうですか」

 

「プリント持ってきてくれたんだ? じゃあ……私が預かっておく……わね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言うと、プリントを受け取ったのを確認すると木ノ本は足早に立ち去っていった。

 騙すような感じになってしまい、わずかながら罪悪感も覚えるが、仕方あるまい。本当のことを教えても絶対に信じないだろうからな。

 

 プリントを一旦玄関に置いておく、もう一度ポストを見る。特に何もない。

 

 そう思っていると、遠くから何やらトラックがやってきた。

 お、郵便局だ。何だろう、大きな荷物でもあるのかな?

 

 そう思っていると、トラックが家の前で停車した。

 

 「すいませーん、石山様のお宅ですか?」

 

 「はーいそうですけど」

 

 配達員のおじさんが声をかける。いつも話すときより視線がやや下に向いている気がするが、目の錯覚だろうか?

 

 「こちら、永原様よりお届け物が届いています。こちらに、判子を押してもらえますか?」

 

 「は、はい」

 

 玄関に戻り、ハンコを取ってきて押す

 

 「はい、ありがとうございます。それでは」

 

 そう言うと、配達員が手渡しをしようとして一旦躊躇し、床に置く

 

 「重たいので気をつけて下さい」

 

 そう言って、配達員はトラックに戻り車を発進させてさっていった。

 

 とりあえず、持ち上げてみる。

 

 お、重い……!

 中に何が入っているかわからないが、持ち上げることが出来ない。

 これは相当筋力が落ちてる。

 

 全く、女ってこんなに弱い生き物なのか。散々思い知っていたはずなのに。

 

 ともかく引きずることしか出来ない。万策尽きたと思い、母さんを呼ぶ。

 

「優子、これ持てないの?」

 

「う、うん」

 

「どれ? わっ!」

 

 母さんも重たさにびっくりしているが、それでもなんとか浮いているだけ俺よりマシだ。

 

「ふ、二人で持とう」

 

「え、ええ」

 

 二人がかりで持つと案外余裕だった。

 

 玄関に置き、ドアを閉めてから、配達物の中身を見る。

 中身を開けると、そこにはかなりの数の女性誌と少女漫画の単行本、更に少女漫画雑誌まで3種類揃ってた。

 

 更に一番上には紙が一枚あって、その紙に曰く、「これらは全てカリキュラムの教材です。空いた時間にはこれを読んでください。家にある本のうち男性的なものは、男の時来ていた服とともに別の部屋に並べて下さい。永原マキノ」とある。

 

「じゃあ早速本棚に移しましょう。これによると少年漫画とかは外に出さないといけないってことね」

 

「そういうことになるのかなあ……」

 

「じゃあ、公平を期すために、どける本はお母さんが決めるから、優子は空いたところに本を入れてって」

 

「それにしても、入りきるのかなあ……」

 

 元々、そこまで本を買わないタイプだから、本棚も開いているとは言え……

 

 ともかく、まずはこれを数回に分けて俺の部屋の前に持ってくところからだ。

 まずは持てそうな分を持ち、自分の部屋の前に一旦置く。そして玄関に戻り、また自分の部屋の前に持っていく。

 

 ……2往復したがまだ足りない、もう一度玄関に戻り、木ノ本が持ってきたプリントともども全ての本を部屋の前に置き終わると、既に、部屋の前には別の1山ができていた。

 そこには少年漫画の単行本の他、いわゆる可愛い女の子の出て来る萌え系の漫画やライトノベルなども少しだけあった。

 

 とりあえず、空いたスペースに、まずは少女漫画の単行本の全巻セットを1巻から本棚に入れていく。

 母さんの方は選別が終了したらしく、クローゼットに向かっていった。

 こっちは簡単だろう。もはやブカブカで役に立たなくなった男物の服を出していくだけだ。

 

 単行本は棚に入れるが、雑誌の方は机の上に出しておく。

 ……よし、これで大丈夫だ。母さんの方も、ちょうど隔離作業が終了したようだ。

 

 整理し終わって一息つこうとしたら、母さんが部屋に入ってきて、あの日買った服の一部を持ってきた。

 

「男物をどけたら全部入るわね。さ、お母さんがこの作業してる間に、優子は別の部屋に入れる本はこれでいいか確認してくれる?」

 

「はーい」

 

 念のために自分でも確認するというわけか。

 部屋からどけられた本を見る。そこには少年漫画や、萌え系漫画、ハーレム系ライトノベルなど、明らかに男性向けの本がそこに並んでいた。

 隠してあるエロ本はなく、自分としても特にこれで異議はない。

 本棚に残っている本でどけるべき本があるか調べたが、これも母さんはどけなかったが自分の方でどけたほうがいいと思った1冊を追加で指定しただけで、それにも母さんも特に異議を唱えなかったので問題なく終了した。

 

「それじゃあ、お母さんは夕食作りするから」

 

「あ! 手伝わなくても──」

 

「夕食については明日することになってるから心配しないでね。それまではこの少女漫画読んでてくれる?」

 

「う、うん」

 

 そう言うと、母さんは台所に向かっていった。

 夕食の手伝いは、また明日にする必要があるわね。

 

「とりあえず、読まなきゃいけないよな……」

 

 俺は本棚にある少女漫画の単行本を睨みつける。

 しょ、少女漫画なんて生まれてこの方読んだことないぞ。

 

 とは言え、こうして機会が巡ってきたんだ。せっかくだ。ちょっと読んでみよう。

 最初にしまった本棚左上にある第一巻を手に取り、読み始める。

 

 ……なんか妙に目が大きいな。いわゆる「萌え絵」も目が大きいことで有名だが、少女漫画はそれ以上だ。

 というより、この手の技法は少女漫画からの輸入らしいな。でも、萌え絵と違って目がキラキラしてる。これはこれで女の子が可愛い。

 

 ……ふむふむ、舞台はお坊ちゃまとお嬢様が通う学校か。

 そんな中で庶民派の女の子が主人公なわけか。

 

 ……ふむ、ふむ。主人公は隣のクラスの学園一の金持ちのイケメンお坊ちゃまに恋してる。と。

 うおっ! 主人公がいじめられてるぞ。

 いかにも意地悪な美人のお姉さんが出てきた。

 

 むむむ、第一巻はここまでか。

 この漫画、月刊誌連載で全3巻なのか。長くないから一気に読めそうだ。

 

 

 よし、第二巻を読んでみよう。

 

 ふむふむ、悪役の女の子のいじめにもめげず、主人公の女の子は恋心を持ち続けているわけか。

 あ、さっきの悪役が出てきた。恋愛感情を周囲に言いふらしてるよ……

 

 ……可哀想に、集団でいじめられてる。靴を隠されたり、通りすがりにセクハラされたり……って結構セクハラされるシーンがエロいぞこれ。

 

 何だこれ、少年漫画よりドロドロしてるじゃないか。

 こ、こんなものを少女が読むのか。今まで読んでた少年漫画はどちらかと言うと力と力って感じだが、これは心理を深く抉る感じだ。殴り合いよりも質が悪いぞこれ。

 

 ……にしても可哀想だなあこの主人公。恋心を持ってるってだけで悪役の子のせいでひどい目にあってばかりじゃないか。泣いちゃってるし。

 

 しかも、悪役の子は、想い人と「婚約してる」のかよ。そして主人公の女の子の絶望顔で第二巻終了か。

 

 

 第三巻、相変わらず悪役の子はお坊ちゃまに恋を続けてて積極的に話しかけてる主人公に対していじめを続けてる。

 

 ……まあ、この子からしてみれば自分の婚約者につきまとうってのはいい気分はしないだろうな。

 にしてもやりすぎだろうこれ。うわっ、今度はクラスの前でスカートめくられてるよこの子。

 あーあ、ついに「もう嫌だ」「もうお嫁に行けない」って、教室で泣き出しちゃった可哀想に。

 

 ……あ! お坊ちゃまに目撃されてた。

 

 むむむ、問い詰められてるぞ。一転攻勢ならぬ一転守勢ってやつか。

 しどろもどろになる悪役だな。

 

 お、「お前がこんなやつだとは思わなかった。父上に婚約のこと考え直すように言う」か。ここちょっとかっこいいな。

 

 悪役の子は必死になって許しを請うけど、ますます断罪されるってやつか。

 お、主人公の女の子が告白してるぞ。

 

 お、お坊ちゃまも悪くない雰囲気。

 

 ……あ、結局悪役の子のいじめが世間の噂になって婚約破棄になっちゃったよ

 で、今度はお嬢様の会社が傾いて倒産、転校した後行方知れずになっちゃったのか。ざまあみろって感じだな。

 

 で、主人公は憧れのヒーローとキスをして、最後は幸せに結婚式でめでたしめでたし。か。何だろう、時代劇みたいな勧善懲悪って感じだ。短くまとまっててとても読みやすい。

 

 えっと、これの感想文も書かなきゃいけないんだよな。

 

 

 うーん、主人公の子が報われてよかった。悪役の子は因果応報だと思う。でも会社が傾いたのはこの子悪くないよね。

 あと所々エロかった。少年漫画のラブコメものとは全くベクトルが違うエロさだけど。

 男の子はすごくかっこよく書かれていたけど、なんか人形みたいな印象も受けたっと。

 

 うーん、こんなところかな。

 

 

「優子ー! ご飯よ~!」

 

「はーい」

 

 

 短い読書感想文を書き終わると、ご飯のお知らせが来た。少女漫画を読んでいた途中で親父も帰って着たので、今日も3人で夕食だ。

 夕食が終われば風呂、風呂入ったらまた別の少女漫画を読み、感想文を書いて今日は寝る予定だ。

 そういえば、この感想文はどうするんだろうか? 永原先生に提出するんだっけ?

 

 ちなみに、食事の後のトイレはスカートを床につけないように程々に脱いでやりました。足が自由に動かせなくてちょっと不便だったな。

 




作者は男なので家事描写難しいです

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