永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
女の子になって2回目の体験は、初めての時よりも興奮した。頭と視界が、一瞬真っ白に染まり上がってしまったほどだった。
山の頂上に登ってしばらくして、余韻に浸っていたら、浩介くんのトイレを流す音が聞こえ、スカートを一応直しておく。座ったらどうあがいても丸見えだけど。
「ふぅ……おまたせ優子ちゃん……」
浩介くんがかなり冷静に、疲れた顔で言う。
「浩介くん、遅かったね?」
あたしも疲れた声で言う。
「う、うん……優子ちゃんも、俺がいない時暇じゃなかっただろ?」
「あれ? バレてた?」
「うん、ここまで大きな声が聞こえてきたよ」
「あ、あはは……」
そりゃあ、そうだよねとしか。
「それでさ、優子ちゃん」
浩介くんが真面目そうな顔をする。男の子やっぱ抜くとこうなるよなあ……
「うん?」
「気持ちは分かるんだけどさ、しばらくこういうのは封印したいと思うんだ」
浩介くんが言う。意外な声だ。
「え!? 浩介くん、もしかしてこういうの嫌い?」
「いや、俺も男だし、優子ちゃんとこういうことしたいよ。でも、優子ちゃんのこと大切にしたいから……やっぱりもっと待たなきゃ!」
「浩介くん……」
それは、浩介くんが本心からあたしを大事にしたいということを意味している。そのためには、自分の根本的欲求さえ我慢できるということ。
これじゃあたしも誘惑ができなくなってしまう。
本当に浩介くんは責任感の強い男の子、あたしにはもったいなさ過ぎる。
「うん、分かったわ。あたしもこの服はしばらく我慢するよ」
「ありがとう……2人っきりの家の中でその服着られたら、いつ理性が崩れるかわからないから」
無理もないよね。
「じゃあ着替えた方がいい?」
「あ、うん……そうしてもらえると助かる」
そう言うと浩介くんが部屋を出て行く。
ふう、しょうがないかあ……今から強引に襲うと言っても、既に1回抜いちゃったら、男の子に2回目を要求するのは至難の業だということをあたしは痛いほど知っている。
あたしはカバンから白いワンピースを着てから、「露出服」を脱ぎ、鞄にしまう。これも一応浩介くんが覗きに来るかもという感覚からで、あまり意味はない。
ふう、最終目標は失敗しちゃった。
でも、浩介くんも興奮していたし、あたしも貴重な経験ができた。
しばらくはできそうにないし、もし切なくなったら、今日のことを思い出すことにしよう。
今日のデート、更にもう一歩進むという本懐こそ達成できなかったけど、浩介くんを興奮させて、更に距離を縮めるという意味では概ね目的を達成できたし、今日のデートは及第点を与えたい。
……ってまだ反省するのは早いよね。
浩介くんの部屋の鏡を借りて、もう一度ちゃんと出来ているか確認する。
うん、これで大丈夫。
「着替えたよー」
落ち着いたワンピースに戻る。
ガチャッ
浩介くんが部屋に入って来る。
「お待たせ」
「あ、ああ……」
浩介くんがどこか残念そうな顔をしている。
「あれ? もしかしてさっきの格好のほうが良かった?」
「ま、まあそりゃあ……俺も男だし」
「じゃあもう一回着替える?」
もう一回だけ誘惑してみる。
「ああいや、いいよ。それに仮にしたいとしても、今日はもう……ちょっとエネルギーが足りないんだ」
「あ、うん。そうだったよね」
あたしの声も聞こえていたって言うし、浩介くんも疲れ切っちゃっているものね。いたわってあげないと。
「テレビ見ようよ、何がいい?」
あたしが話題を変える。とりあえずテレビでその場しのぎをしよう。
「そうだなあ……ちょっと待ってて、新聞取ってくる」
「あ、うん」
浩介くんが新聞を取りに部屋を移動していく。
その間にあたしはテレビを確認する。番組表ボタンを押して……うん、どうやらこのテレビはCSも見られるみたい。
お、例の飛行機事故のがもうすぐ再放送するみたい。これはまだ見て無い回。
……よし、これにしよっと。
「お待たせーってあれ? 既に決まってる感じ?」
「あ、うん。このテレビ、番組表があったよ」
「あっ、そう言えばそうだった。悪い悪い」
浩介くんがハッとしながら言う。
「それで、何を見るんだ?」
「これこれ」
あたしがテレビの前で「見てアピール」をする。
「ん?」
浩介くんがテレビ画面を見る。
ちょうど番組が始まった頃あいだ。
「あれ? これって優子ちゃんも見るの?」
「浩介くん、知ってるの?」
「うん、『フィクションじゃないのかよ! 騙された!』で有名だよ」
「へえ、そんなネタがあるんだね」
この番組、オープニングの後に「これは実話です」という断りのアナウンスが流れる。
普通なら「本当のことだと思ったのにフィクションだったのかよ! 騙された!」となるけど、逆転の発想で「どうせフィクションなんだろと思ったら、フィクションじゃないのかよ! 騙された!」ってことなのね。
何はともあれ、面白いことを考える人がいるものね。
「さ、始まるぞ」
浩介くんと一緒に番組を見始める。
「これは面白いぞ。特に後半のナレーションが見ものだぜ」
あたしたちが生まれたばかりの頃。スイスの空港に着陸しようとするベテラン機長の話だ。
「なんかこの番組、ベテランがよく出てくるような気がするわね」
しかもこの人は飛行教官らしい。しかも自宅の庭のように慣れた場所。一番事故を起こさなさそうなのに。
「優子ちゃん、『ベテランはフラグ』って言葉もあるんだぜ」
「え!? ベテランほど事故起こすの?」
あたしにはちょっと意外。
「あー、色々な要因があるんだが、この場合はちょっと特殊なんだ」
「へえー」
ともあれ、オープニングから、着陸の話に入る。
ILSという機械のサポートのない、手動での着陸を余儀なくされた上、視界も悪かったために、空港の滑走路から外れた場所に墜落した格好、でも生存者いたのね。
番組が進むにつれ、例えば整備ミスで飛行機の姿勢指示器が上下さかさまに取り付けられていたとか、パイロットの地図に不備があったとか、管制官の指示にも疑問点はあったが、結局不問になったといったことが分かる。
「さあ、この後が傑作だぞ」
事故原因がパイロットの初歩的なミスという可能性になりはじめ、機長の経歴が調べられ始めた。
すると、この機長、実はダメ機長だった。
まず、パイロットの適性試験に落第していたことが判明、平均以下の能力にも関わらず、どういうわけか就職できたと言われ、パイロットになって見れば、スイスの遊覧飛行で乗客に指摘されるまでイタリアに迷走飛行をし、着陸時に以前も凡ミスして飛行機を壊したりする始末だった。
機長で飛行教官なんてお飾りみたいなもので、経歴は失敗続きで全く誇れるものではなかった。
調査官も「私なら推薦状は絶対に書いたりしない」と断言する。
「こっからがクライマックスだ」
そして、ナレーターは航空会社を糾弾する。
「なぜこんな、無能ともいえるパイロットを雇い続けたんだ?」と。
浩介くんに拠れば、「この場面が最高傑作」なんだそうだ。確かに面白い。
ちなみに今気付いたが、機長呼びだったのにいつの間にか呼び捨てになっていた。
ちなみに、会社の規模が急激に拡大していて、首のするにできなかったらしい。
番組では、よく分からないダンスユニットがうるさいということで、機体後部に移動して助かった生存者の証言も出て来ていた。
「数奇な運命よねえ……」
「でも優子ちゃんほどじゃないだろ? 優子ちゃんは性別が変わっちゃったんだから、飛行機事故より確率低いだろ?」
「確かにそうだけど……」
そして、番組もエンディングに入る。こういう事故でも、次の安全への糧になっているらしい。
「終わったね」
「ああ、優子ちゃん、ところでどこでこれを知ったんだい?」
「林間学校で、たまたま見たらはまっちゃって……」
虎姫ちゃんと桂子ちゃんも、更にお泊り会では恵美ちゃんとさくらちゃんも嵌ってたし。
「やっぱ中毒性あるよなこの番組」
「うんうん、真面目なシリアス番組で、不謹慎でもないし、笑えるわけじゃないのに、不思議よね」
「うん、俺も一回見たらはまっちゃったよ」
「あはは、やっぱりあたしたち相性いいよね」
「お、おう……」
またさりげなく本音が漏れる。冷静になれば、この番組そのものが強烈な中毒性を持っているだけなのに。
浩介くんのベッドでゆっくり横になる。
デートで疲れた(疲労の多くがさっきの「あの行為」だけど)ので、浩介くんも横で休んでいる。
「優子ちゃん、帰らなくて大丈夫?」
「まだ大丈夫だよ。それより、こうやって二人で横になるの初めてだね」
「そ、そう言えばそうだな……」
浩介くんがまた緊張している。
「襲いたい?」
「まだそういう気分じゃない」
「あ、うん。でも、部屋に入ったばかりの時に、あの服でこうしてたら?」
「脱がしておさわりはしちゃったかも……」
浩介くんが苦笑いするような感じで言う。
「本当にそれだけ?」
「ああいや……その……」
浩介くんが戸惑っている。
「恐れないでよ。あたしも浩介くんの気持ちわかるんだから、本音でいいわよ」
「で、でも……」
浩介くんはまだ躊躇している。
「あのね……『犯したくなった』でもいいよ……」
「お、おまっ……! あ、ああそうだよ! 俺、優子ちゃんと、もっと色々なことをしてみたくなったよ」
浩介くんが本音を言う。予想できていたとはいえ、やっぱり浩介くんの口から出るのは嬉しい。
「ふふっ、ありがとう……でも、我慢してくれるんだね」
「あ、ああ……やっぱり、ほら……勢いに任せたら大変なことになりかねないだろ?」
「う、うん……そうだよね」
実際に、このまま浩介くんと一緒にいたら、いつか体験しそうなことでもあり、今はまだ、出来ないこと。
「ま、今は今しかないんだ。焦らないで一歩一歩精一杯楽しもうぜ」
「うん……!」
あたしの人生は、きっと果てしなく長くなる。でも、今は今しか来ない。
永い人生だからこそ、今を精一杯生きたい。
女の子として、この惚れた男の子と、たっぷり楽しいことをしていこう。
あたしは心にそう誓う。そして2人で横になりながら、静かに時間を過ごしていった。
「さよならー」
「うん、ばいばい」
浩介くんが、「両親がもうじき帰って来るから」ということで家を出る。
あたしは、「せっかくだから両親に紹介してよ」と言ったものの、浩介くんは「まだ彼女がいるって言ってないから恥ずかしい」と言ってしまった。
もちろん、ここで無理に押すことはしない。どうせいつかはバレること。その時になって改めて考えたい。
多分、というよりも間違いなく、浩介くんの両親はあたしのことを気に入ってくれる自信はある。
ミスコンで優勝して以降、あたしはますます自分に自信を持てた気がする。
やっぱり、優一時代も無駄ではなかった。
このおかげで、浩介くんの気持ちを分析して、どうすれば喜ばせることが出来るのかがわかることがある。
やっぱり、好きな男の子が喜んでくれることが大事よね、うん。
あたしは駅までの道のりを思い出しながら、一人で駅に戻る。
幸い、駅までは目視可能な距離なので、迷うことはなかった。
電車に乗って考える。
浩介くんへの誘惑は封印すると言っても、やっぱりミニスカートとかはデートでも穿いていきたい。
だけど浩介くんの嫉妬心を考えれば、ミニスカートを披露できるのは家の中だけ。
確かに今日の服装は極端だったけど、海の時に着た青いワンピースのミニとかくらいは穿いていきたい。
でも、どうしよう? どこまでがセーフなんだろう? そこは個人個人で違うからよく分からない。
うーん、今までの経験では膝が見えるくらいなら大丈夫みたいだから少しずつスカート短くして試してみるしか無いのかなあ……
そんなことを考えていたら、電車が到着する。あたしは通学よりもちょっと長い時間をかけて、家に戻った。
「ただいまー」
「あら優子おかえり……デートどうだった?」
家に帰ると、母さんが出迎えてくれた。
「うん、上手く行ったよ!」
最高の出来とまでは言わないけど、十分に満足できる。
「彼の家はどうだった?」
「うん、最高だったよ!」
あたしはニッコリして答える。でもその理由までは答えない。
「あらそう……そうよねえ……」
母さんが意味深な笑みを浮かべる。
「えいっ!」
「あっ!」
母さんがあたしの鞄を一瞬の隙きを突いてひったくると、中からヘソ出しの胸がギリギリTシャツに、青い超ミニのフレアスカートを取り出す。
「あらあ優子ったら、こんな服を着て……やっぱりねえ、優子の様子がおかしいからタンスの中を見てみたら、この服がなかったもの……」
「か、母さん!」
「それで……上手く行ったんだー!」
「う、うん……」
あうあう……
「ってことはもしかして、優子大人の階段登ったりとか!?」
「あ、ううん、してない! してないよ母さん!!!」
「はいはい、じゃあ今日のデートについて教えてくれるかな?」
「う、うん……」
あたしは今日のデートのことを話す。
ゲームセンターで浩介くんと遊び、浩介くんが手加減してくれたこと。
一緒にラーメンを食べたこと。
浩介くんの家で、露出度の高い服を着たこと。
誘惑はうまく行って、浩介くんを勃たせたけど、浩介くんは「責任を取りたい」と言ってトイレで抜いてしまい、えっちはできなかったこと。
ちなみに、具体的に何されたかは、かなり迫られたけど恥ずかしいから断固拒否した。
そしてその後は、テレビを見て過ごしたこと。
浩介くんの両親とは会わなかったこと。
「ふーん、優子、本当に成長したわね」
「あたし、頑張ってるかな?」
「うん、でも頑張りすぎないでね。あんまりはしたないのも嫌われちゃうからね」
母さんが忠告してくる。
「うん、分かってる」
「そうだよね。この辺はお母さんより優子のほうが詳しいと思うから何も言わないわ」
どこまでがセーフなのかはゆっくり模索していくしか無いだろう。
もしかしたら浩介くんの機嫌次第かもしれないからそのあたりも含めて計算しないといけない。
「優一」基準の好みがそのまま通じるとは思えないのだから。
「さ、優子、明日からは学校だからね。ご飯はお母さんが作っておくからお風呂沸かして入りなさい……濡れてるでしょ?」
「ちょ……ちょっと母さん!」
「ふふっ、図星ね」
あうぅ……何も言い返せないって超恥ずかしいよ……
あたしは風呂の追い焚きボタンを押し、早めにお風呂に入る。
ちなみに、パンツもぐっしょりだったというわけではなく、その後普通にテレビ見たりして過ごした結果もあって、既に乾いていた。とは言え、新しいパンツに穿き直さなきゃいけないのは事実だった。
「お、優子、今日デートだったんだってな」
「うん、そうだよ」
仕事帰りのお父さんが食卓で言う。
「優一がいきなり女の子になったって聞いた時は、どうなることかとも思ったけど、女としての幸せを掴めたみたいで、よかったよ」
「ありがとう……」
あたしと浩介くんとの関係、みんなが祝福してくれている。
ほんの少し、かすかな不安はあるけれど、きっと誰もが羨むカップルになれる。
あたしはそんな自信があった。
明日はロングホームルームで文化祭の後片付け作業から始まる。
多分明日も、学校で浩介くんと会えるから。