永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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協会本部 中編

「石山さん? どうしたの考え込んで?」

 

 考え込んでいたあたしに、永原先生が声をかける。

 

「ちょっと思い出したいことがあって……」

 

「そう? ゆっくり考えてみて」

 

 夏休みの日のことを思い出す。水族館で浩介くんとデートしてて、蓬莱教授と出会った。

 そういえば、蓬莱教授の話。あたしに何か意味深なことを言っていたことを思い出す。

 

「あ、あの……」

 

「うん、石山さんどうしたの?」

 

「う、うん……実は夏休みに浩介くんとデートした時の事なんです」

 

「ん?」

 

 あたしは思いきって蓬莱教授と出会った話をする。

 その時、蓬莱教授が何か意味深なことを言っていたこと。それについては詳しくは思い出せないことを話す。

 

「なるほどねえ……」

 

「会長、あの人は、信用できません」

 

 比良さんが強めに言う。

 

「ええ、それは分かっているわよ」

 

 永原先生が言う。

 

「そういえば、永原先生、蓬莱教授とは仲悪くないって――」

 

「そうね。近くで勤務しているし、高校と大学という違いはあるけど、共に人に教える職業をしているもの。働いた帰りにばったり会ったりもするわよ。友人としてはいい人なんだけど、日本性転換症候群協会の会長としては、警戒せざるをえないのよ」

 

「複雑な関係ということですか?」

 

 あたしが言う。

 

「そうねえ……それに日本性転換症候群協会としても警戒しつつも友好関係も維持しなきゃいけないのよ」

 

「協会としても、年齢証明をしてもらった恩義もあるし、蓬莱先生からは膨大な寄付を貰っていて貴重な運営資金にもなっているのよ」

 

 比良さんも説明してくれる。

 それだけの恩義がありながらも、どこか信用ができないという。なんか国際情勢みたい。

 しかしノーベル賞の賞金だってそこまで多いわけではないのに、どこからそんな財産が出ているんだろう?

 

 

「実は蓬莱教授のノーベル賞のきっかけになった難病治療法も私の遺伝子を使ったものなのよ。ただ、その時の遺伝子提供は資金援助の見返りという意味もあったんだよ」

 

「あの人、何を考えているのか分からないから、怖いのよ」

 

 比良さんが本音を言う。

 

「とは言え、ノーベル賞学者が私たちの病気を研究してくれているのはありがたい話よ。TS病の原因遺伝子は未だに掴めていないし、どうして日本人に多いのかとか、そういうことも分かれば、対策を取りやすいもの」

 

「そうね」

 

「実は、蓬莱教授なんですが……ノーベル賞を取った研究を脇道だって言ってました」

 

 あたしが言う。

 

「……あの人なら、そう言うでしょうね」

 

 比良さんが言う。

 

「ええ、蓬莱教授のTS病研究の目的は一部の病気を克服することじゃないって言ってました」

 

 永原先生が言う。

 

「どういうことです?」

 

「……酒の席で言ってました『俺はこの世に存在するあらゆる病気・障害を完治させることが出来るようになることが目的だ。手段は選ばん』と」

 

「ええ、あの人の辞書に、生命倫理という言葉はありませんもの」

 

 やはり、学会で揉めているというのはそういうことだったのね。

 

「そう言えば、不老研究って言ってましたよね?」

 

 おそらく、蓬莱教授の溢れる自信もそこから来ているはずだし、難病研究を「脇道」と言い切るのもそのためだ。

 

「ええ、ですが、果たして蓬莱教授が生きているうちに出来るでしょうか?」

 

 比良さんが疑問を言う。

 

「そうねえ、私も無理だと思うのよ。あの人本当に頭の回転が速いのよ。その天才蓬莱教授をもってしても、TS病の原因遺伝子さえ掴めてないのだからね」

 

「ええ、私も永原会長と同意見です」

 

 やっぱり世の中そううまくいかないみたいね。

 

 

「さ、私達の話もいいけど、入会手続きに入っていいかな?」

 

「あ、うん……」

 

「ええ、それで来たんですから」

 

 あたしと母さんが言う。そう、本題はこっち。

 

「えっと、じゃあまず石山さんの正会員から。正会員というのは、重要な問題において話し合う正会員の集会での議決権がある会員ってこと。といっても、あんまり会全体の方針はないわよ」

 

「あるとしたら、『私達を普通の女性として扱って欲しい』ということくらいかな?」

 

 比良さんが付け加える。

 

「それは以前聞いたので大丈夫です」

 

 実際、それをしてもらえなくて、あたしは何度も苦労させられた。

 

「その様子だと、会の根本理念に異議はないみたいね」

 

「比良さん、異議ある人を私が17歳で正会員に推薦すると思っています?」

 

 永原先生が思わず突っ込む。

 

「そ、そうでしたね。すみません。服だってこんなに少女性強調してるのに……」

 

「うんうん、ぬいぐるみまで抱いてくるんだもん、びっくりしちゃった」

 

 ふと何の気なしに窓から外を見る、ここは超高層ビルが立ち並ぶ場所だが、その中でもこのビルは一際大きく、同程度の大きさのビルは数えるほどしか無い。

 外では、窓拭きの作業員がかごを使って窓を拭いていた。高所恐怖症には絶対できない作業だ。

 

「一応知っているとは思いますが、正会員になるということなので確認しますね……普通の女性として扱ってもらうために、私達はどう主張すればいいですか?」

 

 比良さんが訪ねてくる。あたしはもちろんこの問題の答えを知っている。

 

「……一番最初の、見た目の第一印象で決めて欲しいということです」

 

 あたしが答える。

 

「うん、模範解答ね」

 

 永原先生から以前聞いた話だ。

 

「ところで、ここには女性しかいないから言いますけど、石山さん……男性の『アレ』は好きですか?」

 

「え!? あ、あの……は、はい……興奮してしまいました」

 

 永原先生にいきなり言われてびっくりする。正直浩介くんのを想像するだけで濡れちゃう気がする。

 

「あらあら、優子いつの間にそんな所まで来てたのね……お母さん嬉しいわ」

 

 母さんが感激したように言う。

 女の子しかいない空間とは言っても、やっぱり恥ずかしい。

 

「あら、もうすっかり女の子ですね」

 

 比良さんがニッコリと言う。

 

「え、ええ。それを目指してここまで来ましたから」

 

「ところで、石山さんはもう彼氏としちゃったりしているの!?」

 

「あ、あの……まだ……」

 

 誘惑したことはあったけど、浩介くんの理性が勝っちゃった。

 

「あら、じゃあ誘惑したことは?」

 

「あ、う、うん……あります……」

 

 恥ずかしいのに、つい言ってしまう。

 

「珍しいわねえ、こんなにナイスバディでかわいい子に迫られたら大抵の男は理性なんてなくなっちゃうのに」

 

「あはは、触られたりとかはしたんだけど、『ちゃんと責任取りたい』って言われちゃったよ……」

 

「あらあら、立派な彼氏さんねえ……どんな人なんです?」

 

「クラスメイトの篠原浩介くんって言うんですけど――」

 

 永原先生が浩介くんの紹介をしている。

 時折あたしが補足説明する。

 

「あらあら、本当にいい彼氏さんねえ。それにしても夏の時は随分苦しんだのね」

 

「う、うん……」

 

 あの頃はまだ、浩介くんに触れ合うと、本能的な拒絶があって、それで大層苦しんでいたのだ。

 

「もしかして本能のことかな?」

 

「は、はい……」

 

「あの……会長、本当にこの子、発病から半年後の患者なの? 私信じられないんですけど……」

 

 比良さんが心の底から疑問を持っていう。

 

「ええ。石山さんが倒れたのは5月8日の午後ですよ」

 

「ということは、5月9日がTS病の日ね。石山さん、誕生日はいつかしら?」

 

「6月22日です」

 

 17年前に優一として生まれた誕生日を答える。

 

「そうねえ、石山さん、5月9日はあなたのもう一つの誕生日よ」

 

「は、はいっ!」

 

 もう一つの誕生日。あたしが優子になった日。

 最も、正式に改名したのは確かもう少し後だったはずだけど。でも身体が女の子になってから優子というのがあたしの認識だから問題ない。

 

「誕生日、いいわねえ……私はもう誕生日なんて覚えていないわ」

 

 永原先生がしんみりと言う。

 

「確か1月1日にしているんだっけ?」

 

「ええ、毎年1月1日に年をとるということにしているのよ。だから最悪12月31日しか私が思っている満年齢と本当の満年齢が一致することはないわ」

 

「数え年でも1月1日でしたっけ?」

 

「ええ、生まれた歳を1歳からスタートするから満年齢とは1歳から2歳ずれるわね。数えだと私はもう500歳だよ」

 

 永原先生は1518年生まれだから2017から1518を引くと499歳、数えだと1歳からスタートして500歳ということになる。

 

「さて、話を戻しますけど……私、まだ信じられません。少なくとも3年は経っているわよこの子」

 

「私だって信じられないわよ。だから17歳で正会員に推薦したのよ」

 

「そうよねえ……」

 

 比良さんが納得したような表情でうんうん言う。

 

「TS病になってどう思っているの?」

 

「あの、あたし……この病気のお陰で救われたって思っているわ」

 

「あら! そんなことを言う患者なんて殆どいないわよ。私も会長もこの病気、呪いでしか無いわよ」

 

 比良さんも永原先生と同じように言う。

 

「石山さん、どうして『救い』なのか、石山さんの口で説明してあげて?」

 

「は、はい……それは――」

 

 あたしはTS病になってからのこと、TS病になる前のクラスの状況を説明した。

 女子グループは分裂していて、男子は短気で怒鳴り込む優一に怯えながら過ごしていたことをまず話す。

 優子という名前に決めた理由も話した。

 優一が優子というのは決して適当に決めたわけではないということ。今度は始めから終わりまで優しい子になりたいというあたしの思いで付けたこと。

 女の子になるためのカリキュラムの思い出、永原先生が優等生と褒めてくれたこと、復学当初に起きた男子扱いのいじめのこと、あたしが大泣きしてしまってやがて受け入れられたこと。

 

 こうして、女子グループも一つになり、やがてあたしは自分をいじめていた男子の一人に守られて、そして恋をした。

 浩介くん自身は、あたしよりも前に好きになっていたみたいだけど。

 

 あたしを女子とも男子とも付かない扱いをした小野先生と教頭先生を撃退した時の話は永原先生があたしの話を遮って雄弁に語っていた。

 

 永原先生曰く、「小野先生はもう完全に私の手駒になったわ」と言っていた。

 学校ではなかなか見えない、永原先生の感情。

 

 林間学校で浩介くんに恋をしたことも話した。山登りの時、花火大会の時、そして最終日にナンパから守ってくれたことで、あたしが恋に落ちたこと。

 

 永原先生の初恋の話は、多分比良さんにも話していないことだから、うまく話を飛ばした。

 具体的には「新幹線で帰った」の一言で済ませることで回避した。

 

 ちなみにその時、浩介くんにキスしようとして拒絶反応が出たこと。そして先の文化祭までそれと戦っていたこと。

 そのため、浩介くんと恋人になれたのは最近のこと。

 後夜祭の時、浩介くんに告白され、キスをして恋人になり、永原先生に渡されたURLの紙を見て、そしてそれに興奮したことであたしは女の子として独り立ちできたこと。

 

 そして、ミスコンで優勝したことも付け加えた。

 その時、あたしに邪悪な感情が芽生え、永原先生との相談の上、なくしていこうと決意したことも伝える。

 

「あらあ、やっぱり石山さんも、男性に好かれる女になりたいの?」

 

「うん」

 

「それはいい心がけね」

 

「ありがとう」

 

 比良さんが褒めてくれる。

 

「でも、もう一つの選択肢を取るのも、決して悪いことじゃないのよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、ありのままに生きるというのも選択肢よ。もちろん、石山さんにとっての『ありのまま』っていうのは、男の子、その彼氏に好かれたいっていう気持ちに忠実になることだと思うけどね」

 

「は、はい……あの、あたしの話はここまでです。先週の水曜日に、永原先生に正会員に推薦されてここにいます」

 

「そう、分かったわ。じゃあ石山さん。この書類を書いてくれるかしら?」

 

 比良さんが一枚の紙を渡してくる。

 そこには「日本性転換症候群協会 正会員入会届」とある。

 よく見ると、既に「推薦人 永原マキノ」と書いてある。

 

「ここに住所と名前、それから電話番号に印鑑もお願い」

 

「はい」

 

 黙々と書いていく。

 会費については永原先生の建て替えなので、そこにも既に「永原マキノ会長の建て替え」と書いてあった。

 

「はい、それじゃあ晴れて石山さんも正会員の一員よ。定期会合は強制じゃないけど、なるべく出席してね。場所はここで全てやっているわ」

 

「とは言え、あたしはまだ新人なので、最初はあまり積極的な発言は控えようかな?」

 

「あ、石山さん。正会員の他に普通会員っていうのもあって、そちらはTS病の人なら誰でもなれる会員なのよ」

 

「え!?」

 

「そう言えば、会員区分について話してなかったわね」

 

 永原先生が会員の紙を出してくる。

 それによると、正会員、普通会員、家族会員、維持会員、一般会員、メール会員というのがあって、会費無料は家族会員とメール会員だけだ。

 基本的に会長を含め理事とか幹事とかになれるのは正会員だけ。普通会員は250人くらいいるけど、正会員の数はたった今入会したあたしを入れて12人しかいないそうだ。

 普通会員はTS病の人なら誰でもなれるけど、ある程度落ち着いてから勧誘するという。

 人によっては協会のことを調べて、すぐに入ろうとする人も居るけど、あまり推奨されているわけじゃないそうだ。

 

 正会員は普通会員の中でも特に優秀と認められれば昇格出来るものらしい。とは言え、会費も少し高くなるから、辞退も可能だ。

 

「そういう意味で、いきなり正会員に誘われた石山さんは本当に異例中の異例ですよね」

 

 比良さんが言う。

 

「ええ、そうね。会合での権限について説明するわね」

 

「基本的に会合ではメール会員を除く全ての会員に発言権と投票権があるわ。でも1票の重みは正会員が10票で一般会員が1票、普通会員が3票、そして残りの会員は2票になっているわ。更に、正会員の過半数が反対すれば、問答無用で議決は無効になるわ」

 

「ふむふむ」

 

 ちなみに、部外者も一応会合を見ることは出来るらしい。もちろん発言権も一切ない。

 

「それから、石山さんを正会員に推薦するかどうかのような重要な会合は正会員のみに投票権があるわよ」

 

 会則の条項を見てみると、その会議でも正会員の推薦があれば他会員を同席させられるらしい。

 その場合、発言権はあるが投票権はないという。

 ……って、よく考えるとあたしとんでもない権限を手に入れちゃったような気がする。

 

「あらあら身構えている? 心配しないで。会長の私もサポートしてあげるから」

 

 といってもなあ……永原先生の票が増えるだけというのもなあ……まあ最初はそれでもいいかな?

 

「ええ、いきなり正会員というのも、創設時以来のことですから、最初は素直にサポートに頼るといいわよ」

 

「次の定例会合では、みんなに石山さんを紹介するわ。大丈夫、正会員の人はみんな石山さんのこと知っているわよ」

 

「ええ、私達から見ても、石山さんは模範ですから」

 

 会長と副会長が太鼓判を押してくれる。

 

「じゃあ次の会合……よろしくお願いします」

 

「年間の会合の日程はここに書いてあるわよ」

 

 あたしはもう一つ、この協会に疑問が湧いたので質問をしてみたい。

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