永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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女の子の修行2日目 前編

 目覚ましの音は鳴らず、今日はかなり朝早く起きてしまった。

 ゆっくりと目を覚ます。まだ日の出からも時間がたってない。

 両親はまだ寝ているようだ。

 

 さて、どう時間を潰そうか……

 えーっと……そうだ。女性誌を読んでみよう。

 

 こうして手に取ったのが少女漫画雑誌だ。男の頃も名前だけは聞いたことがある。表紙には目が大きくかわいい女の子が書かれてる。目が輝いていてどこか艶めかしい印象を受ける。

 この子なら自分でも負けるかもしれない。

 

 えーっと、雑誌冒頭には何か商品の宣伝があるみたいだけど、よくわからないからとりあえず飛ばそう。

 

 最初に出てきたのは看板漫画家みたいだ。物語はどうだろう? 中盤くらい?

 

 ふーん、あらすじによると主人公は有名芸能人と同一人物だけど、校則のきつい学校では地味な格好で隠してるって感じか。

 そんな中でクラスの男の子に惚れている。と。

 いわゆる「隠し通し」ものだな。まだバレていないようだけど、なるほど今後が楽しみだ。

 

 

 で、こっちは今月号で最終回か。ふむふむ、こっちは部活の先輩に惚れてるのか。

 お、告白した告白した。

 で、男の子がOKしてる。にしてもこの男、かっこいいよな。

 

 周囲からも祝福されてキスシーンか。

 お、場面が変わったって……え? え?

 

 何だこれ……明らかにヤっちゃってるじゃん……!

 おい、エロいぞこれ。なんだこれ、こんなのを少女が読むのか。

 

 あ、でも数コマだけだな。なんだろう、エロいっちゃエロいんだが描写的にはそこまで割かれてないのな。あくまでメインじゃないってやつか。

 それでも少年誌のそれに比べればかなり直接的だ。「赤ちゃん欲しい」とか言っちゃってるし……

 

 その後も少女漫画雑誌を読み続ける。

 どれも途中からで、新連載はないようだが、あらすじもしっかりしていて、途中からでも入り込みやすくなるように工夫されている。

 

 で、今回の雑誌を読んだ感想はこうだ。

 

 まず、少女漫画は恋愛ものばかり、というかほとんどそれしかない。もちろん恋愛の中にもいろいろ多様性はあるんだろうけど。

 そしてもう一つ。エロ描写に限らず精神的なものは少年誌よりずっとえぐい、さらにいじめられるシーンなどでは主人公も精神的にひどい目に遭うケースが多いということだ。

 主人公の心情描写も多くて、女の子の顔も赤くなりやすい気がする。男の漫画と比べるとかなり内面重視な感じだ。

 

 よし、これを感想文に書いてっと。ともかく、これを読んでいれば、ちゃんと女性の感性を理解できるのだろうか?

 自分はまだよくわからない。

 

 

 さて、着替えるかな。今日はうーんどうしようか……

 

  ガチャッ

 

「あ、優子!」

 

 母さんが入ってくる。

 

「お、おい! ノックしないで入ってくるなってずっと言ってるだろ!?」

 

「ご、ごめんなさい。そうよね、優子も女の子だもんね……」

 

 母さんがバツが悪そうに言う。

 

「あっ! でも気持ちはわかるけど言葉遣い訂正してね」

 

 うっ、手厳しいなあ。

 

「えっと……ちょ、ちょっと! ノックしないで入ってこないでっていつも言ってるじゃないの!」

 

「うん、よろしい!」

 

 私は女の子……私は女の子……

 うむむ、この暗示、癖になっちゃいそうだ

 

「で、本題なんだけど、今日の服はスカート、それも出来れば今日は昨日よりも短めの膝丈くらいのスカートにして欲しいの」

 

「え? どうして?」

 

「今日は一昨日書いた書類の提出やデパートでの買い物といったように、女の子としての日常生活の主に外出をやるのよ。で、カリキュラムには『その際には必ずスカート着用』って書いてあるのよ」

 

「う、うん」

 

 き、昨日玄関に出て知り合いと会話したし、大丈夫だよ……な

 

「じゃあ、着替えたら台所に着てちょうだい、朝食の手伝い……昨日の復習をするわよ」

 

「はーい」

 

 そう言うと、母さんが部屋を出ていった。

 

 スカート選びに戻る。

 とりあえず、タイト系は歩きにくそうだし、この赤い巻きスカートにしてみるか……

 

 ……いや、さすがに少女趣味すぎる。小学校高学年って感じだし、いくらなんでもこれで外を歩くのは恥ずかしいぞ……

 うーん、とりあえず茶色いこのスカートにするか。で、上の方も考えないとなあうーん……

 

 何だろう、俺もファッションに迷うことが増えた気がするぞ。確かにスカート穿けるようになった分ファッションのレパートリーは増えたけど……男だった頃より迷いやすくなってるのか?

 まさかそんなことはないだろうとは思いたいが。

 

 ……よし、上もこれにしよう!

 

「おはよー」

 

「おはよう」

 

「あら、おはよう」

 

 3者3様にあいさつする。石山家の安らぎのひと時だ。

 

「それにしても、服選び時間かかったわね」

 

「え? そ、そうかな?」

 

「うん、最初に病院で着替えた時よりかかってた気がするわ。うん、優子もファッションを考えるようになって、女の子らしくなってきたわね~」

 

「あはは」

 

 笑ってごまかす。女の子らしくなりたくて永原先生のカリキュラムを受けてるはずなのに、理屈で分かっていてもどうもまだ素直に喜べない。

 

「それじゃあ、朝食の作り方の復習をするわよ」

 

「う、うん」

 

「じゃあ炊飯器の炊くボタンを押してみて」

 

「うん、ところで、米はどうやって入れるの?」

 

「それは今日の夕食作りの時にやるわ。お米は基本的に研がないとだめよ」

 

 とりあえず今は気にしないでおこう。昨日の指示を思い出し、炊き出しボタンを押す。

 その間にパンを食べてもらう。そしておかずも温めなきゃ。結構大変だ。

 

「優子ー! コーヒー入れてくれ!」

 

「優子、お父さんがコーヒーをご所望よ」

 

「はーい!」

 

 えっとコーヒーってどうするんだ?

 

「母さん、これコーヒーどうやって入れるの?」

 

「インスタントコーヒーだから、お湯に注ぐだけでOKよ」

 

「まずポットを見て」

 

「お湯の量をここのメモリで確認してみて」

 

 言われるがままに確認してみる。見にくいがどうやら1リットルあるらしい。

 

「電源を入れたら再沸騰ボタンを押すのよ。湧いたらお湯を入れればいいから」

 

「はーい」

 

 そうこうしているうちにおかずが温め終わり、パンも間近だ。

 ……これは忙しい。

 ともあれおかずを食卓に並べ、次いで麦茶を2人分出し、パンが焼き終わったらマーガリンとともに持っていき、そしてお湯が沸騰したのでインスタントコーヒー豆を説明書通りに入れてお湯を注ぎ、スプーンでかき混ぜた後親父の場所に持っていく。

 

「あ、ダメダメ」

 

「え?」

 

「いい、コーヒーに限らずお茶もだけど、カップが右手側に来るようにして? お父さんも右利きでしょ?」

 

「う、うん」

 

 それってビジネスマナーなんだろうか?

 

「お母さん、家の中ではそこまでとやかく言う必要もないんじゃないか?」

 

 親父が異議を唱える。

 

「駄目よ、女性は将来お茶出しの機会も増えるわよ」

 

「そ、そういうものなのか?」

 

「ええ、優子なんて特に美人なんだから、会社の士気を上げることも重要よ」

 

 まあ、ここではそういうものだと思って納得しよう。しかもよく考えたら美人な上に老けないもんな。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

 母さんの音頭で昨日より早い朝食が始まった。

 

 朝食を一足先に食べ終わったら親父が仕事へ、その後は昨日と同様に「復習」と称した洗濯物の家事手伝いだ。

 

 それが終わったら、母さんが「出かける」と言い出した。

 

 そうか、昨日言っていた役所への書類提出か。

 

「必要書類は持った?」

 

「うん、改名届と性別変更届と医師の診断書……だよね?」

 

「はいそれで大丈夫よ」

 

 そうだ、これを提出してないから、戸籍上ではまだ「石山優一、男性」になってるんだ。それじゃ不便すぎる。

 

「あ、そうだ。これも付けて!」

 

 母さんが何やら自分の頭で何かしている。リボンだろうか?

 

「どうしてこれを?」

 

「なくても十分すぎるくらい可愛くて美人なんだけど、黒い髪に白いリボンは映えるわよ」

 

 そう言うと素早く手鏡を開いてきた。

 

「確かに可愛いけど、なんか恥ずかしいなあ……」

 

「オシャレを恥ずかしがってたら女の子らしくないわよ」

 

「そういうものですか……」

 

「そうよ、恥じらうのはもっと違う機会に残しておきなさい」

 

 ……とりあえず、今は納得するしかない。

 

 

 うちの市はいわゆる「政令指定都市」と言うやつで、一連の手続きは市役所じゃなくて区役所でやってくれる。

 区役所までは電車で2駅、更にそこから徒歩で数分だ。

 

 駅のホームに立つ。

 

 何だろう、凄い周囲の視線を感じる。

 向かいの電車が停車し、発車していく。

 するとホームに立っていた何人かの男性が自分を見ている。特に、明らかに一人のオヤジが自分を凝視している。

 

「あらあら、優子はやっぱり大人気ね」

 

「なんか凄い視線を感じる……」

 

「そりゃあまあ、こんな美人な上に体つきもこれじゃあねえ……」

 

「いや、望んで生まれ変わったわけじゃないし……」

 

「ま、諦めなさい。こう見えてお母さんも若い頃は美人だったから、視線を感じたことはあるわよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 イマイチ信用がない。

 

「間もなく一番線に、電車が参ります」

 

 電車が来た。弱い風が吹く。スカートはびくともしないがそれでも気になってしまう。

 今になって改めて思ったが、やっぱりスカートってかなりスースーする。でもこれでも長い方なんだろ……

 

 学校行く時とかどうしようかと不安になる。パンツ見えたらやっぱり恥ずかしいし。

 

 

 少数のお客さんが降り、続いて入る。2駅先だから席に座る必要はないな。

 

「優子、座りなさい」

 

「え?」

 

「座り方も訓練よ。日曜にはもっと短いスカートで電車にのることになるわよ」

 

「う、うん」

 

 言われるがままに座る。こういう風に言われたらどうしてもスカートを意識して足を閉じる。

 

「OKよ、いい? スカートは男子の視線が常にあると思いなさい」

 

 まあ、これは元男として説得力のある話だ。

 にしてもやっぱり、スカートって心許ないな。

 

「女の子って大変だなあ。こんな視線を浴びるもの穿かないといけないなんて」

 

「まあ、優子の場合はどんな服でも視線浴びるわよ」

 

「それに、女の子は見られて、意識すると可愛くなるわよ」

 

「いやでも……私、もう十分に可愛いし」

 

「ダメよ、向上心をなくすとすぐ女はダメになるのよ! それに優子は年齢で衰えたりしないんだから尚更意識が大事よ!」

 

 そういうものですかい……

 

 そうこう考えているうちに、あっという間に目的の駅だ。

 膝の上に置いていた荷物に手をかけ、電車から降りて、駅の階段を降りて母さんとともに改札に出る。

 

 改札から出てすぐ、追い越していったはずの30代くらいの若い男性が振り返る。

 

「またかよ……」

 

「優子、声に出てるわよ」

 

「あ……!」

 

「優子、もし自分がまだ優一だったとして、優子みたいな女の子が近くを歩いてたらどうする?」

 

「うーん、確かに凄い可愛いとは思うけど……」

 

「でしょ? つい振り返っちゃうのも当たり前よ。いい? 優子はもっと自分の可愛さを自覚するべきよ」

 

 確かに客観的に見ても明らかに今の自分は可愛いし美人だとは思うけど、にしたってなあ……

 

 

 ともあれ、そんなことを考えている間にも、母さんの案内の通り、役所の窓口の手前まで来た。

 この時間の役所はジジババ、特におばあさんが多いので流石に振り返られたりとかはしない。

 

「さあ、優子、あなたの書類だからあなたが渡しなさい」

 

「はーい」

 

「あ、そうだ。手続きの前に来れを飲んで」

 

 母さんが差し出したのはスポーツドリンク、よくわからないがとりあえず飲むことにする。

 

「じゃ、行ってくるね」

 

 まあ、役所の窓口に行くだけだしな。

 

「すみません」

 

「はい」

 

 おばさんの係員が応答する。

 

「この3つの書類を提出したいんですけど」

 

「あ、はい少々お待ち下さい」

 

 書類を持ち、上司に何やら相談している。まあ、珍しい書類だろうし、その事由も事由だ。

 しばらくすると「はい、これで大丈夫です。手続きはこちらでしておきますのでもう大丈夫です」とのことだった。

 

 

 ふう、書類提出終わりっと。

 

 あれ? なんかトイレ行きたくなってきた

 

「母さん、トイレ行きたいんだけど……」

 

「いいわよ、あそこにあるから行ってらっしゃ~い」

 

 とりあえずトイレに向かう……

 

「な、なんでついてくんだよ!」

 

「こら! 言葉遣い!」

 

「な、なんでついてくるのよ!」

 

「よろしい、優子がここの役所の多機能トイレに入らないか監視するためよ。さ、トイレ行きたくても自己暗示かけるのよ」

 

 ううっ……私は女の子……私は女の子……女の子は女の子らしくしないといけない……って早くトイレに行かなきゃ!

 

「さ、ここはジジババも多いから多機能トイレは絶対駄目よ。もちろん、男子トイレに入ったら110番するわよ」

 

 つまり女子トイレに入れというお達しである。

 

「わ、分かってるよ~」

 

 もはや迷っている時間はない、女子トイレに入る。律儀に母さんは個室の前までついてくる。

 ドアを閉め、鍵をかける。

 今回は病院の時と違い、物理的にトイレまで近かったのでまだ漏れるまで相当な余裕がある、

 

「スカート床に着けちゃだめよ~」

 

「はーい」

 

 えーっとスカート下ろしちゃいけないとすると……

 そうか、このスカート丈ならすぐにやり方わかったぞ。

 

 私は手を後ろに回し、思いっきりスカートをまくりあげ、そのままパンツに手を入れてパンツだけを下ろす。

 便器に座ってこれで大丈夫のはず。

 

 ふう……それにしても何でトイレに行きたくなったんだろう……

 ってそれは普通の生理現象だろ……

 

 

 とりあえず出し終わったらビデを押す。

 

「んっっ……っ!」

 

 だいぶ慣れたつもりだが、それでもまだ若干ビクンとなる。

 適当なところで切り、乾燥機能がないのでトイレットペーパーを使って拭く。

 

 この刺激には慣れる必要がありそうだ。

 

 ふうっ、とりあえず流すボタンを押して、パンツを元に戻してっと。

 よく考えるとスカートの方がトイレが楽だな。また一つ知識が増えたぞ。

 さて、立ち上がってドアに手をかけて……

 

 ん? なんか違和感が……

 

 あ! 危ない、危ない危ない危ない!

 ……パンツの中にスカートが入り込んでいたよ。これは細心の注意を払わないと、パンツ丸出しで公衆の面前を歩くことになって大恥かくことになるぞ。

 

 とりあえず元に戻す。うん、これでよし!

 スカートのトイレはこの事故さえ気を付ければズボンよりはかなり楽だろう。そう考えると、スカートも悪くないと思えてきた。

 ともあれ、最初の最初で失敗したのは不幸中の幸いだった。慣れ始めた時に失敗してたら間違いなく自分では気付けなかっただろう。そうなったら大変だ。

 

 

 ドアを開けると目の前で母さんがとおせんぼしていた。

 

「ふふっ、優子、あなたどうやってトイレに入った? まさか昨日みたいにしてないわよね?」

 

「えっと……あ、あんまり言葉じゃ言いにくいんだけど……」

 

「ふふっ、教えてくれるまで、このトイレから出してあげないわよ」

 

「えー」

 

「さ、どうやって入ったの? 早くしないと誰か来ちゃうわよ」

 

「そ、その、スカートを上げて、パ……パンツ下して入り……ました」

 

 うううっなんでこんなこと報告しなきゃいけないんだよ……

 

「うん、それだと70点かな」

 

「えー? まだ何か足りないの?」

 

「そこまで細かくは言わないけどスカートを便座に着けちゃダメよ。脇に挟むといいわ」

 

「う、うん。ところで、これもカリキュラムなの?」

 

「……正解よ、朝ご飯の時やさっき渡したドリンクを飲ませれば必ず出かけてる時にこうなると分かったもの、『スカートで出かけて、その過程で女子トイレに入る』ってのも永原先生のカリキュラムにあったのよ」

 

 むむむ、なんか納得できないが、カリキュラムならしょうがない。って、よく考えたら永原先生って変態なんじゃないか……

 ……いやいや、これも女の子になるための修行なんだよね、うん。

 

「はーい、じゃあ手を洗ってね」

 

「い、言われなくても分かってるよ!」

 

「あらごめんなさい」

 

 手をかざすと自動的に水が出る。まず軽く洗ってそれから隣にある液体状の緑色の「例の石鹸」を下から手を押すことで出して泡立てる。

 十分洗ったらもう一度手をかざして流して、次に乾燥器で手を乾燥させ、最後にハンカチをスカートのミニポケットから取り出して拭いて終了だ。

 

 ようやく、この恥ずかしいトイレプレイも終わり、無事に役所から出ることに成功した。


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