永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
ピピピピッ……ピピピピッ……
「うーんっ!」
目覚まし時計の音と共に目を覚ます。
今日は土曜日、学校は休みだが、あたしには日本性転換症候群協会の臨時会合がある。会合は強制ではないとあるけど、他の会員ならともかく、あたしは正会員。最初の会合をすっぽかしたら、第一印象が最悪になる。
永原先生の推薦で正会員になったからには、ちゃんと責務を果たしたい。
あたしはまず服装を考える。
永原先生に渡された紙に拠れば服装は一切自由と書いてある。
会の性質を考えれば、女の子らしい服装ならなお良さそうだが、この前のようにぬいぐるみさんを抱いていくのもまずそうではある。
うーん、どうしよう?
11月に入り、少し寒くなり始めた。その事も、考慮していきたい。
ふと、林間学校初日に着ていた黒いロングのワンピースが目に入る。
……うん、これなら丈も長めだしそこまで寒くならなさそうよね。
あたしは黒いワンピースを手に取り、鏡付き机の前でいつものように下着ごと着替える。
「おはよー」
「あ、優子おはよう。朝ごはん手伝ってくれる?」
「はーい」
母さんと朝ご飯を作る。今日もいつも通り昨日の残りを温め、ご飯と味噌汁を作る。
すっかり慣れきった休日朝の作業。でも今日はそれだけじゃない。
今日は初会合。念のため早めの電車に乗りたい。そう考えると、うかうかしていられない。
あたしは女の子の中でも食べるのが遅い方だけど、焦って荒い食べ方はしたくない。
食事の時間を確保するためには、手早く朝食を準備しなければいけない。
これでも、カリキュラムが終了したばかりの頃よりは、随分と上達した。
母さんからも、食事メニュー一つの全権を任されるケースも増えた。例えば先週の夕食は唐揚げとフライドポテト、野菜炒めと白いご飯を、すべてあたし一人の手で調理した。
もちろん何を出すかもあたしの権限だ。
「いただきます」
「「いただきます」」
家族3人の食事。大丈夫、先日インターネットで調べた限りでは、ゆっくり食べて、歯を磨いても十分間に合う時間だ。
「「「ごちそうさまでした」」」
あたしはご飯を食べ終わると、お皿を食器洗い機に入れてボタンを押す。
「便利になったわね」
「うん、昔は大変だったでしょ?」
「そうよ、一枚一枚洗わないといけなかったもの」
あたしは母さんとの会話もそこそこに洗面所に行って歯を磨く。
やはり緊張する。はじめての会合、それもいきなり正会員の立場での会合。永原先生が最初正会員について詳しく言わなかったのは、辞退防止のためだったのかもしれない。
小さなポーチを肩にかける。入っているのは生理用品とメモ帳と筆記用具。もしかしたら必要になるかもしれない。
「いってきまーす!」
「はーい行ってらっしゃーい! 鍵閉めておくからそのまま行っちゃってー!」
「はーい!」
母さんの声を確認し、そのまま駅に向けて出発する。
最近は慣れすぎて意識していなかったが、やはり駅のように人の集まるところでは、あたしはいつも注目の的になる。
ホームの列の横に立っていた若い男性が、露骨に首を曲げて、あたしの胸を凝視している。
この胸全体は、まだ浩介くんにも見せていない。男の子の前で一番露出したのは、夏の水着の時と、浩介くんとのはじめての家デートの時。いずれもてっぺんまでは見せていない。
「まもなく、電車が参ります」
以前母さんと一緒に入会手続きに行った時よりもずっと緊張している。
かしこまった会合に、一人で行く。現役高校生ながら社会人のようなふるまいを要求されることもあるだろう。
それに、永原先生だけではない。あたしよりずっと年上の先輩患者たちに交じって、異例の正会員の立場というのもあるだろう。
車掌の放送などに注意し、乗り換え間違いのないように注意する。
よし、ちゃんとうまくいった。
乗り換え駅からこの前のルートを思い出して行く。
うん、このルートなら迷わない。
そして、本部のあるビルから改札口を出て、駅の地図を見ながら該当出口、N4を探す。
地下鉄の案内板を見ながら進む。この前、母さんと一緒に来た道を思い出す。
人間の記憶って意外と優れているのねと思いながら、A4番出口からは永原先生の案内を思い出す。
ビルの中は以前と同じように人はまばらで、最上層用のエレベーターに向かう。
スーツを着たサラリーマンのおじさんたちも、本能的にあたしの顔と胸を見る。
エレベーターの前に来ると、待機しているのは若い女性、というよりも少女が圧倒的に多い。うん、多分あたしの同志たちだと思う。
「ねえねえ、あの黒い服の子。見かけない顔じゃない?」
「あ、本当だ」
「ひょっとして新しい仲間じゃない?」
「そうかもね」
うん、新しい仲間で、しかも正会員です。なんて言ったら驚くだろうなあ。
しばらくしてエレベーターが開き、数人が降りた後に全員が乗る。
おじさんが50のボタンを押した以外は全員、目的地は49階の本部。
エレベーターが勢いよく49階までノンストップで行く。
「49階です……49th floor」
エレベーターの案内音声と共に女の子たちが一気に降りていく。
あたしもそれについて行って、本部に到着した。
「おはようございます」
「おはようございます」
周りがあいさつしているのであたしも「おはようございます」と言う。
「あ、石山さんおはよう」
永原先生が声をかけてくる。
「あ、永原先生……いえ、永原会長、おはようございます」
いけないいけない。ここは小谷学園じゃなくて日本性転換症候群協会の本部。今はあたしの先生じゃなくてあたしたちの会長として接しないと。
「ふふっ、石山さんの席はここ」
「はい」
あたしの席を見ると近くに比良さんや余呉さんも座っていた。
「会長席」とあるのが永原先生の席とすればかなり上座の方だ。
「緊張してる?」
比良さんが声をかけてくれる。
正会員の中では2番目の上座に座っている。
「は、はい……」
正直、電車に乗る前から緊張しっぱなしだ。
「あれ? さっきの子、あそこ正会員席じゃない?」
「あら、本当ね……いや、あそこは普通会員の席じゃない?」
「そう言えばさっき会長と話してたよね?」
「うんうん」
「どういう人なんだろう? 久々に出てきたとか?」
「あーそれかも!」
普通会員と思われるさっきの二人組があたしに関して的外れの噂をしている。
これはますますプレッシャーになりそうだわ。自己紹介の時どうしよう……?
そんなことをあたしが考えているとは知る由もなく、席はどんどん埋まっていく。
席は大体50くらいかな? 改めて出欠を取ったのだろう。
永原先生が正会員の1人が休日出勤で来られないということで今日の正会員出席者はあたしを入れて11人。正会員の人数を考えると、さすがにあたしは正会員の中では一番下座に座っていることがわかった。
永原先生が頭数を数えている。すると納得したように会長席の後ろに立つ。
「……じゃあ、予定より少し早いけど、全員集まったから初めていいかな?」
「「「はーい!」」」
みんな勢いよく返事する。
「皆さん、今日はお忙し中、日本性転換症候群協会の臨時会合にご参加くださいまして誠にありがとうございます。本日の議題は2つです。どちらも私たちの新しい仲間についてです」
2つ? 1つはあたしのこととして、もう1つは誰だろう?
「じゃあまず一つ目、先週の日曜日より、新しい会員として、石山優子さんを迎えました。石山さんは今後正会員として活躍していもらいますので、よろしくお願いします」
周囲が少しざわつく。
「え!? あの子正会員なの?」
「入りたてでいきなり正会員って、聞いたことないわよ」
「思い切った登用よね」
うー、早速プレッシャーがかかるわ。
「はいはーい! みんな気持ちはわかるけど、石山さん、自己紹介をお願いします」
「はい、い、石山優子です! 永原せ……永原会長に正会員に推薦してもらいました。まだまだ分からないことだらけですが、ど、どうぞよろしくお願いします」
パチパチパチパチ
みんな困惑しながらも、拍手をしてくれる。
あううぅ……緊張しすぎて言葉が回らないよお……
「石山さんは定例会合でも匿名で出てきたので知っている方も多いと思いますが改めて紹介します」
「石山さんは私が務めている私立小谷学園の2年2組……つまり私のクラスに所属している女の子です。今年5月にTS病になりました。それ以降、私がこれまで見てきた誰よりも一生懸命に女の子になりました」
「まだ発病半年ですが、今は同じクラスに彼氏もいて、最終試験にも合格しています。本来なら正会員の資格は最低でも20歳以上という規定もありますが、私も常に学校の担任として、担当カウンセラーとして接していましたが、今回は極めて優秀ということで、特別に正会員へと抜擢することになりました。石山さんは皆さんの模範として、きっと会に貢献してくれると思います」
永原先生があたしの紹介をする。それにしても、褒めているとしてもみんなの模範って言われるのすごい恥ずかしい。
他の会員の反応を見る。正会員の人はみんな知っていたのか、あまり動揺した感じはない。
一方で、正会員以外の人の反応は、「信じられない」という表情をしている人と、「この子があの噂の」という表情をしている人がいる。
知らない間に有名人になった経験は小谷学園でもあったけど、やはりドギマギ気まずい感じになってしまう。
改めて、他の正会員、普通会員の人たちを見る。やぱり胸が一番大きいのはあたし。
でもあたしがこの中で一番の美少女かというと、ちょっと自信がない。永原先生はあたしほどの美少女はいないと言っていたけど、他人からはそう見えても、あたしから見ると断言できない。
やっぱり、この病気になるとかわいくなる人が多いということね。
もし日本性転換症候群協会でミスコンをしたらとんでもない人気争奪戦になりそう。というか、アイドルグループ作れそうな気がする。
「それあ皆さん、石山さんについて質問あるかしら?」
サッっと大勢が手を挙げる。うわー困った。
でも一応正会員の人は誰も手を挙げていない。
「はいそちらの人」
「どうして女の子になるのに一生懸命になったのですか?」
「えっと、話すと長くなるんですけど……」
「いいですよ」
「あたし、元々優子じゃなくて優一っていう名前だったんですが――」
あたしは昔のことから話し始める。あたしの話をみんな真剣に聞いている。
「――ということで、今回は優しい子にと言う意味で優子と決心しました」
「他に質問は? はい、そちらの方」
さっきあたしの噂話をしていた人が差される。
「彼氏ってどういう人なの?」
「浩介くんですか? 責任感強くて、力も強くて優しくて素敵な人ですよ」
「どうやって恋に落ちたの?」
「えっ……そ、その……あたしナンパされて……それで……」
うう、ちょっと恥ずかしい……
「ああ、石山さん、無理に答えなくてもいいわよ」
「そうは言っても、恋愛話って気になるよ」
「うんうん、ましてや半年で彼氏作ったなんて今までそんな人居なかったし」
余呉さんまで煽っている。
やっぱり、小谷学園と同じで、ここは女子会だ。TS病と言ってもみんな女の子だから、恋愛の話が大好き。
まあ、あたしも龍香ちゃんと彼氏の話が好きだからおあいこなんだけど。
「8月に小谷学園で林間学校に行ったんですけど、最終日の帰り道でナンパされてしまいまして……」
「「「うんうん」」」
ううっ、やっぱり皆の前で馴れ初めの発表会は辛い……
「その時、浩介くんが体を張って守ってくれて……それで……恋に落ちました……」
「あらあら、結構ストレートねえ」
「でも8月って4ヶ月も経ってないわよね」
「そりゃあ会長も正会員に推薦するよね」
「他に質問ある人はいますか?」
「はい」
正会員の人が手を挙げている。
「あら、余呉さん。どうぞ」
「石山さんは永原会長とは先生と生徒でもあるわけですけど学校では永原会長のことってどうなんですか?」
おや、永原先生の質問だ。
「ええ、実は学校中に正体は知られているんですよ。文化祭ではミスコンで生徒にまじりつつも上位に入りました。優勝はあたしでしたけど」
「い、石山さん……」
かなりざわついている。
「あ、あの、学校中が永原先生の正体を知っているって……どういうことですか?」
余呉さんは永原先生の司会進行を無視してあたしに聞いてくる。
「実は……永原会長……いや、ここは永原先生かな? とにかく話してもいいですか?」
意外に使い分けるのって難しい。永原先生は随分昔に「2つの顔を持つなんて良くないこと」って言ってた気がするけどその気持ちも分かった気がする。
「え、ええ……」
「実は体育の授業と林間学校でそれぞれ一悶着あったんです。あたしは自分を一人の女の子として扱ってほしかったんですが、学年主任の小野先生と教頭先生が――」
あたしはその時のことを詳細に話す。ともあれ永原先生は自らの意志で自分の正体を学校中に知られることを選んだんだ。
正直言うとあの時の小野先生と教頭先生のエピソードって勧善懲悪ものみたいな感じがする。
「――というわけで、永原先生の作戦勝ちになりました」
「すごいわねえ」
「さすがは真田の人よね」
他の会員の人も感心している。ここの会の女の子たちは、ざわつくことはあるものの、それでもうちのクラスの女子たちよりもかなり落ち着いている印象を受ける。
永原先生は499歳、確かに2番目に年上の余呉さんでも184歳とはいえ、それでも平均寿命の2倍は生きているし、非TS病患者で一番生きた122歳と比べても1.5倍も長生きしている。
外見はこんなだけど、やっぱり皆年相応に落ち着いているのかもしれない。
それを考えると、むしろミスコンや海や盆踊りの時の永原先生のほうが「年甲斐もなく」と言う表現がピッタリ……って、それを言ったら怒られちゃうかな?
「それじゃあ他に質問は? はい、そこの方」
「優子ちゃんってカリキュラムはどうでした?」
「ええ、楽しかったわよ」
「へえ、珍しい……」
質問した女の子が感心している。
「私は何か仕方なくって感じだったわね」
「うちも。戻れないんじゃしょうがないし」
そう言えば永原先生もそんな感じの人が多いって言ってたっけ?
「それでもう一つ、いい? どうしてそう思ったか教えてくれるかしら?」
「ええ」
あたしはその理由を話す。というかかなり時間がかかる。
それはやっぱり、昔の荒みきった自分を捨てられることへの喜びと言ってもいい。
女の子になろうと思った思いも、女の子になれた喜びも、究極的にはそこに集約される気がする。
「――というわけです」
「何て立派な子なのよ……」
「会長がうちらの模範になる存在だと言ったのも頷けるで」
「石山さん、未来の私達の仲間を、きっといい方向に導いてくれるわね」
あたしの話を聞いて、既にあたしに対する尊敬の念を示す人さえもいる。
やっぱり、あたしって珍しい存在だったんだ。
「時間も時間だから、最後の質問でいいかしら?」
誰も手を挙げない。
「あ、じゃあ私でいいかしら?」
普通会員でも後から来た比較的末席に近い人が手を挙げている。普通会員の人は座席自由という感じだけど。
「はい、そちらの遠い方どうぞ」
「石山さん、初めての生理の時、何て思った? その様子だと『やっぱり戻りたい』とは思わなかったと思うけど」
「えーっと、あたし、痛みが嬉しいって言ったわね」
あの時のことはまだ覚えている、永原先生が泣いていたのを思い出す。
「え!? 本当に!?」
やっぱりとても驚いている。
「ええ、石山さん、この痛みのお陰で本当に女の子だって思えたって、この痛みから逃げたら一人前の女の子じゃないって言ったわ」
永原先生が言う。そう、たしかにあたしはそう言った。今もその気持ちに何の変わりもない。
他の人の表情を見る。みんな固まっている。
「な、何て人……」
「初めてでそんなことを思うなんて……」
あの時の永原先生と同じ反応をする。さすがに泣いている人は居ないけど。
「私は男のほうが辛いからって思ったわねその時」
「うんうん」
「うん、正会員に相応しいよこの子」
「こんな素晴らしい子なら誰も正会員に異議は唱えないよ」
「あたしだってもうすぐ100歳だけど、この子より女の子できてないよ」
17歳でTS病になりたてのあたしがいきなりの正会員で、ましてやみんな外見からは想像もつかないくらい年齢が行っている人だろうし、果たして受け入れられるのか心配だったけど問題は無さそうだ。
やっぱり褒められると、嬉しい。
「じゃあ、次の議題に行きますね」
会合は、あたしの話を終わり、2つ目の議題に入った。