永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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幸子さんの服選び

「なあ、一つ質問なんだが」

 

 今度は徹さんだ。

 

「ん?」

 

「本当に、これを積み重ねていけば大丈夫なのか?」

 

「うん、言葉遣いだけじゃなくて、態度や仕草、そして服だって、最終的にはミニスカートも着こなせるようになるわよ」

 

「うっ、す、スカートって……!」

 

 幸子さんが動揺している。やはりまだ穿いたことがないらしい。

 

「大丈夫よ、あたしだって、最初は心許なかったわ。でもスカートのメリットを実感できるプログラムもあるわよ」

 

「え!? それってどういう?」

 

「受けてのお楽しみよ」

 

 まあトイレのことなんだけどね。

 

「そ、そうか……!」

 

「ところで、石山優子さんだっけ?」

 

 また徹さんが質問する。

 

「あんたも、半年前まで男だったんだろ? どうして、男を好きになれたんだ?」

 

「どうしてって言われても……女の子だからとしか言いようがないわよ」

 

 浩介くんはかっこいいし。

 

「うむむ、人間ってこうも変われるんだな……」

 

「ああいや、優子ちゃんは特別早いんだよ」

 

 ずっと空気のように黙っていた浩介くんが久々に口を開く。

 

「うん、ちょっと生き急いでいる位にね」

 

 永原先生が言う。確かに生き急いでいた。

 

「な、なあ!」

 

 幸子さんが言う。

 

「そこの会長さんだけじゃなくて、石山さんについても詳しく教えてほしい。俺……あっ、あたしよりも、年下でもいいから!」

 

 あー、やっぱり気付かれていたかー話さないわけにも行かないか。

 

「……仕方ないわね。そうよ、あたしと浩介くんは永原会長、いえ、永原先生が担任の先生を務めている小谷学園2年2組所属よ」

 

 あまり驚いた感じではない。

 

「じゃあさっき言っていた半年前まで石山優一だったというのも?」

 

「ええ、5月8日まで、あたしは男だったわ。幸子さんも感じたでしょ? 激しい腹痛で倒れて血を吐いて、耳だけ聞こえている状態になって、最後は精力を出し尽くして、気が付いたら女の子よ」

 

 幸子さんがうんうんと頷きながら聞いている。やはり典型的だ。

 

「あたしね、元々は乱暴な性格だったのよ。些細なことで怒るし、優一の頃は浩介くんには本当によく怒鳴り散らしていたわ」

 

 あたしは優一時代のこと、女の子になってからのことを話し始める。

 時折浩介くんや永原先生が補足説明をしてくれる。

 

 途中、浩介くんがあたしを助けた時に惚れた話をした時はさすがに恥ずかしくて二人して顔が赤くなったけど、「若いのに立派ねえ」と浩介くんが塩津の両親に褒められていた。

 

「――そして、日本性転換症候群協会の正会員の推薦されて、今に至るのよ」

 

「大変だったんだな」

 

 幸子さんがねぎらってくれる。

 

「ううん、あたしは女の子になれてよかったと思うわ。これは救いなんだって」

 

「救い!?」

 

 幸子さんが驚きをもっていう。

 

「あたし……いや、俺にはやっぱり呪いでしかない。体もうまく動かせなくて、サッカーができねえ……今までの練習が……ほとんど使えなくなっちまった!」

 

「幸子さん、昔のことはもう忘れた方がいいわ」

 

「うっ……!」

 

「これまでのことよりも今のこと、そしてこれからの幸子さんを考えて、あたしはここにいるのよ。あたしだって、浩介くんとの寿命問題に悩むことはあるわ。でも、女の子になれれば、少なくとも今を、将来を楽しめるわ」

 

「……」

 

「決心がつかないなら、流れに身を任せるのもありよ」

 

 永原先生が言う。

 

「……というわけで、早速女の子の服を買いましょう。保険が降りますから」

 

 あたしが強引に話を捻じ曲げる。

 

「え!? 今から!?」

 

「むしろ、あまり遅いと期限切れちゃってかえって損しますよ。すぐに死にたいなら話は別ですけど」

 

 永原先生がちょっと脅し気味に言う。

 

「わ、分かりました。でもこの人数じゃ多すぎるよね」

 

「あ、浩介くんちょっといい?」

 

 あたしは浩介くんの耳に口を近付ける。

 内緒話をしたい。

 

「ん?」

 

「徹さんと、お父さんとで残ってくれる? 男物の服を全部隠しておいて?」

 

「うん、わかった」

 

「何話してるんだ?」

 

 徹さんが聞いてくる。

 

「ああ、徹さん、浩介くんとお父さんとで留守番してくれる?」

 

「男は留守番か」

 

「当たり前よ、下着売り場にも行くんだから!」

 

「え!? し、下着売り場!?」

 

 幸子さんが驚いている。

 

「そうよ、女の子には女の子の下着を買ってあげないとダメでしょ」

 

「そ、そうだけど……」

 

「あたしと、永原会長と、お母さんと、幸子さんで行くわよ。じゃあ、みんな留守番してくれますか?」

 

「分かりました」

 

 お父さんが頷く。

 今の幸子さんの服は、ブカブカのTシャツとジャージ。

 他に適当なサイズの服がないか聞いたもの何もないらしい。

 

 無い袖は振れないということで、そのまま出発する。

 

「あ! ちょっと待って!」

 

 玄関から出て、駐車場から車に乗り込む手前、あたしは幸子さんを呼び止め、巻き尺を取り出す。

 

「ちょ、ちょっと近い近い! 何するんだ?」

 

「暴れないで! 大丈夫。サイズ測るだけだから」

 

 あたしは、寝ている間に測られちゃったけど。

 

「なっ……ちょっと……」

 

 幸子さんが動揺している。

 

「女の子同士でしょ!? 別に変じゃないわよ」

 

 あたしがまずヒップを、次にウエストを測る。

 身長は同じくらいなのに、ウエストはあたしより細い。

 バストを測る。ふふっ、あたしの圧勝。やっぱりおっぱい大きいというのは女の子として自信がつく。

 それでも、桂子ちゃんくらいかな?

 

「やっぱりノーブラじゃないの。ダメよ」

 

 あたしはすぐにこすれるのに違和感感じて着用したのとは大違い。

 

「いやその、こすれるのは嫌だったけどさ……」

 

「もう! 形も崩れるし、ちゃんと付けなさい」

 

 あたしが優しくしつけるように言う。

 

「はーい……」

 

 あたしはメモ帳に幸子さんのスリーサイズをメモし、車に乗り込む。

 この辺の地理は全く分からないが、カジュアル系の服装がたくさんある店にやってくる。

 

 地方ではよくある巨大ショッピングモールという感じ。

 そこの一角に服のコーナーもあるという。

 

「じゃあ行こうか」

 

 あたしたちが車から出る。

 それにしても大きい。あたしたちの都市圏では絶対見ない。土地が広い地方だからこそなせる店だ。

 

「服のコーナーはこっちです」

 

 案内板もあるからあたしたちでもいけないことはあるけど、ここは素直に厚意に応じておく。

 

「ふふっ、幸子も着飾るとすごくかわいくなると思うわよ」

 

 幸子さんのお母さんがちょっとだけ笑っている。やっぱりそういうものなのかな? あたしの母さんもそうだったし。

 

「それじゃあまずここからね」

 

 あたしは婦人服売り場の一角、下着のコーナーを指差す。

 

「え!? いきなりここ?」

 

「あら? あたしもそうだったわよ。それに、今ノーブラで下も男物なんか着てるんでしょ? そこは大至急変えないとダメよ」

 

「そうだね。私も石山さんと同意見ね」

 

 永原先生が同意する。

 

「そうよ、こういうところから幸子の意識を変えないといけないんだから」

 

 お母さんも同意する。

 こうやって外堀を埋めていく。

 

「は、はい……」

 

 幸子さんは明らかに緊張している。

 とても初々しい。あたしも、多分初日はこんな感じだったんだろうと思いながらどこか感傷的になる。

 

「はい、幸子さんのサイズはここ」

 

「ほら行くわよ!」

 

 永原先生が二の足を踏んでいる幸子さんを引っ張っている。

 

「うっ……」

 

「現実から逃げちゃダメよ」

 

 幸子さんは観念したように、目をそらしながらついていく。

 何だろう、こんな子でも教育次第であたしみたいになるんだと思うと、どこかでワクワクする感情が出てきた。

 

「このブラジャーが似合ってるんじゃない?」

 

「うーん、こっちはどう?」

 

「うーん、大胆過ぎない?」

 

「そうかなあ?」

 

 幸子さんを尻目にあたしたちは下着選びに熱中している。

 たまに幸子さんに派手なのを見せるとやっぱり拒否する。

 

「ふふっ、男の子が喜びそうなのはこれだよね?」

 

 あたしが白いパンツを見せる。

 

「う、うん……」

 

 他にも、あたしが持っている縞パンや水玉などを中心に買っていく。

 お母さんからは「子供っぽいのばっかり」と言われたけど、「男の子にはそれでいいのよ」と言う。永原先生も同意してくれた。

 やはり元男とあって、あたしの説得力はすさまじい。

 幸子さんにとっても、いきなり派手な色やデザインは心理的にもよくないので、それで行く。

 ……最もあたしもまだ派手な色やデザインのパンツなんて持ってない。黒いのさえない。あたしや幸子さん、あるいは永原先生みたいに童顔で幼い感じの女の子の場合、あまり男受けがよくないのを知っているからだ。

 

「さ、まずはこの下着から買うわよ」

 

「後で保険が下りるから、心配しないでいいのよ」

 

 さっきも言ったけど、念のためもう一度言う。

 ちなみに、ブラジャーはフロントホックもいくつか買っておく。後ろで留めるのは胸にホックが当たらなくていいけど、付けるのが大変だから、ノーブラへの逆戻りを警戒してのことだ。

 

「さ、普段着を買うわよ」

 

 永原先生の宣言と共に、若い女性向けの服の売り場に行く。

 

「それじゃあまずこれ」

 

 永原先生がシンプルな落ち着いたデザインで、足下までのロングスカートを手に取る。

 

「うん、それならまあ……」

 

 幸子さんも妥協心を見せている。

 

「あら、今の幸子にはこれも似合うんじゃない?」

 

 お母さんが大胆に露出した超ミニスカートを勧めてくる。

 

「ちょ、ちょっとこれは嫌だよ!」

 

「あらあらつれないわねえ……」

 

 うちの母さんそっくり、やっぱりこのあたりの女性のメンタルの強さは、なかなかTS病には真似できない。

 

「じゃあこれなんてどう? こっちと合わせてさ?」

 

 あたしが手に取ったのは、茶色の膝丈のスカートと青いブラウス。

 

「え? ちょっと短いような……」

 

「カリキュラムではもっと短いスカートになるわよ。今のうちに女の子の服に慣れとかなきゃ」

 

 あたしが言う。問題を先送りにしても仕方ない。

 

「わ、分かったよ……」

 

「というわけで、私のこれと一緒に試着してみて?」

 

「あ、永原会長、ちょっと待って? まずこっちを渡さなきゃ」

 

 あたしがさっき買った大量の下着の中から、白いパンツとブラのセットを出す。

 ブラジャーはつけやすいようにフロントホックで配慮する。

 

「え!? そ、それも?」

 

「当たり前でしょ? ほら、試着して」

 

「う、うん……」

 

 あたしたちは幸子さんを試着室へと押して行く。

 

「永原会長、試着したらまずは」

 

「うん、下着の確認だよね」

 

 あたしは服選びの時は、既に女物の下着だったけど、幸子さんはそうもいかない。

 

「時間かかっているわね……」

 

「しょうがないわよ。初めて女の子の服を着るんだもん」

 

 半年前のことを思い出す。

 

 中の様子はよくわからないが、時折布が擦れる音がわずかにする。

 

「さて、ちゃんと着替えたかな?」

 

 恐る恐るカーテンが開かれる。

 幸子さんは前かがみに猫背になり、膝の上からスカートを抑えている。

 

「ど、どうかな?」

 

「幸子さん、怖がらなくて大丈夫よ」

 

「でもこれ、なんかスースーして落ち着かない!」

 

「大丈夫よ、あたしも最初はそんな感じだったから」

 

「で、でも……!」

 

 幸子さんは納得がいってない様子。でも、もう一つ確認することがある。

 

「永原会長、今です!」

 

「ええ!」

 

「なっ!?」

 

 あたしが足元へと体を落として、スカートを少しめくる。

 同時に永原先生が素早く後ろに回り込んで幸子さんの両胸をわさわさっと触る。

 

「石山さん、こっちは大丈夫みたい」

 

 でもこっちはだめだ。

 

「こら塩津さん! なんでトランクスのままなの?」

 

「だ、だって、は、穿きたくない!」

 

「何言ってるの? あなたは女の子なんだから、ちゃんと女の子の体に合った下着を穿きなさい!」

 

 あたしが叱るように言う。

 

「や、やだって。ブラつけるだけでも大変だったのに!」

 

 あたしと永原先生で試着室の方へ幸子さんを押し込める。

 

「女の子のパンツを穿くまでここから出してあげないわよ!」

 

 あたしが言う。

 

「そんなー」

 

「ほーら、観念しなさい」

 

 永原先生も煽ってくれる。

 

「はーい……」

 

 幸子さんが下を向きながら、試着室に戻る。

 布がこすれる音がしたかと思えば、小さく「おおー」という感心したような声が聞こえる。

 また、懐かしくなった。女の子になったばかりの頃を思い出す。

 そうそう、こうやって実用的な一面もあるんだと納得させてあげれば、頭ごなしにならない。

 

 カーテンが開かれる。幸子さんがトランクスを握っている。

 

「は、穿いたよ?」

 

「うん、トランクスはお母さんが預かってて?」

 

「……分かりました」

 

 お母さんがバッグの中にトランクスを入れて行く。

 

「幸子さん、穿いて見てどうだった?」

 

「そ、その……」

 

「ふふっ、付け心地いいでしょ? ゆったりフィットしてて」

 

 あたしが笑みを含めて言う。

 

「う、うん……残念だけど、俺、負けたよ……」

 

「こーら! 俺はダメでしょ?」

 

 優しく諭す。

 

「すみません……残念だけど、私の負けです……」

 

「うんうんOK」

 

「石山さん、暗示かけさせ忘れてるよ」

 

 永原先生が鋭く指摘する。

 

「あ、すいません会長」

 

「わ、私は女の子……私は女の子……」

 

 すでに幸子さんは声に出して暗示をかけていた。

 

「さ、服選びを続けるわよ。保険があるからどーんとたくさん買うわよ!」

 

「「おー!」」

 

 やや幸子さんそっちのけであたしたちは盛り上がる。

 

 やはりあの時のあたしと同じ、幸子さんは露出度が高い大胆な服は嫌がるし、幸子さんのお母さんがおばさん臭いヒョウ柄などを推してきたのも、あたしの母さんと同じ。

 それに関しては、あたしと永原先生が幸子さんの味方になる。とにかく男受けがどういうものかと言うことの視点で服を選ばせる。

 お母さんも反論はしてこない。

 

 でも、やはりというかなんと言うか、あたしが買ったときほどじゃないけど、それでもかなりの服が積みあがっていく。

 

 途中、幸子さんが「お母さんの着せ替え人形じゃない」と怒っていた。

 でも、露出度が思いっきり高い服も買わせておく。あたしもついこの間まで使わなかったけど、浩介くんを誘惑する時に使ったし。

 

 ……それにしても、ちょっと寒かったのよね。

 そうだ、この後寒くなりそうだし、あたしも自分用にストッキング買って履いてみよう。

 

「あ、ごめん。あたしも買いたいものあるからちょっとだけ抜けていい?」

 

「ああ、うんどうぞ」

 

 永原先生に承認をもらい、あたしが来たのはストッキングのコーナー。もちろん家にもいくつかあるんだけど、北の方は思ったより寒いことや、日が落ちた後のことも考えてここで買うことにしたい。

 

 うーん、どれがいいかな?

 

 シンプルに黒い感じがいいかな? お洒落なデザインもかわいいけど、あたしの場合頭の白リボンがかなり目立つと思うから、華美になりすぎないように注意しないと。

 

 ともあれ、初めてストッキングを履くわけだからこれでいいよね?

 

 あたしはサイズをもう一度確認し、レジに並ぶ。そしてそのままお金を払ったら女子トイレに向かう。

 あたしはスカートをベロンとめくり上げて、パンツを下して用を足す。すっかりおなじみの行動になったけど、幸子さんにはこれも学んでもらわないといけない。

 

 ビデを済ませて拭いたら、パンツを穿き直し、ストッキングに手をやる。

 久々に女の子としての初体験。

 

 えっと……こうやって履くのかな?

 ……うん、出来た。どこか破れているとかそういうこともないし、見た目に反してかなり温かい。

 あたしも、女の子になったばかりなら失敗してそう。自分の体や女物を熟知しておくとこんなに違うんだなと改めて思う。

 

 あたしはトイレを流して、幸子さんたちと合流する。


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