永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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女の子の修行2日目 後編

「それじゃあ、母さんはこれで帰るから、お昼ご飯食べてその後帰りにこれを買ってきてくれる? レシートを出せばお代は後で出すわよ」

 

 そこには、納豆とハムとごま油、そしてネギをそれぞれ買うようにあった。

 

「これもカリキュラムなの?」

 

「そうよ、一人でお使いするの。内容は簡単だけど女の子の格好で一人で出かけるってのがミソよ」

 

 そ、そうだよな。お使いなんて小学生じゃあるまいし、でも女の子になって一人で女の子の格好をするというだけで途端にハードルが上がるわけか。

 

「じゃ、お買い物よろしくね」

 

「はい」

 

 母さんが去っていく、役所から最寄りのスーパーまでは駅までの帰路上にあるから、寄り道するだけで道のりは同じだ。

 

 まず役所から出る。そして道を歩く。買い物の前にまずは昼食だ。

 

 むむむ、広い道だけどさっき向かい合ったスーツの男性がまた自分のことをジロジロ見てたぞ。

 ……今度は休憩してた工事のおじさんも見ていたし、視線がとにかく半端ない。会社もお昼休みみたく地域の会社の人も休憩中だ。

 

 とにかく、スーパーのすぐ近くにある蕎麦屋で昼食にしよう。

 

「いらっしゃいませー1名様ですか?」

 

 男性店員だ。

 

「あ、はい」

 

「カウンター席の方お願いします」

 

「はい」

 

 うわっ、また胸見てる。確かに大きいけどさあ。うーん、男の本能だから仕方ないとはいえ、こうもジロジロ見られるとさすがに嫌だなあ……

 でもまあ、自意識過剰ってことも考えられるし、あまり気にしないようにしないといけないよな。

 むしろあれだ! 男の頃の経験則として、変に隠すと余計覗かれるだろうし見せつけるくらいがちょうどいいかもしれない。

 

「ご注文お決まりでしたらこちらのボタンを押してください」

 

 ともあれ、カウンターにつく。

 よし、ざるそば大盛り……はまずいな。普通のざるそばにしよう。

 

 ボタンを押してみる。

 するとすぐに別のウェイトレスが来る。

 

「お待たせいたしました、ご注文をお伺いいたします」

 

「ざるそば1つお願いします」

 

「はい、ご注文他にありますか?」

 

「いえありません」

 

「ご注文確認させていただきます『ざるそば1』でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

「では少々お待ちください」

 

 何の気なしに待つ。カウンターにはそば湯とコップ、そして氷水がセルフサービスで置かれている。

 とりあえず水を注いで一杯飲んで待つ。

 

 何分経ったか分からないが、「お待たせいたしました。こちらざるそばになります」という言葉とともにざるそばが来てくれた。

 

 とりあえずネギを入れる。わさびは男だった時から苦手だったし、入れないでおこう。

 大分女としての食事のペースにも慣れてきた、大盛りにしてなかった分を差し引いても、男の頃より食べるのに時間がかかるが、その分きちんと味わうということに重点が置けるようになった気がする。

 

 注文の控えをもってレジに並び、お金を払う。

 さ、スーパーだ。

 

 スーパーで買い物をする。まず買い物カートを……っと思ったが、さすがにこの数ならいらないか。

 買い物かごだけを持ち、買い物をスタートする。

 

 昼過ぎということもあって、客は主婦がほとんどだ。自分は若い女性という感じかな。さすがに主婦には見えそうもない。あ、でも永原先生もそんなもんだよな……

 

 最初に野菜コーナーが目に入る。えっと、ネギだな。ふむ、この値段に一番近いのを選べ。か。

 単純に一番安いというというわけじゃないのか。わざわざ注意書きまでしてある。

 えっと、こっちが+20円で、こっちが-30円か、じゃあこっちの+20円の方を選ぶんだな。

 

 野菜のコーナーを道なりに進むと、ウインナーやベーコン、肉などが目に入った。

 たぶんハムはここにもあるはず。

 お! あったあった! ハムは……具体的に商品の詳細が書かれているな。

 えっと……これかっ! うん、間違いない。

 

 納豆はどこだ?

 うーん、とりあえず一周してみる。どこにもない。よし、中を探そう。

 あ、中にあったあった。外側ばかり見ないでちゃんと中も見ないと、うーん俺も買い物術身につけないとなあ。

 

 納豆は一番安いのを3セット買うようにと書いてある。えっと一番安いのは……これか。

 

 よしよし、順調だぞ。

 

 ごま油はさっき納豆探す時に見たな。記憶を頼りに戻る。

 えっと、これは容量が書いてあるな。

 うーん、でもこれ一種類しかないや。幸い容量はあってるみたいだし、怒られはしないだろう。

 

 

 女性の多い環境は自分もそこまで視線を感じない。でも一部、主に胸の小さい女性からものすごい「殺意」のようなものを感じる。

 うううっやっぱ同性からも嫉妬されるよなあ。

 誰がどう見たって「美人じゃない」「可愛くない」なんてとてもとても謙遜にならない容姿だし……

 

 ……ともあれ、品ぞろえをそろえたし長居は無用だ。会計を終わらせればミッションコンプリートだ。

 

 とりあえず列に並ぶ。うーん、ここでいいかな。隣が開いてればいいんだけど……

 あ、前の人が長そうだな。しょうがないか。

 

「お待ちのお客様こちらの列も空いてまーす」

 

 お、隣のレジが解禁だ。よしよし、真っ先に並べたぞ。

 

 会計を払って袋を受け取りこれで終了だ。

 買い物かごをレジ奥の机に入れて、とりあえずレジ袋に商品を詰めて……

 あ、買い物かごはここに回収するのか。よしよし。これで出ればOKだ。

 

 後は駅まで行くだけだ。

 

 道行く途中、やはり特に男性からの視線を感じる。というよりも駅に近づくに連れ人通りが多くなると尚更だ。

 不良と思わしき3人組の男がすれ違う、後ろで「な、なあ今のめっちゃ可愛かったよな」なんて言葉が聞こえてきた。

 

 嫌な予感がしたのでとりあえず小走りに人混みに紛れ込む。

 ……やっぱり少しスピードが落ちてる。ともあれ、ICカードを取り出し「タッチ・アンド・ゴー」だ。

 

 お、後2分で次の電車だ。エスカレーターでホームに上る。

 ……何だろう、よく分からないけど見られている気がする。

 膝が隠れてくれているこのスカート丈ならパンツ見える心配はないだろうけど、学校の制服とかどうしようか、階段とか登ってる時は絶対男子から姿勢を低くして覗かれるだろうし。

 

 ともあれ電車で帰る、ホームにちょうど来た電車に入る。まだ昼間だったのでそこまで混んでなかった。

 

 ともあれ、2駅は短いようで長いようで短い。ただ感じるのはとにかく男性と、若干名の女性からの視線、それも老いも若いもだ。

 確かに自分も男だった頃は巨乳の女性がいるとジロジロ見る傾向にはあったが、いざ自分がされる立場になると、なんか嫌な気分だ。

 

 でも髪を切るのを不許可にされたくらいだ。胸を小さくしたいなんて口が裂けても言えないだろうし、これは私石山優子の女の子としての魅力。これを捨てるなんてとんでもないということは自分にも分かる。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー優子、言われた通りのもの買ってきてくれた?」

 

 家に帰ると母さんが早速玄関に来た。

 

「はいこれ」

 

 スーパーの袋を渡す。

 

「うん、全部OKよ」

 

 母さんは満足した表情を浮かべた。よしよし。

 

「じゃあ優子、休憩したら早速夕ご飯の準備をするわよ」

 

「どれくらい休憩?」

 

「……とりあえず5分休憩よ、根を詰めたと思うからリラックスしてきなさい」

 

「はーい」

 

 ともあれ自室に戻る。5分で出来ることは多くない。布団にそのままうつ伏せでダイブする。

 確かに疲れたしリラックスしていたい。

 

 

 休憩中、ふと自分が受けているカリキュラムについて考える。

 

 今自分は「女の子らしく」を徹底的に叩き込まれている、男っぽい言葉遣いをすれば怒られるし、しかもその後「女の子」であることを徹底的に自覚するように言われる。

 そして、男との違い。男だった頃の価値観は全く通用しない。トイレでも、風呂でも、そしてスカートで外出して、視線を感じてそう思った。

 

 男としての人格を捨てなきゃいけないのがこのカリキュラムだと永原先生は言っていた。

 

 最初は名残惜しいとは思わなかった、名前に反して乱暴な性格をしていた自分が嫌いだった。

 でも、こうやって上書きしていくに連れ、自分の中で新しい発見と、新しい習慣にワクワクし、そして喜びを見出すと同時に、辛い気持ちも出てきた。

 ……人間とは、難儀な生き物だ。そして今これから、夕食の準備をするわけだ。ここでもまた一歩、男を捨てて女の子になっていく。

 

 ともかく、今は休もう。きっと女の子としての人生はこれまでのろくでもない人生よりはマシになるはずだ。

 

 

  ガチャッ

 

 誰かがドアを開ける。

 

「こらあ!」

 

「う、うわっ」

 

 母さんが怒ってる、一体どうしたんだ?

 

「もう、パンツ丸見えじゃないの!」

 

 母さんはそう言うと素早くスカートの裾を摘んで揺らす。どうやら見えてしまっていたらしい。

 

「もう! 家の中だからってだらしなくしちゃダメでしょ! 全くはしたない!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ほら、もう一回、うつ伏せになって、パンツ見えないように直してみて!」

 

「う、うん」

 

 さっきと同じようにダイブし、スカートをちょっと直す。

 

「ダメ! 見えてる!」

 

 母さんが覗き込んでいる、するといきなりスカートをぶわっとめくり上げてきた。

 

「ちょ、ちょっと母さん!」

 

「これは罰よ。ふふっ、パンツ見られて恥ずかしいって暗示かけなさい」

 

「パ、パンツ見られて恥ずかしいよお……」

 

「あらあら、声に出てるわよ。まあでも可愛いからよしとしましょう」

 

「いい? パンツ見えてるかどうかは、どんな時でもちゃんと注意しないとダメよ。恥じらいもなく女の子がパンツ見せるのは一番ダメなのよ! 女としてもそうだし、何より男にも幻滅されるわよ!」

 

 うううっ、ぐうの音も出ないほどの正論に全く反論できない。

 

「じゃあもう一回やってみて。ちゃんとするまで続くわよ」

 

「う、うん」

 

 もう一度布団にうつ伏せにダイブし、今度は丁寧にスカートを直す。更に足と足の間にスカートを入れることで見えない工夫をしてみた。

 というか、ダイブした最初の段階ではパンツ見えてるよねこれ……

 

「うん、OKよ」

 

「あ、あの、母さん、これもカリキュラムに出てるの?」

 

「うんそうよ。『そろそろ疲れてくる頃であり、休憩を言い渡されたため、患者の気持ちも緩み始める。スカート着用なのでパンツが見えている場合は強く注意する』ってあって、今みたいにパンツが見えてたら『スカートめくりをして恥じらいの心を育成すること』って書いてあるわ」

 

 な、永原先生、そこまで考えているのか……

 

「まあ、実際スカートの中とその恥じらいについては後のカリキュラムでもやるみたいだけどね」

 

「えーまたやるの?」

 

「そうよ、乙女の恥じらいを身につけるのはこのカリキュラムでも特に重要って書いてあるから」

 

「さ、それよりも夕食の準備よ」

 

「分かりました」

 

 今日は御飯と味噌汁に加え、キャベツとベーコンを混ぜ、塩昆布と胡麻油をかけた謎料理と冷奴だ。

 

「さ、お米の研ぎ方よ」

 

「まずお米はこの機械に入れるのよ。そして、ここのボタンで一定量出すのよ。1食あたり1人1合が目安よ」

 

 3人なので3合、俺は適量を押し、そして出てきた米を移す。

 

「水を入れて研ぐのよ。2、3回かき回したら水を捨ててね」

 

 かき回してみる。母さんは「うん、いい感じ」とのこと。この調子で忠実に行う。そこまで難しいことじゃない。

 

「うん、そしたら水を入れて、炊飯器に入れてね」

 

「じゃ、ここからは朝と同じだからやってみて」

 

 昨日今日の朝と同様の方法で炊飯器のスイッチを入れる。

 

 

「それじゃ、おかずに取り掛かりましょうか」

 

「はい」

 

 おかずはまず、この謎料理からだ。

 これは比較的簡単だ。

 母さんの教わるとおりにキャベツをむしる。よし、いいぞ。

 

 そして塩昆布の場所を教えてくれたのでそれを取り出し、まぶしていく。この時なるべくキャベツの山の中に入り込むように入れるのがコツらしい。

 最後に胡麻油と醤油をかけて出来上がり。シンプルだがこれがなかなかうまいんだよな。

 

 

 次に豆腐の冷奴だ。最近のスーパーの豆腐は最初から切り分けられているらしく、浄水と氷の中に入れればOKみたいだ。

 

「いい? 料理は手をかけなきゃ美味しくならないって言うけど、それはプロレベルの話よ。私達主婦はいかに少ない手で美味しい料理にするかにかかっているの。最も、今日は優子のために特に簡単なメニューにしたけどね」

 

「カリキュラムが終わった後も、覚えていく料理のメニューは増えていくから、覚悟してね」

 

「う、うん」

 

 次に、味噌汁の作り方を習う。

 母さん曰く、冷めたら味が損なわれるものは必ず最後に作るようにとのこと。

 

 さっきの豆腐の中で残った一部を味噌汁に使い、更にネギ、ワカメを切る。

 

「ネギはこうやってなるべく細かく切るのよ。手を切らないように気をつけてね」

 

 よし、切ってみよう。

 

「味噌汁は味噌だけじゃなくて味噌汁の素も必要よ。これを1杯につき1袋、今回は3人だから3袋入れてみて」

 

「うん」

 

「次に具材を入れて、沸騰したら味噌をといでうまく3人分にしてね」

 

「さ、沸騰するまでそこで見てて、お母さんはその間にご飯を盛り付けるわよ」

 

 

「しっかし、手際いいな。優子が家事をするようになって、お母さんも助かってるんじゃないか?」

 

 リビングから親父の声が聞こえる。

 

「いえいえ、教えるのに苦労してますわよ」

 

 母さんが答える、まあ、そうだよな。

 

 ……おっと、味噌汁が沸騰し始めた。

 味噌をお玉ですくって、味噌汁の中に入れてっと。

 

 そのままお玉を使って母さんが用意してくれた容器に素早く三等分していき、最後はトレイに載せて、よしっ!

 

 

「「「いただきます」」」

 

 こうして、慌ただしい夕食の準備が終わった。

 

「あ、そうそう、優子。健康診断の結果が出たわよ」

 

「あーそう言えばそろそろ出てくる頃なのか」

 

「お、で、どうだったんだ?」

 

 自分と親父が食い入る。

 

「全体としては少し血圧が低めなことと、血小板がほんの少しだけ少ない以外は、特に異常はないそうよ」

 

「つまり、そこまで重大なことじゃないということね」

 

「そうね」

 

 まあ、女になると言うだけで、他の病気を併発するものではないから、そこまで心配することもないか。

 

 

「さあ、今日はこれでは終わりじゃないわよ!」

 

 夕食を食べ終わって風呂に入ろうとすると、母さんが止めてきた。

 

「優子、これからやるのは皿洗いの極意よ!」

 

 まあ、皿洗いは来ると思ったよ。

 

「で、どうやって洗うの?」

 

「これを使うのよ!」

 

 母さんはキッチンの端にある食器洗い機を引き出した。

 

「ここにお皿をこうやって入れていくのよ。ほら、こうやって。優子、やってみて」

 

 お皿を傾けていく。中央を中心に「集団見合い」のような形になる。母さんによるとこの中央から洗浄液が出るのでこう置くといいらしい。

 

「で、カップの方はこんな風に置いてね」

 

 カップの方は普通に下向きにして空いた場所においていく。

 

「……箸と箸置き、スプーン、フォークなんかは、ここにあるこれに入れて」

 

 入れ物のあるところに入れていく。案外狭い。

 

「今回は大丈夫だけど、足りなくなったらこれを敷いて2段にしてね。あんまり使わないし、オススメしないけど」

 

 そう言うと、閉じ方まで習った。

 

「電源を入れて後は『洗う』のボタンを押すだけ。今回は『中』でいいわ」

 

「目安はどんな感じなの?」

 

「2段になったら『強』、1段びっしりの半分以下なら『弱』と言ったところよ」

 

「ふむふむ」

 

「まあ、これは感覚で覚えるしかないわね」

 

 そういうものか。

 

「乾燥まで自動でやってくれるから、明日以降の適当な時間に元の食器棚に戻せばいいからね」

 

 うーん、家事も案外牧歌的だな。

 

「それじゃ優子、今日はもうお風呂入って寝なさい」

 

「はい」

 

 家の棚からパジャマを持っていき、脱衣所に持っていき、そのままお風呂に入る……っとその前にトイレだ。

 早速今日母さんから習ったように、自分のスカートをべろんとめくってパンツを下ろしスカートを脇に挟んで見る。

 おお、便器につかない。でもこれ、結構疲れるな。

 まあ、毎回毎回100点満点じゃなくてもいいよな……

 

 

 そういえば明日は土曜日だよな。明日はどういう課題が来るんだろうか?

 風呂で髪を洗い、髪を縛って湯船に浸かりながら、まだ見ぬ明日に楽しみと不安を抱え続けた。


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