永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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奇妙な温泉施設

 ともあれ、乙女ロードを楽しんだらあたしたちは次の目的地である温泉施設に向かうことにする。

 地下鉄と、更に「新交通システム」を乗り継いでいけばいい。

 値段は高いけど、女の子としての自覚を刷り込むためにも、お風呂に入らせるのはとても重要だ。裸の付き合いというのかな?

 

 池袋駅から地下鉄に乗ると、幸子さんは駅の路線図に驚いた様子だ。

 

「ふえー、東京の地下鉄って凄いな」

 

「あはは、この路線図覚えている人なんてほとんどいないわよ」

 

 そういう人は鉄道マニアと言う人種だ。あたしとは無縁だ。

 

「お……私の地元は最近『東西線』が出来ただけで後は『南北線』があるだけよ」

 

「随分とシンプルだよね」

 

「というか、首都圏が異常なだけでしょ?」

 

「あはは……」

 

 一応これでも同じ「政令指定都市」の住民のはずなのに、感覚は大違いだ。

 

 翻って東京は、南北線、東西線の他にもいろいろな路線が入り乱れている。そしてこれだけの路線をもってしてもすさまじい混雑が発生しているのだ。

 

 ともあれ、電車はすぐにやってくる。幸子さん曰く、東京の鉄道は編成も長いらしい。

 そう言えば、幸子さんの家に行った時も、在来線はそんなに編成長く無かったよね。

 

 さて、地下鉄で目指すのは「新橋駅」、朝のニュースなどでよくやっているビジネス街だ。

 そこから更に別の路線に乗り換えたところに、今回の温泉施設がある。

 

 

「へえ、幸子さんはそっちをよく使うんだ」

 

 やはり地方は道路中心。

 

「そそ、車は必須だしバスも便利だよ」

 

「次は、新橋、新橋です。乗り換えのご案内です――」

 

 地下鉄のアナウンスが乗り換えをするように促してくる。

 予定では新橋駅で、いわゆる「新交通システム」に乗り換える予定になっているのでここで降車しなければならない。

 

「幸子さん、乗り換えるよ」

 

「はーい」

 

 幸子さんがあたしについてくる。

 改札口を出て、「新交通システム」の案内に沿ってゆりかもめを目指すため、地下鉄を上がって外に出た。

 ゆりかもめまで、テレビでよく見るSLは見なかったのでおそらく反対側の出口なんだろう。

 

「石山さん、これってモノレール?」

 

 ホームに行くと、幸子さんが聞いてくる。

 母さんからは「新交通システム」とは聞いたけど。

 

「うーん、あたしもモノレールって生ではほとんど見たことないからわからないや」

 

 ともあれ、電車はタイミング悪く発車したばかりだったので待ち時間ができてしまった。

 

「ねえ、さっきの車両、車掌が見えなかったけど、東京でもワンマンってあるの?」

 

「え!? ワンマンって何のこと?」

 

 聞きなれない単語なのであたしが意味を聞く。

 

「ああうん、車掌がいなくて運転士一人で運転する列車のことを言うんだよ」

 

「うーん、あったようななかったような……」

 

 思い出せない。なんかどっかの路線でやってたような記憶があるんだけど……

 

「うーん……まいっか」

 

 幸子さんも深く追及してこない。

 ともあれ、記載の電光掲示板の案内にある次の豊洲行きを待つ。普通ってあるけど快速とか急行ってあるのだろうか? よく分からない。

 

 しばらく待っていると、駅の放送が聞こえて来る。

 そして、車両が入ってくる。

 

「!?」

 

 あたしと幸子さんは、二人揃って目を丸くした。

 何故なら、予想の斜め上、運転士さんも車掌さんもいないのに動いているから。

 ともあれ、一番先頭の席を陣取ることに成功した。開放的な前方の風景はある意味で新鮮だ。

 

「びっくりしたよ。まさか運転士さんまでいないなんて、東京はハイテクだね」

 

「あーいや、うん。多分ここだけだと思うよ」

 

 他に自動運転があるかは知らないけど。鉄道マニアじゃないからよく分からないや。

 

 駅にしばらく停車してから、発車する旨の放送が流れ、ドアが閉まる。

 さすがに駆け込み乗車とかもあるだろうから遠隔操作してるんだろうけどそれにしてもちょっと不安にはなる。

 

 列車は、ひとりでに動く。自動放送も自然に流れるけど、車内に乗務員が誰もいないとかなり不気味だ。

 でも、次の駅に着くころには慣れてしまい、幸子さんと他愛もない話に講じながら、車窓を楽しむ。

 

「でもここ、高所恐怖症には厳しいよね」

 

「うんうん」

 

 

 この列車はいわゆる「お台場」と呼ばれる場所を通る路線で、あたしたちはその中にある温泉施設の一つを目的地にしたんだけど、そこは温泉だけではなく、食事と休憩所ももちろん完備されている他、洋風な施設まであるらしい。

 

 しばらく走っていると、車窓の前方、何やら大きな円が目に入る。

 

「ねえ石山さん、これって……?」

 

「何だろう……わあ!」

 

 あたしたちが話していると、列車が一回転、大きな円を描くように曲がっている。

 おそらく高低差解消のために、こんな派手な仕掛けをしているのかな?

 

「あ、ここに出るのね!」

 

 見慣れた光景が目に入る。

 

「え!?」

 

 幸子さんは、ここがどこだかわからないらしい。

 

「レインボーブリッジだよ」

 

「あー、昔何かで封鎖せよとかやってた!?」

 

「???」

 

 幸子さんの言っていることがよくわからない。

 

「あー知らないならいいよ。わ、私も子供のころだったし」

 

 列車は橋の下層部で、道路と道路の間を走っている。この光景は日本全国でもなかなかレアだと思う。

 しかも時折歩行者までいるんだから何気に珍しい光景だと思う。

 

 橋を渡りきると別の駅へ。

 これでもう、目的地は近くだ。

 

 

「ふー着いたね」

 

「よし、行こうか」

 

 あたし達は、予め印刷しておいた地図と駅の案内とを見比べて、間違いがないことを確認し、道を進む。

 

「あ、見て! あれじゃない?」

 

 幸子さんが少し先を指さす。

 

「うん、じゃあ行こうか」

 

「ね、ねえ石山さん」

 

 幸子さんが不安そうな表情で聞いてくる。

 

「ん?」

 

「どうしても、風呂に入らなきゃダメ?」

 

「当たり前でしょ。ここに来なかったら、何のためにあなたを東京まで呼んだのか分からないわよ」

 

「でも、お、女湯なんて……!」

 

「もう! 女の子が女湯に入って何が悪いのよ!? それともその体で男湯に入るつもり!?」

 

 あたしが強めに言う。

 

「ああいやその……」

 

「そんなことしたら通報されるか、はたまた男たちに囲まれて、レイプされるわよ」

 

 そうじゃなくても変態確定だ。

 

「うぐぐ……!」

 

 あたしがぐうの音も出ないほどの正論を言うと、幸子さんは黙り込んでしまう。

 

 

「さ、入るわよ」

 

「はーい……」

 

 幸子さんが渋々とついていく。しかし、予め調べておいたから知っているが、この温泉施設は館内着として浴衣に着替えなければいけない。

 あたしは幸子さん用とあたし用に、予め短襦袢を用意しておいた。

 ちなみに、あたしは晒しも巻く必要がある。いずれにしても、夏祭りの知識が役に立った。

 とは言え、どっちにしても洋風のパンツとブラジャーは脱がなければならないから、ノーパンノーブラには違いないけど。

 

「そうだったわ、まさかとは思うけど男物の下着とか穿いてないわよね!?」

 

「当たり前だろ! 全部隠されちゃったし、それに、穿き心地がいいし……」

 

 幸子さんが恥ずかしそうに言う。

 うんうん、小さいけど大きな一歩よ。

 

「うん、よろしい。じゃあ行こうか」

 

「う、うん……」

 

 幸子さんを引っ張りながらあたしは温泉施設の中に入る。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 受け付けの女性2人が礼をしてくれる。

 

「学生2枚」

 

「学生2枚ですね。料金はこちらになります。ご利用の際にはチケット裏面の利用規約をよくお読みください」

 

 あたしたちはお金を払って代わりにチケットの半券を受け取る。

 

「まずはあちらの更衣室でお靴をお預けになって、お好きな館内着にお着替えください」

 

「はい」

 

 幸子さんも意を決したのか、あたしについて来る。

 入ってすぐに存在する女子更衣室。

 あたしはここに初めて入れた時は嬉しかったけど、幸子さんはどうやら違う様子。

 

「どうしたの? 入らないの?」

 

「え!? あ、うん……」

 

 あたしはなお躊躇する幸子さんを、やや強めに引っ張りながら入れる。

 まずするのは浴衣選び。もちろんピンク色で女の子らしいお洒落なデザインを渡す。

 幸子さんは「ちょっと派手すぎない?」と言ってきたけど、「あたしもおしゃれするんだからつり合い取らないとだめよ」と言って納得してもらった。

 

 さらに暖簾をくぐると、着替えるための女子更衣室になっている。

 もちろん中では多数の女性たちが、雑談をしながら着替えている。若い女性が意外に多い。

 

「うっ……」

 

 やっぱり幸子さんには刺激が強いみたい。

 あたしも初めての時は女の子として受け入れられた嬉しさで満ちていたけど、2回目はとても緊張したことを思い出す。

 

 あたしは隣り合ったロッカーに幸子さんを招き入れて、まずは靴を預ける。

 

「はいこれ」

 

 次に幸子さんに襦袢を渡す。

 

「え? 何これ?」

 

「浴衣用の下着だよ。パンツやブラジャーは使えないからね」

 

 あたしがさらりと言う。

 

「え!? ノーパンノーブラなのかよ!」

 

「しーっ声が大きいわよ。ともかく、これに着替えること」

 

「えー」

 

「着替えないと楽しめないわよ」

 

「だって、周りはそんなの気にしてないよ」

 

 幸子さんが想定内の反論してくる。

 

「だめよ、はしたない人に合わせちゃいけません」

 

「うー」

 

「いい? まずこうやって……!」

 

 ワンピースのスカートの中に襦袢を入れつつ、器用な手つきで背中のファスナーを外し、胸まで入れる。

 続いてブラジャーを脱ぎ持ってきた晒しを取り出して乳首に当てたらぐるぐると巻き続ける。

 

「い、石山さん、すげえ大きい……」

 

「ふふん、あたしの自慢なのよ。でも今は、和服だからこうやって封印するの。幸子さんはなくてもいいわよ」

 

 本当は幸子さんの大きさでも巻いたほうがいいと思うけどいきなりハードル高いのはまずい。

 

「そ、そうなんだ……」

 

「ほら、幸子さんも着替えないと、余計に恥ずかしくなるわよ」

 

 あたしが催促する。

 

「うー、でも……女物穿いてるとこ見られたくない」

 

「何を言っているのよ。この後は素っ裸になって温泉入るのよ」

 

「うー」

 

 さっきから「うー」が多い気がする。

 

「とにかく、着替えないといつまでも先に進めないわよ」

 

「は、はい……分かりました……」

 

 幸子さんは意を決してズボンとパンツを脱ぎ、更に上もブラジャーごと脱いで全裸になっている。

 ……後でまたお説教しなきゃ。

 

 あたしの方は、晒しで胸を潰したら、襦袢を着終わり、続いて浴衣を着る。

 

 うーん、夏祭りのときほどじゃないけど、やっぱり下半身のスースー感がするわねえ。

 幸子さん、大丈夫かな?

 

 幸子さんを見ると、襦袢に四苦八苦しつつも、何とか着られたので、更に浴衣を着る。

 

「着替え終わったよ」

 

「うん、じゃあ鍵閉めていこうか」

 

 簡易な浴衣なので、鞄を持っていき、この中に財布やタオルなどを入れることにする。

 鍵を閉めて腕に巻き、厳重に管理する。入館料や入浴料以外の別料金を後払いで支払う際にはこれが必要になる。

 

「さ、楽しみましょ。ところで幸子さん」

 

「ん?」

 

「着替える時、ああいう着替え方はダメよ」

 

「え? でもそうするしか?」

 

「いい? 服の構造上、どうしても見えちゃうのは仕方ないわ。でもね、ああいう風に丸見えになってから着替えるものじゃないのよ」

 

「え? じゃあどうやって?」

 

「パンツとブラジャーを脱ぐ前に、まずは襦袢を着て、それからよ」

 

 あたしが自分の着替え方を指導する。

 

「面倒くさいなあ……」

 

「女子力は面倒くさいものよ。でも、だからと言ってだらけてたら、女の子としてドンドン堕落していくわよ。そんなことになったら、せっかくのかわいい顔が台無しになるわよ」

 

 それだけじゃない、ふしだらな生活を続けると女の子としてのアイデンティティも失われかねない。

 女の子になりたての今だからこそ、特に注意して生活させたい。まあ、あたしもなりたてだけど。

 そうすると、失速中の飛行機に例えるなら「機首上げ」に相当する効果になってしまう。

 

「女子力ねえ……女って大変だなあ……」

 

「幸子さん、決して他人事じゃないわよ! あなたも女子なんだから女子力高くないとダメでしょ……あたしもそこまで人の事言えないけどね」

 

「え!? 石山さんでも?」

 

「ええ、今は落ち着いたけど、特に8月の林間学校くらいまではよく『優子ちゃんは女子力低い』ってクラスの女子にお説教されたわ」

 

 今でも結構桂子ちゃんにはお説教される。

 悔しいけど桂子ちゃんに女子力で勝てる気がしない。

 

「でもよ、もうすぐ12月だろ? やっぱそれだけ時間経てば違うんだろ?」

 

「ま、まあね……それから、暗示かけなさいとは言わないけど『だろ』じゃなくて『よね』を使うとより良いわよ」

 

 あたしが優しめに注意する。

 

「う、うん……まだまだ修行が足りないなあ……」

 

 ん? 今良いこと言った。褒めてあげなきゃ!

 

「お、幸子さん今すごくいいこと言ったわよ」

 

「え!? 何?」

 

「今、『まだまだ修行が足りない』って言ったでしょ? 幸子さんの中で、女として生きることに気持ちが傾いている証拠よ」

 

「あ、うん……やっぱり、戻れないんじゃしょうがないかなって……」

 

「ふふっ、どっちにしても、今のはとても大きな一歩よ。その気持ち、女の子として修行していくって気持ち、絶対忘れないでね」

 

 あたしが努めて優しく言う。

 あたしだってその気持ちを捨てていないし。

 

「あ、うん……分かった、わ」

 

「ふふっ、じゃあ次の修行に行こうか?」

 

「え!? 次の修行!?」

 

 もちろん温泉のこと。

 

「うん、女湯に入るわよ!」

 

 あたしも気合い入れているけど、女湯は林間学校以来だし全くの赤の他人と入る公共浴場は初めてなのでちょっと緊張している。

 

「あ、あの……ちょっと休んでから……」

 

「んー!? 先延ばしにしても仕方ないよ」

 

「いや、その……女湯には入るけど、単純に疲れてて……」

 

 幸子さんが申し訳なさそうに言う。

 

「あ、うん。ごめん、じゃあ休もうか。この浴衣結構はだけやすいからくれぐれも注意してね」

 

「う、うん……」

 

 ノーパンだし短襦袢の性質も知っているだろうからさすがに注意してくれると思うけど、幸子さんに何かあるとあたしの責任になるから気をつけないと。

 そうなれば、幸子さんの担当カウセンラーとしての地位も、正会員としての地位も危うくなる上に、最悪永原先生の顔に泥を塗る事になりかねない。

 

 ともあれ、中央の休憩所に行く。

 和風休憩所と洋風休憩所があるが、なんとなくギャップが面白そうということで洋風を選ぶ。

 

「よし、じゃあ休もうか」

 

「うん」

 

 ちょうど夕方の谷間の時間なのか、中はかなり空いていてあたしたちも足を伸ばしてゆっくりくつろげる。それにしても、純洋風の部屋に浴衣姿の男女というのはものすごいシュールな光景だ。

 足を広げないように改めて幸子さんに注意喚起をしておく。

 

 

「ねえ、あの2人かわいいよな」

 

「うん、特に黒髪に白いリボンの子、胸とか絶対もっと大きいよね」

 

「目の付け所がエロいぞお前。でも、左の子だって磨けば負けないと思うぜ」

 

「つまり原石ってことか?」

 

「そうそう、右の子は絶対経験豊富だって」

 

「あー、分かる。男慣れしてそう」

 

「左の子なら俺の好みに染め上げられそうだぜ」

 

 

 うぐう……あたしが彼氏持ちなのは事実なので全く反論ができない。一応まだ処女だけど、かなりエッチなこと浩介くんにされちゃってるし。

 それにしても、男というのは意外と見る目があるというか、案外バカにできないわよね。

 幸子さんが「原石」というのも、あたしは幸子さんがTS病になったばかりというのを知っているからこそ分かるはずで、あそこの男性はそうした予備知識無しで言い当ててしまったのだ。

 おかしいなあ、半年前とちょっとまで、あたしは「あっち側」だったのに。

 幸子さんは男2人組の会話を聞いてか聞かずかゆっくりと歩き疲れた足を休めている。

 そんな中で、あたしは男性2人との間に見えない壁を感じながら、休憩していたのであった。




温泉施設は全部私の妄想です

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