永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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永原先生最後の教え

「さ、今回のフィードバック行く前に一ついいかな?」

 

「はい」

 

 相談室に入って座るなり、永原先生が声をかけてくる。

 

「やってみてどうだった? 7ヶ月前は生徒役だったけど」

 

「うん、やった時は無意識のうちに失敗してたけど……結構外側から見ると、案外すぐ気付けるんだなって思いました」

 

 パンツ見えたりする所も案外すぐに見つけられた。

 

「うんうん、それと、石山さん自身と比較してどうだった?」

 

「あたしと比較すると……一箇所を除いて、めくった回数が多くなりましたよね」

 

 あたしは、自分の記録を取り出し、さっきの幸子さんの様子とを頭の中で比較する。

 

「そうだね、そういう意味では石山さんのほうが成績優秀とも言えるわ。でも幸子さんのあれ、優秀な方ですよ」

 

「ええ、手元の統計ではそうなってますよね」

 

 めくられた回数での成績表があり、幸子さんも「優秀」の水準に収まっている。

 それでも結構間違えてたような気もするけど。

 まあ、あたしが優秀だって言ってたしそんなものかも。

 

「そうだね、でも本当に凄いわよ。塩津さん、初めて会った時は性別適合手術を口走ってたのに」

 

「スカートめくる度に女の子らしくなってたよね」

 

 あたしもあんな感じだった。

 成績が悪いと、恥ずかしがろうとしなくなってしまうという。

 

「……そう言えば、石山さんも最後に仕返しされちゃったね」

 

「あはは、うん……すっごい恥ずかしかったわ」

 

 反撃されるとは思ってなかったのもあったけど。

 

「たまにいるわよ。仕返しにスカートをめくり返してくる子、そう言う時はちゃんと手本となるような恥ずかしがり方をするって書いてあったと思うんだけど、おかげで塩津さんも模範的な反応を覚えたと思うわよ」

 

 そう言えば、講習中は指導者も短めのスカート着用で見せパンの類は厳禁とも書いてあったわね。

 こういう事態も想定しているということね。

 

「や、やっぱりあれが『模範解答』なの?」

 

「うんもちろん、叫び声、仕草、反応、どれをとっても理想的なめくられ方よ」

 

 永原先生があたしの反応を褒めてくれる。

 

「う、うん……」

 

 褒められると嬉しいし、実際あたしが目指してたことだけど、やっぱり恥ずかしい。

 

「さ、じゃあ振り返っていくね。最初はまず制服の着付けだよね」

 

「幸子さん、結構間違えてましたね」

 

「でも、スカートを短くしていたのがプラスだったわね」

 

「うんうん」

 

 まず、制服の着付けについて振り返る。

 襟、ブラウス、リボン、そして、言葉遣いでそれぞれスカートめくりのおしおきになった。

 

「石山さんのおしおきの仕方もよかったわよ。前から後ろから、色々な角度でめくるのは大事よ」

 

 そう言えば、あたしも前から後ろからたっぷりスカートめくりされちゃったっけ?

 

「後は体育座りした時に脚を広げさせたのもマルよ。あれなら、スカートでの体育座りがいかに悪いかもわかるし、めくられるより恥ずかしいシチュエーションになるわ」

 

 永原先生の目がどこか輝いているような。まああたしも、ちょっとだけ楽しかったけど。

 

「後はそうだね……マニュアルからは逸脱してないから大丈夫よ。さ、少女漫画と女性誌の感想文を読みましょうか」

 

「はい」

 

 

 あたしと永原先生で、幸子さんがカリキュラム中に読んだ少女漫画と女性誌の感想文を読む。

 いくつかは漫画喫茶で読んだ漫画を使いまわしている気がするけど気にしない。

 

「永原先生、ここの『悪役の子は風呂に沈められたのではないか』ってどういう意味ですか?」

 

 幸子さんが慌ててたのでスルーしたけど、感想文を読む時は理解のためにも避けて通れない。

 

「え!? あーうん、石山さんはまだ知らなくても……ってそういうわけにもいかないよね」

 

「はい」

 

 言葉の意味を知らなければ正しい評価ができない。

 

「うーん、困ったわねえ……」

 

「え!? どういうことですか?」

 

 怖いけど突っ込まざるを得ない。

 

「つまり、悪役の子は借金を返すためにエッチなお店に売られて……それで不特定多数の男とヤらされることになったってことだよ」

 

「あーうん、そういうことね……」

 

 あたしも苦笑いをして言う。

 

「ふふ、でも、実際のそこの女の子になる子は、今だと単に金が好きで稼ぎたいって人も多いわよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 いくらお金大好きと言っても体売るのはちょっと嫌よね。あたしも汚されるのは浩介くんだけにしたいし。

 

「ふふっ、石山さんも、将来そこに就職しないとしても、篠原君のために技法を覚えておくのもいいわよ」

 

「ふえ!?」

 

 突然のことにあたしは動揺してしまう。

 

「マットとローションを買って泡姫プレイだよ。普通は不特定多数の男性を相手にする泡姫を独占できるとあらば、愛しの篠原君の満足度は高まるわよ」

 

 永原先生が自慢げに言う。

 確かにそうだけど……やっぱり恥ずかしいような……

 

「おっと、話がそれちゃったわね。どちらにしても、どの感想文も成績優良よ」

 

 少女漫画と他の漫画の違いや、物語をよく読まないと書けない感想が多い、特に悪役の子に対する感想はなかなかの想像力だ。

 

「さて、明日のカリキュラムだけど、多分もう心配はいらないと思うわ。もちろん、何か失敗したらおしおきだけど、お母さんもおしおきに迷いは無いんでしょ?」

 

「はい、だらしなく休憩して、スカートめくりしたみたいです」

 

「ふふっ、石山さんも引っかかったんでしょ?」

 

「う、うん……」

 

 考えてみると、あたしも人生で男子女子問わず(男子は浩介くんだけだけど)数え切れないくらいスカートめくりされて、その度に恥ずかしい思いをして来たけど、あの時母さんにめくられたのが最初だったわね。

 

「あれ? 何思い出してるの?」

 

「ああうん、あたしが最初にスカートめくられたのが、ちょうどあの時だったわねって」

 

「あはは、石山さんってガード固いけど結構パンツ見せてるほうじゃない?」

 

「そ、そうかな……着替えの時の女子同士でも特に狙われてる印象はないけど……」

 

「だって、彼氏もいるじゃない。篠原君も、石山さんのスカートめくったりするんじゃない?」

 

 永原先生が突っ込んでくる。

 

「……ノーコメントで」

 

「あらら、まあいいわ」

 

 でも確かに考えてみるとカリキュラムの時や浩介くんと二人っきりの時も考えると、他の女子よりパンツ見せちゃってる方かも。

 クラスであたしの他に彼氏いるのは龍香ちゃんだけどもしかしたら龍香ちゃんに次ぐナンバー2かな? あうあう……恥ずかしいのに今までめくられたのを思い出しちゃう。

 

「石山さん、どうしたの? 私の話はまだ続いているわよ」

 

「あ、はいすみません永原会長」

 

 永原先生の言葉を思い出し、本題に戻る。

 

「それで、ここまでのフィードバックはいいわ。それよりも凄いのは『性別適合手術をする』と言ってた子をこんなに短時間でここまで持ってきたことよ」

 

「はい」

 

「これは会としても素晴らしい財産よ。今後のマニュアルにも、変更を加えていきたいわ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 また、褒められてしまったわね。

 

「ふふっ、やっぱり若い石山さんを思い切って正会員にしてよかったわ」

 

 そう、もしあたしが正会員にならなかったら、あの時の会合で担当カウンセラーを申し出なかったり、あるいは、投票で否決されていたら?

 幸子さんは男に戻ろうとして、自殺という結末を迎えただろう。

 

「はい、私も正会員を、今回の仕事を引き受け良かったです」

 

「ふふっ、塩津さん、運がよかったわね」

 

 永原先生が笑顔を見せる。

 全く実感が沸かないが、あたしと永原先生の決断が、あたしの指導が、一人の女の子の命を救ったことになる。

 

「ともあれ、カリキュラムもまだ終わりじゃないし、後処理もあるわよ。女の子になりきった後も不老故の悩みが出てくるわよ」

 

「でもそれは……」

 

「うん、そうだよね。石山さんの場合、むしろ私が石山さんの担当カウンセラーとして相談してあげないといけないわよね」

 

「う、うん……」

 

「ま、でもそれは大分後の話よ。今はまだ、考えないでいいわ。ところで石山さん、実はもう一つ、あなたに教えるべきことが残っているわよ」

 

「え!?」

 

 永原先生の言葉に驚く。最終試験にも合格し、まだ教わることが残っているとは夢にも思っていなかった。

 

「これはね、日本性転換症候群協会の会員に定着していると判断した時に、会への更なる定着を図るために行っているわ」

 

「はい」

 

「いい? 私たちは不老だけれども不死じゃないわ。不慮の事故に巻き込まれたら、一人のか弱い女の子よ」

 

 永原先生が今までとは打って変わって真剣な顔をする。

 

「は、はい……」

 

「実はね、江戸生まれのTS病の女の子のうち一人が交通事故で死んだって言ったでしょ?」

 

「う、うん……」

 

 確かにそういう話を聞いたわね。

 

「実はね、その子は旅行好きで、よく自動車を使ってたわ。あの時はまだ今のように飲酒運転の取り締まりも厳しくなかったのよ」

 

「ま、まさか?」

 

「そう、山道を飲酒運転して、崖から車ごと落ちたのよ」

 

「ひどい……」

 

「いい? 毎日乗って数百年に一度あるかないかって言うのは、普通の人なら無視できる確率の低さでも、私たちにとっては看過できない高率よ」

 

「うん、確かに……」

 

「私たちは不老とあって免疫力という意味では頑丈よ。だから、例えば身体に害のあるタバコ程度ではびくともしないわよ。さすがに麻薬はダメだけどね」

 

「うん……」

 

「そして酒にも酔うわよ。いい? 私達にとって酒はタバコより遥かに危険よ。酒は20歳になっても飲んじゃダメよ、車の運転も論外だし、酔っ払えば駅のホームも危なくて生存率は落ちるわ。一般人なら気にしないと言っても、私達にとっては無視できないのよ」

 

 確かに、それは言えているわね。

 

「それから移動手段。いい? これも自動車はなるべく使わないでね。バイク自転車も論外よ。特に自転車はスカートでパンツ見えたりすることもあるからなおさらよ」

 

「はい」

 

 それも分かる。

 実際、「そんな心配するなら明日交通事故に遭う心配をしろ」というのはよく言われる定型句だ。

 また歩く時も危険がいっぱいで、歩道と車道との境目が曖昧な場所などには極力立ち入らないように言われた。

 

「バスも、格安のものに手を出しちゃダメよ、去年も大きな事故があったでしょ?」

 

「えっと、崖に落ちたのだっけ?」

 

「そそ、安いものは安全を犠牲にしていると思いなさい。それと同時に、食品もよ」

 

「食品……」

 

「そう、食の安全に問題のあるものは食べちゃダメ。ちょっとくらい不健康なら不老遺伝子が何とかしてくれるけど、さすがに猛毒までは対処しきれないからね」

 

 そう言えば、物心付く前からだけど色々な国で食の安全とか騒がれてたみたいだし。

 本当に気をつけないと。

 

「さて、交通事故対策に戻るわね。生存率の高い座席について教えるわ」

 

「うん」

 

「統計的には、バスの場合、運転士のすぐ後ろの席の生存率が高いわよ。いい? シートベルトは必ず着用よ。それから、もし何か異常な運転をしてたら、この姿勢を取って?」

 

 永原先生は頭を抱えて身体を前に曲げるように倒す。確かに生存率が高まりそうな姿勢だ。

 

「最も、そもそもバスじゃなくてなるべく鉄道や飛行機、特に新幹線を使うべきよ。線路や空の事故率は道路よりずっと低いわ」

 

「うん」

 

 それも知っている。永原先生や余呉さんなんかは人生が長いから、実感もありそう。

 

「道路はどんなに気をつけていても、狂人が1人いるだけで極めて危険な場所になってしまうわ。それに比べて、鉄道や飛行機は、限られた資格のあるエリートだけが運転している乗り物だからよ。ここまで分かった?」

 

「はーい」

 

「で、飛行機は事故を起こすと全員死亡というケースも多いけど、それでもなるべく後ろの座席を選ぶことで、少しでも生存率を上げられるわ。鉄道も同じね、後ろの車両のほうがいいわ」

 

「どうして?」

 

「統計よ」

 

 まあ、永原先生もその手の専門家じゃないしそうとしか言いよう無いよなあ。

 

「うん」

 

 せっかく不老になったんだし確かに長生きはしたい。

 でも、浩介くんがいない生活って出来るんだろうか? ちょっとだけ不安になる。

 

「篠原君のこと? うん、大丈夫。私は恋愛経験ないけど、うちの会には彼氏や夫と死別して数十年と経つ人がたくさんいるわ。そういう人たちに聞いてみるのもありよ」

 

「はい」

 

「いい? 不老が悲惨だって言うけど、それは孤独だからよ。日本性転換症候群協会みたいに、仲間で集まれば、案外平気なのよ」

 

「そういうものですか……」

 

「うん、そういうものよ」

 

 そうか、あたしをこの会に入れたのも、TS病の女の子たちが寂しくならないため、でもあるのよね。

 浩介くんがいなくなってしまう世界なんてまだ考えられないけど、それでもあたしは、孤独ではない。

 永原先生がいる、余呉さんがいる、比良さんがいる。みんなあたしのことを受け入れてくれて、それどころか「みんなの模範」、「救世主」とまで言ってくれた。

 

 幸子さんだって、まだ完全に安心できたわけじゃないけど、あたしたちの新しい仲間。

 

「うん、あたしもまだ浩介くんがいないと生きていけないけど、もしその時が来ても……もしかしたら寂しくならずに済むかもしれないわね」

 

 実感もまだ全く沸かないけど。

 

「ふふっ、いい? 私達は不死じゃないから、今でもたまに仲間が命を落とすわ。大抵は不慮の事故よ。本当にどうしようもない事故も多いけど、気をつけていれば死なずに済んだ事故もあったわ。さ、まだ続くわよ」

 

「まだですか?」

 

「ええ、自分たちの身を守るためのものよ。せっかく不老なのに事故で早死じゃ嫌でしょ?」

 

「う、うん……」

 

 永原先生の講義は続く、鉄道の時はみだりに線路外に出てはいけないとか、ホームの端を歩いてはいけないとか、歩きながら携帯やスマホをやってはいけないとか一般常識レベルのことも話している。

 また、絶対に登山をしないこと。海水浴では沖には絶対に行かないこと。警察の人などに「危険」と言われた場所には絶対に近付かないこと。

 また事故だけではなく事件対策も必要不可欠で、まず治安の悪いとされる地域を出歩かないこと、土地勘もなくなるので海外旅行も避けたほうがいいこと、恨みを買われるようなことをしないこと、特に恋愛面では簡単に別れると危ないとか言っていた。

 まあ、今はどっちかって言うとあたしのほうが浩介くんにゾッコンだから、その心配はなさそうと永原先生は笑っていた。

 

 永原先生によれば、これらに気をつけるか気をつけないかで計算上平均寿命が数千年単位で変わってくるとか。

 

「永原先生はいつまで生きるつもりなの?」

 

 ふと聞いてみる。

 

「うーん、地球の終わりは見てみたいわね。少なくとも数億年先だし、確率的にはまず無理だけどね」

 

 やっぱりそれだけの単位になるとどうしても事故に巻き込まれるのかな?

 

「そ、そうですか……」

 

「でもひとまず1000歳……の前に970歳かな」

 

「え? 970歳?」

 

 何でそんな中途半端な年齢を目標にしているんだろう?

 

「ああうん、知らないならいいわよ。ただの個人的な目標だから」

 

 深く聞かないようにしておこう。どうせ470年後には分かるし……って早速毒されてるよ。

 やっぱり不老と言ってもまだ17歳だしやっぱり10年後さえイメージ付かないや。

 

「さ、安全講習はこれで終了よ。今の話、よく覚えておくのよ。また聞きたくなったり、危ない目に遭ったらしますからね」

 

「は、はい……」

 

 ともあれ、安全に過ごすというのはいいことだ。

 あたしは永原先生の安全講習を受け、慎重に周囲に気をつけながら家路についた。

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