永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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クリスマスイブの電気屋さん

  コンコン

 

「入っていい?」

 

「あ、いいよー」

 

 浩介くんから許可をもらい、開ける。

 例え結婚しても、このやり取りはしないといけないよね……って、早速あたしも毒されているわね。

 

「ふう」

 

 一仕事終わったという感じであたしは息をつく。

 

「ゴメンな優子ちゃん、うちの両親が迷惑かけて」

 

「ううんいいのよ」

 

「でもよ、いますぐ来て、家事手伝ってはちょっとなあと思うんだよ」

 

「いいのいいの、あたしだって、浩介くんのお母さんのこと傷つけちゃったし、それにお父さんお母さんが言うように、まだ早いと言ってもこのままの関係が続けばいつかは必要なことだったから、ね」

 

「そ、そうか……やっぱり結婚ていうのは……」

 

「うん、考えたことは……あるよ」

 

 大学が別になっても大丈夫という自信こそあったけど、そうじゃなくてもやっぱり結婚というのは意識してしまう。

 

「俺も、やっぱり意識しなきゃいけないのかなって……両親の様子を見てたら、さ」

 

「うん、そうだね。でもその前に、デートしたいかな?」

 

「……うん、俺も」

 

 浩介くんと二人で、今日は電気屋さんデート、そして部活としての天体観測、こちらは桂子ちゃんと坂田部長も居るからデートというわけじゃないけど、終わったらクリスマスイブからクリスマスにかけてのお泊りデートが待っている。

 ここがデートスポットになるというのもある意味珍しい。

 

 世間はどこもかしくも「クリスマス商戦」と言っている。

 あたしもクリスマスプレゼントは浩介くんのために用意してある。きっと喜んでくれるはず。

 

 結婚のことも含め、将来のことを意識しなきゃいけないし、いつか来る「死別」ということについても、いつかは考えなきゃいけない。

 それでも、今は先送りにするしかない。

 

「さ、行こうか」

 

 お昼ご飯も終わり、あたしたちは電気屋さんへ向けて移動することになる。

 

「あら、行くの? どこに?」

 

 家を出る前にお母さんに呼び止められる。

 

「あーうん、電気屋さん」

 

「へー、またどうして?」

 

 馴染みの薄いデートスポットに、お母さんも驚きの表情をする。

 

「あーうん、実はあたし、ひどい肩こりで……」

 

「あーうん、そうだよね……うん」

 

 浩介くんのお母さんが、あたしの胸を見てちょっとだけ嫉妬している風に見える。

 あたしは巨乳というより、爆乳としてTS病になったからよく分からないけど、やっぱり貧乳ってコンプレックスになるのよね。

 もちろん、肩こりを筆頭に巨乳には巨乳なりの悩みもあるけど、巨乳をコンプレックスにしちゃいけないよね。浩介くんも男の例外に漏れず、おっぱい好きだし。

 

「とにかく、そういうわけです。この後は天体観測と、あたしの家でデートするので、浩介くんは翌日帰ってきます」

 

「分かってるわ」

 

「それじゃ……いってきます」

 

「いってきまーす」

 

 あたし、次いで浩介くんが「いってきます」をする。

 

「いってらっしゃーい、イチャイチャしすぎないでねー」

 

「「はーい!」」

 

 二人で同時に返事する。

 うーん、何か相性が良さそうな気がするわね。

 

「ふう……」

 

 あたしは何の気なしに肩を回す。

 

「優子ちゃんどうしたの?」

 

「あーうん、肩こっちゃって……」

 

「そうか、じゃあ早く電気屋さんに行こうか」

 

「うん」

 

 浩介くんと駅に向かう、どうしても、あの時を思い出してしまう。

 あたしが浩介くんの性欲に訴えかけて、でも浩介くんは「責任取りたい」と必死で堪えた話。

 

 本当は浩介くんの意思を尊重しなきゃいけない。分かっているのに、どうしても、どうしても誘惑したくてたまらなくなってしまう。

 女の子の性欲は半端ない。本当に男はエロばかりだが、タガが外れた女の子のそれはもっと凄まじいと思い知った。

 ……あたしだけかもしれないけど。

 

 ともあれ、電車でもと来た道を戻る。といってもあたしの家は過ぎるけど。

 

 やっぱりあたしと浩介くんでカップルとして歩いていると、注目の的。

 あたしは見せつけるように浩介くんと腕を絡めてみる。

 

 

「ねえ、何あのカップル……」

 

「クリスマスだからっていちゃつきやがって」

 

「あーうぜぇ……」

 

「ホント最近の男ってダメだよな」

 

「なあ。どうせデレデレに甘えてるだけなんだろあいつ……」

 

 

 女2人組があたしたちに陰口を叩いている。

 見ると近くの女子校の制服を着た2人組の女だった。

 モテない女がクリスマスで僻む。そしてどんどんブスになっていく。

 

 超が付く美人2人を押しのけてミスコンで優勝するくらいのかわいくて美人のあたしはこうやってかっこいい浩介くんを彼氏にし、浩介くんを含める周囲からも褒められて自信を深め、ますますかわいくなっていく。

 

「どうしたの優子ちゃん、機嫌がいいじゃん」

 

「あーうん、ちょっと気持ちよくてね」

 

「あーもしかして、あの女たちの陰口?」

 

 やっぱり浩介くんにも聞こえていたみたい。

 

「うんうん、丸聞こえだってのにねえー」

 

「そうだなあ……俺も、クラスの男子が妬んでるのは気分いいけど……」

 

 浩介くんが言葉に詰まる。

 

「うん、気を引き締めないとね」

 

「そうだな」

 

 ミスコンの時、永原先生と桂子ちゃんに抱いた邪悪な感情。

 永原先生と相談して、消そうと決心した心。どうしても気分良くなってしまうのは仕方ないけど、だからといってそれを態度に表したりしちゃいけない。

 例えどれだけの時が経っても、あたしは両親からもらった「優一」という名前を汚した罪人だということを忘れちゃいけない。

 この病気になって、「今度こそ優しい子になる」という決意を込めて、自分を「優子」と名付けた。

だから、絶対に優子を守らないと。

 

「あの2人も、ちゃんとすれば彼氏ができるわよ」

 

「そうだといいな」

 

 

「やべっ、聞かれてるよ……」

 

「にしてもよお、ウチラに彼氏か……」

 

「出会い、見っけねえとな……」

 

 

 あたしは心の中で「まずはその言葉遣いと態度から直さないとダメよ」と言うことにした。

 

 駅から出ると家電屋さんはすぐそこ。

 商店街が発展的解消を遂げたデパートの隣のビル、映画館が最上階に入っているビルの最上階以外が、電気屋さんのテナントになっている。

 

 浩介くんも最近ちょっと鍛えすぎてて身体が疲れることもあるとのことで、一緒にマッサージ機を使うことになった。

 

「俺、ちょっと足が弱いんだよなあ……ふくらはぎ?」

 

「あー、歩き疲れていたりするとそうよねー」

 

「優子ちゃんは相変わらず肩?」

 

「うん、腰の方は猫背を治すために頑張ってるから大丈夫なんだけど……肩はもうどうしようもないみたい」

 

「すごく重そうだもんな……」

 

「うん、とてつもない錘よ」

 

 もちろん、錘を軽くするのは女の子として、絶対に嫌なところ。

 

 さて、マッサージ機のコーナーにやってくる。

 マッサージ機のコーナーはエスカレーターで2階にある。とにかく肩こりを直さないと。

 

 さて、店内はと言えば、案の定クリスマス商戦どうのこうの一色で、内装もクリスマス仕様。

 更にお買い物でもらえるサービスもクリスマス関連と、これでもかというくらいにクリスマスを強調している。

 しかし、お客さんは家族連れが多く、カップルはあまり居ない。

 

「マッサージ機はここだね」

 

 以前にもここのお店ではデートしたことがある。

 様々なマッサージ機を試用すると言うが、もはや完全に治療目的ではある。

 浩介くんもあたしも、今のお金じゃマッサージ機なんて買えないし。

 でも、あたしがいかにも肩こりがひどそうな容姿をしているためか、店員さんにあれこれ言われることはない。

 

  ピッ

 

 あたしはマッサージ機のボタンを押して、「肩こりコース」を選択する。

 林間学校で永原先生たちと肩こりをマッサージして以来、すっかりマッサージ機の魅力に取り憑かれてしまった。

 とはいえ、顔を覚えられない程度にしてあるけど……でも、この容姿じゃ覚えられちゃうかな?

 

「んーっ! 気持ちいい!」

 

 リクライニングを思いっきり倒してくつろぐ。スカートも足元まであるから、リクライニングも安心。

 浩介くんは「ふくらはぎコース」で、疲れた足を癒やしている。

 

「浩介くん、普段腕と足どっち鍛えてるの?」

 

「うーん、最近は足なんだ。少し前までは優子ちゃんを守るために腕力だったけど、踏ん張りを付けるためにも下半身も鍛えたほうがいいかなって」

 

「そうなんだ。あたし、優一だったくせに筋トレとか全然分からなくて……」

 

「あはは、でも、今はもうそんなの必要ないだろ?」

 

「うん、浩介くんが筋トレで鍛えている間に、あたしは女の子の魅力を総合的に鍛えるわよ」

 

 わざわざ、浩介くんが得意な「強さ」「たくましさ」「頼もしさ」で勝負する必要はない。

 ギスギスしちゃうし、浩介くんもあたしにそれを望んでいない。

 あたしの長所だって殺しちゃう。

 

 あたしに望まれているのは「エロさ」「かわいさ」「美しさ」、そして「優しさ」「母性」「家庭的」、これらなら、浩介くんもあたしに張り合うことはない。

 

 女の子らしい女の子だからこそ、男にモテる。

 男は、どうしたって男だ。無理に女の子らしくなろうとしても、限界がある。

 どうしたってあたしみたいな本物の女の子には勝てない。

 

 でもそれは逆も同じこと。だから、良きカップルになるためにも、お互いの欠点を補い合って、長所を伸ばしていくべきなの。

 

 あたしは、マッサージで体を癒やしながらそんなことを考える。

 

「あー気持ちいいーー!!! そこ、そこなのおっ!!!」

 

 あたしは、機械に意味もなく話しかける。プログラムに心なんてあるわけないけど、それでも、規則的なマッサージで、あたしの方は随分とほぐれた。

 

 ……まあ、明日にはすっかり元通りにこっちゃうんだけどね。

 

「ふう、このくらいかな?」

 

 一通りコースが終わったので、あたしと浩介くんはマッサージ機を立つ。

 

「自作PCのコーナーに行く?」

 

「うん、行きたい」

 

 浩介くんの自作PCの話を聞くのは結構楽しい。

 これは「男」が残ったというよりも、あたしが父さんから受け継いだ好奇心旺盛な性格がそのまま残っているだけ。

 浩介くんの話も楽しいので聞いてて飽きないのだ。

 例えば、一口にCPUといっても色々な世代色々な商品があって、今は主に2つの会社がCPUを出しているけど、ここ数年はずっと大手の会社が優位に事を進めているけど、最近は2つ目の会社の方もハイエンドCPUを出して健闘し始めているという。

 大手の方も、大きく分けて2つの開発チームがあって、それぞれで切磋琢磨しつつも個性があるとも言っていた。

 

 

 更に、浩介くんはデータを保存するハードディスクのコーナーにもやってきた。

 

「SSDっていうのが流行ってるだろ? ハードディスクとどう棲み分けるかという問題は、まだ解決してないんだ」

 

「うん、むしろ結構曖昧だよね」

 

「ハードディスクにしてもSSDにしても、とにかく複数のメディアにバックアップしておけば、大事なデータは守られるんだ」

 

「ふむふむ」

 

「場合によっては、SDカードなどの外付けメディアに保存するのもありだな」

 

 あたしもPCを持っているけど、浩介くんほどに詳しくない。

 だけどこうやって知識をつけていくと、楽しくなるのも事実。

 

「でも、作業をはかどらせるためには、モニターを複数にするといい」

 

「複数?」

 

「うむ、いろいろな用途に使えるぞ。ただしちょっとした知識も要るから注意してな」

 

 浩介くんはモニターには色々なタイプが有るという。

 おなじみのUSBの他にも、HDMIとか様々あって、それぞれの説明書をちゃんと読むべきだという。

 

 浩介くんは、モニターをもう一枚買ってサブで使っている小さく古いモニターを更新したいと言っていたが、「ここには気に入ったのがない」ということで、今回は買わずじまいになった。

 浩介くんによれば、自作PCは「時期が悪い」と思ってばかりいるといつまでも買えないが、かと言っていい時期というのを見極めないと本当に悪い買い物になっちゃうからそこが一番難しいと言っていた。

 

 デュアルモニタ、確かにスマホやタブレット、ノートPCでは、大きな画面を2つつなげるのは難しく、デスクトップPCならではのメリットだという。

 そもそも、こうした小型機器は、小型化のために「詰め込む」必要が有るため、いわば「持ち運び機能」のために、どうしても基礎スペックは犠牲になりがちとも言っていた。

 

 最近はスマホとPCは変わらないなんて言われているけど、浩介くん曰く「それは絶対にない」という。

 確かに、デスクトップ型のほうがスペースに余裕があるので、安価で高性能にしやすく、また複数モニタなどの処理も手頃になっている。

 また、デスクトップPCを「母艦」と表現する人も居るという。浩介くんもそういうタイプだとかなんとか。

 

「そうだ優子ちゃん、もし良かったらなんだけど」

 

「うん?」

 

「優子ちゃんのパソコン、今度俺が見てあげようか?」

 

「……うん、ありがとう。是非お願い」

 

 浩介くんのありがたい申し出。

 

「優子ちゃんガラケーなんだろ? スマホの話題についてこれなくても安心できるぜ」

 

「そ、そう……」

 

 浩介くんが何やら面白いことを考えている様子。

 

 何だかんだで電気屋さんでそれなりに滞在した。

 冬至が12月21日で今日が12月24日だから、殆ど夜が一番長い日に近い。

 だから5時頃でも既に外は暗くなっている。このままなら午後8時前には付くはず。

 太陽が落ち、外はますます寒くなっているけど、まだ大丈夫。

 

 

「じゃあ、小谷学園に行こうか」

 

「うん、天体観測、楽しみだね」

 

 あたしたちは駅に向かい、電車に乗って次の目的地、小谷学園を目指した。地味に今日は結構電車に乗っているけど、ICカードの運賃はまだ余裕がある。

 デートは一時終了するけど、天体観測は天体観測でまた楽しみにしていたことだから、寂しいという感じはなかった。


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