永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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記者会見と家デート

「えーただ今より、記者会見を開始します」

 

 テレビの中ではカメラマン、マスコミ関係者が慌ただしくしていた。

 テレビ画面は現場の生中継だ。

 

「えー、私蓬莱伸吾は、TS病についての研究から、万能細胞より不治の病をある程度治療することに成功しました」

 

「それは一体何でしょうか?」

 

「はいそれは――」

 

 なんだかよく分からない事を言い並べている。

 記者も殆どは意味が分かっていないと思う。いや、さすがに分かるかな?

 

「浩介くん意味分かる?」

 

「いや分からない」

 

 やはり浩介くんも意味不明だった。

 

「そして、もう一つ。我々人間が抱えている最大の不治の病である『老化』についても、ある程度の抑制が可能になりました。今現在の研究成果では人間は平均で120歳まで生きられるでしょう」

 

 会場が騒然となる。

 

「ねえ浩介くん……」

 

「ああ、とんでもないことになってきたな」

 

 あたしたちの病気についての研究成果、蓬莱教授の究極目標、その一つが完成したという。

 いや、完成ではないかな? だって120歳が寿命じゃ不老というわけじゃないわけだし。

 記者たちの騒然とする中で蓬莱教授は言う。

 

「最終的には人類はこの老化から逃れることが出来るでしょう。そう、完全性転換症候群……TS病と呼ばれる人々のように。もしそうなれば、いわゆる少子高齢化問題も霧散するでしょう」

 

 さっきも出てきたあたしや永原先生たちの病名。

 

  ブー! ブー! ブー!

 

 あたしの携帯電話が鳴る。

 かかってきた相手は予想通りの人物、おそらく用事もあたしの予想と同じだろう。

 

  ピッ

 

「はい、石山です……永原会長、蓬莱教授のことですか?」

 

「ええ、話が早くて助かるわ」

 

 やっぱり、電話の用事はそれについてだ。

 

「明日は本部で緊急会合を開くわ。以前より蓬莱先生の不老研究について噂はあったけど、みんな疑似科学扱いして相手にしてなかったわ」

 

「……でしょうね」

 

 不老の人が実在するとしても他の人にそれを応用する何て無茶苦茶な話だ。

 

「しかし、こんな会見をすることになったってことは?」

 

「ええ、何か解決の糸口を見つけたのかもしれないわ。もちろん、記者会見を聞く上では今はまだ未完成だと思うけど」

 

「……問題はどうなるかですよね? 蓬莱教授が生きているうちに完成するんでしょうか?」

 

「分からないわ。緊急会合には蓬莱教授の他にもメール会員以外の全ての会員を招待するわ。おそらく出席率は正会員と普通会員を除くと殆ど居ないだろうけど……ともかく今は記者会見を見ているならそっちに注力してくれる?」

 

「うん、分かったわ……じゃあ切るわね」

 

「はい」

 

  ピッ

 

 あたしは永原先生との電話を切り、再びテレビに集中する。

 まだ記者会見は続いている様子で、更にテレビ画面のテロップには「ノーベル賞学者、蓬莱伸吾氏、人類不老化への道を示す」と言う文字が仰々しいフォントで表示されている。

 

「実用化はいつ頃になりますか?」

 

「まだ計画段階ですから120歳の今のこれも完成まではまだ数年、実用化はもっと先になるでしょう。もしかしたら俺ではなく瀬田さんが実用化させるかもしれません」

 

 テレビでは記者会見で蓬莱教授と新聞記者との問答が続いている。既に蓬莱教授が倫理を無視する傾向にあることは知られているのか、倫理面に関する質問をする記者はいない模様。

 

「……なあ優子ちゃん、インターネットが凄いことになっているよ」

 

 浩介くんが、スマホで簡易つぶやきサイトを見せてくれる。

 

「うわー」

 

 見てみると、あっという間にタイムラインが流れていく。

 更にトレンドも「不老化」「TS病」「蓬莱教授」「記者会見」「佐和山大学」「ノーベル賞」などで独占されていて、すさまじい状況になっている。

 

 そんな中で、もう一つ気のなるトレンドが出ている。

 「永原マキノ会長」、言うまでもなく永原先生のことだ。

 

「永原先生が、どうしてインターネットで?」

 

 日本性転換症候群協会のことかな?

 

「なあ、見てみるか?」

 

「う、うん……」

 

 「永原マキノ会長」のトレンドキーワードで検索してみたら、「年齢は来年で何と500歳! 日本性転換症候群協会の永原マキノ会長は戦国時代の生き証人、武田家に仕官していたとの噂」という題名の、まとめサイトへのリンクだった。

 

「情報が錯綜しているわね」

 

 確かに真田家は武田家の傘下だった時代が長いけど、永原先生が仕えてた時代は独立勢力だったし。

 他にも、300歳だとか1000年前から生きているなんていう書き込みもある。

 おそらく噂の出処は小谷学園だろうけど、小谷学園では永原先生は真田家で499歳ということは正確に伝わっていたし、伝言ゲームって怖いわね。

 

 更に記事を巡っていくと、「日本性転換症候群協会のTS病患者が即ハボ過ぎる件」なんていう記事を発見した。

 

「浩介くん、『即ハボ』って何?」

 

「ああうん、その……何だ? 一目見て性欲のままにって意味だな。正式には『即ハメボンバー』っていうんだ」

 

「や、やっぱりそういう意味なのね」

 

 確かに協会の会員たちは美人揃いだったけど。それにしても「即ハメボンバー」って……

 ともあれ、そこを見てみると、協会ホームページで公開してあった永原先生や比良さんなどの画像が転載されていた。ちなみにあたしの画像はない。

 そして案の定「中身は男」という書き込みが見受けられた。

 

 これこそ、あたしたちが戦わなくてはいけない言葉。

 インターネットの掲示板でもその点で論争になっている。

 「いや100歳超何だろ?」とか「三つ子の魂は万までだ」何て言っている人もいる。

 

「ねえ浩介くん」

 

「ん?」

 

「水族館でね、あたし蓬莱教授に『いつか佐和山大学で偉大なことをする』って言われたわ」

 

「あーそんな話もあったような気がする」

 

 どうだったっけ? 浩介くん居なかった気もするけど。虚偽記憶かも。

 

「もしかして、あたしの進路って……」

 

「ああ、もしかしたら佐和山かもしれねえぜ」

 

 そんな気がしていたけど、あたしは本当に佐和山大学に行くのだろうか?

 偉大なこと、つまり不老化を実現するということ。

 

「もしかして、あたしたちも、ずっと一緒にいられるのかな?」

 

 あたしが問いかける。

 

「もし、もし俺も優子ちゃんと同じ不老なら、永遠の愛を誓えるぜ」

 

 結婚式ではよく「永遠の愛を誓う」「死が二人を分かつまで」という言葉がある。

 もちろん、あたしたちは完全な不死ではない以上、それはいつか訪れることには変わらないけど、不老でない人に比べれば、ずっとずっと先のことには変わらない。

 

「浩介くん、あのね。あたし……」

 

「うん」

 

「あたしもね、浩介くんとずっとずっと一緒になりたいわ」

 

 やっぱり、その気持ちがある。

 

「じゃあさ、目指すか? 佐和山?」

 

「そうだね、あたしの偏差値だと低すぎるけど……蓬莱教授とも話し合ってみたいわね……会えるかはわからないけど」

 

 佐和山大学に進んだとして、蓬莱教授の研究に参加できるとは限らない。蓬莱教授の研究所は間違いなく人気だからだ。

 

「えー記者会見がたった今終了しました」

 

 番組はあわただしく、地上波では1局がテレビアニメを流している以外、すべてのテレビ局が緊急特番を組んでいる。

 

 そして、識者を呼ぶ時間がないのか、アナウンサーと芸能人が好きかって言いたい放題している。

 そんなんだからテレビ離れって言われるのに。

 

 ともあれ、蓬莱教授の研究成果は、まだ120歳レベルの話。

 理論上は1000年でも2000年でも生きていけるあたし達からすれば、まだ不十分なレベルと言える。

 

 それでも、大きな前進であることには違いはなく、テレビ・インターネットを問わず、蓬莱教授の話題で持ちきりになっている。

 

 

「とりあえず、浩介くん」

 

「ん?」

 

「遅くなっちゃったけど、夕飯、作るね。その前に準備するから待っててね」

 

「うん」

 

 とりあえず、そろそろデートに戻らないと、確かに他の人よりもより大きな一大事だけど、せっかくの恋人同士で2人っきりになった最初のクリスマスなんだし。

 

 暖房もかなり効いてて、このままだと少し暑いので、あたしは自室で着替えることにする。

 

 ロングスカートとストッキング、また厚着になっている上も脱いで、赤い服と赤い巻きスカートのセットを用意する。

 そして、エプロンも取り出し、料理っぽく見せる事を考える。

 

「は、裸エプロンになってみようかな……」

 

 そんなことを考えたあたしは、下着も脱いで一糸纏わぬ姿になる。

 やっぱり、この姿はエロい。そしてそこにエプロンだけつける。

 

「あうう……お尻丸出しだよお……」

 

 ダメダメ! 恥ずかしすぎてできない!

 あたしは気持ちを切り替えて、いったんエプロンを脱いで、下着を付けてさっき出した服を着て、エプロンをつける。

 

 服は赤だけど、エプロンはオーソドックスな肌色になっている。

 

  ガチャ……

 

「お待たせーどう?」

 

「お、似合ってんじゃん!」

 

 浩介くんが下心のない朗らかな声で言う。

 裸エプロンだったら間違いなくあの時と同じく硬直していたに違いないわね。

 

「うん、ありがとう。じゃあ待っててね」

 

 そんな浩介くんを見て、あたしも自然と笑顔があふれ出る。

 よし、今日は腕によりをかけて作っちゃおっと。

 

「浩介くん、チャーハンでいい?」

 

「うん、いいよ!」

 

 あたしは、母さんに教わった通り、チャーハンを作る。

 母さんがやっていた様に料理をする。

 あとは浩介くんの味覚次第だけど、デートをした限りでは極端な濃い味薄味の好みは無いと考えてよい。

 

 テレビでは、相変わらず蓬莱教授のニュースについて、ようやく到着した有識者があれこれ議論をしていて、その様子を浩介くんが見続けている。

 

 チャーハンを炒める音とニュースでの議論、それらの不協和音が響く。

 ちょっと聞いていると、「この技術を受けるのは少子化で人口減少に悩む国に限定するべきだ」と言っている有識者もいる。

 不老は人類の夢とは言ってもやはり人口問題は避けて通れないみたい。

 またいるいらないとかそういう議論も多い。やっぱり老いて死んでいくのがいいという人もいる。

 

 そんなことを考えながらも、料理にも手を抜かない。

 優一だったら、こんな器用なことはできなかった。

 

 あたしは浩介くんが食べる量も考えて、普段三人分作っているのと同じ量を作る。

 もし余ったら、明日の朝ごはんに再利用するのだ。

 

 あたしはそれぞれのお皿にチャーハンを盛り付けて、運ぶ。

 

「浩介くんー! 出来たわよー!」

 

「おう、ありがとう!」

 

 あたしがご飯を作り、浩介くんが休みながらテレビを見ている。

 

「美味しそうだな!」

 

「ありがとう……それじゃあ……」

 

「「いただきます!」」

 

 浩介くん、きっと疲れ切ってるんだろうなあ。

 デートでもずっとエスコートしてくれてるし、ここくらいあたしが頑張らないと!

 

「うん、うまい」

 

「そう? よかったわ」

 

 あたしと浩介くんが食べて行く。

 浩介くんの方がかなり量が多いけど、例によって先に食べ終わったのは浩介くん。

 浩介くんは余裕の表情だけど、あたしがちょっと苦しい。

 うーん、一口残しちゃおうかな?

 ……いや、ここはこの手で!

 

「ねえ、浩介くん、もしかして、足りなかった?」

 

「ああうん、もう少し食えるぜ」

 

「じゃああたし、ちょっと多いから……」

 

 あたしが残ったチャーハンをスプーンに置くと、浩介くんも察したのかごくりとつばを飲み込む。

 

「はい、あーん!」

 

 あたしも恥ずかしいけど、ニッコリ笑って「あーん」と言う。

 

「あ、あーん……」

 

 浩介くんがパクりとチャーハンを平らげる。男らしいその食べ方にも、あたしは魅力を感じてしまう。

 

 浩介くんとあーんをしたのは文化祭の時以来、やっぱり誰かがいそうなところでは、恥ずかしくてできないことだ。

 

 

「もうこんな時間だ」

 

 チャーハンを食べ終わると、もう結構な時間になってしまっていた。

 

「お風呂にする?」

 

「うん」

 

「じゃあお湯を沸かすね」

 

 あたしが向かおうとすると、浩介くんがちょっとだけ寂しそうな表情をする。

 

「もしかして、一緒に入りたい?」

 

「うぐっ」

 

 あ、図星のど真ん中をついてしまった。

 

「お、お泊りデートでしょ!? あ、あたしはいいよ……!」

 

 あうう、恥ずかしいよお……!

 

「そ、その……ひ、一人で入る!」

 

 浩介くんが真っ赤になった顔をそらしながらぶっきらぼうに言う。

 

「そう? ともかく、沸かしてくるわね」

 

「あ、ああ……」

 

 浩介くんと一緒にお風呂……今はまだ無理だけど、いつかしてみたいなあ。

 

 あたしはお風呂場に向かうと中が空なのを確認してから「自動」のボタンを押す。

 「お湯張りをします」という機械音声が聞こえたら浩介くんの元へ。

 

「ただいま」

 

「ああ、ところで、さっきの電話は何だって?」

 

「ああうん、明日緊急会合だって」

 

「そうか」

 

 

 テレビでは相変わらず蓬莱教授の緊急記者会見に関するニュースばかり。

 いい加減に同じことを繰り返して飽きてきたので、緊急特番を組んでいないチャンネルに合わせる。

 お、どうやら旅番組で、温泉地めぐりをしているらしい。

 

「ゆったりしているわね」

 

 どこもかしくも同じ内容の特番を組んでいる中で、一局だけ違うことを放送していれば、視聴率は上がりそうよね。

 多分、今地上波で一番視聴率高いのここな気がする。

 

「温泉いいなあ……」

 

「うん、いつか二人で行ってみたいね」

 

「でも、優子ちゃんを混浴には入れたくない」

 

 浩介くんが独占欲を告白する。

 

「ふふっ、家族風呂があるといいわね」

 

「そうだよね」

 

 そんなことを話していると、短いメロディーとともに「お風呂が沸きました」という機械音声が流れてきた。

 

「あ、浩介くん」

 

「うん、行ってくる」

 

 浩介くんが鞄からパジャマのセットを取り出し脱衣所へ向かっていく。

 

 あたしはテレビを消し、一人で考える。

 浩介くんとお風呂に入る。

 浩介くんに見せたのは下着までで、その中身は見せていない。

 裸だって、林間学校のお風呂でクラスの女子たちと永原先生に、そして夏祭りの浴衣選びの時に母さんに、そして幸子さんと温泉施設に行った時に女湯に入った時に見られただけ。

 

 男の子に……異性に裸を見せたことはまだ無い。

 

「……」

 

 どうしても、浩介くんが頭から離れない。浩介くんの鍛えぬいた体を見たくてたまらない。

 

 あたしは自然と足が脱衣所へと向かっていく。

 浩介くんにバレないように、ゆっくりとドアを開ける。

 

 そこはもう、水の音が聞こえる。聞こえないように、慎重に慎重に。

 ここはあたしの家なのに、まるであたしが泥棒さんみたい。

 ふと脱衣所のかごに目をやる、そこにはさっきまで浩介くんが着ていた服が見える。

 あたしは浩介くんの匂いを想像する。

 

 そういえば優一はどういう匂いだったっけ?

 うーん、臭い男の匂いだったわよね。浩介くんだってきっと同じ匂い。

 でも、今はその匂いが不思議と愛おしく思えてしまう。

 本当にあたしは何もかも女の子で。よし、嗅いでみようかな?

 

 

 「ダメでしょ! そんなこと思ったら、そんなことしたら、浩介くんに幻滅されちゃうでしょ優子!」あたしの中の天使が警告の言葉を放つ。

 

 「何言っているのよ! むしろ本当に好きならこれくらい受け入れてくれるわよ! 欲望に正直になりなさいよ優子!」あたしの中の悪魔が誘惑の言葉を放つ。

 

 

 あたしは天使と悪魔の脳内会議を打ち払うとあたしは浩介くんの脱いだTシャツに手をかけた。

 うん、大丈夫、もしバレたとしても、ちょっと興味があったって、そう言えばいいわ。


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