永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
永原先生に連れられて、非常階段から教室に戻る前にいつも普段自分たちの使っている下駄箱に来た。
「石山さんの所は、『2年2組 石山優一』って書いてあるけど、ここはもう使えないわ。あ、そうそう、学校の上履きはお母さんが持ってて」
元々あった男だった頃の上履きを母さんに渡す。
そうだ、うちは男子と女子で下駄箱も別れている。
「はい、分かりました」
「で、明後日からなんだけど、こっちを使ってくれる?」
永原先生は女子の下駄箱の方に移動する。
「はいこれ見て」
そこには新品のシールで「2年2組 石山優子」と書かれていた。下駄箱はちょうど一番端で膝あたりの位置だ。
何だろう、こうして見るとすごく嬉しい気がする。
「中開けてみて、石山さん」
「うん」
一旦しゃがんで身体を右に傾けて、中を開けるとローファーが……
ふぁさっ!
「ひゃあっ!」
……って後ろからめくられたよもー
「こら! 女子の下駄箱だからって油断しない! ここは男女共学よ」
「下駄箱に正面向いていれば確かに見えないけど、この短さだと今みたいにちょっとした拍子で見えちゃうわよ。身体を右にやったらアウト、いいね?」
「は、はい……」
「ちゃんとずっと女の子やってる子ならいいけど、優子は女の子初心者なんだから!」
「は、はい……」
「ささ、女の子がはしたなくした罰よ。暗示かけてね」
私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……私は女の子……パンツ見られて恥ずかしいよ……
なんか永原先生にいいように乗せられてる気もするけど、乗ったほうがいい案件なんだろうなあ……
と、とにかく、前屈のような姿勢で取るしか無い。
でも骨硬いしなあ……お、意外とうまく言った。
手探りで靴を取り出すと、やはりローファーが見えた。女子用の外履きだ。
「履いてみて?」
「う、うん」
靴を履いてみる。窮屈さはない。
「きつくない?」
「大丈夫」
「じゃあこれも履いてみて?」
永原先生が取り出したのは学校指定の内履きだ。
「うん、これも大丈夫」
「そういえば、今気づいたんだけど……」
母さんが言う。
「うん?」
「私達、土足で上がっちゃいましたけど大丈夫ですか?」
「うーん、そういえばそうねえ……」
「ま、休日だし大丈夫よ!」
お、おいおい……
「じゃあ次、私達の教室に戻るわよ」
私たちは内履きのまま、元の教室に移動する。ちなみに、他の靴は母さんが持っている。
「石山さん、ロッカー見てみて?」
そういえば、ロッカーのことを気にもとめていなかった。
「うん」
そこには、先程と同じく、真新しいシールで「石山優子」と書いてあった。
さっきもそうだった、学校が、女の子になった自分を受け入れてくれることに、言い様のない嬉しさを感じた。
「あ、筆記用具あるかしら?」
「お母さんが持ってるわ」
「うん、じゃあ石山さん、ロッカーにある自分の教科書やノートの名前、変えちゃって」
お、そうだったそうだった。これを変えないとな。
教室の方のロッカーは幸い上段なのでしゃがむ心配もなく、自然な姿勢で取り出せるのでスカートをめくられる心配もない。
家にある教科書ノート、辞書は月曜日のもの以外は幸い存在せず、体操着が置いてあるだけだ。
そして、自分の席に座る。
……おっと行けない、危うく直接座ってしまうところだった。
なんかどっかから「チッ」って声が聞こえた気がするが気にせず、そのままスカートを丁寧に揃えて座る。
そして、名前欄のあるところの「一」の所に「了」の字を加えていく。
「石山優一」と言う名前・痕跡がどんどん「石山優子」に上書きされていく。
女の子になって、最初は自分の決意として頭のなかにあっただけの「優子」が、戸籍になり、性別も変わり、そして今この学校に「石山優一」がいたという事実が消されようとしている。
でもそれが私の望んだこと。未練はない……と完全に断言するのは嘘かもしれないが、少なくとも、完全に無いようにはしたい。
「さ、制服での実技はこれまでにして、次は講義形式にするわよ」
今度は普段の教室を舞台にする。よく見ると先生の机の上に今度自分が着ると思われる体操着とスク水があったが今はこっちに集中だ。
「うちの学校でも全校集会があります」
「さて、制服に限らず、スカート、特にミニの場合絶対にやってはいけない座り方があります」
これは私にも分かる。
「はい先生!」
「どうぞ石山さん」
「体育座りとか、しゃがみとかあぐらとかですか?」
「はいそうです! 特に前者2つは厳禁よ。アニメみたいに都合良くは行かないからまず丸見えになると思って下さいね」
「はーい」
「では、学校の全校集会とかで床に座る時はどの座り方ですか? やってみて下さい」
げっ、これはまたスカートめくりの流れだ。
とは言え拒否権はない。とりあえずぺたんこ女の子座りしてみる。
「うん、それでもOKよ。ちゃんと見えないようにスカートに気を使ったのもマルね。でも一個デメリットが有るわ。立ってみて」
あ、そうか。ここでパンツ見えやすいのか。
そのまま正直に立つのではなく、一旦足を横に投げ出し、そこから中腰になって、慎重に片足から立ち上がる。
「あら、凄いわね。今回はめくる隙きがない完璧な動きだわ」
そりゃ、あんだけスカートめくられて、その度に暗示込みで恥ずかしい思いさせられたら慎重にもなるよ。でも、めくられポイントを上手く交わしたのは快感だ。
「それからもう一つ、財布と携帯はどこに入れますか?」
「えっと……」
「スカートにポケットはないわよ。ブレザーの内側のポケット、夏服はブラウスの胸ポケットか、あるいはカバンの中に入れてね」
そうだ、これが女の服の不便さだ。華やかになったはいいが、ここだけは男の方がいい。
「そうそう、ここでちょっと石山さんの写真を取るわよ」
先生が教卓からデジタルカメラを取り出す。
よく分からないがカメラに顔を向ける。
「もう少し笑って、はいっ、そのまま……3……2……1……」
カメラのフラッシュが光り、永原先生も満足気だ。
「それじゃあ次の課題、体操着に着替えてみて?」
「あ、あの……!」
「何? カーテン閉めたい?」
「い、いえ、その……着付け教えてください!」
「あら、いい子ね」
「と言っても体操着はそこまで重要なポイントはないけどね」
「失敗してもスカートめくったりしないから、とりあえずやってみて」
まずは体操着の短パンを手に取ると永原先生が話しかけてきた。
「これを穿く時のコツはわかる?」
これは流石に分かるぞ。スカート脱ぐのは後というわけだな。
まず短パンから穿いて、パンツ見えてないか確認してからスカートを脱ぐ。
「はい正解、上はどうする?」
「うーん、これはしょうがないと思う」
「そうね、特にこれから夏は。ね」
普通に制服を脱ぎ、ブラの上から体操着を着る。こんな感じか?
「はいOKよ、体育の授業の前にもう一つすることは?」
「えっと、服を畳むの?」
「はい正解、畳み方は知ってる?」
「えっと、スカートとかは知らない」
「じゃあ、先生が実践するから続けてみて」
「う、うん」
スカートの端を持って普通に折るやり方。
「体育の授業の間だけだから、畳むと言ってもそこまでしなくてもいいわよ」
「ブレザーもこんな感じで……簡単な感じ」
「でも、家に帰ったらちゃんとハンガーにかけてね」
「はーい」
「じゃあ体操着はこの辺にして、制服に着替え直すのをやってみて」
ということで、さっきと逆にやればいい。上はしょうがないと分かっているので、これを元の制服に着替え直す。
「母さん、手鏡!」
「はい、優子」
さっきリボンが曲がっていると言われてスカートめくられたので特に注意しよう。
「あらあら、成長したわね」
次に下だが、こちらは先ほどとは逆にまずはスカートを穿いてから短パンを下ろし、畳む。
最後に体操着を所定の袋に畳んで入れて完成だ。
「グレートね。じゃあ最後に水着よ」
先生がスクール水着を持ってくる。
「こ、これも……着付け……お願いします!」
「……分かったわ。制服からの着替え方、見えない着替え方があるんだけど、流石に難しいからイチから教えていくわね」
「お願いします」
「あ、細心の注意を払ってね。お母さん、もし見えてたら報告して下さい」
「分かりました」
「え?」
「イチから教えていくと言っても、スカートめくられないとは言ってないわよ。最もめくるのは最後にまとめてだけどね」
「ひえっ」
「でも、見えたらある意味めくられるよりずっと恥ずかしいことになるから、本当に注意してね」
うん、水着だしただ事じゃないことは分かる。
「まずパンツ脱いでそこから水着を着てみて」
言われるがままにパンツを脱ぐ、やっぱり恥ずかしい。
もう何回も見られたパンツだけど、何だろう、スカートをめくられて見られるというのがより一層恥ずかしい気がする。
次に先生はそこから着るように指示してきたから……こうかな?
「うん、そうだね。じゃあちゃんと着れてるか確認したら、スカートを脱いでみて」
スカートを脱ぐ、うん大丈夫。
「じゃあ次、上着は脱いでブラウスだけを着たまま水着を着てみて」
え? 難しくないの?
まあ、でもやってみるしか無い。
とりあえず、ブラウスの下に着ていたTシャツを脱ぐために一旦ブラになってもいいか聞いたが、これはOKらしい。
ブラの上からもう一回ブラウスを着て中で着替える。
あ、途中でブラを脱がないと、でも落ちないようにして……
あー大変だ。悪戦苦闘するが見えてるわけじゃない。とりあえず、スク水をなんとかブラウスで抑えつけつつ、ブラを脱いでパンツと一緒に机に置く。
うー、手が三本欲しい。ともあれ、肩紐をなんとか通すことに成功。
最後にブラウスを脱ぎ、完成だ。
って胸がきつい……
「はーいよく出来たわね。石山さんの場合は、最後にもう一つ必要よ。もう一度スク水の入った袋を見てみて」
よく見ると、2つほどパッドが入っていた。
なるほど、これを使うのか。とりあえず、見よう見真似でなんとなく装着してみる。
もう一つの手で抑えつけてっと。
「うんうん、素晴らしいわね。石山さん飲み込みが早い!」
「先生、見えてなかったわよー!」
「え、えへへ……」
「ところできつくない?」
「大丈夫よ」
「あ、そうそう、今日の内容はプリントにもしておくから、忘れた時にもう一回見直せるようにするわよ」
「あ、ありがとうございます……」
「じゃあ早速だけど制服への戻し方もやろうか」
「せ、先生、これは見えちゃうんじゃないですか?」
「いい? 先生の言うとおりにして?」
「うん」
「まずパッド外してブラを付けてみて」
「え? 水着の上から?」
「ええそうよ」
そう言うんじゃ仕方ない。ともあれ言われるがままにする。
「次にシャツとブラウスを着てみて」
「うん」
シャツとブラウスを着る。
「そこからまず肩紐から上を脱いでいってみて」
お、うまくブラの中にスク水が抜けてく、このまま勢い良く……っと、行けない。ポロリしちゃうところだった。
「うん、ここで勢い付けすぎるとダメよ」
でもよく考えてみると、意外とかさばってて引っかかるようだ。
ともあれここからならもう分かる。まずスカートを穿き直す、そのままスク水を全部脱いで最後にパンツ穿いて完成だ。
「うん、スカートめくらないから大丈夫よ」
「あ、そうそう、着替えのことなんだけど……」
「何ですか? 女子と着替えるんでしたっけ?」
「あー実はそのことなんだけど、石山さんだけ職員室の更衣室を使うことになっちゃったのよ」
「え? ええ何で!?」
本来教室ごとに別れ、男子と女子が着替えるようになっている。
「ごめんなさい、私も反対したんだけど、学年主任の小野先生が『保護者のクレームになりかねない』って言ったらみんな……」
「……」
「ごめんなさい、本当は女の子として扱ってあげなきゃいけないのに」
「わ、分かったよ」
でも、気持ちもわからないでもない。下心抜きで残念な気持ちもあるが、決まったものは変えられない。
「……じゃあ、今日の先生が出来ることはこれだけよ。まだ明日もあるから頑張ってね」
「あ、ありがとうございました」
「今日やってみてどうだった?」
「あの、すごく……すっごく恥ずかしかったです」
「ふふっ、その気持ち大事にね。成績不良者だとこの時点でもジーンズとかジャージ着てスカート嫌がったり、暗示かけても全然効果なかったりするのよ」
「だから、赤いスカートを着て現れた石山さんを見て、とても感激したわよ」
「でも、その割には怒られていたような」
「そりゃ怒られて恥ずかしい思いしてもらうのが今日明日のカリキュラムの目的ですもの、でも石山さんはとても少ないわよ。むしろ今までの最小記録に近いわ」
「そ、そうなの?」
「そうそう、女の子らしく恥じらいを身につける人ほど、めくられる回数も少ない傾向にあるからよ」
「……半端な覚悟で受けた子はね、石山さんとは逆にめくられ慣れちゃうのよ。逆に石山さんはめくられる度に恥ずかしがり度も上ってたでしょ?」
「う、うん」
「これは、ちゃんと覚悟を持って女の子になろうという強い意志がある証拠よ。カリキュラムにスカートめくりを入れたのもそう言う意味があるのよ」
なんか妙に憎らしいな。単なるセクハラおしおきじゃないってことか。にしても他に方法はないのか……
「ふふっ、優子ったら下駄箱でスカートめくられた時、背筋ビクってなって可愛い声あげてたわよー」
母さんが何故か笑顔、なんか背筋がゾクゾクする。
「お母さんの言い方はあれだけど、それだけ女の子らしくなれてるってことよ。もちろんまだまだトータルじゃ修行足りないけどこの調子なら大丈夫よ」
このカリキュラムを受けたばかりでは全然だったのに、今はもう、女の子らしくなれてるって言われると嬉しいと感じるようになった。
これって洗脳? ううん、私が、自分が望んだことだもん。
そう思いながら、制服から私服に着替える。流石に二人には出てもらった。
赤いブラウスと赤い巻きスカート姿になり、下駄箱に内履きを入れ、靴も最初に来た物に戻す。
「あ、石山さん、この後、石山さんが書いてくれた読書感想文とかでお母さんと話があるから、石山さんはここで待っててくれる?」
「はーい」
どうやら、二人だけの打ち合わせがあるらしい。
教室に一人取り残される。自分が座っていた席に座ってみる。どうしても倒れたあの日のことを思い返してしまう。今は私服状態。でも学校に来てるのはみんな部活動で、教室に人がいるとは思われていないから、誰も気にも留めない。
自分が血を吐いたと思われる場所はもう痕跡もなく拭き取られていた。そういえば、木ノ本が掃除してくれたんだっけ?
二人の打ち合わせはあまり時間がかからなかったのか、すぐに教室のドアが空いた。
「じゃあ、今日はここまでよ。最後に、下駄箱の靴、上履きを入れておきなさい」
「ありがとうございました」
永原先生が下駄箱まで送ってってくれる。
言われたとおりに上履きを入れてローファーはしまい、学校に最初に来た靴で帰る。
「それじゃあ、石山さん、さようならー」
「ありがとうございましたー」
「明後日、教室で会いましょう」
母さんと私は、学校から出た。
「あ、そういえば、読書感想文とか渡してた?」
「うん、優子が最初制服に着替えている時に渡したわよ。面談の時にもちょっと触れられたわ」
「そ、そう……」
「そうそう、優子。永原先生の講習は終わったけど、家に帰る前に、まだもう一つやることがあるわよ」
そう言うと、母さんがさっきから持ってた荷物の中から、袋を取り出す。
「はいこれ」
「わっわっ……」
勢い良く渡されたのでほんの少しだけ重たい。中には男子制服と以前までの体操着が入っていた。
冷静になると、そこまで重くない。
「これから、リサイクルショップに寄るわ。そこで優子、あなたの手でこれを売るのよ」
うちの学校の近くにあるリサイクルショップは制服の再利用なんかも手がけている。確かに、男子の制服、男子の体操服はサイズも合わないし何より今この身体で着たら色々とまずいものだ。
「でも、どうして私が?」
「今日、教科書やノートの名前を変えたでしょ? それの一環よ」
母さんが今回の意味について教えてくれる。
「『女の子として生きるため、男への未練を断ち切り、捨てる覚悟を身につけさせる』そう言う意味があるわ……本当は燃やしちゃうのが一番なのよね。でも、土地がないしお金もかかるからリサイクル店で代用よ」
なるほど、そういうわけか。所々「おいおい……」と思うところもあるが、よく考えられているカリキュラムだ。