永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「ゴクッ」
あたしは唾を飲み込む、決心したはずなのに、その場を動けない。
実際には数秒だって理屈では分かっているのに、まるで数時間に感じてしまう。
それでも、決心は曲げない。あたしは恐る恐る、顔につけてみる。
「んっ……」
じわりと衣服に付いた浩介くんの匂いが頭の中に充満する。
頭がクラクラしちゃいそう。
浩介くんに内緒で、こんなことをしているという背徳感、そして衣服と汗のいい匂い。
それは麻薬の快楽にも似ている。いけないと分かっていてもやめられない。
「んっーふぅー」
あたしは自然と、衣服に自分の息を至近距離で吹きかけた。
それは、浩介くんにあたしの匂いをつけているんだという気持ち、いや、匂いをつけたいんだという気持ち。
ああ、ずっとこのままで居たい。
あたしは自分が浩介くんに染め上げられたいように、浩介くんをあたしで染め上げてみたい。
あたしのメスとしての被虐欲と被支配欲は、同時に浩介くんに対する支配欲も生み出していた。
相反する感情が、相反する本能が、あたしの中でうごめいている。
水の音がかすかに聞こえる。
その音を聞く度に、あたしは更に興奮度を高めてしまう。
「はぁ……はぁ……」
浩介くん、あたし、やっぱり変態かも。
あたしは、更に浩介くんの脱いだ服を漁る。
そこには使用済みのトランクスがあった。
「んっ……!」
女の子になってから、すっかり穿かなくなった男物の下着。
今穿いているぴったりお肌にフィットとは真逆に、ゆるゆるがコンセプトの下着。
なぜこんな違いがあるかといえば、男性にだけ存在する「例のもの」のせい。
自分の下着には、もう何も感じないのに、浩介くんのそれには目が離せないほど興奮している。
嗅ぎたい、今すぐ嗅ぎたい。
とっくに理性がなくなったあたしは、浩介くんがさっきまで穿いていたトランクスの、それも「例のもの」が触れていた場所に鼻をこすりつける。
「ふぅーすぅーはぁ……はぁ……」
浩介くんのいろんな匂いがする。甘い匂いじゃないのに、いい香りというわけでもないのに、あたしは夢中になってしまう。
他の男性の匂いも、いや優一の匂いだってこんなものだったはず。なのに、浩介くんの匂いと分かってしまえば、こんなに興奮しているあたしがいる。
匂いを嗅ぎながら、浩介くんの「アレ」を想像する。
浩介くんがあたしに、大きくたくましいのを見せつけているのを想像する。
あたしは、あたしはその時どうなっちゃうんだろう?
もっと深く鼻をこすりつけて、浩介くんの「アレ」の匂いを嗅ぐ。頭のなかで「アレ」を想像すると、あたしはクラクラとめまいを起こす。
でも、めまいなのに、あたしはとっても気持ちよくてハッピーな気分。
典型的な「麻薬」の症状なのに、一体どうしてしまったんだろう?
でもそれはきっと、恋がなせる魔法かもしれない。
「んっ……」
あたしはもう一段階没入感を強めた。
浩介くんの穿いていたパンツ。男物だし、パンツそのものには全く興奮しない。
だけど、さっきまでつけていて、浩介くんの匂いがするという事実だけで、あたしは正気を失ってしまった。
「浩介くん……浩介くん……大好きだよ……」
あたしは、浩介くんのことを想像する。
デートして、結婚して、家庭を作って、そして……
ザバーン!
「!?」
突然、お風呂場の方から大きな水音が聞こえてきた。
それを聞いて、妄想に包まれていたあたしの脳内は急速に現実に引き戻される。これは浩介くんが湯船から立ち上がった音。
いけない、浩介くんが風呂から上がるわ! 早くここを出ないと!
あたしはそう思い、服をもとの位置に戻し、慎重に慎重に脱衣所を出る。
大丈夫なはず。ばれてないよね?
そしてあたしは何食わぬ顔で部屋に戻り、テレビをつける。
テレビでは、まだ蓬莱教授のことを話している。
どうも世界の宗教団体などが「蓬莱教授は自然の摂理・倫理を無視している」として相次いで非難声明を出しているらしい。
当の蓬莱教授は気にも止めてそうにないけど。
ガチャ
「おーい上がったぞー」
テレビを見ていると、パジャマを着た浩介くんが出てきた。
パジャマも似合っててかっこいい。
パンツ、同じの使いまわしててくれないかな……ってダメダメ。
「うん、それじゃあ入るわね」
「おう」
とにかく、風呂に入って落ち着こうそうしよう。
「の、覗かないでね」
お決まりのセリフだけど、言わずにはいられない。
「お、おう……」
浩介くんも生返事気味。最も、あたしも浩介くんになら……ってまた! もう、何を考えてるのよ優子! いくら家デートだからって浮かれすぎでしょ!
あたしは自分にそう言い聞かせ、部屋を出るために浩介くんと入れ替わりになる。
「……」
さらりっ!
「きゃあ!」
すれ違いざま、あたしは浩介くんにお尻を一撫でされた。
普通ならすれ違いざまの痴漢のような手つきなのに、浩介くんと言うだけで、あたしを狂わせてしまう。
「も、もう! 浩介くんのえっち!」
このセリフももう、何回言ったか分からない。
照れ隠しもあるんだけど、満更でもないのが悔しいところ。
「せっかく二人っきりだしさいいじゃんか」
「うー」
浩介くんが涼しい顔で言う。
確かに期待して露出度高い服になっているし、あたし自身も触られたいと思ってしまっているので、全く反論できない。
「ほおれ!」
ぺろりっ!
「きゃー!」
今度は浩介くんにスカートをめくられ、真っ白のパンツを見られてしまう。
「もー! やめてよー!」
あたしは顔を真っ赤にして前かがみにスカートを抑える。
「とか何とか言って、満更でもないんだろ?」
浩介くんがいたずらっぽい顔で言う。
「そそ、そんなわけないでしょ! 浩介くんのえっち! 変態! 恥ずかしいよお……」
図星を突かれたあたしが必死で否定するが、もはや自白しているようなもの。
「優子ちゃんの白いパンツ、かわいいな!」
「あうう……もう……と、とにかくっ! あたし、お風呂に行ってくるわね!」
「いってらっしゃーい」
あたしはお風呂場に行く前にいったん自分の部屋に立ち寄ってパジャマ選びをする。
優一時代から少し大きめだったベッドは、浩介くんと二人でも眠れそうな広さ。
今日はここで浩介くんと眠る予定にしている。
あたしの部屋、まだ見せてないけど浩介君はどう思うかな?
あ、そうだわ。ちょっとお人形さんとぬいぐるみさんを整理しよう。
今日は浩介くんと二人で寝るから、ベッドで一緒に寝ているぬいぐるみさんたちはちょっとレイアウトを変えようかな?
よし、窓側に全部並べて、お人形さんもちゃんとしないと。
そしてあたしはパジャマ選び。
あたしはほとんど本能的に、ワンピースタイプのパジャマを選んでいた。
このパジャマで寝て、朝起きると思いっきりめくれ上がってることが多い。だけど、浩介くんなら……ううん、浩介くんにだけ見せる無防備なあたしを、きっと喜んでくれるはず。
そう思いながら、パジャマを持ってあたしは脱衣所に行く。
さっき匂いを嗅いだ浩介くんの服はもうない、持ち帰ることになっているから。
あたしは髪の毛をお団子ヘアーにしてから服を一つ一つ丁寧に脱ぎ、畳む。
鏡の中には、フルヌードになって大事な部分も惜しげもなく晒してあるあたしがいる。
さっきの浩介くんとの妄想を思い出す。
確か現実に引き戻される直前は浩介くんに犯されかけたところで……
あうう……顔が赤くなっちゃいそうだわ。
気分を紛らわせる意味も込めて、あたしは風呂場へと急いだ。
家族以外の人が既に入った風呂。それも浩介くんが入った後……って寒い寒い!
お風呂場はクリスマスの冷気を受けている。あたしは、すぐに体と頭を洗うことにする。
男だった頃も、冬のお風呂場の寒さは苦手だったけど、予想はできていたとはいえ女の子になった今はもっと辛い。
まず髪の毛を洗う。
浩介くんがシャンプーを使ったのが分かる。
もしかして、浩介くんも意識してたのかな? 「ここが優子ちゃんが普段使っているお風呂場」って。
ともあれ髪の毛と身体を一通り洗い終わり、湯船につかる。
浩介くんの残り湯、普段と全く同じ湯加減なのに、妙に興奮してしまう。
いくら理性で制御しようと思っても、この意識は制御しきれない。
あたしが、浩介くんに心を奪われている証拠。
ドアの向こうを見る。誰か人がいる気配はない。
一通り温まったら、あたしはタオルで体を拭く。
「うっ、このタオルで浩介くんも……」
つい、独り言が出てしまう。
でも、このタオルで浩介くんが全身を拭いたのは事実。
じわっ……
あー、また汗が吹き出ちゃってるわ。こんなんじゃいけない子だって思われちゃう。いくら男の子がエッチだと言っても、さすがにやりすぎると引かれちゃうから気をつけないと。
「ふーふー」
あたしは12月の外気温を利用して頭を冷やし、努めて無心で全身を拭いた。
脱衣所でパジャマに着替え、髪をいつものストレートロングに戻す。
……よし。
あたしは浩介くんのいるリビングへと急ぐ。
「お待たせー!」
「あ、優子ちゃん、お帰り」
「ねえ、そろそろ寝る?」
実際かなり遅い時間だし。
「うん、もう遅いし、ね」
「じゃあ、あたしの部屋に案内するわね」
「え!? 二人寝られるの?」
浩介くんが聞いてくる。
「うん、添い寝できるよ」
「そ、そうか……」
またお互い顔が赤くなる。
でも今は冷静にならないと。
「ふふっ、じゃあ行こうか」
「う、うん……」
暖房を消して、浩介くんより先に廊下を進みあたしの部屋に案内する。
「うわぁ……」
ドアを開けて開口一番、あたしの部屋を見た浩介くんが感嘆の声をあげる。
「ここ、ここが優子ちゃんの部屋?」
「うん、そうだよ。どんなの予想してた?」
あたしが笑顔で言う。
「ああいやその……もう少し中性的な部屋かなって思ってた」
「あー、夏休みのころまではそんな感じだったわよ」
桂子ちゃん、恵美ちゃん、さくらちゃん、そして母さんが模様替えをしてくれた。
そのお陰で、今は女の子らしい部屋になれた。
少女漫画、鏡、お人形さんにぬいぐるみさん、おままごとセット、カーテンや布団、クッションも女の子らしい色にしている。
「そ、そうなんだ……」
「うん、さ、浩介くん、ここに座って」
あたしは、ベッドの近くにあったハート型のクッションに浩介くんを誘導する。
「え!? その……」
さすがに浩介くんも動揺している。
あたしは、このクッションに浩介くんを誘導し、キスをするのが夢だった。ハートのクッションでキスをして浩介くんと結ばれる。
女の子らしいメルヘンチックな夢。
今、それが叶おうとしている。
「ほーら」
「お、おう……」
更に催促すると、浩介くんが意を決して近づいて来る。
「よっと」
「ねえ、浩介くん……」
座高の低いあたしが上目遣いになって浩介くんの唇を見つめる。
すると察した浩介くんがあたしの顔を手で挟んでくる。
「もう、優子ちゃんはワガママだなあ……」
「ごめんね」
「でも、かわいいワガママだよね……んっ……」
「ちゅっ……」
浩介くんとあたしの唇が触れる。
「んんっ……じゅぅっ……れろっ!」
あたしが浩介くんの唇を舌で軽くつつくのが「絡めて」の合図。
浩介くんが少し唇を開け、舌を出してくる。
「んふっ……」
舌の先は神経が特によく集まっている場所、あたしは浩介くんを好きになるごとに、どんどんのめり込んでいく。
「じゅるっ……べろっ……んんっ……ぷはぁ……」
唇を離すとお互いの舌の先から一本の唾液の線が引かれ、ぷつりと消えていく。
あたしと浩介くんが混ざった唾液。
とてつもなくエロい。浩介くんの顔もエロいし、あたしだってとってもエッチな顔をしているはず。
「ねえ、浩介くん……あたし……我慢できないよお」
「もう、わがままだなあ……俺だって、俺だって我慢してるんだぞ!」
浩介くんが必死に主張している。
うん、それはあたしも分かっている。
「うわぁっ!」
あたしは浩介くんの髪の毛をさらりと撫でてみる。
「ゆ、優子ちゃん……そこは……そこはその……ああっ……!」
さらさらと撫でると、頭にも関わらず浩介くんが堪らずに喘ぎ声を出す。
それを聞いて、あたしからもじわりと体温の上昇を抑えるための液体が流れ出る。浩介くんと触れ合うと、どうしても濡れてしまう。そのせいで、汗もよくかく。
あたしは「優一の知識」を使ってゆっくりと丁寧に浩介くんをぎゅーっと抱きしめると、浩介くんが興奮に満ちた声を出してくれる。
「ふふっ、さっきの仕返しだよ」
「はぁ……はぁ……でも、これ以上は……!」
「いいのよ、あたし、いつあなたに襲われても、悔いはないわ」
むしろ、どうしても襲われたいとさえ思ってしまう。
「でも、俺が、俺が後悔するから」
浩介くんはこの状況でも、理性を失わない。それはあたしが彼に惚れた要因の一つ、「責任感の強さ」の持つ一面でもある。
だからやっぱり、浩介くんの理性を崩すには、「結婚」しかないのかもしれない。
あたしはゆっくりと手を離す。
「浩介くん、あたし……あのね……」
「うん、優子ちゃん。大丈夫、大丈夫だから。でもせめて、卒業までは待ってくれる?」
浩介くんが言う。
「卒業?」
「俺、まだ17歳だからさ。優子ちゃんはもう大丈夫だけど、俺はまだ無理だよ」
「あ!」
今朝、浩介くんの両親から言われた結婚のことを思い出す。
そうだった、男の子は18歳にならないと結婚できないという事を忘れていた。それに高校は学業もある。
いや、大学もあるけど、浩介くんの両親の様子だとそれは問題ない。
小谷学園だし結婚したからと言って何か問題があるとも思えないが……あ、名字変わるからそこがちょっと厄介かな?
「ともかく、もう寝ようよ。疲れちゃったよ」
「うん、そうしよう……浩介くんこっちに来て?」
あたしはベッドの中に浩介くんを案内する。
浩介くんも恐る恐る入ってくる。
「じゃあ、電気……消してくれる?」
「うん」
浩介くんが明かりを引っ張って、部屋の中が真っ暗になる。
「おやすみ、浩介くん」
「おやすみ、優子ちゃん」
「ちゅっ」
「んっ……」
おやすみのキスを浩介くんのほっぺたにすると、暗闇の中でもわかるくらい浩介くんがビクッっとする。
「優子ちゃん……」
「ふふっ、おやすみのキスだよ。さ、明日もあるから寝ようよ……襲ってもいいけどね」
「う、うん……襲うのは……辞めとくよ」
「そう……」
ちょっぴり残念。
でも仕方ないかな?
浩介くんと添い寝しながら、今日を振り返る。
蓬莱教授の延命の記者会見のこともあって、クリスマスモードはもはやあたしからは完全に吹き飛んでしまった。
明日はクリスマスらしいこと、できるといいな? とりあえず、プレゼントは渡そう。
あたしの今後の一生で、今年ほどに濃いクリスマスはないんじゃないかと思う。
そう思いながら、あたしは徐々に意識を闇へと落としていった。