永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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新年の登校

 小谷学園の冬休みが終わり、後期も後半に入った。3月で2年生も終わり、長いようで短いようで、とっても長かった。浩介くんと付き合い始めた時も、文化祭はまだ3ヶ月経ってないのに、遠い昔のように感じてしまうのだから。

 今日は新年になって最初の登校日、あたしはいつものように制服を着て、女の子らしくお人形さんとぬいぐるみさんで遊んでから母さんの所に行った。

 

 これからの学校行事は、2月にスキー合宿、そして3月には卒業式が行われる。

 さくらちゃんが野球部マネージャーとしてやっていたけど、唐崎先輩と付き合い始めたとか何とか。

 どうやら、文化祭の時のあたしたちの後押しがうまく行ったみたい。

 

 ちなみに、坂田部長は県外の大学への進学を考えてセンター試験を受けることになっている。

 そういえば、あたしもセンター試験受けるんだっけ?

 そろそろ「大学受験」ということを考えねばならない。

 

 とは言え、どうしたものか?

 一応、今のところあたしは佐和山大学の一段上の大学を受ける予定になっている。偏差値的にももっと上を目指せる。

 

 佐和山大学でも、蓬莱研究所出身は例外で、場合によっては名門大学並みの処遇になることもあるというけど、あたしとて必ずそこに行けるとは限らないし、それは危険な賭け。

 いくら蓬莱教授でもあたしを優先して入れる何てことは出来ないだろうし。

 

「優子、最近考え事が多いわよ。どうしたの?」

 

「うん、女の子として生活が定着したら、今度はまた新しい悩みが出てきたのよ」

 

 と言っても、不老の悩みだからTS病特有だと思うけど。

 

「なるほどねえ……」

 

 母さんも関心しているが、実際の所女の子になったが故の新しい悩みというのはどんどん出てきている。

 文化祭の頃まで、浩介くんと触れ合いたいということで本能を女の子にしようとして、まだ彼氏彼女になれなくて苦労した所もそんな感じだった。

 

「そういえば、優子は来年受験だけどどうするの?」

 

 母さんがちょうど悩んでたことを話題に降る。

 

「ああうん、一応第一志望は今のところ――」

 

「へえ、結構偏差値高いんだな。ところで話題の佐和山大学はどうするんだ?」

 

 父さんも会話に加わってくる。

 

「うん、一応滑り止めって感じにしているわ」

 

 蓬莱教授の話は出てこないが、一応我が家の最寄りの大学も佐和山大学だし、小谷学園ともほど近い位置である。

 ましてや不老研究の蓬莱教授のいる大学だしどうしても話題にはなる。

 だけど、あたしの偏差値からすると、どうしても滑り止め相当になっちゃう。

 浩介くんは頑張ってあたしと同じ大学に行くと言っていたけど。

 

「そう。浩介くんの方は?」

 

「うん、このまま行けば佐和山大学になりそうだって」

 

「そう、じゃあ浩介くん頑張らないとね」

 

「うん」

 

 いくら大学変わったくらいで別れにはならないという自信があるとは言え、やはり会える機会減るのは嫌だ。

 あたしが故意にレベルを下げるわけにも行かない、ただ蓬莱教授のことがあるから、こうしてあたしはずっと悩んでいる。

 

 ともあれ、いつもと同じ朝食を食べてあたしは学校へ行く。

 駅ではいつものように胸に視線を感じる。というよりも、殆ど同じ人があたしをジロジロ見ている気がする。

 彼氏持ちだって知ってる人だっていそうなのに、やっぱりオスの本能は凄まじい。

 

 浩介くんだって、本能と戦っているんだよね?

 あたしなんてメスの本能に負けて浩介くんを誘惑してばかりなのに……オスが本能に抗うことの難しさを知っているが故に、あたしは浩介くんの責任感の強さを感じて、ますます浩介くんに惚れ込んでしまう。

 こういう惚れ方は、もしかしたらTS病の女の子特有かもしれないわ。

 

「おはよー」

 

「あけましておめでとうございます優子さん!」

 

「おめでとう龍香ちゃん」

 

 教室に入って、まずは龍香ちゃんと挨拶する。

 

「優子、あけましておめでとう」

 

「虎姫ちゃんおめでとう」

 

 続いて、虎姫ちゃんとも挨拶する。

 

「石山さん……あけまして……おめでとうございます……」

 

「うん、さくらちゃんもおめでとう」

 

 よく見ると、男子女子関係なく教室のあちこちで新年の挨拶が繰り返されている。

 そして、浩介くんはまだ来ていない。

 

「ねえねえ、優子は冬休みどう過ごしたの?」

 

「あーうん、寝たり浩介くんとデートしたり、後は蓬莱教授のことを会合で話したりかな?」

 

「へえ、優子さん蓬莱教授と知り合いなんですか?」

 

「気になる気になる」

 

 虎姫ちゃんと龍香ちゃんががっついてくる。

 やっぱり蓬莱教授の話題も小谷学園では他の高校より盛り上がっている見たく、「永原先生のように生きられる夢の技術」だとかなんとか言われているのも目撃した。

 

「はい、実は林間学校の時にお世話になって……」

 

「え!? 林間学校?」

 

 林間学校ももう半年も前の話。

 だけど、部屋割りの話はもっと前だ。

 そういえば詳しい経緯を知っている生徒は、あたしと浩介くんだけだったことを思い出す。

 

「ほら、教頭先生のせいで部屋割りがあたしだけ隔離されそうになったじゃない?」

 

「お、懐かしいな。そういえば、永原先生の正体もそれで分かったんだったよな」

 

 恵美ちゃんもトークに加わってくる。

 

「実はその時、蓬莱教授にお世話になったのよ」

 

「へえ、どんな感じだったの?」

 

「それは――」

 

 あたしは当時の記憶を掘り出しながら話す。

 永原先生が自分の遺伝子と引き換えとして、蓬莱教授を使って教頭先生に年齢証明のための論文を渡すことになったこと。

 その後、長幼の序を重んじる教頭先生が、永原先生が本当に500歳(去年はまだ499歳だけど)だったと分かった途端、教頭だから一教員の指図は受けないと言い出したこと。

 そしてそれによって、部外者であるはずの蓬莱教授まであたしや浩介くん、永原先生と教頭先生の間の口喧嘩に参加していたこと。

 

「噂には聞いていたけど、いくら助っ人だからって口喧嘩に参加するってすげえやつだな」

 

「はい、私もそう思いますよ。いくら権威あると言っても部外者じゃないですか」

 

 確かに恵美ちゃんと龍香ちゃんの言うとおり。今思えば教頭先生に向かって「今この学校で教頭にふさわしいと思っているのはてめえだけだろ」って言ってのけるのはすごいことだわ。

 

「それで、結局どうなったんですか?」

 

「永原先生が呼び出したもう一人の助っ人……校長先生が教頭先生に『もう諦めてください』と言ったことで、教頭先生も諦めてくれて、それで部屋割りが決まったわよ」

 

 教頭先生の名誉のためにも発狂して倒れたことは話さないでおこう。

 

「あら、蓬莱先生の話?」

 

「あ、永原先生!」

 

 よく見ると、永原先生がいた。

 あたしたちはもう時間なのかと思って慌てて時計を確認しようとするが、時間を読み取る前に「早く来ただけでまだ時間じゃないわよ」と言われた。

 

「はーびっくりしたー」

 

「そう言えば、先生って蓬莱教授と知り合いなんだ?」

 

 虎姫ちゃんがまず永原先生に話しかける。

 

「そうですよ安曇川さん、初めて会ったのが確か彼が博士課程のときだったから……25年来の付き合いです」

 

「へえ、そんな前から……!」

 

「それで、今林間学校で教頭先生の話をしてたんです」

 

「ふふっ、懐かしいわね。今でも思い出しただけで笑みが出てくるのよ」

 

 永原先生がちょっと怖い顔で言う。

 虎姫ちゃん、龍香ちゃん、恵美ちゃんはやっぱり引いている。

 500年の人生と言うのは恐ろしいわね。

 

「特に私が言った『私のように歴史とともに生きて悠久の時を過ごし、それを授業に活かせることも出来ない。石山さんや篠原君のように過去の罪を悔いて心を入れ替える気概もない。蓬莱教授のように賛否両論を巻き起こしながらも偉大な足跡も残さない。教頭先生、あんたは何も出来ず、地位にしがみつくことしか能がない無能なのよ!』は今でも我ながら最高傑作だったわ」

 

「あー、あったわね」

 

 今思えば永原先生、すごいことしてたわよね。

 

「先生、それ、教師として一番言われたくないセリフだよね」

 

 虎姫ちゃんが驚いたように言う。

 

「ましてや教師として大先輩にそんなこと言われた日には自信を喪失しますよ」

 

 ちなみに、教頭先生は今でも元気に教頭をやっているけど、昔のように威勢はなくなったらしい。

 永原先生との一件も、やはりトラウマになっているとか。

 ちなみに、小野先生は未だに永原先生のパシリの扱いになっているとか。

 

「それから、あたしと蓬莱教授が会ったのは――」

 

 あたしは水族館でのことを話す。

 一応、ずっと気になっていた蓬莱教授の「佐和山大学でいつか偉大なことを成し遂げる気がする」と言う言葉のは、さすがに話さないでおこう。

 あたしの中では引っかかっているけど、他の人から見れば蓬莱教授が血迷ったようにしか聞こえないだろうし。

 

「さて、そろそろホームルームよ」

 

「「「はーい!」」」

 

 あたしたちがそう返事すると、永原先生が急いで教卓の方に行く。

 浩介くんもいつの間にか座っていた。

 

「それじゃあ、新年最初のホームルームを始めますよー!」

 

 冬休みが終わり、小谷学園の新年が始まった。

 新年最初のホームルームと言っても、冬休みはどうだったかとかそんな話が多く、連絡事項も多くない。

 あるとすれば、2月に行われるスキー合宿についてのことだ。

 

「ちなみに、今年は私が産まれてちょうど500年目になります。誕生日は私自身を含めて誰にも分かりませんが……ともあれ500歳になったことをここに報告します」

 

 永原先生からそんな話も出た。多くの人にとって、500年生きるというのは他人事の話。

 あたしは他人事じゃあないけど、今は蓬莱教授の話もあって、みんながそれを実感し始めている。

 500年の人生について、他の生徒たちはあたしほど詳しくは知らない。

 

 ともあれ、今日から早速授業が再開された。

 冬の寒さはますます厳しくなっていく。

 2月のスキー合宿について、あたしはあまり考えたくないと思っている。

 女の子になって、特に寒いのが苦手になってしまった。わざわざ冬山でしかもスキーを滑る事に関する恐怖もあるし、あたし自身身体が弱くなってひょっとしたら怪我をするんじゃないかという恐怖もあった。

 

 ちなみに、小谷学園での真冬の学校行事はこれだけで、校内の話題は新年のこと、蓬莱教授のこと、スキー合宿のことの3つが主になっている。

 

 

 そんなこんなで今日も無事に授業が終わり放課後を迎えた。

 

「あ、浩介くん。天文部行こう?」

 

「おう」

 

 浩介くんは鍛えながら天文話に没頭することが多くなった。何気に器用だと思う。

 ちなみに、他の3年生は部活を引退していることが多いけど、坂田部長は相変わらず天文部に入り浸っている。

 とは言っても、最近はパソコンの前ではなく、勉強をしている姿も多いから、部活しているのか微妙なのが実情だけど。

 

  コンコン

 

「入っていいですわ」

 

「失礼します」

 

 坂田部長の声とともにあたしと浩介くんが入る。

 中には既に桂子ちゃんも居て、これで天文部が出揃った。

 

「ところで来年のことですけど」

 

「来年ですか? 坂田部長卒業ですよね」

 

 あたしが突っ込むように言う。

 

「はい……来年の部長のことですわ」

 

「あ!」

 

 あたしがはっとする。そういえばそれを決めないと。

 

「……予定通り、木ノ本さんで行こうと思いますわ」

 

「異議なし」

 

「俺も異議はないな」

 

「私も辞退はしません。というよりも優子ちゃんや篠原にやらせても仕方ないでしょう」

 

 桂子ちゃんも当然という顔で言う。

 来年は坂田部長が居ないもののあたしたちが3年生になることで、天文部は続く。

 とは言え、このまま2年生以下の部員が居ないとここも廃部になるのは確実だという。

 

「まあ、廃部にしてもいいですわよ。もしそうなったらこのミニチュアも私か木ノ本さんで所持することになりますわ」

 

「そうか」

 

 坂田部長も、桂子ちゃんも、元々不人気の部とあってか、あるいは部活自体がそこまで盛んではない小谷学園の学生の気質なのか、そこまで未練がましいという感じではなく、むしろ「よくここまで持った」とまで言っていた。

 

 きりが悪いということもあってか、坂田部長は卒業するまで部長をするらしい。

 天文部と言っても、坂田部長は受験勉強をしつつ、時折桂子ちゃんとあたしと浩介くんの話に乗っかかるだけ。

 浩介くんも相変わらず筋トレがメインだし、おおよそ天文部らしくないと言えばその通りだ。

 

「そういえば、スキー合宿もあと1ヶ月半ですわ」

 

 3年生にはスキー合宿がない。一般入試と重なったりもするからだ。

 

「ええ」

 

「3年生はこうして受験勉強ですわ」

 

 坂田部長の受験勉強の様子を見ていると、どうしてもあたしの中で蓬莱教授のことを思い出してしまう。

 

 以前までは、受験のことを考えても蓬莱教授のことを思い出すことはあった。

 それだけ水族館での蓬莱教授は印象的だった。

 それでも、あの記者会見までは「そういえば」という程度だったが、今では受験のことを考えた瞬間蓬莱教授のことが真っ先に出て来る。

 

「石山さん、どうされました? また考え込んでますわ」

 

「そ、その……実は――」

 

 蓬莱教授のことを話していいか迷うが、あたしは水族館での蓬莱教授の言葉を話した。

 

「蓬莱教授がそんなことを話されたんですか……」

 

「驚きだよね。蓬莱教授はどうしてそんなことを?」

 

 坂田部長も桂子ちゃんもやはり驚いている。

 

「こっちが聞きたいわよ」

 

 あたしも正直に言う。

 

「ただ、俺は何か違和感を感じるんだ。嫌な感じでは全然ないんだが、ね」

 

 浩介くんが、自分でもよく分からないという感じで言う。

 ともあれ嫌な感じではない、むしろいい予感さえするのに、違和感を感じるのだという。

 

「ともあれ、今後に注視ですわ」

 

「ええ」

 

 あたしたちは、天文部でそれぞれの活動を続けた。

 あれから浩介くんと桂子ちゃんとあたしの3人で帰る機会も増えた。

 坂田部長との4人で帰るということは少ないけど、それでも何度かしてみた。

 4人で帰ると、浩介くんハーレムに見えるけど実際にはあたしと浩介くんでいちゃつくことが多い。

 だから浩介くんがハーレムを作っているわけではないことはすぐに分かるため、誤解されることは多分ないと思いたい。

 

 

「ただいまー」

 

「おかえり優子、今日もお疲れ様」

 

 冬休み明けと言っても、いつもと変わらない学校生活だった。

 でも、もうすぐ坂田部長が卒業すれば、ちょっとだけ、学校生活が変わりそうな気がする。

 来年は高校生活最後の1年、そして大学受験。悔いの無いように過ごしていきたいと思った。


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