永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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スキー合宿1日目 北への出発

 今日はついにスキー合宿の日になった。

 実行委員は今回桂子ちゃんになった。

 ともあれ、朝をまず起きる。

 

 スキー合宿の荷物をまとめていた時に考えた防寒方法がある。

 とにかく、あたしは寒いのが苦手、脚は一旦ストッキングにしちゃえば抵抗感少ないけど、合宿する場所の寒さは氷点下が普通。

 

 それも考えて、あたしは下着からストッキングを履いて、その上にズボン、更に防風もかねて厚めのロングスカートも穿く。これが結構温かいスタイル。

 女の子になってスカートやストッキングを穿けるようになったために、下半身の防寒は格段に向上した。

 

 上の方もシャツにブラウスの上に更にカーディガン、その上に厚手のコートを着込むという重装備の予定、厚手のコートは腕に置いておいて寒くなったら着ることにする。

 母さんが「最初から重装備だと良くないわよ」と言ったからだ。確かに、それはその通り。

 

 ともあれ、今は家の中で暖房が効いているので、スカートは玄関に置いておく。

 

 もう一度荷物を確認する。生理用品をはじめ、多くは林間学校の時と同じ中身。違うのは多数のカイロがあるくらい。

 あたしはスキー用具を持っていないので、レンタルサービスを利用する。もちろん、専用のゼッケンさえ付ければ自分用のスキー用具を持っていっても構わないことになっている。

 

 

「おはよー」

 

「優子おはよう、今日はスキー合宿だよね?」

 

「うん、防寒対策はばっちりだよ」

 

 ちなみに、浩介くんと相部屋になったことも、母さんは知っていた。

 母さんは「お嫁さんへの修行をしてきなさい」と言っていた。

 浩介くんの両親と同じく、うちの両親もまた、浩介くんと結婚させたくて仕方ないらしい。

 どうやら嫁姑問題は起きそうになさそう……というより、不老技術の進捗次第ではちょっと我慢すればいいだけかも。

 

 ともあれ、今はスキーのことを考えたい。

 困難が予想されたことや、TS病のこともあって、あたしは一番簡単なコースを選ぶことになっている。

 

「優子、くれぐれもケガだけは気を付けてね。あなたはとにかく運動神経ダメなんだから」

 

「う、うん……」

 

 スキー合宿の話題になると、母さんも父さんもそればっかり言ってくる。

 確かにけがは気をつけなきゃいけないけど、あたしの運動神経レベルだといくら気を付けてもダメそうな予感しかしない。

 

 一時は不参加も考えていたけど、浩介くんと相部屋、しかも2日目には家族風呂まで予約して、割り勘とはいえ家族風呂のお金まで払ってしまった手前、欠席はもう出来ない。

 

「優一の頃はスキーはどうだったの?」

 

 母さんが聞いてくる。去年も同じ会話した気もするけど、あたしも優一を意識する日が徐々に減っている。

 

「うん、それなりにパラレルターンとかも決まってたよ……今じゃ絶対無理だと思うけど」

 

 まずスピードを出せるのか? そしてそれをコントロール出来るのか?

 あたしにとって、そういった基礎的な所からが課題と言える。

 浩介くんとのことは色々と楽しみだけど、スキーそのものは不安でいっぱい。

 いっそ、幼稚園から小学校までの子供たちと一緒にそりか雪合戦で遊びたい気分だわ。

 

 

「……じゃあ行ってくるわね」

 

「いってらっしゃーい」

 

 ともあれ、時間になったので、あたしはマフラーを巻き、帽子を被って手袋をする。

 そして荷物を持って、玄関でズボンの上から防寒スカートを穿き外に出る。

 

「ふう……」

 

 コートはまだ着ていないとはいえ、いつもよりもかなりの防寒対策を施したため、さすがに寒さは和らいでいる。

 

 駅に向かって進む。やはり視線を感じるが、この地域に似つかわしくない異様な防寒ぶりに注目が集まっていると思いたい。

 ……コートを着ても、あたしの胸は隠しきれないけど。

 

 電車が入る。さすがに電車内は暖房もあってちょっと暑い。

 上はカーディガンも含めて、適宜脱いで行こう。いくらあたしが寒さに弱いと言っても、やり過ぎは禁物だ。

 

 あたしは、季節外れの暑い思いを少しだけしつつ、電車を降りる。

 そして急激な温度変化に襲われる。あんまりよくない。

 

 ともあれ、いつもの通学路で小谷学園を目指す。

 今日はスキー合宿の日で3年生は通常授業、中にはすでに大学進学を決めた人のために、大学で教わる数学の授業まである。

 ともあれ、今日は1、2年生と3年生で着ている服が違うため、すぐに見分けがつくようになっている。

 

 林間学校の時と同様に、バスの前に集合する。

 いつもは同じ旅行会社を使ってたんだけど、前回の林間学校での不祥事もあって、別の旅行会社と契約を結びなおしたらしい。

 ……最も、その不祥事のおかげで、あたしと浩介くんが赤い糸で結ばれたんだけど。

 

 

「おはよー」

 

「おっ! おはよう優子」

 

「おはようございます優子さん」

 

 あたしを見た虎姫ちゃんと龍香ちゃんが挨拶してくれる。

 あたしは、小さなサブバッグに入れた荷物だけを取り出して、残りは道端に置く。

 こうすれば、添乗員さんが荷物収納スペースへ持って行ってくれるのは林間学校と同じ。

 

 あたしは、浩介くんを探しにバスの中に入ろうとする。

 

「篠原さんならまだ来てないですよ」

 

「そ、そう……ありがとう龍香ちゃん」

 

 龍香ちゃんでなくても、あたしが考えていることはお見通し。

 あたしは寒い中で、バスの外で待つ。

 

「虎姫ちゃんと龍香ちゃんはどうして外に?」

 

「ああいや、私たちもたった今荷物整理したばっかだったのよ」

 

「つまり偶然ってやつですよ!」

 

 どうやら特に理由はないらしい。

 その証拠に、2人はそのままバスの中に入っていく。

 

「ん? 優子はバスに入らないのか?」

 

 虎姫ちゃんが少しだけ変な目であたしを見てくる。

 

「ああうん、あたしはここで浩介くんを待つよ。スキー場はもっと寒いし、ちょっとだけ慣れておかないと」

 

「そ、そうか」

 

「とりあえず、がんばってください」

 

「はい」

 

 あたしは虎姫ちゃんと龍香ちゃんを見送る。

 実行委員の男子が、既にあたしを数に数えたらしい。

 

「石山さん、おはよう」

 

「ん!? あ、永原先生おはようございます」

 

 ふー背後から声が聞こえてびっくりしちゃったわ。

 どうやら最初からバスの中にいた永原先生が声をかけてきたみたい。

 

「ごめんごめん、驚かせちゃった? 今回もバスでは私が隣になるわよ」

 

「う、うん、パンフレットで見たわ」

 

 確か席は運転席のすぐ後ろだったはず。

 

「そう、ところでどうしてここに? もしかして篠原君を待ってるの?」

 

「うん」

 

 やっぱり永原先生にもお見通しだった。

 

「ふふっ、邪魔にならないようにね」

 

「はーい」

 

 永原先生が軽くあたしを注意して、バスの中に戻っていく。

 すると、もう一人、人影が見えた。

 それはあたしが探し求めていた人だった。

 

「あ、浩介くん!」

 

「あ、優子ちゃん、おはよう!」

 

 浩介くんが挨拶してくれる。

 こちらも、あたしと同じくクリスマスデートの時以上の防寒仕様だ。

 

「それにしても外で俺を待ってたのか?」

 

 バスの中に入る過程で浩介くんが疑問を投げかける。

 

「うん、少しでも早く、浩介くんの顔が見たかったから」

 

 あたしが努めて笑顔で言う。本当は顔も赤くなりそうだけど。

 

「そ、そうか。一生懸命だな優子ちゃんは」

 

「えへへ、あたし、もっと浩介くんに好かれたいから」

 

 あたしは通路で浩介くんに向き直って言う。

 浩介くんの真っ赤になった顔を見た瞬間、あたしの顔もリンゴのように赤くなる。

 

「優子ちゃん、やっぱり好き……」

 

 浩介くんがあたしの手を握ってくる。

 あたしの心臓が激しく脈打っている。

 

「うん、あたしも……浩介くんのこと……」

 

  パンパン!

 

「はいはい二人ともー! 寒いからってイチャイチャして暖まらないの!」

 

 永原先生の声に、あたしも浩介くんもはっとなる。

 そういえばここ、バスの中だったわ。

 

 

「くそー! 何なんだよこの砂糖まみれの空気は!」

 

「このお! 篠原浩介! 優子ちゃんを独り占めしやがって! 子子孫孫末代まで呪ってやる!」

 

「判決! 篠原浩介! 俺達のアイドル石山優子ちゃんを独り占めした罪で死刑!」

 

「篠原……死ね、死ね死ね死ね……不幸になれ、不幸になれ不幸になれ不幸になれえ!」

 

「篠原なんか、す、スキーで転んで笑われればいいんだ!」

 

「篠原、スキーでみっともなく転んで笑われろ、スキーでみっともなく転んで笑われろスキーでみっともなく転んで笑われろスキーでみっともなく転んで笑われろ……」

 

 

 そして、何時ものように高月くんを中心にした男子たちが浩介くんに、意味もなく「呪いの儀式」をかけて来る。

 最近、彼らがどこまで本気なのか分からなくなってくる。

 気持ちはわかるけど、浩介くんが不幸になったらあたしも悲しむし……ってそうやって傷心のところに漬け込むのよね。

 あたしだって、心に深い傷を負ったときに、守ってくれて優しくされて恋に落ちちゃったんだし。

 

 ともあれ、あたしは永原先生の隣に座る。

 あたしたちの席は、パンフレット通り運転士さんのすぐ後ろの2席、そういえば、この前の安全講習で一番生存率高いって言ってたっけ?

 

「石山さん、ますます篠原君とラブラブだね」

 

「う、うん……」

 

「私も、恋愛してみたいかなって、最近思い始めたわ」

 

「え!? でも、永原先生は……」

 

「う、うん……まだ全然トラウマは癒えてないし、それこそ、今のクラスのみんなが……石山さん以外死んじゃった後かもしれないけどね」

 

 永原先生が少し物悲しそうに言う。

 蓬莱教授の研究のこと、それに、あたしと浩介くん以外の誰にも言えない初恋のこと。

 初恋のトラウマは、まだ解消されていない。こればかりは、永原先生の中で踏ん切りをつけるしか無い。

 

「永原先生は、急がなくてもいいんじゃない?」

 

「うん、そうだね」

 

 あたしと永原先生が話している間にも、一人、また一人と生徒が来る。

 

 

「あ、俺が最後?」

 

 男子の一人が最後に到着、今回のスキー合宿も、2年2組は全員が出席した。

 そういえば、優子になったばかりのカリキュラム中に学校を休んだのを除けば、あたし小谷学園皆勤かも。

 

「えー間もなく出発します。シートベルトを締めて手すりなどにお捕まりください」

 

 ともあれ、時間とともに、運転士さんの放送が入ってバスが出発する。

 今回は添乗員さんは女性なので、この前のようなことにはならないと思いたい。

 

「石山さん、緊張してる?」

 

「うん、やっぱり女の子になって、身体能力は落ちましたから……何より怪我が心配です」

 

 それも半端ないくらいの落ち方だし。

 

「大丈夫よ、石山さんのために、今回は特別メニューを組んでいるわ。ちなみに、私もスキーは大の苦手で、毎年同じメニューをしているわよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 やっぱりあたしに対しては体育系は半分障害者扱いになっている。

 でも、残念でもないし当然ではある。

 

「私も戦乱を生きてきたからそれなりに鍛えてはいるんだけどねえ……どうもウィンタースポーツだけは苦手なのよ。生まれは寒村なんだけどねえ……」

 

 ともあれ、永原先生が一緒なら大丈夫かな?

 バスはこの前の林間学校とは違い、東北地方の方に行くという。

 東北自動車道はかなりの直線らしく、林間学校より少し遠いけど、スキー場は高速を出てすぐなので所要時間はむしろこっちが短いくらい。

 

 バスが高速道路に進むと、またテレビでやるという。

 実はこのテレビ、何を見るかはクラスで話し合って決めたんだが――

 

「これは実話であり、公式記録、専門家の分析――」

 

 あたし、浩介くん、恵美ちゃん、桂子ちゃん、さくらちゃん、虎姫ちゃんが中心になって強力に推進した結果、例の飛行機事故の番組になった。

 悪趣味という意見もあったけど、とにかくこの番組の謎の中毒性をみんなに知ってほしいと思ったからだ。

 最初は不評になるといけないということで、あたしたちも最初に見た、「機長が機外に放り出されたにもかかわらず生存した事故」のエピソードにしてみた。

 

 そもそも、最初の絵面からして、何人かが堪えきれず失笑を漏らしている。

 ナレーションの坦々とした、時に毒舌の口調などが妙な中毒感があるのだ。

 

 とにかくこの回はCGのシュールさ、番組のハラハラ感、原因のショボさ、そして機長の異様な生存能力全てが完璧だ。

 

「石山さん、この番組」

 

「うん」

 

「飛行機に乗る時は必ず見ておくといいわよ」

 

 どうやら、永原先生も知っていた様子。

 

「そ、そうよね……」

 

「もちろん、飛行機事故自体私達の人生スケールでさえ確率の低いことよ。それでも万が一の時に備えて、航空会社がどういう安全対策をしているのかということを知ることが重要なのよ」

 

「分かりました」

 

 前にも見た番組内容だけど、それでも見ておく。

 ちょうどこれを見終われば、最初の休憩時間に入る予定になっている。

 

 行きはずっとこの番組をやる。

 どれも浩介くんが特に推薦した番組を選んでいて、次は海底大調査の果てにしょーもない理由で墜落した内容のもの、これも見たことある。

 

 他には機長が麻薬をやってたという内容のものや上空で燃料切れを起こして何とか生還した話とか、著名なゴルファーを乗せた飛行機が、連絡を絶ってどんどん高度を上げていく話なんかもDVDの中に入れてある。

 また、子供に飛行機を操縦させて墜落させた事故なども収録予定だったが、あまりにも胸糞悪い結末なので没になった。

 特にパイロットがひどいのに、何故かいい人扱いされてるし。

 

 バスの中は最初こそひそひそ話が聞こえてきたが、今は驚くほど静まり返っている。

 林間学校の時に見た豪華客船の沈没映画のクライマックスでも、ここまで静まり返っていなかった。

 って、その時はあたしが永原先生と話していたんだっけ?

 

 ともあれ、感触は良さそうでよかった。

 

 

「えー、間もなくサービスエリアにつきます。外は寒くなっておりますのでお気をつけください」

 

 番組が終わったら、添乗員さんがすぐにそう言う。

 バスからは、「やべえ」「謎の中毒性だ」「他のも見たい」

 そんな声が聞こえてくる。

 ふふっ、これでどうやら小谷学園2年2組はみんなこの番組の中毒になってしまったわね。

 

 ともあれ、あたしたちは最初のサービスエリアで休憩をする。

 添乗員さんの言葉を聞いたけど、コートはまだいい。

 ここで寒さに耐えられないと、さすがにスキー場で大変なことになる。

 

 ここはまだトイレ休憩、あたしはトイレに入る。

 む、スカートの下にズボン穿くとトイレが……男の時より面倒になった。

 下半身の防寒は大事だけど、トイレが大変になるのは嫌だなあ。

 学校の制服のミニスカートなんてぺろりとめくり上げてパンツ下ろすだけでいいのに。

 

 あたしはまた、冬に恨みを覚えた。

 ここはトイレ休憩だけで済ませておく。水を買っている人も居るけど、バスの中にトイレはないし、昼食は次のパーキングエリアでいいだろう。

 

 バスが北へと進むと、段々と車窓から雪が見えてくるようになった。

 とは言え、まだチェーンはいらないようだけど。

 添乗員さんの話では、高速道路の走行区間は速度規制があるだけで、チェーンは付けるとしても一般道に入ってからになる見込みだという。




スキー合宿がエロ回多めになってます

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