永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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スキー合宿2日目 ホテルの朝

「んー」

 

 暗闇の中、意識がはっきりしてくる。

 あたしたちの部屋の暖房もあって寒さは感じない。

 

 ふと、隣に寝ているはずの浩介くんを見る。

 

「あれ?」

 

 浩介くんの寝ているはずの布団がもぬけの殻になっていた。

 浩介くん、どこに行っちゃったんだろう?

 

 そう思ってあたしは布団からゆっくり起き上がる。

 

「あ、優子ちゃんおはよう」

 

「ふぇ? あ、浩介くんおはよう」

 

 いけないいけない。

 一瞬浩介くんが見えなかったからって変な声出ちゃった。

 単に浩介くんが既に起きてただけだった、てへへ……

 ともあれ、今日はスキー合宿の2日目で、朝食食べたら早速始まる予定になっている。

 

「ところで、浩介くん、今何時?」

 

「5時58分」

 

 浩介くんがスマホの画面を見て確認してくれる。

 あたしはテレビをつけると、ちょうど朝のニュースをやっていた。

 

「えー次のニュースです。佐和山大学が昨夜、蓬莱伸吾教授の研究所の増設を許可したと発表しました」

 

「あ、蓬莱教授のニュースだわ」

 

 どうも寝ている間に新たに進展があったらしい。

 あたしと浩介くんの将来に影響する蓬莱教授のニュースということで、あたしたちの注目度もぐんと上昇する。

 

「蓬莱氏は遺伝学における功績でノーベル生理学・医学賞を受賞した学者で、その研究内容は宗教団体を中心に根強い批判があります。一方で、世界各国の資産家が蓬莱氏を援助しており、現在も論争となっております」

 

 宗教界からの批判は、蓬莱教授は完全に無視している。

 不老の研究さえできればなんでもいいというスタンスだからだ。

 

「世界各国の皆様からの、より手厚い援助により、今回の研究施設の増強を達成でき構えていられにました。援助していただきました皆様には厚く御礼申し上げるとともに、今後とも『老化』の治療法確立に向けて研究を続けていきます」

 

 テレビでは記者会見に映る蓬莱教授の姿が見えた。

 どうやら、昨日あたしたちが寝ている間に、蓬莱教授による記者会見が行われたらしい。

 

「蓬莱教授はこのように述べ、また、宗教界からの批判については『どうでもいい。どこの誰だかは知らないが神などというものを信じている人の言うことは一切聞かない』とも述べました」

 

 蓬莱教授は相変わらずの様子。

 ともあれ、蓬莱教授の方も研究が進んでいるといいけど。

 

「これどうなんですかね?」

 

「いやあね、宗教信じてないというのはいいんですけど、いくら何でもこういう言い方というのはちょっとどうかと思うんですよ。こう明らかに宗教を信じている人を見下しているというのですかね――」

 

 テレビでは、また識者が言いたい放題し始めている。

 

「ねえ浩介くん」

 

「ああ、どうなるかな?」

 

 あたし達はテレビを機にまた蓬莱教授の話をする。

 蓬莱教授が力を誇示した理由は何だろう?

 もしかしたら、あたし達を迎え入れるためかもしれない。

 

 とは言え、今は午前6時すぎ、林間学校と同じく朝風呂も可能だけどあたしは今回は見送ることにする。

 朝食は午前6時30分から2時間で、午前9時に集合、スキー開始になる。

 

「ご飯どうする?」

 

「せっかく早起きしたんだし、一番にしようぜ」

 

「じゃあそうするわ」

 

 とすれば、そこまで悠長に構えていられないかな?

 

「浩介くん、あたし着替えるわね」

 

「ああ、うん」

 

 あたしは、浩介くんとは別室で着替えるため、昨日と同じく脱衣所兼トイレの部屋へ。部屋の風呂もあるけど、家族風呂の方が広いからまず使わないだろう。

 朝食は私服も人もいるけど、集合時間との兼ね合いから、スキーウェアの人もいる。

 あたしはスキーウェアは飾りっ気とかないしあまり好きではない。

 ともあれ、林間学校と違って、スキー場に行く以外は、暖房の効いたホテルを出ないので、あたしはお気に入りの青い膝上丈のスカートを穿く。ホテル内でも隙間風はあるので、ストッキングは欠かせない。

 

 上の方も、戻ってきた時のためにそれなりのものを用意する。

 そして頭の白いリボン、これもスキー中は帽子に隠れちゃうけど、あたしのトレードマークにもなっているし、当然つけておく。

 

「お待たせー!」

 

「お、優子ちゃん。その……きょ、今日もかわいいね」

 

「う、うん、ありがとう……」

 

 既にスキーウェア姿の浩介くんとぎこちなく挨拶する。

 多分だけど、あたしもスキーウェアで現れると思ったんだろう。

 ともあれ、着替え終わったらいい時間になったので、あたしたちは部屋を出て食堂へ。もちろんカギは閉めるために持っていく。

 

「ねえ、浩介くん……」

 

「ん?」

 

「今は人もまばらだし、手を繋ごうか」

 

 あたしはそう言って右手を浩介くんに近付ける。

 浩介くんは何も言わずに手を握ってくれる。

 おててをつないで歩くというのは、今までのデートでも何度もしていたこと。

 あたしにとっては、学校は毎日の浩介くんとのデートも兼ねていると思っているので、それも含めると、手をつなぐ頻度は高くなかった。

 

 1階に降りて、昨日の夕食を食べたのと同じレストランへ。

 見てみると今回もバイキング形式になっている。

 早速実行委員の桂子ちゃんが目に入った。

 

「おはよー桂子ちゃん」

 

「お、優子ちゃん、朝からラブラブだね」

 

「えへへ……」

 

 クラスの男子は、あたしと浩介くんがいちゃいちゃしていると、浩介くんに強烈な殺意の目を向けるけど、桂子ちゃんをはじめ、クラスの女子たちは、こうやってあたしを煽ることが多い。

 

 そして、あたしも浩介くんも、女子たちにからかわれると熟れたリンゴのように顔が真っ赤になってしまうのがいつものこと。

 でも、この空気、恥ずかしいけど嫌いじゃないわね。

 

 今回は席は心配いらないので、まずはお皿とトレイを取ってバイキングへ。朝食は目玉焼きやウインナーなど、どれも作りたてのほやほやになっている。

 

「やっぱり朝早く来てよかったな」

 

「うん、どれもおいしそうだわ」

 

 取り箸やトングも、昨日とは違い清潔に保たれている。

 

 あたしたちは、昨日の夕食よりやや多めにとる。

 理由は2つあって1つは新鮮でおいしそうだったこと、もう1つは昼食まで時間があり、しかもスキーをずっとしないといけないという重労働を考慮して。

 

 理性的戦略と食欲が一致するのって、何気に珍しいことじゃないかと思う。

 

「「いただきます」」

 

 適当に2人掛けのテーブルを陣取って食事を開始する。

 入り口を見るとこれから食べに来た人で列をなしていた。

 

「早起きは三文の得だね」

 

「だな」

 

 もう少し遅ければ、あたしたちもあの渋滞に巻き込まれたことになる。

 そうならないためにも、明日以降も早起きし、時間にも気を付けよう。

 そんなことを思いながら、朝食に入った。

 

 さて、あたしは今、意識して何時もより少しだけ速く食べようとしている。

 というのも、あたしは何時も浩介くんを待たせてばかりだし、この点はもう十分に女の子アピールをしたと思ったから。少しだけ一生懸命な所を浩介くんに見せたい。

 もちろん、お行儀悪い食べ方にならないようにするのは大前提だけど。

 

「ふう、俺、もう少し食べるよ」

 

「あ、うん」

 

 浩介くんがいつもより早く食べ終わったかと思えば、どうも最初から少なめだったらしい。

 うーん、それに気付けないとはあたしもまだまだ浩介くんへの見識不足かな?

 

 ともあれ、これなら普段通りのペースで大丈夫そう。

 少しお腹いっぱいだけど、昼までの時間も考えて、頑張って完食しよう。

 結果的に浩介くんが食べ物を取っている時間があったので、あたしが先に食べ終わった。

 浩介君が食べている時には、あたしは最後に甘いオレンジジュースを飲みに行って時間調整をした。

 今日はデザートがなくてちょっぴり残念だった。

 

 

「あー! お腹いっぱい! ちょっと休みたいわ」

 

 部屋に戻るなりあたしの第一声、楽になりたくて布団で寝転がった。

 スカートなのでもちろん布団で覆ってだけど。

 

「優子ちゃんってさ」

 

「ん?」

 

 布団の上であぐらになっている浩介くんがあたしを見下ろしながら言う。

 

「俺と二人っきりになると、いつも無防備になるよね」

 

「そ、そうかな?」

 

 正直自覚はなかった。

 最低限ガードをしておかないと、ガサツになって女の子としてまずいし。

 

「いや、その……気を付けてはいると思うんだよ。だけど、普段が120%意識してるとすれば、俺と二人っきりになったら80%みたいな……うまく言い表せないけどそんな感じ」

 

「そ、そう……」

 

「そうそう、だからこそ隙ができるんだよね」

 

 浩介くんが笑いを含めて言う。

 

「す、隙って……」

 

 いや、別に「隙」が「好き」って聞こえたわけじゃないけど、でも無防備ってことはそういうこと。

 

「うん、ちょっとだけ気を許してくれてるっていうの? そういう俺専用モードになってくれたら、俺も楽しみになるんだ」

 

 浩介くんが、ややにやけつきながら両手を空中でもみもみする。

 

「って、浩介くん!」

 

 もーやっぱりこれだったのね。

 男の子だからしょうがないことだけどさ。

 

「でもさ、以前は偶然触っただけでもビンタしてたじゃん」

 

「え!?」

 

 浩介くんの言っていることにはっとなる。

 

「でも今はすごく恥ずかしがってくれる上に満更でもなさそうだよ」

 

「あうー」

 

 またあたしの顔が真っ赤になる。

 

「優子ちゃん、間違いなく、触られてちょっとうれしいって思ってるぞ」

 

「んっ、そ、そそそっ、そんなわけないわよ!!!!」

 

 漫画のような図星の付き方をしてしまう。

 これじゃ「はいそうです」と言っているのと同じじゃないの。

 

「あはは、優子ちゃんは分かりやすいなー」

 

「んー!!!」

 

 あたしは恥ずかしさに耐え切れず、布団で顔を隠してしまった。

 浩介くんが見えなくなり、視界も暗くなる。

 

「あ、ごめん。でも、恥ずかしがってる優子ちゃんもかわいいから好きだぞ」

 

 浩介くんに追い打ちをかけられてしまう。

 本人はフォローしていると思っているのがまたずるい。

 確かに、浩介くんの方から、胸とかお尻とか触って来たり、あるいは浩介くんにスカートめくられたりするのは、いつも決まって二人きりで他人が来そうにない所。

 

 多分、浩介くんに犯されたいって気持ちが、潜在的にあたしを無防備にしているんだと思う。

 そう考えると、多分この部屋にいる時も同じだと思う。

 

 でも、家族風呂はどうだろう?

 やっぱり裸になるのはとても緊張しそう。というよりも、考えただけでドキドキしちゃうし。

 

 

 しばらくして、「まもなく時間です、準備をお願いします」の放送が流れる。

 やはり年代物で、永原先生の声は途切れ途切れだったが、あたしもそれを聞いてスキーウェアに着替え部屋を出る。

 

 そして、あたしは浩介くんと分かれて初日のレンタルスペースに行く。

 

「おう、優子じゃねえか」

 

「おはよう、恵美ちゃん」

 

 あたしはちょっと不安そうに恵美ちゃんと挨拶する。

 

「おう、何だよ辛気くせえなあ!」

 

「と、ところで初心者コースは――」

 

「あ、石山さん」

 

 恵美ちゃんと話していると、永原先生が乱入してきた。

 ちょうどよかったわ、永原先生も初心者コースのはず。

 

「あ、永原先生。その……」

 

「うん、私たちは『特別』初心者コースだよ」

 

「え? 特別初心者コース?」

 

 初心者コースと何が違うのかな?

 

「私も何だけど、普通の初心者のコースじゃ怪我の危険性があるのよ。だからスキー場の一番下の下の一角を借りて行うわ」

 

「う、うん……」

 

「え? 先生ってスキー苦手だったんか!?」

 

「ええ、私は長野の真田出身だから山の寒さは平気だけど、どうもスキーというかこう、滑る感じのウィンタースポーツは苦手なのよ」

 

「へえ、意外だな」

 

 確かに、永原先生ってああ見えて戦国時代よろしく結構鍛えているし。

 

「そもそもスキーだって初めてしたのは学校教師としてスキー合宿に参加してからなのよ」

 

「でも、どうしてスキーをしなかったんですか?」

 

「スキーというか、絶叫マシン? ああいうの全部苦手なのよ。馬なんかよりよっぽど速いのに剥き出しだし、自分でコントロールもできないし」

 

「あー、分かります。あと、絶叫マシンってふわっってなるのも怖いですよね。あれはただの恐怖マシンですよ」

 

 あたしも、まだ優一だった小学生の頃に遊園地でその手の乗り物に乗ったこともあった。

 最初は興味本位だったけど、あの時の怖さは忘れられない。

 そして、二度と乗りたくないと思った。

 

「およ? 先生も優子も絶叫マシン苦手か?」

 

「うん、ああいうのはもう無理。小学生の時に乗ったんだけど、その時には死ぬんじゃないかって思ったわ」

 

「ははん、なるほどな。優子もやっぱTS病なんだな」

 

 恵美ちゃんが言う。

 桂子ちゃんはまだしょっちゅうだけど恵美ちゃんに女の子になりきれてないと指摘されたのって久しぶりだわ。

 

「生まれつきの女の子は叫ぶことで恐怖を緩和できるんだって。私は、多分まだ無理よ」

 

 永原先生が教えてくれる。

 うーん、あたしの中でまた「男」を見つけてしまった気がするけど、絶叫マシン苦手な女子なんていくらでもいそうだし、まあこれは放置でいいかな。

 でも、叫んで発散かあ……それで気分が楽になるなら、いつか身につけてみたいわね。損はないだろうし。

 

「さ、そろそろ時間だから行くわよ」

 

「「「はーい!」」」

 

 みんなで返事する。

 スキー合宿は初心、初級、中級、上級とそれぞれ4コースが有って、初心コースを受けるのはあたしと永原先生だけ。

 ちなみに、人数的には初級が一番多いらしい。

 

 で、あたしたちの初心コースというは特別初心コースということになっている。

 

 生徒たちがそれぞれのコースに別れ、あたしは永原先生に連れられて別の場所に行く。

 

 

「えっと、永原マキノさんと石山優子さんですね。よろしくお願いいたします」

 

「あ、どうもよろしくお願いします」

 

 特別初心コースの場所に行くと、インストラクターの人が声をかけてくれた。

 インストラクターの先生は若い女性で温厚そうな印象を受けた。

 

「それにしても、お二人ともお若いですね。よく中学生に間違えられませんか?」

 

「あはは、私はさすがに無いかな。ここ、大きいですから」

 

 あたしは胸のあたりをちょっとだけ強調して言う。

 確かにあたしも高校生にしては童顔と言っていいけど、胸が大きいおかげで少しだけ大人っぽく見えるらしい。

 この絶妙なバランスが、また男子にモテてる気がする。

 

「あ、そうですね。永原さんは……先生ですよね?」

 

「ええ、ちなみに、私はあなたより100%年上ですよ」

 

 というよりも、世界中の誰よりも年上でしょ先生は。

 

「え!? そうなんですか!? 私だってこれでも30代よ。まさか永原先生はその容姿で40超えてるとか?」

 

 インストラクターさんが驚いた顔をする。

 

「永原先生は……やめておくわ」

 

 40でも10分の1も足りていないと言うのはやめておく。

 

「私と石山さんは今話題のTS病っていう病気なのよ。石山さんは高校2年生だけど、私は……やめておくわ」

 

「え!? TS病って、まさか100歳超えてるとか!?」

 

 インストラクターさんが驚いた顔をする。

 

「ふふっ……確かに私は江戸幕府を知っているわよ」

 

「……深く詮索しないことにします」

 

 うん、それがいいわよ。

 余呉さんの184歳くらいならまだ想像も付くけど永原先生の500歳という年齢はおおよそ一般人の想像を絶するような長さ。

 というより、余呉さんでさえイメージできないスケールだろう。

 

「と、とりあえず、私達のコースに向かいます。付いてきてください」

 

「「はい」」

 

 今回は、インストラクターさんと担任の先生、女子生徒という3人授業になるのかな?

 

「あ、ちなみに、特別初心コースですけど、他にもいます。しかし、小谷学園の方じゃないです」

 

「え!? もしかして……」

 

「はい、地元の小学生の方と合同になります」

 

 まあ、そうだろうなあ……


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