永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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スキー合宿3日目 永原先生の挫折

「ご飯はどうします?」

 

「うーん、今日はスパゲッティで」

 

「私も」

 

 相変わらずお子様ランチの子供たちを尻目に、あたしと永原先生、インストラクターさんは思い思いに注文をしている。

 

「お子様ランチもいいわよねー」

 

「「え!?」」

 

 一瞬、あたしもお子様ランチを食べたいと思ってしまったんだけど、思わず声に出てしまった。

 あたしは永原先生とインストラクターさんに怪訝な目を向けられてしまった。

 

「あ、いやその……あの……」

 

「お姉ちゃんお子様ランチ食べたいの?」

 

 女の子の一人が話しかけてくる。

 

「ああいやその……スパゲッティ頼んじゃったから」

 

「そう……」

 

「石山さんって子供っぽいの好き?」

 

 永原先生が問いかけてくる。

 

「う、うん……」

 

 正直、否定はできない。

 いや、とっても好きという方がよっぽど正しい。

 

「へえ意外だわ。どんなのが好きなの?」

 

 インストラクターさんが興味津々になる。

 

「えっと、ぬいぐるみさんに囲まれてねたりとか……お人形さんでも遊んでるわ」

 

「へえ、大人でも結構いるけどね。他には?」

 

「その、女児向けアニメ見てます……少女漫画とか……」

 

「永原先生、この子本当に最近まで男だったの?」

 

 やはりインストラクターさんにも驚かれてしまったわね。

 

「ええ、石山さん、TS病の患者はね、今のあなたのように子供っぽい女の子趣味に没頭する患者も多いわよ」

 

 永原先生が「安心して」と言わんばかりの優しい声で言う。

 

「え!? そうなの!?」

 

「ええ。石山さんはどうしてこういうのが好きなの?」

 

 どうやら、あたしだけではないという。

 もしかして理由も同じなのだろうか、ちょっと聞いてみよう。

 

「その、あたし……いきなりこの体になってしまって……幼いころの女の子の自分がなくて……それがすごいコンプレックスになっちゃって……その……」

 

「うんうん、模範的な回答よ。熱心に女の子になろうとした患者さんほど、特にそれが悩みになりやすいわ」

 

 永原先生が優しく答えてくれる。

 どうやら変なことじゃないみたいでよかった。

 

「取り戻せはしないけど、でも、少女趣味を恥ずかしく思う必要はないわよ」

 

「そう?」

 

「うん、私たちはずっと生き続ける少女なんだから。いつまでも、少女の気持ちを持ち続けていいのよ」

 

「そう、ありがとう」

 

 うん、気持ちがかなり楽になったわ。

 

「そう言えば、お二人ともおばさんにならないんですよね?」

 

「ええ。私達はそういう病気ですから。100年後もこの姿のままですよ」

 

 インストラクターさんの話に永原先生が答える。

 そう、あたしたちは老けないから、いつまでも少女のままでいられるのだ。

 

「いいわねえ。いつまでも若く要られるなんて、女性としては羨ましい限りよ」

 

「……そうでしょうね」

 

「あら、意外な回答ね」

 

 永原先生は、ありがちな「いやそうでもないのよ」とは言わない。

 これは協会として、同じ境遇の仲間たちで固まっているから、寂しくないんだという心の表れでもある。

 

「確かに、100歳位までは辛いものもありますよ。でも、それを超えちゃえば大したことないですし、将来を悲観して自殺した人も殆ど居ません」

 

 そう言えば、江戸生まれに1人それで自殺しちゃった人がいたけど、比良さんと余呉さんは「特殊なケース」って言ってたよね。

 でも、いくら特殊と言っても、今後同じことが起きないとは限らないし、やっぱり蓬莱教授にその可能性を潰してもらわないといけないわね。

 

「へえ、そうなんですか。男に戻ろうと思うとすぐに死んじゃうのにねえ……」

 

 インストラクターさんも、不思議そうな声をしている。

 

「だって、不老で将来を心配すると言っても、その時にはもう、実年齢が数十歳にはなってますから。男に戻ろうとして自殺するのは、大抵は10代から年が行ってても20代ですので」

 

 永原先生が説明してくれる。

 なるほど分かりやすいわね。

 

「ふーん、なるほどねえ……」

 

「でも、不老に関しては将来一般の人にも降りてくる可能性がありますよ」

 

 あたしが付け加えておく。

 

「ああ、蓬莱教授の研究だっけ? あれも胡散臭いわよねえ……」

 

 インストラクターさんは、やはり蓬莱教授に懐疑的だった。

 無理も無いことよね。

 

 

「お待たせいたしましたこちらスパゲッティになります」

 

 ウェイターさんがあたしと永原先生のスパゲッティを持ってきてくれる。

 それと同時に、インストラクターさんの食事も持ってきてくれていた。

 

「あ、それじゃあ食べますね」

 

「はい」

 

「「「いただきます」」」

 

 近くでは、小学生のみんなにお子様ランチが配られていた。

 

 

 食事が終わると、いよいよ午後のスキースクールに入る。

 一応今日の午後で最後だし、気を引き締めていきたい。

 

「それじゃあ、曲がって減速してみてください」

 

 あまりに短い距離でリフトはないが、この頃になるとそれに因る疲れも出てきた。

 何気に結構登るのが大変だったりする。手すりを使って登るにも腕力も必要だし、場合によってはロープで子供たちに引き上げてもらう。

 インストラクターさんは分からないけど、あたしはこの子供たちの中で一番体重が重たいし、50キロを超える重さの身体を引っ張るのは、たとえ複数人でも9歳10歳の子供にはきついはず。

 

 でも、苦労して登ったら、後は一気に下るだけ。

 

 あたしの番、旗の手前でハの字にして右に体重をかけて曲がり、すぐに左に移して……そのままゆっくり……よしっ!

 

「お、いいわね、成功よ」

 

 午後一番、さっそくあたしがこの課題を成功させる。

 子供たちも大分上達してきて、成功率が上がってきた。

 中にはほぼ全てで成功させている子供もいる。

 

 そして、永原先生が一番下手なのは同じ。

 大の大人なのに一番下手と言うのはかなり心理的にも来ると思う。

 もしかしたら、そのせいで永原先生はますますスキーが苦手になっちゃっているのかもしれないわね。

 

 それでも、永原先生も徐々に成功を重ねていく。

 

「それじゃあ、ここから出てリフトに乗りましょう。リフトから降りる時は、必ず真っ直ぐにしてね真っ直ぐよ」

 

 安全のため、インストラクターさんが2人ずつ連れて行く。

 まずはあたしと永原先生から。

 あたしも永原先生もちゃんとまっすぐに板をつける。

 

「はーい気をつけてね」

 

 よいしょ!

 

「わっわっ!」

 

 永原先生がバランスを崩して転んでいた。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「うーんちゃんと正しい動作だったのに、ある意味才能よね」

 

 永原先生が後続のリフトに巻き込まれそうになり、リフトが危うく止まりかけるところだった。

 

「じゃあここで待機していてください。私は別の子供たちを連れていきますので」

 

 そう言うと、インストラクターさんはさっそうと降りていく。

 とは言え、ファミリーコースは短いので、時間はそこまでかからない。

 インストラクターさんの滑りは本当にうまい。

 浩介くんや、優一も、あんな感じだったんだろうか?

 1年も前のことで、結構記憶が薄れてきてしまっている。

 

 子供が2人、インストラクターさんに連れられてスキー場に降り立つ。

 そしてインストラクターさんがまた降りて、子供2人を連れて行く。

 それを5回繰り返して、全員が降り立った。

 結局、リフトで転んだのは永原先生だけだった。

 

「次からは、私の付き添いはありませんので、各自注意してくださいね!」

 

「「「はーい!」」」

 

 子供たちの元気のいい返事とともに、インストラクターさんがスキー場を滑る。

 課題は、インストラクターさんと同じ軌道を進むこと。

 数メートル間隔で列をなす。永原先生は一番前、インストラクターさんのすぐ後ろで、あたしが最後尾。

 上から見ると、永原先生はしょっちゅうコースを逸脱している上に、かなり転んでもいる。

 これは本番に間に合わないわね……

 

 ともあれ、あたしたちは左右に曲がるのにも慣れてきた。

 練習の成果もあって、あたしはある程度様になった滑り方が出来た。

 子供たちも何回か転んでいて、あたしだけが1回も転ばずにインストラクターさんの軌道を再現できた。

 その後、何度か同じことをして、永原先生も少しは様になったけど、それでも他の子供も転ばなくなったにもかかわらず、かなりの頻度で転んでしまっていた。

 

 

「はー、疲れたー」

 

 後は本番の披露を待つばかりとなって、永原先生がため息をつく。

 子供たちが、永原先生をかわいそうなものを見る目で見つめている。昨日「下手くそー」と野次を飛ばした子は、特にその傾向が強く、まるで自分を責めているかのようだった。

 あたしも、永原先生が可哀想でならない。いっそのこと、ホテルで留守番をさせてあげれば、どれだけ良かっただろうに……

 

 そうか、あたしの体育の授業も、他の生徒の見る目はきっとこんな感じだったんだろう。

 あたしは普段から体育があまりにもダメだったけど、スキーに関してだけは、永原先生よりはマシになれた。

 そのお陰で、この気持ち……みんなが体育の授業であたしに抱いていた気持ちがわかってしまった。

 

 バカにして、笑ってはいけないという思いは、単に下手だからではなく、その程度があまりにもひどいからこそ起こるもの。

 小さな子供は残酷な性格も内包している。

 そんな未熟な子供たちでさえ永原先生の惨状には同情してしまった。

 それは、永原先生が大人の女性……それどころか身体能力は少女のまま、500年も生きているということもあるだろう。

 昭和の頃からスキーを始めていても、全く上達する気配さえ無いということもある。

 

 

 ともあれ、各班が終わったので実技の披露に入る。

 あたしたちは一番最初、ファミリーコースを滑ることになっている。

 コースの下には、小谷学園の生徒たちが居る。

 

 

「じゃあ、私についていってくださーい!」

 

 練習の時と同じように、永原先生とあたし、そして地元の小学生10人がインストラクターさんについていく。

 さっそく、永原先生がコースを逸脱した挙句、転倒をしてしまった。

 麓の見物人たちはは騒然としている。

 そしてまた一度、永原先生は転んでしまう。

 練習の時よりも、まずい。本番で緊張しているのかもしれない。

 再び立ち上がったものの、また完全にコースから外れ転んでてしまっている。

 

 何度かそれを繰り返すと、永原先生はついに諦めてしまった。

 板を外して手に持って、歩いて降りていってしまった。

 あたしたちは内心激しく動揺しつつも、永原先生を無視して、実演を再開する。

 麓は騒然となっているが、何とか全員戻ることが出来た。

 

  パチパチパチ……

 

 途中で投げ出した永原先生の存在もあったのか、麓で見ていた他の人達の拍手はまばらでとても気まずい雰囲気に包まれている。

 

「永原先生、気持ちは分かりますけど……」

 

「すみません、武士の情けで許してもらえませんか? これ以上は、もう無理でした……」

 

 武士の情けって……いつの時代よ……永原先生らしいと言えばらしいけど。

 

「は、はあ……」

 

「いくら痛くないと言っても、これ以上転んだら明日以降どこか痛めてしまうかもしれませんし」

 

「え、ええ……」

 

 そうはいっても、途中で投げ出すのはかなり印象が悪い。永原先生が株を下げているシーンは珍しい。

 確かに、いちいち止まっているよりはいいんだろうけど……

 

 あたしたちに続いて、初級チームの実演。

 ファミリーコースを難なく滑っていく。緩やかなコースということもあってかなりの速度が出ていて、シュテムターンを見せている。

 

  パチパチパチパチ!

 

 麓ではあたしたちと比べるとかなり大きな拍手が舞い踊る。

 

 次の中級コースは更に高度でパラレルターンを右に左にと凄まじい頻度で繰り出していた。

 

「えー上級チームの皆さんはここから上で待っています。皆さん上がりましょう」

 

 司会の先生がそう言うと、あたしたちは一旦リフトに乗る。

 子供たちもついていく。どうやら、最初から合同という名目だったらしい。

 小谷学園からはあたしと永原先生だけだけど。

 

「上級者チーム、楽しみね」

 

「あ、ああ……」

 

 リフトの隣にいた永原先生も楽しみらしい。

 聞く所に拠れば、上級チームはファミリーコースではなく中上級者コースで高度な技を見せてくれるという。

 って、あたしも去年は上級チームだったけど。

 

 全員がリフトで上にたどり着く。

 

「さあ、遥か上をご覧ください、上級チームが」

 

 司会の人が注目を促すと、周囲は上を見上げる。見ぬからに凄まじい急斜面を降りていくだけですごそうなのに。

 チームが前方のインストラクターさんについて行く。

 すごい、あの急斜面をパラレルターンで難なくこなしていて、しかもかなり小刻み。

 

「うおお」

 

「すげえ」

 

「さすが上級……」

 

 周囲からもそんなため息が出る。

 来年はスキー合宿もない。多分大学に行ってスキーということもないだろう。

 永原先生から危険な遊びをしてはいけないと、安全講習で言われたから。

 死にはせずとも、半身不随ともなれば死ぬより辛いことになりかねないし。

 

 もしかしたら、永原先生がスキー苦手なのは身の安全にとても敏感なせいかもしれないわね。

 そう思いながら、あたしは急斜面を勇敢に降りていく上級班を眺めていた。

 そして、最後はきゅっ止まって決まった。

 

「うおおおおお!!!」

 

「ひゅーひゅー!」

 

 みんなが上級班を歓声で迎えている。

 多分この中にも浩介くんが居るはず。

 

「浩介くーん!」

 

 あれ?

 

 浩介くんからの返事がない。

 いつもならあたしの呼ぶ声には全速力で向かってくれるのに。

 

「浩介くーん! あたしはここだよー!」

 

 おかしいわ、反応がない。

 

「どうしたのかしら?」

 

 永原先生が心配そうに言う。

 

「あー、篠原浩介くん? 彼はちょっと待っててくれる? 実は今日テクニカルプライズのテストがあるんですよ。ここの中上級コースよりも更に上の最上級者向けのコースでやっています」

 

 そ、そうなんだ。

 

「あ、戻ってきましたよ」

 

 浩介くんが滑りながら戻ってくる。

 

「優子ちゃんおまたせ」

 

「浩介くん遅かったじゃない」

 

「あはは、上級チームからも放り出された挙句、ちょっとテスト受けてたんだ。予想通り散々な成績で不合格だったけどね……俺にはプライズなんて無謀だと分かってたし、やっぱ断っとけばよかったよ」

 

「いやでも、筋はかなりいいぞ。後何年かトレーニングすれば、君はクラウンまで行ける素質を持っているよ」

 

「……精進します」

 

 浩介くんの後ろで滑って来たおじさんがそう言う。

 とにかく浩介くんはスポーツ万能で運動神経がいい。

 何故部活に入っていなかったのかよく分からない。優一に怒鳴られていたからわからなかったけど、元来は一匹狼タイプなのかもしれない。

 

「でも、上級班の中でも圧倒的なのは確かよ。そうだわ、みんなでここより上に行きましょう」

 

「いいですね、この子には最上級者コースを滑ってもらいましょうか。戻れない人はリフトで戻るってことで」

 

 周囲もざわつき始めている。

 

「それでは2年2組篠原浩介くんによる、独演を開始したいと思います、皆さんはリフトに乗って行ってください」

 

 なんか知らない間に、浩介くんとんでもないことになっているわね。

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