永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
朝起きる。寝返りを打ったのかな? ちょっと体を捻っている。
一旦仰向けになって、うーんもうちょっと寝ていたい……
すると目覚ましの音がなる。
「……分かったよ起きるよ」
目覚ましに怒っても何にもならないが、ともあれ、ボタンを押して起床する。
ベッドから脱出して……ってパンツが丸見えだ!
そうか、昨日ワンピースタイプのパジャマにしていたから、寝ている間にスカートがずれ上がったんだ。
ともあれ立ち上がってみる。すると重力に従ってスカートが元の位置に戻る。
箪笥に向かい、今日の服を考える。
確か今日のカリキュラムはミニスカートで出かけるだよな……
水色のワンピースのひらひらしたミニスカートを手に取ってみる。昨日の赤い服に負けず劣らずの可愛らしさと幼さを強調した服だ。
「こ、これでいいかなあ……」
とにかく、丈が制服程度に短ければなんでもいいんだし、これにしようそうしよう。
ともあれ、下着を着替えて着てみる。膝の上までかなり短く、中がとってもスースーする。
自分の容姿もだんだん記憶できてきたので、鏡を見なくても、今の自分がどういう恰好なのか、ある程度想像できるようになった。うん、可愛いんじゃないかな。
服を着る時間は短くなったが悩む時間も増えてトータルでは変わらなかったが、今日は即決できた気がする。
「優子おはよう。さ、今日がカリキュラム最後の朝ごはんよ」
「うん、知ってるよ」
「そうね。で、カリキュラム終わったらご飯は学校のある日は手伝わなくていいわよ」
「はーい」
母さんの話によると、カリキュラム終了後もアフターとして態度や言葉遣いに対する注意もあるけど、そこまで厳しくはしないらしい。
あんまり厳しくしすぎるとそれはそれで問題だとか。よくわからないけど。
「じゃあ優子、これを持っていって」
朝食を食べ終わり、以前本を分けた所に誘導される。
そこには男時代にあった男物の服と、少年漫画などが入った2つの袋が台車に縛られていた。
とにかく数が多い。そのために台車付きだ。
「これらを、古本屋と古着屋で売るのが今回の課題よ。荷物が多いからお店の最寄り駅までは車で送っていくわ。ただし帰りは一人で帰ってきてね」
「はーい、じゃあ台車を押すよ」
「うん、段差のある所はお母さんも手伝うわね」
台車を押す。玄関の段差がきついのでそこら辺は二人がかりだ。
母さんは車の準備もしている。
そして、なんとか車の収納スペースに入れる。不格好だが仕方ない。
「ミニスカートで車に乗り降りする時は、どこに人の目があるかわからないから見えないように気をつけなさい」
「う、うん」
「特に、降りる時には気が緩んでパンツ見えちゃってることがあるから、十分注意してね」
「はーい」
言われた通り、周囲の目を気にし、足を開きすぎないように慎重に車に乗る。女の子として慣れればうまく素早く見えずに乗れるんだろうけど、私はまだ女の子初心者だから慎重にしないといけない。
母さんが車を運転し、助手席には自分が座る。
車は順調に、リサイクルショップのある駅に向かっていた。
信号待ちの分、電車よりは少しだけ所要時間がかかる。
ともあれ、特に何事もなく駅についた。
「パンツ見えないように、足に気をつけてね」
「はーい」
よっぽどのパンチラスポットなのか、母さんは重ねて注意している。気が緩んだら後でスカートめくりされるんだ。慎重に車から出る。よし、OKだ。
そして母さんと協力して、台車に縛られた荷物を取り出す。これで台車を押せばいいんだな。
「それじゃ、お母さんは帰るから、ちゃんと売ってちょうだいね」
「分かりました」
区役所の最寄り駅と同じ駅、区役所とは反対の方向に、巨大デパートがある。
その中に、古着屋や古本屋など、リサイクル店街がテナントにある。
元々は商店街だったが、商店街の人が協議して、このデパートに「発展的解消」が成された経緯があるそうだ。
経営の効率化による利便性の向上と、商店街の雇用を守るという2つを上手く達成したわけだ。
ともあれ、リサイクル店が並ぶ4階に行くためにエレベーターを探す。
台車を押しているからエスカレーターはダメだ。それに、今穿いてるスカート……この短さだとエスカレーターにはちょっと近づきたくない。
エスカレーターは省スペースのために折り重なっているから、真下から覗かれたらひとたまりもないことを、知っている。
にしても、台車効果もあるためか、以前よりも更に周囲の視線が激しい。
外から見れば、巨乳の美少女が多くの荷物を持って台車を押している光景に見えるはずだ。
ともあれ、エレベーターの列に並ぶ。私は台車のために乗り切れないので、後ろに並んだ人を通す。
ちょっとイライラするが、すぐに二つ目のエレベーターが来たので安堵した。
後から来た人を先に通したくらいだから、次のエレベーターは私が最優先で乗る。
上を向いて案内を見て、自分の記憶が間違っていないことを確認し、ボタンを押す。
エレベーターには自分の他には10人ほど乗った。自分の荷物スペースもあるから人数の割には混んでる印象だ。
若い不良風の男性3人組が居て胸をジロジロ見てる。
それを見て、猫背になる。見られるのはちょっと嫌な感じがする。
これが普通の女性なら気持ち悪がるだけで終わりだが、ついこの間まで男だった自分としては、3人の胸を見たくなる気持ちがわかってしまう。
彼らに悪気がないことは分かりきってるだけに余計に辛い。
ピンポーン
「4階です」
エレベーターの音声が伝えるので、台車を押してエレベーターを降りる。親切な誰かが「開」ボタンを押してくれていた。
また、さっきの男性3人組も、率先して一旦降りてくれた。
「すみません、ありがとうございます」
お礼を言う。男性3人組も顔が綻んで小さく頭を下げる。不良風だがとても親切だ。男だった頃はこういう気遣いをされた記憶が殆ど無い。というか、印象にも残らない。
エレベーターのドアが閉まる直前、「いやー可愛かったよなー」という話し声がかすかに聞こえてきた。
ふと疑問に思う。おばさんとか男だったら、あの3人組やエレベーターで「開」ボタンを押していてくれた人は今の私と同じように扱っただろうか?
「いやだねえ……」
あんまりいい考え方ではないことは自分でも分かっている。
でも、そういうことを考えざるを得ない。「人は見た目が9割」という説さえあるんだ。
今の自分はこれ以上無いほどの見た目だ。
いや、むしろ常に視線に晒されてジロジロ見られるんだ。多少の特権がなきゃやってられない。
頭で浮かんだ疑問を強引な回答で解決させた後、エレベーターの外にある案内を見つけ、古着屋への道を探る。
ん? 誰かの視線を感じたぞ。いつもとちょっと違う感じだ。
……うーん? でも視線はいつものことか。
そんなことを考えながら、まず、古着屋に到着した。
「いらっしゃいませー」
「すみません、古着を売りに来ました!」
台車の紐の一つの結びを解き、2つの大きな袋のうちの一つを取る、しゃがまないように注意して袋の上をつかむ。うーん、かなり重たい。
すかさず別の店員が寄ってきて、とっさに古着の入った袋を持つ。
すると重たかった袋もぱっと持ち上がった。
「あ、ありがとう」
自分も自然と笑顔になる。男の頃は当然として、女の子になってからもあんまり笑わなかったから、笑顔になるのも新鮮だ。
「えっと、こちらの中ですね。袋開けても大丈夫でしょうか?」
「はい大丈夫です」
すると、店員さんは器用な手つきで袋の結び目を解いて、袋を破らずに開け、服を全て取り出してきた。
女性客に似合わない男物の服を見て一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに営業スマイルに戻り「では、こちらを取り扱います。しばらくお待ちください」と言って番号札を渡してきた。
買い取りの査定には時間がかかるはずだ。その間に、古着屋の隣りにある古本屋に立ち寄る。
「すみません」
「いらっしゃい!」
古本屋のおじさんが対応する。いかにも昔風のおじさんだ。
「古本買い取りって出来ますか?」
「お、買い取りだね。わかったぜ」
さっきと同様の作業を行って、本や雑誌などが大量に束ねられている束を台車から持ち上げる。
結構重い……並の女の子よりも筋力が落ちている上に、何気に胸が邪魔だ。
「お、おう大丈夫か? ちょっと待て」
そう言うとおじさんがレジからこっちに回ってきて。本の束を代わりに持ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
何だろう、今日は他人に感謝してばかりだ。
「よし、じゃあお嬢ちゃん、これを渡しておくぜ。中央に待ち合い広場があるから呼び出されてもそこで確認できるぜ」
「は、はい」
こうして、番号札を二個受け取った。
台車は折りたたみ式なので、荷物が切れた時は折りたたんでそのままコンパクトに持ち運びができる。何気に便利だが、それでもスペースを取るのには変わらなく、これで電車に乗れるかちょっと疑問だ。
中央の待合所に行ってみると、家族連れなどで少し混んでいた。
疲れたのもあったので、トイレの近くにあるベンチに座って広いスペースで休む。
「はー疲れたー」
リラックスしながら、これまでを振り返る。
重いもの、助けてもらってばかり。あんなに重く感じたもの、以前の自分なら難なく運べたはずだ。実際、店員さんやおじさんはひょいと持ち上げた。
でも、こうやって大変そうな所を助けてもらったという経験もないし、あるいは他の人が助けられているのを見たという経験もあまりなかった。
女の子の生活は不便だと言った。永原先生も言っていた。
実際、病院で起きてから、早速不便の数々を味わった。確か最初は、背が低くて届くはずのものが届かなかったんだっけ?
でもこうやって、男の人に助けられた。古着屋の店員さんも、古本屋のおじさんもだ。
今日捨てたのは昨日と同じ、かつて自分が男だったということを示す服と本だ。
これらを全て、女の子の格好をし、女の子として捨てる。
荷物が重いから、男性に助けてもらう。もう十分知っているはずだったのに、改めて自分がいかにか弱い女の子かということを思い知らされた。何もかも、切り替わっている。
今日は日曜日、倒れたのが月曜日の昼。まさしく、今週は男女の違いを思い知る1週間だった。
「ふう……」
またため息。この一週間、男から女になって、昨今世間で騒がれている男女平等がいかに絵空事かということを、嫌でも思い知った。
ともあれ、そろそろどちらかが終わっているかもしれない。
待合所に戻る……お、空いてる空いてる。
とりあえず座る。っと周囲の視線が気になる。
昨日習ったようにパンツが直にならないようにスカートの裾を抑えながら、膝を揃えて座る。
……んー何か視線感じるなあ。今までの好奇心と下心に溢れた視線という感じじゃない。
とは言え、それを知るすべもない。モニターの表示を見ると、どちらもまだ完了していないようだ。
あてもなくボーっとする。
……少し体を丸める、胸への視線が気になってしまう。でも、猫背はあんまりいいことじゃないだろう。
もっと自信を持ちたいところだけど、どうしようかなあ……
そう考えていると、古着屋の番号に自分の番号が点灯していた。
「すみませーん」
「あ、番号札お見せ出来ますか?」
番号札を見せる。
「はい、えーっと、買取価格はこちらになります」
昨日と同様、相場はよくわからないがともあれ言われるがままに買取価格とレシートを受け取る。
そして、もう一度元のスペースに戻る。古本屋はまだのようだ。
……結構時間が経った。母さんにお昼ご飯を食べていっていいか聞いてみよう。
「お昼食べていってもいいですか?」っと。
……お、すぐに返信が来た。
「はい、大丈夫です」か。
さて、許可も出たし今日の昼は何にしようかな……
……おっと、その前に古本屋の買取査定が終わったみたいね。
「お、嬢ちゃん。こちらがレシートと買取額だ」
「はい」
「あ、状態悪くて売れない本は返すぜ。それともこっちで処分するかい?」
「あ、お願いします」
処分せずに持って帰る訳にはいかない
「あいよ、じゃ、毎度あり」
「ふう……終わった終わった」
今日の課題はここまでだ。さ、デパートのレストランへ行って帰ろう。
「うーん、どこにしようかな?」
だいぶ迷う。うーん、うどん屋さんにしようかな。
うどん屋さんに入る。
1名であることを告げカウンターの席へ。
「えっと、たぬきうどん1つお願いします」
「温かいうどんでいいですか?」
「はい」
待っている間、暫く考える。これが終われば後1個のことをやって終わりだという。
一体何をするんだろう?
料理や掃除、洗濯、アイロンがけは既にした。
女の子としての座り方や、パンツ見えない方法とか、少女漫画を読んで感想文を書くとかたくさんあった。
そして、男時代を捨てるために、わざわざ女の子を強調した格好をさせて、リサイクル店に売るという課題まであった。
うーん、まだやらなきゃいけないことって何があるんだろ?
そんなことを考えていたら、うどんが来た。
うん、まずはこれを食べよう。
うーん、やっぱ本場さぬきうどんを名乗るだけあって美味しいなー。
でもうどん大好きの某県民からはまだまだなのかな? よく分からないや、ともあれ私はこれでも満足ね。
「ありがとうございましたー」
会計を払い、店を出る。
これから電車に乗る前にトイレに入ろう。
トイレでの台車を引きながらの移動はちょっと苦心した。幾分他の人の通路を狭めてしまうからだ。
ともあれトイレに寄ってからデパートを出る。
うーん、なんか付けられてる気もするけど、まあいいか。
駅へ向かう道すがら、少し風が強くなる。
「とっと」
まだ脅威じゃないけど、少しだけスカートがはためいている。
突風で一気にめくれそうになった時のために、常にスカートを警戒……
ドンッ
「あ、すみません」
「すいません」
サラリーマン風の人とぶつかってしまった。相手も謝る。
うーん、スカートに気に取られすぎてもいけないのか。でもパンツ見られるの嫌だしなあ……
とりあえず、反射神経を鍛える必要性がありそうだ。
そういえば、永原先生が短いスカートを穿き続けると女の子らしくなると言っていたけどこういう緊張感もあるのかな?
ともあれ駅についた。ICカードの余裕があるかどうか調べてみたが、まだあった。
……改札だ、ギリギリ通れそうだ。
ピッという音とともに台車を横にすることでなんとか……
「ピンポーン」
あっ遅すぎた。
うーん、ICはタッチしたし……お? 駅員さんだ。
「大丈夫ですか? 今通しますよー」
「は、はいすみません……」
次はもう少し素早く出ないと。
また男性に助けられてしまった。
駅は高架なので例によってエレベーターを使いホームに出る。
電車は後4分で来る。その間、ホームの行列に並ぶ。
「間もなく、4番線に、電車が参ります」
……電車が来た。風が吹き付けるが前の人の影に隠れていたためなんともない。最前列じゃなくてよかった。
電車に乗って自宅の最寄駅に到着。今度は予め掴み上げながらタッチすることで、制限時間をオーバーしなかった。
さすがに2回も駅員に助けてもらうのはみっともないだろう。
ともあれ、無事に家に帰ることができた。帰りはほとんどいつもとは違う視線を感じなかったし、どうやら「付けられている」と言うのも気のせいだったようだ。ここの所、私も流石にナーバスになりすぎたみたいだな。