永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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期末試験と進路指導

 2月が過ぎ、季節は3月に入った。

 坂田部長も進学先の大学が決まり、最後の高校生活と言わんばかりに、再び天文部で部活に入り浸っている。

 最後は後期期末試験で成績が決まるわけだけど、あたしはいまいち身が入らない。

 他の生徒達は来年の受験に向けての登竜門としての役目もあるし、期末試験後には進路指導というのも控えている。

 今のところ、あたしと浩介くんは大学の所属研究所までは決まっているけど、大半の生徒はそこまで決まっているものではない。

 そんな中で、将来の職業を決めなければいけない。正直無茶な話だとも思う。

 

 

「不老研究を成功させるまでは、蓬莱教授の研究所にお世話になろうかな?」

 

「そうだな、蓬莱さんとしても、その方がいいだろう」

 

 幸いにも、蓬莱教授は資産家でもある。

 あたしたちを養うくらい訳ないだろう。

 でも、そうも言ってられない。浩介くんのためにも研究をいつか成功させなきゃいけないし、そうなったらどうしよう?

 

 うーん、まあ、なるようになるかなあ……

 

「ともあれ、研究が成功するか分からねえからなあ……」

 

「そうよねえ……どうにもならないわよね」

 

 場合分けするという手もあるけど、それだと組合せ爆発しちゃいそう。

 ともあれ、このあたりは永原先生とも相談したい。

 

 そう言えば、永原先生も何て言うだろう?

 以前は協会の会長としては歓迎だけど、教師としては反対と言っていた。

 あたしが決意を示した時もそう。何処か残念そうな顔で言っていた。

 

「にしても、期末試験どっすっかなー?」

 

「どうするって、勉強するしか無いでしょ?」

 

「いやそうなんだけどよ、何かモチベーションがあがんねえんだよなあ……生物以外」

 

 浩介くんはどうも勉強のモチベーション不足に悩んでいた。

 目的意識がないと勉強のモチベーションが上がらないと言うが、明確に目的意識がありすぎるため、蓬莱教授の研究分野とは関係なさそうな科目、特に社会系の科目に全く身が入らないという。

 

 よく考えれば、今の段階でどこの大学に進学するか決まっているのはあたしたちくらいで、あたしたちはちょっとクラスに疎外感を感じている。

 もちろん、そんなことは出さないし、みんなあたしたちに普通に接しているけど。

 

 試験前の日々、3年生の先輩たちは卒業や大学への進学へ向けての準備と何かと年度末は忙しい。

 

 

「木ノ本さん、天文部、後はよろしく頼みますわ」

 

「はい、部長」

 

 そんな中で、坂田部長は余裕の表情を見せている。

 4月から坂田部長が通うことになる大学はここからは少し遠い場所の都内の大学。

 通学中ラッシュ時に当たるのがちょっと辛いかもと言っていた。

 ともあれ、あたしたちは今日も天文部の活動を始める。

 最近では、JAXAも少し面白くなってきたし、来年からは浩介くんもこっちによく来てくれるといいかな?

 

「来年の1年生の子、来てくれるといいわね」

 

「どうだろう?」

 

「私が部長で、優子ちゃんもいると宣伝すれば、男子はいっぱい来るかもよ」

 

「なっ! 木ノ本! 俺、それはなんか嫌だ……!」

 

「えー、どうしてよ?」

 

 桂子ちゃんが不思議そうな顔をする。

 

「桂子ちゃん、やっぱりまだまだ男心が分かってないわね」

 

「……どうせ誰も優子ちゃんを取らないでしょ?」

 

「桂子ちゃん、男の子の独占欲はそんなものじゃないのよ」

 

「うっ……」

 

 浩介くんも気まずそうな表情をする。

 桂子ちゃんが「優子ちゃんはまだまだ女子力が低い」と言えばあたしは、「桂子ちゃんはまだまだ男心がわからない」と言う。

 この会話は今でもよく行われているが、嫌でもあたしと桂子ちゃんの違い、同じ美人で可愛い女の子でも、生まれつきの女の子と、TS病での女の子の違いが強調されてしまう。

 浩介くんとしても、それは時折「優一だった頃のあたし」を思い出してしまうのだという。

 

「あ、ゴメン、昔のこと思い出しちゃった?」

 

「う、うん……」

 

 浩介くんがちょっとうつむいてしまう。

 あたしは今でこそか弱い女の子になったけど、優一の頃は浩介くんをいじめていた。

 やはりどうしても、1年足らずの月日しか経っていないから、そのことを頻繁に思い出してしまう。

 浩介くんは以前、「今では最高の贈り物だけど、石山優一と同じクラスだと決まった時は最悪な気分だった」と言っていた。

 多分、他のクラスメイトもそうだったと思う。

 

「でも、今は優子ちゃんと同じクラスでよかったと思うよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 このやり取りも何度かある。

 

「ふふっ、本当に、石山さん女の子になってから、学校全体が変わりましたわ」

 

「え!? 学校全体ですか?」

 

 確かに、クラスは大きく変わったとは思うけど……

 

「ええ。特に石山さんと木ノ本さんが癒しになってましたわ」

 

 確かに、あたしが極めて珍しいTS病になってから、常にあたしと桂子ちゃんは一緒に行動すると注目の的だった。

 

「そう言えば、ミスコンの時、永原先生が出ようと思ったのも、あたしを見てだったっけ?」

 

 あたしが思い出しながら言う。

 浩介くんや桂子ちゃん、坂田部長は知らないのに。

 

「あーいや知らない。でも、そんな感じがするな」

 

「ええ、私もそう思いますわ。普通先生が学校のミスコンに出るなんて、考えられませんもの」

 

 そして、永原先生がミスコンに出るようになって、小谷学園の自由な校風がより一層強まったという。

 しかも「先生がミスコンに出る学校」ということで一部ではちょっと有名になったらしい。

 

 しかもそれが、日本性転換症候群協会の会長でもあり、御年500歳ながら、生徒よりも若く見える美少女とあれば否が応でも注目は集まる。

 小谷学園が自由な校風であることは、幸子さんの地域まで轟いていたくらい有名なことだったが、永原先生のミスコン出場で、それはより強まった。

 しかも、文化祭の時の永原先生は制服姿で生徒に扮していたのだからなおのことだ。

 

「永原先生の制服姿、また見たいわね」

 

 そんな言葉がポツリと出てしまう。

 それくらい、見事な着こなしぶりだった。

 

「そうですわね。初めてみた人は、誰も先生とは思わないでしょう」

 

 というか、あまりの溶け込みぶりに小谷学園の生徒たちの間でも最初は永原先生だと気付かなかったくらいだし。

 

「……今までは小谷学園の自由と言っても、自由をどう使っていいかわからない人が多かったですわ」

 

 中学校から色々な校則が出てくるわけだけど、小谷学園にはその手のものに乏しく、自由の使い方を知らない人も多いという。

 

「自由をうまく使いこなせない?」

 

 浩介くんが疑問に思ったように言う。

 確かに結構難しい問題。

 

「昔、北朝鮮の強制収容所に産まれて、そこから脱出してきた人が言ってましたわ。『最悪の環境から逃げてきて、ようやく自由を手に入れたけど、何もかも看守に決められていた時とは違い、住む場所や食べるものなど、自分で決めなきゃいけないのが大変でした』と」

 

「へえ、贅沢な悩みねえ」

 

 桂子ちゃんが関心して言う。

 

「第三者目にどんなに異常な環境でも、常態化してしまえばそれが普通に見えてしまうものですわ。もし、TS病患者だけの閉鎖空間があったとしますわ。そうしますと、そこの女性たちも、『人とは女しかいなくて老化しないのが当然』と思いますわ」

 

 坂田部長の思考実験は荒唐無稽な話。

 でも、そんなことを思ってしまうくらい、人間の適応力ってすごいのかもしれない。

 

「人間って適応力すげえんだな」

 

 浩介くんも同じことを、あたしを見ながら言う。

 

「え!? あたし!?」

 

「そりゃあそうでしょ、優子ちゃん……あんなに乱暴だったのにこんな乙女になっちゃってさ」

 

 桂子ちゃんがまじまじと言う。

 

「ええ、私もそう思いますわ」

 

「俺も……今の優子ちゃん、男だった頃とホント正反対だもんな」

 

「えへへ、ありがとう……」

 

 あたしの頑張りを、みんな褒めてくれる。

 女の子らしい女の子になりたい。

 特に、「優一とは正反対」と言われるのは、一番嬉しかった。

 

 思えば、あたしのTS病で、多くの人が救われていった。

 浩介くん、永原先生、恵美ちゃんや桂子ちゃんを始めとするクラスの女子たち、そして優一の呪縛から開放されたクラスの男子たち、そして幸子さんに、永原先生を始めとした協会のみんなも。

 中でも、あたし自身が、一番救われたと思う。

 そう思うと、蓬莱教授のことも、うまくいく気がしていた。

 

 

 

「ふう、終わったー」

 

「優子ちゃん、この後は進路指導だよ?」

 

「うん、そうだったね」

 

 期末試験が終わり、桂子ちゃんと話す。

 テストの出来は大分良かった。学校内での偏差値も大分高い。

 そう、これから進路指導があって、将来のことについて、担任の先生と話し合うことになっている。

 

 あたしたちの場合は、ちょっと立場が特殊ということで、浩介くんと一緒に3人で面談することになっている。

 一時は、今後の国際社会さえ左右しかねないということで、蓬莱教授とお互いの両親も呼んで8人の面談も予定していたが、さすがに全員の予定を調整するのが難しいということでお流れになった。

 

  コンコン

 

「はーいどうぞ」

 

「「失礼します」」

 

 進路指導は、あたしがこれまでにも永原先生と使った「相談室」を使い行われている。

 最後の最後、あたしと浩介くんが同時に入っていく。

 

「篠原君、石山さん、お疲れ様。将来の志望だけど……」

 

「はい」

 

「……今は確かに、そう書くしかないってのはわかるけどね」

 

 あたしと浩介くんは、第一志望の所に「蓬莱研究所」と書いた。

 

「永原先生、あたしはどうしても、浩介くんとずっといたいんです」

 

「……うん、分かってるわ。石山さんがどれほどの思いで、蓬莱先生に期待しているかもね」

 

 永原先生が、全て予定調和という感じで言う。

 

「でも先生、この前は――」

 

「ええ、でも考えは変わっていないわ。確かに日本性転換症候群協会会長として、あなたたちを送り出すことは歓迎します。でも教師として、篠原君はともかく、石山さんが佐和山大学を第一志望とすることは反対です」

 

 やはり、考えは変わっていないわね。

 確かに、永原先生もそう言わざるを得ないとは思う。

 

「それでも、あたしは蓬莱教授のところへ行きたいと行ったら?」

 

「……最終的に、私に止める権利はありません。それに、その問答は既に1ヶ月前にしていますものね」

 

「ああ、俺も、佐和山大学で遺伝学を学びたい。もちろん蓬莱教授のもとで、だ」

 

「その目的は?」

 

 永原先生は、「分かっているけど一応」という感じで聞いてくる。

 

「優子ちゃんは、老いない身体でずっと生き続けている。優子ちゃんのために、何かをしたい。老いたら、いつまでも優子ちゃんを守れない……優子ちゃんと居ることが、俺にできることだから!」

 

 浩介くんが自信に満ちた力強い口調で言う。

 

「……もう一つ、私が懸念していることいいかしら?」

 

「はい」

 

「もしこの実験に早期に成功したらどうするの? 何処かに就職することも考えないといけないわ」

 

「……うーん」

 

 蓬莱研究所での研究実績をどう活かすか?

 それによって将来の職業も決まるという。

 浩介くんは何やら考えている。

 

「あ、あたしは、もしうまく行ったなら、OLやって、あるいはその……主婦をして……そんな希望を持ってます」

 

「……そう。問題は篠原君、あなたよ」

 

「え!? 俺ですか!?」

 

 浩介くんが面食らったように驚いた顔をする。

 まさか自分に振ってくるとは思わなかったからだ。

 

「篠原君には、自分がどうしたいのかが欠けているわ。石山さんのことを想うのはいいけど、あまりにも依存しすぎよ」

 

「で、でも俺……」

 

 永原先生の鋭い指摘に、浩介くんが明らかに動揺している。

 

「……もちろん、考え抜いた末でもいいわ。不老になりたいと言うのは、大きな動機よ。それは私達の中でも、これを一種の特権と思っている人がいるくらいなんだから」

 

「……やっぱり、俺、優子ちゃんが好きですから。優子ちゃんのこと、誰よりも愛してますから。愛する人のためなんです。例え依存だと言われても……それ以上の理由は……いりません……」

 

 浩介くんがあたしに告白しながら言う。

 あたしの顔も、かああと赤くなる。やっぱり、面と向かって言われてしまうと照れてしまう。

 

「そう、決意は固いわね。ならば、私から出来ることはもう何もないわね。篠原君、石山さん、頑張ってくださいね」

 

「「はい」」

 

 永原先生が、どこか遠くを見つめたような感じになる。

 

「あのね、私、やっぱり石山さんと篠原君の関係が羨ましく思うわ」

 

「そうですか……」

 

「ええ、私みたいに、ひどい初恋じゃなくて、こんなに素晴らしい、ドラマや少女漫画のような初恋だもの」

 

「永原先生それって――」

 

「うん、石山さんも、篠原君も、過去を乗り越えたもの。私は、過去の囚われ人だから」

 

 確かに、あたしと浩介くんの関係は、あたしと永原先生の関係以上に深い。

 一番好きな異性というのもある。

 でも、その過去を考えれば、それはより深い。

 あたしにも、浩介くんにも「罪」がある。

 それを乗り越えた恋愛、対する永原先生は、罪を乗り越えることが出来ないまま、今に至っている。

 

「さ、私からの話は以上よ。教師としてはちょっと不満もあるけど、石山さんの意思を尊重するのも教師の役目よ。お疲れ様」

 

「はい……失礼します」

 

「失礼します」

 

 永原先生から以上と言われ、これで2年2組の進路指導が終わった。

 

 聞くところによると、桂子ちゃんはJAXAを第一志望にはしてみたけど、難しいので第二志望の「専業主婦」を目指したいという。

 恵美ちゃんの志望は「テニス選手」のみとなっている。

 本当の希望としては、テニスは高校や大学で引退し、普通にOLしつつ趣味でテニスを続けたかったらしいんだけど、周囲がプロになれとあまりにもしつこいので仕方なくそうしたとか。

 龍香ちゃんはアパレル業界を目指したいという。どうも彼氏が嫉妬深いので、女性の多い職場にしたいんだとか。

 虎姫ちゃんは女子サッカー選手を第一志望にはしたものの、「さすがに難しい」と考えているらしく、こちらも事務職のOL志望だとか。

 さくらちゃんはまだよく分からないという。野球部のマネージャーの仕事を通じて、何かそうしたことを出来ないかと探っている。

 

「そういえば、高月くんは?」

 

「あいつか? あいつAV業界とか書きやがってよ。先生固まっちゃったらしいぜ」

 

 浩介くんが笑いながら言う。

 

「本当なの?」

 

 なんか嘘くさい。

 

「あ、いやーさすがに嘘だよ」

 

「もう、浩介くん、いくら何でもそれはひどいわよ」

 

 冗談にしてもたちが悪いわよ。

 

「でもよ、あいつがアホな事には変わらねえぜ。何せ『投資家』って書いたからな。とにかく、モテるために金を稼ぎまくって、女を手に入れたいらしいぜ」

 

「は、はぁ……」

 

 確かに、モテるのにお金は大事な要素だとは思うけど……

 

「でもよ、俺はあいつを憎めねえな。永原先生からは、『実家の医者を継ぎなさい』って言われたらしくて……特に整形外科医なら年収さえあればモテるって言われたらしくてさ。途端にやる気になったらしいぜ」

 

 浩介くん曰く、高月くんはああ見えてかなり成績もいいらしいので、医学部は良さそうとか言っていた。

 

「ま、それぞれなるようになるでしょ。離れたら確かに疎遠になっちまうけどよ、俺と優子ちゃん、それに永原先生や蓬莱さんが居れば、希望の道は開けるだろ?」

 

「うん、そうだね……」

 

 浩介くん、あたしも……あたしも、浩介くんが居れば……きっと幸せだから。

 だからこそ、いつか訪れる結末を回避したい。

 進路指導、期末試験が終われば、もう後は、試験の返却と終業式兼卒業式のみになる。

 

 そして、あたしたちは3年生になる。

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