永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
春の遊園地
春休み、今日は浩介くんとデートする。
最近、蓬莱教授や協会のことで慌ただしかったので、今日だけは1日お休みをもらうことにした。
何かあっても、よほどの緊急事態以外は、永原先生から連絡も入らないことになっている。
この日に、あたしは当然浩介くんとの春休みデートに出かけることになった。
卒業式が終わり、間もなく桜が咲く頃。
あたしと浩介くんは将来のことは話さないという約束の元、駅に集合することになっている。
さて、今日の服は何にしよう?
もう一通り浩介くんに見せちゃったし……よし、この赤い服と赤い巻きスカートにしよう。
遊園地デートとは言うけど、やっぱり、あたしは「少女」、女の子を一番強調できる格好をしたい。
着替え終わり、頭のリボンを考える。
頭につける「ちょこんとリボン」はいつも白だけどこの服だけは赤いリボンと白いリボンのバージョンがある。
赤いのは本当に真っ赤になる。浩介くんの前だと顔まで赤くなり、本当に「赤い女の子」になれる。
そんな中でも、あたしの黒くて長い髪がしつこさを感じさせない。
一方で、白いリボンは赤い服の中でもひときわ目立つ一点の白、それもあたしの髪が黒だからひときわリボンが目立つようになる。
うーん……白い方にしようかな?
相変わらず、こういう日には服装には迷うけど、短くなったこともある。
このリボン結びがそうで、女の子になったばかりの頃と比べて約3分の1の時間で結べるようになった。
そして、今回の服装のテーマ、「少女性の強調」と言えばぬいぐるみさんだ。
抱きかかえて歩くばかりだと不便なので、今回は移動中などにいつでもしまえるようにバッグなども持つ。
うーん、どのぬいぐるみにしよう?
そうだわ、浩介くんがプレゼントしてくれたのを抱いてくればきっと喜んでくれるはず。
浩介くんからクリスマスに貰ったお魚さんのぬいぐるみを抱く。
ぬいぐるみさんを抱きながら、あたしは部屋を出る。
「おはよー」
「おはよー優子、今日はデートでしょ?」
「うん」
ちなみに、ぬいぐるみさんを抱くことは、休日ではよくある。
一回だけ、学校にも抱いていこうかと思ったけど、さすがに「幼稚過ぎる」と母さんに止められてしまった。
そういえば、あたしのコンプレックスについて、クラスの大半は知らないんだっけ?
あたしはどうしても、幼く、子供っぽいものに目がないし、幼い振る舞いをしたくなってしまう。
でも、それで馬鹿にされることがないのがせめての救いよね。
浩介くんも、幼い性格のあたしは大好きみたいだし。
「やっぱりその服が可愛いわね」
「えへへ、そうかな?」
母さんが褒めてくれる。確かに愛用しているけどこう言われるのも久しぶり。
「そうよ、さ、朝ごはん作るわよ」
「はーい」
母さんとご飯を作る。
もうほとんどマスターしちゃったけど、「家事の修行に終わりはないわ。立派なお嫁さんになるために常に試行錯誤するのよ」という母さんの言葉により、休日は必ず家事手伝いを欠かさない。
でも、休日は暇になることも多いし、これがちょうどいいわね。
だらだらと過ごすよりも、有意義な休日だと思う。
家庭的になれたことで、あたしの女の子としての魅力が増したと思うし、恋愛と結婚ということを考えれば、家事はとても大事なこと。そう言う意味で、母さんには感謝しているわ。
「ふふ、今日もおいしくできたわね」
父さんも出てきて、3人での食事、あたしはお魚さんのぬいぐるみを空いている椅子に置く。
ぬいぐるみさんを抱いた時のために、テーブルにはあたしが小さな子供の時に使っていた高い椅子が置かれるようになった。
ぬいぐるみさんの分も、小さなお皿に載せてあげる。
……食べるのはあたしだけど。
「それにしても、魚のぬいぐるみに鮭って……」
「このお魚さんは食べるんじゃない?」
母さんの突っ込みにもっともらしく答える。
魚類は全くの専門外だけど。
「……そういうことにしておくわ」
母さんもそれ以上は追及してこない。
「「「いただきます」」」
「それにしても、優子ももう少し大人っぽくしたら?」
食事中、父さんが珍しくあたしの女の子に突っ込んでくる。
「うーん、ほら、まだあたし、女の子としては1歳になってないし」
「むむ、そういう考えもあるのか……!」
父さんが盲点を突かれたという顔をする。
全く見落としていたという感じね。
でも、あたしはやっぱり子供っぽくて幼いのが好き。永原先生によれば、熱心に女の子になろうとした患者ほど幼い趣味に没頭するらしいし、異常だとは思わない。
あたしは体のスタイルが、超が付く巨乳に大きなお尻で安産型だから、ギャップ演出にもいいし。
「「ごちそうさまでした」」
あたしは朝食を片付けにキッチンへ。
母さんも手伝ってくれる。
というのも、「やらないとなまってしまう」とのこと。
あたしが丸一日家事をすることもあるけど、母さん曰く「特に疲れた日」のみ、そうするという。
さて、食器洗い機にお皿や箸などを放り込んだら、あたしはそろそろデートの時間。
あたしは歯を磨き、口を軽くゆすぐ。
「優子、香水付けてみる?」
「え? 別にいいわよ」
「そう? いい香りで愛しの彼をメロメロにすればいいのに……」
最近、母さんがまたお化粧や香水といったアロマ系のものを勧めてくるようになった。
もちろん、小谷学園では化粧しても問題ないんだけど、どうもあたしは気が進まない。
カリキュラム中にも化粧を勧められて、母さんにしてもらったけど、元々のあたしがかわいくて美人だったこともあって、見た目が全然変わらなかった。
もしかしたら今見ると違うのかもしれないけど、いずれにしても、不老で加齢臭もしないあたしには必要ないと思う。
母さんは「やっぱりまだまだ女子力低いわね」と言ってたけど。もしかしたら、優一の数少ない名残の一つかもしれない。
それなら化粧したりしてもいいかもしれないけど、肌を痛めちゃう気もするし、いまいち踏ん切りがつかない。
浩介くんが今のあたしに満足してくれてるし、下手にいじるリスクを取りたくないのかも。
ともあれ、鏡でもう一度自分の姿を確認する。うん、今日もかわいく決まってるわ。
「いってきまーす!」
そして、あたしは元気よく家を出て駅に向かう。
駅では相変わらずあたしは注目の的。
ぬいぐるみさんをしまう回数は最小限にしたい。うまく工夫しよう。
ぬいぐるみさんを抱えてのデートは、これまでも数回してるけど、浩介くんがくれたお魚さんのぬいぐるみは初めて。
待ち合わせの駅から降りると、そこにはもう浩介くんがいた。
「浩介くーん、ごめーん、待ったー!?」
まだ約束の時間より前だけど、お決まりのセリフ。
「うん、待ったよ」
「そ、そう……」
あたしがわざとらしくしょんぼりとする。
「ああいやその、俺が早く来すぎただけで、ゆ、優子ちゃんとのデートが楽しみでつい――」
「うんうん、あたしのこと想ってくれてうれしいわ」
「う、うん……!」
あたしと浩介くんが二人そろって仲良く顔を真っ赤にする。
デートの度にこのやり取りを繰り返すようになってもはや様式美なんだけど、どうしても顔が赤く、恥ずかしくなってしまう。
まだまだ、初々しい気持ちが続いているのね。
「ねえ浩介くん、行こうよ」
「そ、そうだな……!」
今日はまずここに集合し、別の路線に乗り換えてちょっと遠くの遊園地に行こうということになった。
浩介くんは分からないけど、あたしは絶叫系が苦手なので、ゆったりと遊べるアトラクションにするつもり。
多分浩介くんが絶叫系が好きだったとしても、苦手なあたしに無理強いせず、別の楽しみ方で満足してくれるという自身があったし、万一デートがうまく行かなくても、別の場所でデートして仲直りできるとあたしは信じている。
電車では、浩介くんと座席に隣同士で座った。
「それで、優子ちゃんは観覧車大丈夫?」
「うん、一応ね。でも絶叫マシンは無理よ」
それに、永原先生も長生きのためにやめたほうがいいって言うし。
「へえ、女の子の方が得意って聞いたのに」
浩介くんが意外そうな顔をする。
「あはは、優一の頃……といっても小学校の頃だけど、トラウマになっちゃって」
「そ、そうなんだ……」
「だからこの服で来たのよ。それに危険なアトラクションは寿命縮めるって永原先生も言ってたし」
正直、遊園地デートにはあまり向かない格好だと思う。
「お化け屋敷は……もう夏や文化祭の時に入ったか」
「うん」
そう言えば、今度の遊園地のお化け屋敷はどうなるんだろう?
体験型アトラクションらしいけど。
ともあれ、絶叫マシンが無くても浩介くんとなら雰囲気だけでも十分なくらいね。
「ふー、着いたね」
「うん、とりあえず、入り口の門に行こうか」
あたしと浩介くんは、入口の門へと行く。ここでチケットを買うことになっている。
「えっと、高校生2枚です」
「はい、分かりました……」
係員さんに所定の料金を払い、チケットを受け取って門の中へ。
「遊園地も少なくなったよなあ」
「うん、昔はもっと近くにたくさんあったみたいよ」
あたしはよく覚えていないけど、昔はもっと近くに、もっと色々な所に遊園地があったけど、経営難もあって殆ど消えてしまったらしい。
でも、少なくなった遊園地には人が集中しているとか何とか。
遊園地にはそれなりの数のお客さんがいる。
盛況なのか閑散としているかは分からないけど。
「ねえ浩介くん、あれなんてどう?」
あたしが指さしたのは、小さなコーヒーカップ。あまり人も並んでなくて空いているし、最初の肩慣らしにはいいと思って選んだ。
「うん、目を回さないように注意しないとな」
浩介くんの言葉。うん、遊園地は楽しむ所だし、気分悪くしたら元も子もないわね。
そう思いつつ、あたしはわずかに並んでいた行列の後ろへ。
行列の前を見ると、あたしたち以外のカップルや一人、友人同士や家族連れもいる。
前のお客さんが終わり、あたしたちの番になる。
行列の全てがコーヒーカップの中へ入り、あたしと浩介くんもそのうちの一つへ。
向かい合わせ、膝をきれいにそろえる。
うん、こんな時でもガードは固くないと。
「では始めます」
係員さんの言葉とともに、ボタンが押され、女性の音声が流れる。
注意事項として、回しすぎないことや、気分が悪くなったら遠慮なく係りの人に申し出てくださいとも言っている。
「では、始めます。スタート!」
その言葉とともに、コーヒーカップがぐるぐる回るが、中央のハンドルを回さないとコーヒーカップ自身は回転しない。遠心力だけ。
あたしがちょっとだけ回転させる。
ハンドル重くないけど、ぐるぐる回したら大変そうだし最初はゆっくり。
……お、意外に余裕そう。
「優子ちゃん、回していい?」
「うん、ちょっとだけね」
本当は思いっきりと言いたいけど、浩介くんの力で思いっきりは危険だと判断して、適度に楽しめるように工夫する。
「えーい!」
「わーい!」
浩介くんとはしゃぐ。
周囲でもアトラクションを楽しむ黄色い声が聞こえてくる。
平和な空間だった。
数分後、コーヒーカップが止まり、あたしたちは出口からアトラクションを後にする。
うん、目も回さなかったし楽しいアトラクションになったわ。
「ふー楽しかった」
「ふぅ、俺も」
少しすると、空の方からレールの轟音と「きゃあああ」という甲高い悲鳴が聞こえて来た。
見上げてみると、ジェットコースターが一番高いところから落下するところだった。
「ひえーありゃすげえな……にしても、遊園地の悲鳴って、決まって女の子の声だよな」
「うん、女の子って悲鳴を出すことで、緊張を和らげられるんだって」
あたしが、スキー合宿の時の知識で浩介くんに話す。
「って、優子ちゃんだって女の子だろ?」
「うん、だけど、あたしは無理かな……永原先生でも悲鳴でストレス和らげるって無理みたいよ」
「ほほう、意外に高度な技なんだな」
浩介くんが感心したように言う。
実際、これに関しては生粋の女の子でもできない子はたくさんいるし。
「うん、できない子もいるし、繊細なのもそれはそれで女の子らしいから、あたしはこのままでいるわ」
「うん、それがいいよ」
この遊園地には、絶叫マシンが幾つかある。
そのうちの一つは、現在老朽化のために解体中。
営業時間中でも、工事は行われている。できたスペースで新アトラクションを一刻も早くお客様に提供するためだとか。
本来、夢の遊園地でこういうのは良くないんだけど、「ジェットコースター解体の公開」は珍しいらしく、大々的に解体をアピールしていて、そういうのが好きなお客さんを集めて成功しているらしい。
本当、最近は色々なことがビジネスになるんだなと関心しながら、あたしたちはあてもなく次のコーナーを目指す。
そしてたどり着いたのが貸しボート小屋、遊園地の端に設けられた巨大な池を自由に漕げることになっている。
こちらも入場料に含まれているため、開園時間から閉園時間までぶっ通しで乗っても構わない。
「ボート、どれにする?」
「うーん……このアヒルさんのにしようかな」
あたしは、ボート小屋の前にある貸しボート一覧を見て言う。
「よし、すみませーん」
「はい」
ボート小屋のおじさんが浩介くんと応対する。
「この『アヒルさんモデル』空いてますか?」
「うーん、今は空いてないですね。ちょっと混雑していて、手漕ぎ仕様しかありませんよ」
結構ここも人気みたいね。
「だって、どうする優子ちゃん?」
「じゃあそれで」
「了解、それしか無いので、ご自由にどうぞ」
管理人さんがそう言うと、フリーで入れてくれる。
そこに停まっていたのは、小さな茶色いボートで、手漕ぎのオールは強く固定されていて、池に落ちないようになっている。
浩介くんと向い合せに座る。
座席の位置が少し低くて、スカートの中が見えちゃいそう。気をつけないと。
「じゃあ出発するわね」
あたしがボートを停めていた金具を外す。
あたしがボートを漕ぐと、ボートがゆっくり動き出した。
「へえ、のどかじゃん」
時折聞こえるジェットコースターの悲鳴も、ここまで来るとかなり小さく聞こえていて、まるで別世界の出来事のように感じてしまう。
「はぁ……はぁ……」
しばらくして、あたしの息が上がってしまう。
もう漕ぎ疲れちゃったみたいね。本当にあたしは弱い子。
「優子ちゃん、俺が代わるよ」
「あ、ありがとう……ふう……」
浩介くんが、あたしに続いて池の中心に向けて漕いでくれる。
「よっこらせっと!」
「わー速い!」
「へへん」
浩介くんが、「どうだっ」と言わんばかりの誇らしげな顔をする。
あたしの倍近いスピードで、倍近い距離を、難なく漕いで見せる浩介くん。本当に、かっこいいんだから。
「のどかねえ……」
池の中心よりも更に奥、ボートの「船着き場」から一番遠い部分の、いわば遊園地の「最奥部」に来た。
ジェットコースターやボート小屋もと置くに見え、高台には観覧車が僅かに見える。
ここでは、遊園地の大騒ぎに疲れたたくさんのお客さんたちが、静かにくつろいでいる。
あたしたちも、それを見ながらゆっくりとする。
浩介くんとの会話も少ない、鳥のさえずりが聞こえる中で、あたしはちょっとうとうと眠くなり始めた。
「優子ちゃん、おーい優子ちゃん」
「むにゃ……」
んー、浩介くんの声がするわ。
どうしてだろう?
あー、そっか、あたし遊園地でデートしててボートで寝ちゃったんだ。もう少し寝ていたいわ……
「優子ちゃーん、パンツ見えてるよ!」
「えっ! わっ! きゃあ!」
浩介くんの「パンツ見えてる」という言葉に、あたしが慌てて飛び起きてスカートを見てみる。
「パンツ見えてる」と言われたけど、見た感じでは脚は開いていない。
「なんてね、うっそ!」
浩介くんがにやけながら言う。
まるで小学生の「やーい引っかかったー」みたいだわ。
「も、もう……!」
「だって、優子ちゃん全然起きないし」
「あはは、どれくらい寝てた?」
「分からん」
「そう……」
ともあれ、あたしは時計を確認する。うーん、10分経ってない気がする。
とはいえ、この何もない池の上での10分って長いよね。
「でも、寝顔可愛かったから許す」
「何よもう……」
また浩介くんが恥ずかしいことを言ってくる。
ともあれ、あたしたちは移動とコーヒーカップの疲労からもう十分に回復したので、最初の場所に戻ってボートを返す。
見てみるとアヒルさんモデルも止まっていて、こちらは自転車のように漕ぐタイプ。
また次にここに来る機会があったら、来てみようかな?