永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「ねえ、優子ちゃん、次はどこにする?」
「うーん、どうしようか?」
しばし、あてもなく遊園地を歩く。
遠くの喧騒が、また別の場所の出来事のように感じる。
「きゃあああああ」
すると、ジェットコースターなどの絶叫マシン以外のところから、ささやかな悲鳴が聞こえてくる。
振り返ってみると、それは「脱出系お化け屋敷」らしい。
壁に遮られていることを見ると、結構すごい所なのかもしれないわ。
「へえ、脱出系ねえ……」
スタート地点から、ゴールまで行ければ脱出成功らしい。
途中にはトラップなどもあってそれに引っかかったりするとダメらしい。
ちなみに、この遊園地、入園料は高めな代わりにアトラクションは無料になっているが、ここは別途で入場料を取るらしい。
途中でゲームオーバーになることもあるから、どれだけ楽しめるかは腕次第ということだけど、一応スタンプ製になっていて、5回脱出に失敗すると「無限コンティニュー券」を貰えて、6回目は最後まで遊べるらしい。
さらに最初に5倍の入場料を払っておけば、無限コンティニューが最初から可能らしい。
「最近こういうサービスが増えたよなあ……」
浩介くんがそう言う。
あたしもふと思い出す。夏祭りの時の屋台での最低限のサービスや、文化祭の時の出し物で0点にしない配慮、幸子さんと行った温泉でも「景品は売店でも買えます」という貼り紙。
「そうねえ、このシステムは子供への配慮もあるみたいよ」
「だろうなあ……」
おそらく、特定の客がクリアできなくて際限なくお金を使い続け、アトラクションが占拠されるのを防ぐためのものかもしれない。
ネット上のソシャゲとかならそれでよくても、現実世界はスペース限られてるし。
「で、優子ちゃん、これやるの?」
「うーん、浩介くんはどうする?」
「うーん、結構入場料高いし、身体能力も要求されるらしいから優子ちゃんには無理なんじゃないかなあ……」
浩介くんが説明を見て言う。
「でも、二人サービスもあるよ」
一応一人から四人までまた子供用のモードがあるらしい。
あたしは子供用でもいいんだけど……使えるの小学生のみだし。
「そうは言ってもねえ……」
悩んでいると、さっき叫び声を出したと思われる女性二人組が、出てきた。
「いやー楽しかったねえー」
「無限コンテ使ったけど結局1回だけだったよね」
「そうそう、ゲームオーバーになった後が笑えるよね」
「うんうん、落とされてウイーンって上がるのシュールだよね」
「どうする?」
説明には、ゲームオーバーになると床が落ちて下に落とされる仕様と書いてあるけど、本当みたいね……この服で大丈夫かな?
「うん、ちょっとだけやってみようかな?」
「分かった。なに、俺がついているさ」
でも、浩介くんがいるとはいえ、内心はちょっと怖い。
夏の屋台や文化祭と違って、こちらは本気で作った仕様だから。
そう思い、あたしは抱きしめていたお魚さんのぬいぐるみを、強めに抱きしめる。
あたしたちは受付に行くと券売機で「無限コンティニュー券」を2枚買う。さすがに5倍となると結構値が張る。
ちなみに、おどおどしい雰囲気で、待合室に通される。
中には数組のカップルや女性グループ、親子連れもいる。
「どんな感じなんだろう?」
「さあなあ……ちょっと調べた限りじゃ、『苦手な人はさくっと無限コンティニューしてしまったほうがいい、イージーモードは子供向けになってめっちゃ簡単だし』みたいなこと書いてあるぜ」
浩介くんがスマホで書き込みを見ながら言う。
「じゃあ難易度高いんだね」
「……だろうな」
ちなみに、待合室の奥の扉がスタート地点らしく、係の人の放送で整理券番号で呼ばれる方式になっている。
次の人が呼ばれるまで結構時間がかかるケースもあるし、あっさりと終る時もある。
無限コンティニューするかとか、クリアするスピードが早い人は早いらしい。
部屋にあったパンフレットを読んでみると、このお化け屋敷は4つのコーナーに分かれていて、場合によっては後ろの参加者に抜かれることもあるらしい。
その時は鉢合わせにならないようにスタッフが工夫するとパンフレットにはある。
また、心臓の弱い人や、特定の疾患を持ってる人は、利用不可ともある。
これについては、他のアトラクションも同じだけど。
「整理券番号34番のお客様、奥の部屋、直前待合室までどうぞ」
「あ、浩介くん、呼ばれたよ」
「うん、そうみたいだな」
係員さんに呼ばれたので、あたしたちは扉を開けて奥の部屋へ。ちなみに、係員さんもちょっとだけ仮装している。多分本格的な仮装はこの後に出てくるんだろうけど。
こちらは、直前に「精神統一する」という名目で置かれていて、シンプルな白い部屋に本棚には漫画や雑誌が置いてあるだけ。
あと、もう一つ棚があって、スカートの客向けにスパッツの無料貸し出しコーナーもあったけど、あたしは見なかったことにした。
うー、見られたら絶対恥ずかしいのに、どうしても浩介くんに喜ばれたいという感情が勝っちゃうわ。
さっきも「ゲームオーバーになったら落とされる」って言ってたのに、これじゃ痴女になっちゃうよお……
「な、なあ優子ちゃん……!」
「うん?」
「そのままで、大丈夫なのか?」
やっぱり浩介くんも聞いてくる。
「? 何のこと?」
あたしがすっとぼけたふりをする。
「え!? ああいや、その……な、何でもない」
「? 変な浩介くん」
やっぱり、浩介くんも見たくてしょうがない様子ね。
どうしようかしら? もうこのままでいい気がするわ。
あたしは、残り時間、持っている少女漫画を読んで時間を潰す。
数分後、スタッフの人が来て、もう一回ルールを説明してくれる。
無限コンティニューなので、ゲームクリアまでコンティニューが可能なことや、さっき浩介くんが説明してくれた通り、特定ステージで何度もゲームオーバーになったり、極端に悪い内容でゲームオーバーになったり、規定の回数ゲームオーバーになったりすると、極めて易しいモードになるらしい。
「どうしてそんなに親切仕様なんですか?」
「実は昔、途轍もないくらいゲームオーバーになり続けたお客様がいらっしゃいまして、閉園時間まで無限コンティニューし続けて、渋滞になっちゃたんです。それで、ルールが変わりました」
「なるほどなあ……」
「えーでは、奥へと招待します。ここから階段を上ってください、お気をつけて」
少し急な階段を指さすとスタッフさんが元の部屋に戻る。ゲームスタート。
あたしと浩介くんが階段を上がっていくと、徐々におどおどしい雰囲気に包まれる。というか、左右の映像が単純にグロい。
階段はちょうど二人分の幅が確保されている模様なので、あたしは浩介くんと左手を繋ぐ。右手にはお魚さんのぬいぐるみもあって、精神安定剤になりそう。持ってきてよかったわ。
階段を登り切るとそこは廃病院になっていて、ご丁寧に「順路」と書かれた案内まである。
それに沿って右に曲がる。時折、お化けや幽霊の類があたしたちを驚かせてくれる。文化祭や夏祭りの時とは違い、ただ驚くだけではなく、とても怖い。
更に何か香水でもあるのか、独特の臭いも漂っていて、きわめて不気味な光景が広がっている。
最初の部屋に行くと、そこは病室で「病室のどこかにある次の部屋の鍵を探せ。ただし大声を上げたり大きな音を立てるな、怨霊に食われるぞ!」と看板に書いてある。
つまり、一定のデシベル以上になったらアウトって感じかな?
「ふうーっ!」
浩介くんが改めて精神統一している。
「優子ちゃん、行こうか」
「うん」
浩介くんが扉を開けて、先に中へと入る。
あたしは浩介くんの後ろについて行く。
女の子を守る男の子という構図。これまでも、デート中何度もあった光景は、お化け屋敷という異常空間でも変わらない。
部屋は入院患者の病室なのか、カーテンで遮られたベッドが幾つかある。
「とりあえず、一番手前のベッド調べてみるね」
「ああ、俺は右を調べるから、優子ちゃんは左を頼む」
「うん」
あたしは床を見てみると、小さなタイルがいくつもあるのが見える。
カーテンを開けて一番手前のベッドを見てみると、そこには何もなかった。
もっこりしていたのに中が空洞で変な感じの布団も、ある場所で固定されていて、更によく見るとベッドも置かれているのではなく、壁に貼り付けられていて、小物類も動かないようになっている。
そこまでして落とし穴仕様にしたいのね。感心しちゃうわ。
とは言え、部屋の鍵を見つけないことにはどうにもならない。
浩介くんもまだ見つけられてない。
あたしは、2つ目のベッドを見てみる。
先程と同じようにもっこりした布団、何の気なしにめくり上げてみた。
「きゃあああああああああ!!!」
そこには、血まみれの死体の人形がいた。顔が包帯で覆われていて、片目はえぐられていて、全身が血だらけで……
ブーブーブー!
いきなりブザーが鳴る。
もしかして……
ガタン!
「きゃあ!」
「おわっ!」
急に足元の床が下に90度回転し、あたしと浩介くんが下の部屋に落ちる。
突然のことで茫然としていると、とても柔らかい感触を受ける。
ようやくあたしが悲鳴を発したためにゲームオーバーになっちゃったことに気付く。
「優子ちゃん、大丈夫?」
背後から浩介くんの声と、クッションを歩く足音がする。
「うん、大丈夫」
仰向けに倒れたので、上を見て見ると、ベッドが浮いてるみたいで面白い。
「優子ちゃん、本当に大丈夫?」
浩介くんが咄嗟に起こしてくれる。
すると、スカートが重力に沿ってすとんと落ちる感覚がする。あうう、やっぱりめくれちゃってスカートの中見られたー
「うん、このクッション、かなり柔らかいみたいよ……そ、それよりも! あたしのパンツ見たでしょ!?」
「うん、くまさんプリントだなんて、優子ちゃんかわいいね」
……やっぱりしっかり見られてたわ。
もう何回見られたか、数えてさえもいないけど、何回見られても恥ずかしさは変わらないと思う。
「優子ちゃん、さっきスパッツ貸し出しサービスあったじゃん」
「いやその……うん、はしたないと思ったけど……ここっ、浩介くんに喜んでほしかったから……見なかったことにしちゃった……」
あうう、恥ずかしいよお……
「いやー本当に健気でかわいいね優子ちゃんは。はい、そんな優子ちゃんにプレゼント」
「え!?」
浩介くんが、鞄から一分丈の黒いスパッツを出してきた。
「やっぱりさ、生は良くないかなって思って、さっきの控室から持ってきた」
「う、うん……ありがとう……」
浩介くんだって、本当は生のほうが嬉しいと思うのに、責任感が強くてまた惚れちゃいそうだわ。
「さ、穿きかえたら向こうに見える籠に乗ろうぜ」
「うん」
端のほうに「無限コンティニューのお客様はこちらにお乗りください」という貼り紙と、上に運ぶための小さな滑車式の籠がある。ボタンを押せばいいらしい。
あたしは浩介くんから貰ったスパッツを穿きなおす。
うん、浩介くんの角度からパンツは見えなかったはず。
あたしも知識としては知ってたけど、浩介くんをはじめ「男子の目」を意識して、いつも生パンかストッキングで、スパッツを穿いた事がなかった。
カリキュラムでも、意図的に教えないことになっていたし、今後も、こういう明らかにスカートがまずい場面以外、あまり使わないようにしよう。
あたし達は籠に乗ってボタンを押す。
すると籠が一番上まで来て、最初の入り口に戻される。
扉を開けると「コンティニュー!」というシュールな声とともにもう一度開始。
あたしは2番目のベッドのある部屋に行く。
今度は身構えていたので、声は出ない。それに作り物だと分かっちゃうと途端に平気になっちゃった。
一応死体の人形も漁ってみる。うん、無いみたいね。
患者の使っていた引き出しの中は、これまた猟奇的な肉片の作り物があったけど、幸いにもギョッとするだけで済んだ。
「さて、3つ目のベッドを調べるかなあ……」
あたしはそんな独り言とともに、3つ目のベッドの部屋のカーテンを開けて……!
「きゃああああああああああ!!!」
「どうした優子ちゃん!」
そこにあったのは首吊りの死体。顔はよく見えないけど、それがかえって恐怖感を煽って……
ブーブーブー!
「きゃあ!」
音とともにゲームオーバーになったことに気付く。
さっきと同じ部屋に逆戻り。
浩介くんと一緒に奈落の底へ。
「ごめん浩介くん!」
お互いさっきの部屋に逆戻りした所で、2回もゲームオーバーになって寝ながらあたしが謝る。
「ああ、うん、大丈夫だぞ……それよりも優子ちゃん」
「ん?」
「そのスパッツ穿いてても、あんまり変わらないよな」
浩介くんの鋭いツッコミが入る。
「う、うん……見ないで」
「あ、ああ……」
あたしは、スカートの中身がべろんと丸見えになっていなっている状態を見て言う。
スカートの下まで見えるくらい長いのはまだ分かるけどこれだけ短いと殆どパンツと同じにしか見えない。
「スカートがめくれて、中が何であれ見えることが重要だしな。もちろん、かわいらしいパンツが一番だけどさ」
「あはは、分かる……やっぱりエロいし」
「だよなあ……うんうん」
久しぶりに「男同士」の会話をした気がする。
これまでも、あたしの中で「男」が出る事はあったけど、女子の指摘で気付いた事だし、「知識の活用」は男が出るというわけじゃない。出てしまった男に自分で気付いちゃうほどに色濃く出た。
そういう意味では珍しい場面だけど、それにしても他の女の子たちはどうしたらスパッツで平気になれるんだろう? あたしはカリキュラムで徹底的にスカートの中を晒されて恥じらいを叩き込まれたし、よくわからないわね。
……今度桂子ちゃんに話してみようかな?
でも、男の子にエロい目で見られると恥ずかしいというのもあるし、この性分は治す必要はないかも。
あくまで、男心あってこそ、女心が光るわけだし。
ともあれ、今はそればっかり考えても仕方ない。あたしは冷静になって、もう一度コンティニューを開始する。
「でさ、俺もベッドは3つ目なんだ」
「うん」
「とすると、あの奥の棚も怪しいよな」
「そうだね。でもまずはベッドからかな?」
浩介くんと作戦会議し、3つ目のベッドへ。
首吊り死体人形は、遠くから見ると怖いけど近くで見ると物凄い間抜けな格好になっている。このお化け屋敷、遊園地が企画したとあって本当にうまく出来ているわね。
あたしは、人形のポケットを調べてみる。すると、何か平べったい感触がする。
あたしはそれを取り出す。
「あ、あったよー! 浩介くーん!」
やっと鍵を見つけられてうれしい。
「お、ほんとか」
浩介くんも返事してくれる。
ブーブーブー!
あっ、しまった。
「うえーん、浩介くんごめんなさい」
「ドンマイドンマイ、何回でもゲームオーバーになれるんだから気楽にいこうぜ」
どうしようもない理由でゲームオーバーになってしまい、あたしは涙声で浩介くんに謝る。
もし落ちたらスカートめくれちゃうから、もう少し気を引き締めないといけないわね。
「それから鍵がちゃんとあるか、もう一回確認しろよ。なかったらクッションの中探さなきゃいけなくなるぞ」
「うん、そうだね」
あたしがもう一度手の中を確認し、鍵があることを確認する。
もしここに落とした場合、わざと一回ゲームオーバーになって重力にスカートをめくられて中身を晒さないといけない。
あとはスカートがめくれるほどじゃないけど髪が乱れるのもちょっと嫌だわ。
改めて鍵を入手したことを確認し、この部屋3回目のかご。
もう一回さっきの部屋に入ってからじゃないと順路通りにいかない。
ともあれ、ようやく第一の関門を突破……
「ばああああああああああああああああ」
「きゃっんんんんんんむぐぐぐぐぐ……」
扉から出ると、クリアすると出てくると思われる化物が驚かせようとする。
あたしが叫びそうになると浩介くんがとっさに口をふさいでくれる。
ちなみに2人の協力プレイという体裁なのでルール上は問題ない……はず。