永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「やっぱり、優子ちゃんとのデートはいつも楽しいよ」
「うん、ありがとう。あたしは恥ずかしい思いすることも多いけど……でも、浩介くんが喜んでくれるのが一番嬉しいから」
「うん、俺も」
かなり時間を使ってしまったけどあたしたちは次のアトラクションを探すことにした。
「うーん、なかなかいいの無いね」
人気そうなのは行列がすごいし、絶叫マシンは無理だし。観覧車は最後にとっておきたいし。
ちなみに、浩介くんも絶叫マシンはあまり好きじゃないらしい。
「そうだ、お腹も空いたしそろそろお昼にしようぜ」
「あ、うん。お昼食べてなかったわね」
食べ物の話題になると、急にお腹が空いてきた。
今までは、ゲームに熱中してて気付かなかったのかもしれないわね。
「ここらへんに食べられる場所はないかな?」
「えっと、案内地図は……」
あたしたちは、地図を探す。
すぐにそれを見つけられたので、遊園地の全体地図を見てみる。
「えっと、ここが現在地で、ここがさっきのアトラクションだから……」
「うん、すぐ近くだね」
あたしが地図を見ながら言う。
このまま道なりに行って、すぐに右に曲がればレストランコーナーがある。
色々なお店があるけど、全部遊園地の一環で、もちろん別料金。
どれも高そうな名前だけど、今はお金のことはあんまり考えないでおこう。
そう思いながら、時折聞こえる絶叫マシンから聞こえる叫び声と、行き交う人々の話し声を背景音楽にしながら歩く。
「のどかだね」
「うん、さっきの池ほどじゃないけど……でも不思議よね」
「ああ」
人通りは結構多くて、音量は大きいのに、何故かのどかに感じてしまう。
体験したこともない、虚偽記憶によるノスタルジック。
いわゆる「20世紀最後の生まれ」であるあたしと浩介くん……あれ?
「そういえば、あたしは20世紀最後の生まれで、2000年代最後の生まれだけど、浩介くんって誕生日いつだっけ?」
今まで気にしたことなかった。
誕生日プレゼントとか渡さなきゃいけなかったのに。
「そう言えば、話してなかったな。7月22日だよ」
「え!?」
あたしが7月22日と聞いて驚く。
それは忘れもしない、あたしが林間学校の最後の日、浩介くんに恋した日だった。
「7月22日って……」
「あ、ああ。あの日だな……」
浩介くんと、どこか運命を感じてしまう。
あたしが恋に落ちた日は、浩介くんの誕生日だった。
「優子ちゃんは、6月22日だろ?」
「うん、どうして知ってるの?」
「あー、優子ちゃんのお母さんに聞いたんだよ……それから、5月9日も誕生日なんだって?」
浩介くんが、あたしが女の子になった日のことを言う。
「そ、それは協会の人がそう言ってるだけで……」
確かに、女の子になった記念日という意味では、誕生日並みに大事だけど。
「ま、ともあれ今は食事だな……で、何で誕生日の話になったんだっけ?」
「ああうん、記憶に無いはずなのに何処か懐かしいなあと思って」
「あはは、テレビとかでよくやってる『古き良き』がこんな感じなんじゃないの?」
浩介くんが笑いながら答えを言ってくれる。
うん、あたしもそんな気がするわ。
「よし、ここにしようぜ」
浩介くんが指差したのはホットドッグやポップコーン、ハンバーグなどを売っている大衆向けのお店。
確かに、最近あんまり食べないし、いいかもしれない。
何より値段が他のお店より安いみたいだし。
「うん、あたしもここでいいわ」
あたしがそう言うと、浩介くんが安心した表情をしてくれる。
「よかった……それで、優子ちゃんは何にする?」
「うーん、ホットドッグにしようかな?」
「それだけだとさすがに少なくない?」
確かにそれはあるわね。
「じゃあ、浩介くんとポテト大を分ける?」
浩介くんと2分するとちょうど良さそうだわ。
「うん。そうするか……俺はこの『スペシャルハンバーグ』にしようっと」
お昼の時間を少し過ぎ、中は大分空いている。
列はもうほぼなく、あたしたちは殆ど並ばずに入ることが出来た。
「すみませーん、スペシャルハンバーグ、ホットドッグ、ポテト大ください」
浩介くんが受付の人に言う。
「オーダー入りまーす、スペシャルハンバーグ、ホットドッグ、ポテト大です」
「ありがとうございます!」
厨房の方から声がして、あたしたちはお金を払い、レシートを受け取って席に座る。
ちなみに、このお店は番号札を渡されて、それを受け取る形だ。
「それにしても、今日は午前中から楽しかったなあ」
「でも、午後はどうするの?」
「うーん、確かにどうするかなあ?」
待っている間、あたしたちは今後のことについて話し合う。
でも本当にどうしよう? 絶叫系はあたし苦手だし、浩介くんも進んで乗りたいという感じではない。
遊園地には、他にもゴーカートとか、メリーゴーランドもあるし、観覧車もある。
まだまだ楽しめるはず。
番号札はちょうど1番、奥の厨房で調理しているけど、少し時間がかかりそうね。
でも、今は待つことは苦じゃない。浩介くんが居るから。
「でさ、やっぱり優子ちゃんってお淑やかだよね」
「そ、そうかな?」
浩介くんの突然の褒め言葉に、あたしはまたドキッとしてしまう。
「うん。でも、本当に嫌な時は、はっきり嫌って言ってね。俺も暴走しちゃうことあるだろうしさ」
「うん、大丈夫だよ」
あたしは努めて明るく言う。
本当に、浩介くんのこういうところが大好き。
「そうか、ならいいんだけど」
「うん、例え最初嫌だと思っても、その後に浩介くんが喜んでるところを見たら、すぐに吹き飛んじゃうわ」
「そうか、うん、それならいいんだ……でも、俺も気を付けるけど、男だから……歯止めが利かなくなるかもしれないしさ」
「うん、嫌な時はちゃんとそう言うわ」
「ありがとう優子ちゃん」
浩介くんも安堵の表情を見せている。
浩介くんも内心不安だったと思う。エッチなことにも従順なあたしを見て、いつかどんどんエスカレートしちゃうんじゃないかって思ったんだと思う。
だけど、それを予め予見していたからこんなこと言ってるのよね。
でも、あたしは浩介くんの彼氏だから。
浩介くんがあたしのことを、あたしのためを考えているんだもの。
あたしだって、浩介くんにできることをしないといけないわね。
「番号札1番のお客様ー! 出来ましたので持って参ります」
「はーい! 取ってくる」
浩介くんがさっと立ち上がり受付の方へ行く。
すると店員さんも、浩介くんに向けて食べ物を持ってきてくれる。
なるほどね、こうすればいわゆる「出会い算」の方式になって双方共に時間の節約になるわけね。
あ、でも、空いているからこそかもしれない。
ともあれ、中には大きなポテトの袋と、巨大ハンバーグの袋、そしてホットドッグ。
「うわー、浩介くんのハンバーグ大きいね」
たしかにスペシャルとは言うけど、これは本当にすごい。
「あはは、でもこれくらい何てことないよ」
浩介くんは余裕そうな表情をする。
確かにいつもラーメンは大盛りだし、そんな物かもしれない。
「いただきます」
「うん、いただきます」
あたしは、ホットドッグを一口。
浩介くんもスペシャルハンバーグを豪快に頬張る。
そして、ほぼ同時に、ポテトの袋に手を伸ばす。
「どう? 優子ちゃん」
「うーん、暖かくて美味しいけど……特別美味しいわけじゃないわ」
「あーうん、俺もそう思う」
たしかに美味しいことは美味しい。それは間違いない。
でも、遊園地の中だから仕方ないとはいえ、量の割にちょっと高いから値段とは釣り合っていない。
だから、美味しいけどいわゆる「コストパフォーマンス」は悪いと思う。
まあ、不満を言うほどじゃないけどね。
あたしはそう思いながら、ホットドッグを少しずつ食べる。
口を思いっきり開ければ、一口で縦方向は一気に食べられる量だと思う。
「にしても優子ちゃんさ」
「ん?」
ホットドックを食べていると、浩介くんが声をかけてきた。
「そうやって思いっきり口を開けて食べるのってほとんど見ないよな」
「あはは、うん。これはこう言う食べ物だからね」
確かに、口を開けすぎないで食べた方が女の子らしいとはあたしも思うけど。
それじゃさすがに時間がかかりすぎちゃう。
「幸せそうに食べてる優子ちゃんを見ると、こっちも幸せになってくるよ」
「えへへ、ありがとう」
やっぱり、浩介くんに幸せを与えるのが一番嬉しいわ。
あたしは改めて思う。
男受けを狙うことの何が悪いんだろう?
男受けのいい女の子ほど、同性に嫌われるというけど、レズビアンじゃ無いなら、男に喜ばれた方がよっぽど嬉しいじゃない。ましてや、好きな男の子なら尚更よね。
女の子が男の子に、自分たちに無い男の子らしさを求めるように、あたしも男の子が持っていない女の子らしさを見せてあげないと。
そう思いながら、お昼の時間は過ぎていく。
「さて、次はどれにする?」
ご飯を食べ終わったあたし達は、レストランの近くにあった地図を見ながら相談をする。
「ここから一番近くて遊べそうなアトラクションは……」
「うーん、メリーゴーランドかなあ……」
あたしが、メリーゴーランドを指さす。
確かにレストラン街からほど近い。
「ともあれ、行ってみようぜ」
「うん」
正面を見ると、上空から落とされるアトラクションが見える。
椅子に座って一気に上まで上がったら、そこから急落下するのね。
あれもジェットコースターに負けず劣らず怖そうだわ。
「あれもすげえなあ」
「へー、記念写真も撮ってくれるのね」
アトラクションの入り口をちょっと見てみると、さっき乗っていたお客さんへの記念写真として落下する瞬間が撮影されているのが分かる。
女の子は思いっきり口を開けて、両手も挙げてるポーズが多い。
男性の方は、結構本気で恐怖している顔も多い。
「ある意味でこっちの方が怖いよな」
「うんうん、あたし、スカートでよかったかも」
「どうして?」
「だって、もし浩介くんが絶叫マシン好きでも、パンツ撮られたくないって拒否できるもの」
「ははは、俺だってこれは苦手だよ。むしろ野次馬してるのが一番楽しいんだ」
浩介くんが面白いことを言う。
たしかにこれ、野次馬受けも狙ってるよね?
「うんうん」
さっきの「脱出系お化け屋敷」より風圧は激しいだろうし、見た感じスカートを防護してくれなさそうで、入口を見ると「スカートのお客様ご注意」という表示と共に、お化け屋敷と同様にスパッツ貸し出しの案内がある。
ともあれ、今はメリーゴーランドが目的地。あたしたちは絶叫マシンと叫び声を尻目に、平和なメリーゴーランドを目指す。
来てみると、今はちょうど前のお客さんたちが楽しんでいるところ。
入口からできている行列にあたしたちも並ぶ。ここは家族連れを中心に小さな子供が多い。
円の中をぐるぐると上下しながら回るわけだけど……
「浩介くん、どれにする?」
うーん、馬は一人乗りと二人乗りがあるけど、馬車の中なら浩介くんとあたしで横に並べてゆったり座れるけどちょっと視界が悪いかな?
「うーん、馬車の中にしようかな? 競争率も低そうだし」
「あー、なるほどね」
馬の上はよく見ると小さな子供たちがたくさん乗っている。
あたしたちが押しのけるのはなんか気が引けるわね。
さて、メリーゴーランドから流れる音楽が止まり、前のお客さんたちが一斉に降りていく。
家族連れや小さな子供やカップルの他、何故かおじさん一人のお客さんも結構いる。いわゆる「大きなお友達」というのかな?
あ、でも、浩介くんもあたしといるからカップルに分類されているけど、一人だったら大きなお友達よね。
あたしと浩介くんは、予定通り入口に近い馬車の上を陣取る。
外から見るより中の視界は良さそうね。
「えーそれでは開始します」
係員さんの声とともにボタンが押されると、若い女性の声がした。
その女性は、「皆様、夢の世界にようこそ」と言って、よく分からない説明と注意事項を述べると共に、音楽が流れ出し、「では、出発します」という声とともに、メリーゴーランドが走り始めた。
ガタン、ゴトン!
「お、結構揺れるな」
「うん」
あたしは、左手でお魚さんのぬいぐるみを強く抱きしめ、右手も浩介くんをしっかり握る。
子供たちのはしゃぐ声がよく響く。絶叫マシンが苦手でも、あるいは身長制限で乗れなくても、ゆったりとした癒しの空間を楽しめる。
左から外を見ると、結構写真に撮っている人も多い。
確かに野次馬が楽しいと言うのも分かるわね。
「浩介くん」
「ん?」
「あたしね、今とっても楽しい」
「あはは、俺はちょっと恥ずかしいかな……」
「でも、子供たちが楽しんでるのを見ると、何だか癒されるの」
「優子ちゃん……優子ちゃんって、やっぱ母性強いよね」
「うん……」
スキー合宿で子供たちと一緒に接して、あたしの中で小さい子供をかわいがる感情が強くなったと思う。
あたしの中でのかわいらしい女の子としての感情は、同時に母親としての感情につながったわ。
馬車の中には絵が書き込まれていて、おそらく古い童話の場面を描いたものだと思う。
しばらく時間が経つと、音楽が止まり、アトラクションが終わってしまった。
「皆様、お疲れ様でした。この先もどうぞお楽しみください」
あたしと浩介くんが真っ先に出る。
中には「もっと乗っていたい」と親に言う子供もいたけど、親に諭されて渋々降りていく。
他にも、もう一回乗りたいのか列に並び直す親子もいる。
あたし達は、何となく園内を散策し、遊園地のちょうど中央の噴水広場に来た。
「ふー、涼しいなあ」
「うん」
噴水の水が周辺の気温を適度に下げている。
一応、「噴水の中に入らないでください」という注意書きの看板がある。
まだ3月なので、淵に腰掛けている人もいないけど、真夏とか多いんだろうなあと思う。
少し歩き疲れたあたしたちは、何も話さずに思い思い休んでいる。
ただでさえ赤い服は目立つのに、ぬいぐるみを抱きかかえていると更に目立つらしい。
でも、顔が童顔のお陰で、幸いにも「いい年して」という感じではない。
「優子ちゃんってさ」
「ん?」
浩介くんがこっちを向いて話しかけてくれる。
「何か考え事してたり、心が動揺したりすると、ぬいぐるみを抱きしめる癖ない?」
「うーん、そうかもしれないわね」
自覚は全くないけど。
「優子ちゃん、ぬいぐるみ好きなんだね」
「うん、最初に買った猫さん、犬さん、熊さん、うさぎさん、浩介くんに貰ったお魚さん、それから今年に入ってタヌキさんとキツネさんのぬいぐるみを買ったわ」
ぬいぐるみさんが増えて、ベッドも賑やかになったと思う。
「普段はベッドで寝てるの?」
「うん、前までは一人だったけど、今は賑やかになったわ……たまに朝起きて足で落としちゃってることもあるけど」
「そ、そうか……さ、ここから近いのは高台にあるゴーカートだな。どうする?」
浩介くんがいつの間にか持っていたパンフレットの地図を見ながら言う。
「うん、入る」
というわけで、あたしたちはゴーカートを次の目的地にした。
あたしは何となく、遊園地のどんどん奥、特に最奥部の観覧車に近付く方向へと誘導されていく気がした。