永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「ただいまー」
「おかえりー」
家の鍵を開けて「ただいま」と言うと親父の返事がしばらくして返ってくる。いつもは母さんに遠慮して返事をしないから、母さんが居ないということだ。
玄関の靴を脱いだ先に置き手紙を発見した。
それによると、「優子へ、母さんは夕ご飯の食材に買い物に行っています」だそうだ。そういえば玄関に何故か車がなかったが、買い物に使っているのかな?
台車は玄関に置いておけばいいだろう。とりあえず鍵を締めて自室に戻る。
あー物凄い疲れた。
早く横になりたいと思い、布団に仰向けにダイブする。
スカートが空気圧で捲れてパンツがべろんと丸見えになる。
一瞬、たまにはだらしないのもいいかなと思ったが、「万が一」のことを考えて元に戻す。
もし見られていたら大目玉だ。結局昨日と同様に、リラックスできるようにスカートを布団で隠す。
少し疲れでうとうとし始めた頃、母さんの「ただいまー」という声が聞こえた。
「優子ーちょっと運ぶの手伝ってー?」
「あ、はーい母さん!」
母さんに呼ばれ、食卓まで買ってきた品物を運ぶ。
夕食まではまだかなり時間がある。
「優子、お疲れ様」
「うん、疲れたよ」
「疲れている所悪いんだけど、一ついいかな?」
「何?」
「優子、休むのはいいんだけど、あんな風に休んじゃダメよ?」
「え? え?」
一体、何のことを言ってるんだろう?
あの場に母さんは居ないはずなのに。
「ふふっ、お母さん、あの後尾行させてもらったわよ」
「ど、どうして?」
そうか、あの視線は母さんのだったのか!
「カリキュラムの本にも書いてあったわよ、『一人で行動することになるため、気が緩みがち』って。優子、4,5人の男にパンツ見られてたわよ」
ぜ、全然気付かなかったよ。
「しかも、結構じーっと見られてたわよ、あれ、絶対帰ったらあれするパターンよ」
ちょ、ちょっと……想像すると嫌な気分になる。まさか自分がアレの材料になるなんて……
「というわけで優子、外ではスカートめくりは出来ないから、代わりに家でスペシャルなおしおきをするわよ」
「あ……あの……」
こ、怖い……恐怖を感じる。母さんの目が笑ってるのに笑ってない。
「優子……スカート、自分でめくりなさい!」
「えええええええ!!!???」
「ふふっ、スペシャルって言ったでしょ? 明日はもう学校よ。そんな直前でこんなはしたないことしたんだもの。もう普通のおしおきじゃダメよ」
「うううっ、嫌だよお……恥ずかしすぎて死んじゃうって……」
「恥ずかしさのあまり死んだ人間なんて聞いたことないわ。さ、やらないとごはん抜きよ」
「ちょっと、それはさすがに虐待に片足突っ込んでるわよ!」
「ふふっ、でもそれが優子のためよ。優子が女らしくなるためにも、女らしくない行動したらおしおきしなくちゃ」
「は、はい」
女の子になれてない自分が悪い。そう言い聞かせながら、意を決してスカートの袖をつまむ。既に両手は震えて目も細めている。
「じゃあ、お母さんがいいって言うまでめくりあげてね」
「は、はい」
少しスカートをめくる、パンツ見えない程度に上げてみる。
「あ、あの……」
「全然ダメよ。ほらっもっと」
「あううううう」
更にめくる、パンツが完全に見えている。
恥ずかしい、恥ずかしいよお……早く終わってよー
「まだよ、もっともっとよ」
おへそが外気にさらされる感覚がする、下乳の部分に手が当たる。ワンピースを選んだことが裏目に出て、完全に丸見えになっている。
「ふふっ、いいわよ」
「あの、もう戻してもいい?」
「ダメよ。この状態で暗示かけてね。ちなみに、やってしまった過ちと反省を最初に加えるのよ。そして、今回はちゃんと声に出してね!」
注文が多いよお……
「わ、私石山優子は、デパートでだらしなく休憩して、パ、パンツ見せてしまいました……お、女の子らしくない、は、はしたないまねをしてごめんなさい……」
「ほら? で、今はどうなの?」
「パ、パンツ丸見えで恥ずかしいよお……」
「ふふっ、スカート下ろしていいわよ」
ようやくお許しの言葉が出る。
「ふええええ。恥ずかしかったー」
「ふふっ優子、今までにないくらい可愛かったわー」
私は、恥ずかしさのあまりその場でへたり込んでしまった。顔がすごく熱い。
「あらあら、やりすぎちゃったかしら? でも、本当に女の子になったわね優子」
「……」
とっさに顔を手で覆う、私の顔は今文字通り顔から火が出るような状況になっている。
「ふふっ、カリキュラムの成果が出ているわ。さ、優子。気持ちが落ち着いたらお母さんのところに来てね。まだカリキュラムが少し残っているわよ」
「は、はいっ」
へたり込んだ私を尻目に、母さんがリビングに消えていく。おしおきというシチュエーションがますます恥ずかしさを強めている、そんな気さえしてきた。
しばらく茫然自失していると親父がトイレに行きに書斎から出てきた。
私のへたり込んでいる場所は親父の通行の邪魔にはなっていないが驚いて近寄ってくる。
「どうした? 優子。そんな所に座り込んで……」
「はっ、あごめんなさい! お母さんに呼ばれてるんだった……」
「何かあったのか?」
「ごめんなさい、何でもないわよ。ちょっと疲れただけ」
「そ、そうか……」
本当のこと話すと色々と厄介になりそうなのでやめておこう。
「……母さん」
「あ、優子。それじゃあ最後のカリキュラムに行くわよ」
「は、はい」
「ところで優子、あなたは今まで女の子としての生活を体験してきたけど、まだ生活を送る上で足りないわ。一人前の女の子になるためには、どうしても習得しなきゃいけないことがまだあるわ」
「う、うん」
「これはある意味家事より重要よ……そしてこれは男子禁制だから、優子の部屋で鍵をかけてやるわ」
「ごくりっ」
い、一体何をするんだろう? 今までのカリキュラムと違って妙に仰々しい。
「それは……これよ!」
そう言うと母さんは、何やら白い布切れを出してきた。
「こ、これって?」
「ずばり、生理用ナプキンよ!」
せ、生理……
「優子も女の子になったんだから、必ず来るってお医者様言っていたでしょ」
そ、そうだった。お医者さんも生理も来るし、それどころか妊娠もするって言ってたもんな……
「本当はカリキュラム中に来てくれることが最良だったんだけど、最後まで来ない場合は最終日に行う決まりになってるのよ」
やはり、女の子になる以上、この話は決して避けて通れないというわけね。
「じゃあ、優子! 部屋に行くわよ。それからこの張り紙を貼るわ」
そこには「お父さん立入禁止! 聞き耳を立てるの禁止! これに違反した場合は1週間食事抜き!」と、わざわざ母さんの署名付きで赤い色で書かれている。もちろん部屋に鍵をかけた上で、だ。
そんな厳戒令の中、母さんによる講習が始まった。
まず、ナプキンの使い方の前に、生理周期の話を叩き込まれた。生理については重い人軽い人がいて、母さんは若い頃は重かったが今は落ち着いているそうだ。
おおよそ25日から40日くらいが周期らしい。とにかく重いと気分が悪くなったり、下腹部が痛くなったりするそうだ。
そして、重要なのが、生理になると血が出ること。そこでナプキンが必要になるという。
「いい? ナプキンはここを摘んで広げるのよ? やってみて」
「うん、こうかな」
「これは羽つきだから……あ! そうだったわ、練習用のパンツが必要ね」
幸いにもここは自分の部屋なので、私がパンツを2つ箪笥から持っていく。
「あーこれじゃダメよ。ちょっと待って」
母さんが箪笥に来る。
そして、奥の方のパンツを取り出してきた。
「はい、これが生理用パンツよ。生理の時はこれを穿くの。で、これをこうやって……こんな風にするのよ。やってみて」
「えっと、こうやって……こう?」
「そうそう、これでパンツが汚れなくなるのよ」
「ふむふむ」
「ナプキンには昼用と夜用、後は重い時軽い時で使い分けなきゃいけないわよ」
「ぜ、全部覚えるの?」
「うーん、それでもいいけど、いきなり暗記してねは大変よ?」
「うん、無理だと思う」
「というわけで、はい。このプリントを渡しとくわ」
母さんが渡したプリントは夜用昼用で、更に用途に合わせたマークや経血の多さで推奨される商品を表にしてまとめたものだ。
「さ、まだまだナプキンについては話すことはあるけど、今日はこの辺にしておくわ。どうしても経験で覚えないと覚えられないこともあるからね」
「はーい」
「さ、次にタンポンについてよ。もしプールや試験なんて言う時に来ちゃった時はこれを使ってね」
母さんはポケットからその「タンポン」を取り出す。
「これは、生理中に中に入れれば大丈夫よ。ただし、ヒモを切ったり、あんまり長時間入れたりしないでね」
「う、うん……」
大事なことだけど、やっぱり覚えていくのは大変だ。
「これはナプキンだと不安だという時に使うのよ。でも、最初は慣れないと思うから、ナプキンから初めてね」
「はーい」
「タンポンは副作用もあるから、ちゃんと説明書を読むのよ。じゃ次はおりものについてね」
「おりもの?」
また新しい単語が出てきた。
「そう、これは生理とは違うんだけど、パンツが白く汚れることがあるのよ。そう言うときに使うのがこれよ」
母さんはナプキンと似ている別の形状のものを取り出してきた。
「これがパンティライナーっていうものよ。たまにCMでやってるでしょ?」
「う、うん」
「これは生理の時は使えないけど、おりものには効果を発揮するわ。使い方は……ここに、こうやって……こうするの。やって見て!」
母さんの手本を真似る。よし、こうかな!
少し一手間かかったけどなんとか出来た。
「薄くて快適だからおりものが気になったら試してみてね。で、このパンティライナーとナプキンだけど」
「う、うん」
「もちろん、学校に持っていかなきゃいけないものよ」
「当たり前よね。でも、どうやって持ち運ぶの?」
「それ用のポーチを持ち歩くのよ。ほら、これとか」
それは、服選びの時に買っておいて使っていなかった小さな入れ物だ。
「いい? ナプキンは絶対に他人に見せたりとかしないでね。女子校だと『ナプキン恵んで』とか言って宙を飛び交う光景もあるらしいけど、そんなことをしたら女の子として失格よ」
「う、うん」
それは男の感性でも分かる。
「じゃあ明日から女の子の日が来てもいいように、この中に優子の生理用品を入れていくわね」
そう言うと、先ほどのナプキンとタンポン、パンティライナーを入れていく。
「学校にはしばらくこれを絶対忘れちゃダメよ」
「そしてもう一つ、これも入れておくわ」
「え? カレンダー?」
母さんが入れたのは小さなカレンダーだ。
「そうよ、これを使って日にちを記録していくのよ」
「う、うん」
「生理は周期になっているわ。優子は老けないからずっとそのままよ」
なるほど、これを使えば次にいつ生理になるかというのも分かるのね。
「さ、これで本来なら講習は全て終わりなんだけど、母さんからもう一つどうしても優子に講習してほしいことがあるわ」
「え? 何?」
「それは……化粧よ!」
「け……化粧!?」
「ええ、化粧は女の武器よ。でも、このカリキュラムにはなかったわ」
「そ、それって多分TS病になると老けないからじゃ……」
「そうねえ、でもお母さんは納得行かないわ!」
「そ、それにほら。あ、あたしぃ……け、化粧なんかしなくてももう十分可愛いし」
「ダーメーよー! いい? 化粧は女として、絶対、ぜーったい必要なものよ!」
「で、でもどこで化粧なんてする機会が……」
「ふふっ、それはありとあらゆるところよ。それに、優子みたいに化粧しなくても美人な人でも『ナチュラルメイク』をするともっと輝くわよ」
「そ、そうかなあ……」
なんか騙してるみたいな気もするんだけど、やっぱりそれって男の考えなのかな……
「この短い時間で教えられることは多くないけど、ともかく今日は口紅からよ」
「う、うん」
母さんはポケットから口紅を取り出す。これはカリキュラムにない、いわば個人レッスンだ。
「いい? 口紅は女の口を艶やかに見せるわ」
「こうよ、力を入れすぎないで。さっやって見て?」
正直に言うと、私は乗り気じゃないが、やらないとまたスカートめくられて恥ずかしい暗示をかけさせられると思ったのでやってみることにした。
「えっと、こうかな?」
「うーん、初めてにしてはいいけど。はい鏡」
「……」
なんか不自然に唇が強調されているような……
「母さん、やっぱり化粧ない方がいいわ!」
「うーん、ちょっと待ってて。お母さんが家の化粧のすべてを持って優子を更に可愛くするわ!」
だ、大丈夫かな? 可愛くしてくれるのは嬉しいけど……
母さんは洗面所の方向へ消えていった。ぼーっとしているのも何なんで別の少女漫画を読んで見る。
しかし、冒頭を読み進めていると、すぐに母さんが戻ってきた。
箱一つ、化粧を持ってきた。
「さあ、母さんが優子をもっときれいにするわよ!」
随分と気合が入っているなあ。
「さ、優子はじっとしててね、母さんが化粧の威力を見せてあげるんだから」
「か、母さん、な、なんか目的が変わってる気がするんだけど……」
「これは女としての意地よ! 化粧のすばらしさを教えてあげるんだから!」
そう言うと母さんは、しきりによく分からないいろいろなものを取り出して、顔にかける。
パウダー? 他にもなんか小さな叩きで眉毛調整したり。
何よこれ!? 何分掛かるのよ!?
「まだよ、まだ動かないで」
結構じっとしてるのも辛い。早く終わってほしい。
「はい、出来たわよ」
ふう、と安堵の表情を浮かべたのも束の間、母さんが手鏡を取り出す。
「どう? きれいでしょ? 見違えた?」
「……」
何だろう、確かに所々まつげとかも整って入る気はするけど……
なんか違う。
「母さん、私、あんまり違いがわからないよ」
「え? そう?」
「確かに少し綺麗にはなっている気がするけど……気がするってだけで時間と労力に釣り合ってないわよ」
「……優子、それじゃダメよ」
「私、やっぱり化粧しなくても十分だと思う。永原先生が化粧をカリキュラムから除外したのだって老けないからだし」
「うーん、優子がそこまで言うなら仕方ないわね」
「お母さんー! 夕食の準備しなくていいのかー!?」
部屋の外から親父の声が聞こえてきた。
「あ、大変! こんな時間! お父さん呼んでるわね。さ、夕食の準備するわよ」
「それよりこの化粧どうやって落とすの?」
「ちゃんと顔を洗うのよ!」
なんか面倒が一つ増えただけな気もする。
あ、親父は夕食中化粧のこと全然気付いていない様子で、母さんの愚痴を聞いて初めて気付いたという反応でした。やっぱり自分にはいらないな。と思ってしまいました。
夕食が終わり、洗面所で化粧を落とし、そして風呂に入ってパジャマに着替える。このルーティンはいつものことになった。そして、残りの時間、少女漫画を読む。
少女漫画を読みながら、明日からいよいよ学校だということを考える。
「皆、びっくりするだろうなあ」
自分はもう女の子になって6日間経つが、学校のクラスの中ではまだ私のイメージは粗野で乱暴で悪人顔な「石山優一」だ。
明日は月曜日、倒れたのが先週の月曜日。ちょうど一週間休んでいた計算だ。
その間、勉強は殆どしていない。勉強以前の事が必要だったとはいえ、流石に取り戻すのに苦心しそうだ。
少女漫画を読んでいた。さっきより少し長い物語で、魔法使い、魔法少女の物語だ。
でも結局、クラスの憧れの男の子とそのまま結ばれる。そう言う意味ではこれも結局恋愛ものだ。
本当は悪役のラスボスがその憧れの男の子で、クライマックスでその正体を明かす。
何やかんやでラスボスを倒した後に、告白してハッピーエンドだ。
少女漫画や女性向け漫画ばかり読んでいたから、女の子が考える素敵な男の子の姿も分かってきた。
そして分かったのは、間違いなく男の頃の自分はそうではなかったということ。
ともかく明日だ。
明日、クラスがどういう反応を見せるのか、期待半分不安半分でなかなか眠れない夜だった。
これで第一章終わりです。第二章はしばらくシリアスシーンが続きます。無能作者なのでこれを入れないと後の話に続けることが出来ませんでした。