永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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第二章 女の子として見て
復学初日 前編


 目覚まし時計が鳴る。手を合わせる。起きる。

 

 今日は女の子になって初めて学校に行く日。色々準備があるということで永原先生に「いつもより10分早く職員室に来て」と言われているが、まあいつもだいたいそれくらいの時間に学校に来ていたからいつも通りで大丈夫。

 ……とは言えそうにない。

 

 着付けをしたとはいえ、まずはあの日と同じように制服を着付けないといけない。

 カリキュラムも終わったのでもうスカートをめくられるおしおきをされることはないが、それでも登校初日から着崩すのは良くないだろう。

 

 寝ている間に汗をたっぷり吸い取ったパジャマと下着を脱いで全裸になる。

 やっぱりこの姿はすごくエロいと思う。

 

 パンツとブラを取り出して穿いていく。さすがに1週間も繰り返せば苦労することはなくなった。

 まだブラを止めるのに少し時間がかかるだけだ。

 一昨日やったように制服を着ていく。スカートを穿いて丈を調整する。気持ち短めだ。

 次に、シャツとブラウスを着て、そしてリボンだ。

 一昨日はリボンが曲がっているというお叱りを受けたからここは特に慎重にっと。

 更にまだギリギリ冬服だからブレザーも着る。そして一旦洗面所の鏡に移動する。

 

 そこには制服姿の自分が居た。制服の上からでも目立つ巨乳、ストレートの黒髪、ふと髪飾りが目に入った。

 そうだ、白い花型の髪飾りをつけてみよう。

 

 ……ってあれ? つかないなあ……あ! ここで留めるのか。うーん難しい。

 

 ともあれ、初めて登校するにはこれでいいだろう。

 自室に戻り、通学用のカバンを取り出す。

 月曜日に倒れていて、教科書もこの中だ。

 

「あっ! 名前がまだ『優一』になってる」

 

 危ない危ない。急いでボールペンで「優子」に直す。

 ……よし、これでもう大丈夫。朝食を食べよう。

 

「おはよー」

 

「はーいおはよう」

 

「お、優子、今日から学校か?」

 

「うん」

 

「頑張ってこいよ」

 

「そのつもり」

 

 カリキュラムの時は毎日やっていた朝食の手伝いは今日はない。母さん曰く、休日には手伝ってほしいとのこと。

 

 いつものように、おかずは昨日の夕食の残り、そしてごはんと焼きパンという組み合わせだ。

 

 朝食の後、しばらくニュースを見て学校へ出発する。いつものライフサイクルだ。

 

 駅まで歩く道すがら、制服姿で学校外を歩くのはこれが初めてだが、いつも以上に凄まじい視線だ。

 そりゃあそうよね。女子高生の制服姿、ましてやこんな可愛くておっぱい大きな子がいたら、見入ってしまうのは当然だ。心配なのはむしろ歩行者より車の運転手かもしれない。

 脇見運転しなきゃいいけど……せっかく不老になったのに脇見運転の車にはねられたじゃシャレにならない。うーん、でも不老って言っても不死じゃないから死ぬ時はそうやって死ぬんだよな?

 

 あーダメダメ、今からそんな遠い未来のこと考えても。今はとにかく、クラスにもう一度、「石山優子」として受け入れてもらわなきゃ。

 

 カバンの横から定期券を取り出す。

 ここの記名欄はまだ「イシヤマユウイチ」になっている。教科書や体操着などほとんど優一の痕跡を自分から消してしまったが、まだここだけは残っている。

 有効期限が切れたら新しく「優子」として買えばいい。ということだった。

 

 学校は幸いにも朝のラッシュ時とは反対方向にある。比較的空いているパターンだ。

 列の先頭に並ぶ。

 

 電車が来て少しだけ風を感じる。かなり弱い風だが、それでもほんの少しだけスカートが舞い上がる。

 制服のスカートは、今まで穿いてきたスカートと比べても、風に弱いから特に注意しないと。

 

 電車はダイヤ通りに運行し、異常なく学校の最寄り駅に到着。自分と同じ制服を身にまとった男女が歩いている。

 改札口に行くために、一旦跨線橋を渡る。幸いにも行列になっていて、覗かれる心配はない。

 

 そして改札口に再びICカードをタッチして出る。

 学校までの道のりもいつも通り。ただ、他の生徒の視線は突き刺さるようだった。

 

 「あんな子居たっけ?」と言っているような感じだ。というよりも、後ろの女子がその話をしている。「見かけない顔だ」とか何とか言っているのが聞こえた。

 

 学校の正門をくぐり、下駄箱へ行く。一昨日見た「石山優子」の場所を見つけ、開ける。

 ローファーを脱ぎ、内履きを出す。周囲をよく見つつ、ローファーはしゃがまない程度にかがんで中腰のような格好で入れる。

 

 上履きを履いて、職員室の方向に進む。

 

 教室とは逆方向だが、永原先生に呼ばれているから仕方ない。というより、この姿でいきなり教室に行ったら、それも石山優一の席に座ったら不審者そのものだ。

 

 職員室のドアをに近づいていると、トイレから永原先生が出てきた。

 

「あ、石山さん、いらっしゃい」

 

「おはようございます永原先生」

 

「今日は一日目だね。それでいくつか確認しておきたいことがあるの」

 

「う、うん」

 

「石山さんも分かってると思うけど、ホームルーム前に石山さんの身に起きたこととについて話すわね」

 

「うん」

 

「全く無関係の転校生ということにするよりもいいでしょ?」

 

「うん」

 

 極めて稀とは言えTS病自体は知られているし、石山優一がいなくなって石山優子じゃすぐにバレる。

 ……というか、木ノ本にも一回この姿を見られてるし。

 

「そういえば、石山さん。月曜日の教材の名前欄、ちゃんと優子にしてある?」

 

「はい、今朝気付いて直しておきました」

 

「そう、よかった」

 

「それじゃあ、先生準備してくるからちょっと待ってて」

 

「はーい」

 

 一人取り残される。先生方が忙しなく動いているが、誰も気に留めない。

 職員の方は既に石山優一が女の子になったということを知っている。

 ふと数学の小野先生が目に入る。一昨日言ってたっけ?

 

 体育の着替えが男子とも女子とも離されたのは学年主任の小野先生の提案だと。確かにちゃんとした女の子として扱われないのは不満だけど、小野先生を責めるのは酷だ。

 きっと、私だって小野先生の立場になったら同じことを言うはずだから。

 

 

「お待たせーじゃあ行こうか」

 

 永原先生が出てきた。教室へと急ぐ。

 一時間目は永原先生の古典なので、いつも教材を持っている。

 

「新しい生活、頑張ってね」

 

「うん、まだまだ女の子としては足りないところはたくさんあるけど、カリキュラムが役に立つと思う」

 

「そうそうその調子、後もう一つ、学年主任の小野先生もだけど、この病気だということを知ると、女の子扱いしてくれないこともあるわよ」

 

「うん」

 

「石山さんは今までの患者さんの中でも、特に女の子になりたい気持ちが強いよね。こういう患者さんは珍しいんだけど……過去に一人だけ知っているわ」

 

 永原先生が話す途中で予鈴が鳴る。廊下に残留していた生徒は一様にこちらを見ている。

 転校生じゃないかと噂しているのも聞こえた。

 

「でもその子、今も生きていて70歳位なんだけど、女の子扱いされない時はそれだけで随分怒って、荒れてしまう頃もあったわ」

 

「……」

 

「男に戻りたいなんて思うよりはずっとマシだけど、女の子として生きていく気持ちがあまりに強いのもそれはそれで苦労するわよ」

 

「先生、いいんです。私が望んだことですから」

 

「そう、じゃあ呼ぶまでここで待っててね」

 

 そう言うと永原先生はドアを開け、待機している。

 幸いクラスの人には見られていなかった。

 

 

「はーい席についてね」

 

 永原先生も見た目若くて美人の先生だから、男子がちゃんと言うことを聞く。

 

「皆さんにお伝えすることがあります。今日から石山くんが学校に復帰することになりました」

 

 男子を中心とした「えー!」という不平不満の声が聞こえる。あんだけ怒ったんだ、女の子になってみて分かる。これは因果応報だ。

 

「ですが、ちょっと特殊な事情がありまして。おそらく口で説明するより目で見たほうがいいと思われます」

 

 男女の困惑の声が聞こえる。「先生は一体何を言っているんだ?」という感じだろうか? ここからではよく分からない。

 

「石山さん、入ってきてー!」

 

 その声と同時に私はドアを開け教壇側に立つ。

 

「え? え? 女の子?」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!? え? これが石山?」

 

「何だよあれ、滅茶苦茶可愛い上におっぱいでけえな」

 

 明らかに男子が動揺している。

 特に高月章三郎(たかつきしょうさぶろう)篠原浩介(しのはらこうすけ)の動揺が大きい。高月はともかく、篠原は男時代、気が弱くてしょっちゅう怒鳴ってた相手だ。

 

 そして女子も、男子ほどではないものの、一様に驚きの目を隠せない様子だ。

 

「はーい、皆驚いているのも分かるけど一旦静かにして。石山さん、自己紹介をお願い」

 

「石山優子です。先週はご迷惑をおかけしました。ちょっと大変な病気になってしまって1週間学校をお休みさせてもらいました。今日からまたよろしくお願いいたします」

 

 クラスに更に動揺が広がる。

 クラス一、あるいは学年一の美少女と言われていた木ノ本桂子を超える美少女がそこに立っていて、しかもそれが乱暴狼藉の石山優一が女の子になった姿だというのだから。

 

「石山さんは、TS病という身体が女の子になってしまう病気になりました。世界でも稀な病気ですが、比較的日本人には多い病気です。みなさんも、これから石山さんは女子の一員として、よろしくお願いします」

 

「「「はーい」」」

 

 クラスメイトたちも動揺しつつ、一応の返事をする。

 そのままかつて自分が座っていた机に座る。もちろんスカートは揃えて。

 

「じゃあ出席を取りますね……」

 

 永原先生が出席を取り始める。

 

「石山さん」

 

「はい」

 

 あいうえおのいだから割合すぐに呼ばれた。

 

 

「それじゃあ今週の連絡事項は以上になります。1時間目は古典ですから、まずは課題を提出して下さいね」

 

 とは言っても、この時間、永原先生はぼーっとしているだけだ。

 

 すると案の定、男子が二人近寄ってきた。

 高月と篠原だ。

 

「な、なあおい」

 

「ん?」

 

「お、お前本当に優一なのか?」

 

「……今は違うわよ。優子、石山優子よ」

 

「お、俺達が聞きたいのはそんなことじゃねえよ」

 

 高月が非難する。

 

「お前は本当に、あの時倒れた石山優一が女子になった姿なのか?」

 

「ええ、確かに1週間前までは優一と呼ばれていたわよ」

 

「なあおい、俺の名前なんて言うんだ?」

 

「篠原浩介さんですよね?」

 

「そ、そうだ。こいつは篠原だ。じゃあ俺は?」

 

「高月章三郎さん」

 

「あ、ああその通りだ。どうやら本人らしいぞ」

 

「ったく、あの時はビビったけどよ、なんだってんだこれ。何で女の子になってんだよ!」

 

「篠原さん、永原先生の話聞いてなかったの? 私TS病になったのよ」

 

「お、俺が聞きてえのはそうじゃねーよ!」

 

 じゃあ何なんだよ。女の子になった理由なんて突然TS病になった以外答えようがないって。

 

「まあまあ篠原。お前の聞き方じゃ石山もそう答えるしかねえだろ。それよりも、TS病ってのは俺も知ってるけど、どうも怪しいぜ」

 

「どういうことだ?」

 

「んー、まあ本当にこいつは女子なのかってことさ。最近は性転換手術も技術凄いからな。見た目はこんな美人だけど……」

 

「なっ!!! あ、あたしはちゃんとした女の子よ!!!」

 

 声を上げて抗議する。

 

「おいおい、いっちょ前に女の子ぶってるぜ。突然女の子にされてたった1週間でこうもなるか?」

 

「まあまあ高月、もう少し様子見ようぜ。それに、もう一人、石山に用があるみたいだしな」

 

「おっと、すまんすまん」

 

 二人が去っていき、もう一度見ると、そこに木ノ本がいた。

 

「ね、ねえ……あなたあの時の……」

 

「だ、騙してごめん! でも、あの時木ノ……桂子ちゃんに言っても信じてもらえないと思って」

 

「木ノ本でいいわよ。で、本当にあなた、優一なの?」

 

「う、うん。1週間前まではね。あの日倒れて、次に目を覚ました時には、この姿になってた」

 

「ねえ、ゆうい……ごめん。ねえ、優子、悪いんだけど、私もまだ状況を飲み込めてないわ」

 

「む、無理も無いわよね……」

 

「だからごめん、あなたのこと、やっぱりまだ女子としてみるのは難しいと思うの」

 

「え?」

 

「ああうん、悪気はないのよ。その見た目だと、男子として扱うつもりもないわよ、ただ……ごめん、気持ちを整理させてほしいんだ」

 

「う、うん。分かったわよ」

 

 木ノ本の言い分は最もだ。突然倒れて、一週間も学校を休み、似ても似つかない姿になって「同一人物です」と言われて、「はいそうですか」なんて言えるわけない。

 流石にこんな見た目で男子扱いというのもおかしいことはみんな分かっているだろう。だからといっていきなり女子扱いするのも難しいのか。

 

 クラスの皆を責めることは出来ない。

 自分だって、もしクラスの男子の誰かが同じ状況になったら、同じように対応しただろう。

 

 熱心な生徒が永原先生に先週の課題を提出している。

 私は永原先生のもとに向かう。

 

「せ、先生、あの……」

 

「先週の課題? 石山さんはいいわよ。あの病気だし、休ませたのは私ですから、出席扱いにしてますし、課題も提出扱いにするわ」

 

「す、すみません」

 

「さっきの会話聞いていたけど、まだクラスの皆は状況を飲み込めてないみたいね」

 

「でも、クラスの皆を責めることは出来ないと思います」

 

「石山さん、大人になったわね。さ、もうすぐ予鈴よ」

 

「はーい」

 

 ともあれ椅子に座る。

 

 するともう一人、意外な人物が声をかけてきた。

 木ノ本と勢力を二分する2年の女子グループのリーダー、田村恵美だ。

 

「あんた。ほんとに石山なの?」

 

「うん、って高月に篠原に木ノ本も同じこと言ってたよ」

 

「あーあいつらはいいんだよ。でもよ、あたいら皆、つい昨日まで石山は単なる病気だと思ってたんだ。いきなりこんな格好で来られて、この人が石山です。ってのは納得行かねえよ」

 

「……」

 

「まあよ、さっきまでのやり取りを聞くと、同一人物だと納得せざるを得ない。ところであたしの名前、フルネームで言ってみ?」

 

「田村恵美さん。ですよね?」

 

「おう、正解だ。先生の出欠じゃ下の名前までは分からんからな」

 

「でもよ、あたいが認めんのはあんたがどうも石山優一と同一人物、少なくとも同一の記憶を持っているというところまでだ」

 

「普通に考えりゃ性別が変わるなんてあり得ねえし、あまりにも珍しすぎる、さっき高月が言ってたように性転換手術でもしたんじゃねえかって、考えちまうもんだ」

 

「あ、あの……!」

 

「ん?」

 

「今は、少なくとも男子扱いしなければいいです」

 

「それってつまり、女子扱いしろってことだろ? まだちょっとそれは無理だぜ」

 

「え? でも……」

 

「でもって何さ、人間男か女かだぜ。小学校の時やっただろ?」

 

 田村とこんな長く話す機会はなかったが、随分と威圧感がある。

 

「う、うん。確かにそうだけど……」

 

「でもよ、まあよくわかんねえけど、女子扱いせずに男子扱いもしない方法……あたいはそこまで頭よくねえけどよ。ま、考えてやんよ」

 

「あ、ありがとう」

 

「礼には及ばねえよ……ただ、状況次第じゃ男子扱いもあり得るってこと、忘れんなよ」

 

 少し不安もあるが、今はまだ最終的に男扱いされなければそれでいい。

 まだ復学して、1時間も経っていない。急ぐことはない。

 本令が鳴る。永原先生の「はいじゃあ1時間目を初めますよー」との声で、授業が始まった。


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