永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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花嫁修業1日目 前編

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

「うーん……」

 

 目覚まし時計の音とともに、あたしは目を覚ます。

 

 今日は5月3日、ゴールデンウィークの4連休の最初の日。

 この日から2泊3日で、あたしは浩介くんの家に泊まる事になっている。

 お泊りというよりは、「花嫁修業」ということになっていて、家事の手伝いとか浩介くんとひとつ屋根の下で過ごすことで見えてくるものを発見するのが大きな目的。

 

 クリスマスの時以上に、あたしは未来の義両親に、品定めをされるに違いない。

 浩介くんの家で一緒に過ごすのは楽しみだけど、品評会も兼ねているわけだからだらしない所は見せられない。

 そう言う意味でも、何もかも気軽に過ごせればいいというわけではない。

 

 でも、だからと言って嘘でメッキしてはいけないと思う。

 あたしが子供っぽい趣味が好きなこと、どうしてもそれをやめられないこと。そしてそれは、あの時浩介くんの両親が言っていた「男の人生も歩んできたから男心が分かる」というのと、コインの表裏の関係であることを、示さなくてはいけない。

 

 あたしは家の倉庫から母さんが使っていたというピンク色のキャリーバッグを取り出し、着替えやお風呂セット、また遊ぶために持っていくものを選んでいく。

 ぬいぐるみさんとお人形さん、おままごとセットは全部持っていく。

 もし当日どこかで暇があれば、これを使って遊んでいきたいと思う。

 

 次に着替え、パジャマも含めて数着。

 

 今回はデート用だけではなく、普段来ている比較的ラフな服装なども用意しなきゃいけない。

 普段の生活を見せるというのが、今回のお泊り会の大きな目的。

 

 次に、今日の服を品定めする。今日はあまり生活臭がする服はやめておこうと思う。

 あたしはまず、短めのスカートを手に取る。

 黒いプリーツミニに、上は白を基調としたスタイル。

 いわゆる「制服風」のデザインで、胸のリボンも黒い色。

 頭の白いリボンと合わせて白黒スタイルで決めてみる。

 浩介くんと家デートするので、パンツ見られることも考えて純白を選んだ。とにかく今日は白と黒で徹底したいので、靴下も真っ白にしてみた。

 

 うん、今日もバッチリ可愛く出来た!

 いつもよりも清楚なイメージで、これなら第一印象はとてもいいと思う。

 

 他にも赤い服や水色のワンピース、更に「嫁入り」ということで、久しぶりに一番露出度の高い服も入れてみる。

 嫌でもあの時のあたしが思い出されるけど、多分、必要なことだから。

 もちろん浩介くんの両親に見せるつもりはないけど、浩介くんと2人っきりという状況が出来たら、浩介くんにだけ、見せてもいいと思う。

 とにかく、オシャレに気を使わないと。

 

 昨日母さんから、「結婚してから手を抜いちゃう人が多いけど、それだと旦那さんに愛想を尽かされるから、寧ろ結婚してからが本番よ」と言われた。

 幸いあたしはTS病なので、外見的な魅力が年齢とともに損なわれるという心配はない。

 

 それでも、努力による補正をなくしたり、あるいは内面的魅力を磨かないと、浩介くんの評価も下がっちゃう。

 それを考えて、第一印象としても、あたしはもう一度気を引き締めてオシャレをすることにした。

 

「よし、こんなところね」

 

 荷物をキャリーバッグに入れ終わったら、あたしは試しに取っ手を使って持ち上げてみる。

 

「うーん……!!!」

 

 だけど重たいキャリーバッグはびくともしない。

 

「ふーん!!!」

 

 もう1回、あたしは声をかけつつ思いっきり力を込めて持ち上げてみる。

 でもダメ。

 

「ふーん!!! はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 3回目もダメ……あーあ、全然持ち上がらないわ。

 浩介くんや優一なら、涼しい顔でひょいと持ち上げてくれそうなのに。

 女の子になって、力が弱くなった自分にも大分慣れてきたけど、やっぱりこういう時だけ、ちょっと劣等感を感じてしまう。

 学校の中なら力仕事は浩介くんが助けてくれるけど、あたしの家の中ではそうも行かない。

 

「おはよー」

 

「あ、優子おはよう。今日から浩介くんの家でしょ?」

 

 朝、あたしは母さんといつもの挨拶をする。

 

「うん、この服で大丈夫かな?」

 

 あたしがちょっとだけ不安そうに言う。もしかしたら、「花嫁修業で日常生活を体験するのに、おしゃれしてもしょうがないでしょ」と言われるかもしれない。

 

「大丈夫も何も、いつもの優子でいいのよ」

 

「う、うん……」

 

 まあ、確かにあたしのこの服なら大丈夫だと思いたいけど。

 事実上の予行演習なわけだし、絶対無防備な所とか見せちゃいけないよね。

 今はまだいいけど、浩介くんとはこれから数十年単位、蓬莱教授次第では数百年以上の時を一緒に過ごすことになるわけだもん。

 そう言う意味で、今後の3日間は大事になると思う。

 

 

 ともあれ、今は母さんと一緒に朝食を作る。

 

「お母さん、鼻が高いわよ」

 

「え? どうして?」

 

 料理を作っていると、母さんがそんなことを言う。

 

「優子、去年のクリスマスの時に浩介くんのお母さんに家事勝負で勝ったんだって!?」

 

「ふぇ!?」

 

 微妙に曲がった情報が出てきて、思わず変な声が出てしまった。

 確かに、浩介くんのお母さんよりも料理や掃除が上手なことは示したけど、特に対決したというわけじゃないし、料理掃除以外の家事を見せてはしていない。

 

「あら? 何を驚いているの? いい? 女の子は家事ができるっていうのは大きなアドバンテージよ。特に浩介くんくらいの子持ちのお母さんを打ち負かしたのは、とても大きなアピールになったわ」

 

「そ、そうなの……?」

 

「そうよ。浩介くんだけじゃなくて、他の周囲の人達も、家庭的な優子を見て魅力に感じたってシーン、これまでにもなかった?」

 

「うーん……」

 

 あたしはちょっとだけ考えて思い出す。

 最初にそんなことを言われたのは確か……林間学校のバーベキューの時だっけ?

 確かにそう、あの時はあたしが料理を担当して、あたしは「ちょっと失敗しちゃった」って言ったけど、みんなとても美味しそうに食べていて、「家庭的」って言われたんだっけ?

 

「いい優子? 彼氏彼女として付き合うのと、結婚するのでは、求められるスキルも違ってくるわ。いくら美人でも、作るご飯がまずいだけで好感度は下がってしまうわよ」

 

「うん、分かってるわよ」

 

 それは、優一の感性でも分かること。

 

「そう? じゃあ浩介くんの家ではちゃんと頑張るのよ。優子はそろそろ、結婚に向けて『妻』としての女子力が必要になってくるのよ」

 

「うん」

 

 一見あまり話していなさそうな父さんと母さんの仲がいいのも、いわば「家事の力」が大きいと思われる。

 家事が出来なくて、家が荒廃してしまうと良くないとか言っていた。

 

 それと同時にあたしも、浩介くんに求めるものは「彼氏」から「旦那」になっていくことも意味する。

 ……とすると、もしかして経済力? 何だかんだで金って大事だし……

 浩介くんに経済力はまだないしうーん……まあ、今はまだいいかな。就職は大学のその先だし。

 

「あ、そうそう母さん」

 

「うん?」

 

「浩介くんの家に持っていくキャリーバッグ何だけど……持ち上がらないのよ」

 

 ともあれ今は、そのことが大事。

 

「……優子、本当に力弱いわね……いいわ、玄関までは母さんが持っていくから」

 

「ありがとう……」

 

 別段腕が細いわけじゃないのに、何でこうも身体能力弱いんだろう?

 確かに、もうあたしは女の子だし、弱くてもいいと思っている。それに強くなると優一の頃を思い出しそうなので、強くしようとは微塵も思ってないけど。

 さすがにこういう生活に支障をきたすレベルはちょっと嫌な感じもする。

 ま、嫁入りしたら、力仕事は浩介くんにしてもらうのがいいかな?

 

 ともあれ、あたしは料理を作り、食べ終わって歯を磨く。歯ブラシやお風呂のセットも、ちゃんと中に入れている。

 

 

「いってきまーす」

 

「いってらっしゃーい」

 

 母さんに見送られ、あたしは浩介くんの家へと向かう。

 足りなくなっていたICカードをチャージし、改札を見る。

 

「うーん……」

 

 キャリーバッグがかさばるため、広い改札を通らなければいけない。危なかった、一瞬いつもの狭い改札に行きそうになったわ。

 帰り道も同じだから、よく気をつけておかないといけないわね。

 

 駅のホームへは、普段使っている階段の使用はやめて、普段あまり使わないエレベーターを使用することにした。

 もう一回試してみたけど、あたしの腕力では、このキャリーバッグを持ち上げることが出来ない。

 だから、これを持って階段は使えないし、エスカレーターもなるべく避けた方がいい。

 段差が大きな所では、最悪怪我にもつながりかねない。

 

 幸い、あたしの最寄り駅にも、浩介くんの最寄り駅にも、エレベーターがあり、また電車とホームの間も広く空いてはいないので、浩介くんの家までの道のりに、何か障害があるわけではない。

 

 家事をする上で、ある程度の力も必要になるとは思うけど、この力の無さはどうにも出来ない。

 あたしはひ弱に生まれ変わった。

 そのことを、最初は嘆くこともあったけど、今はもうない。

 

 そう言えば、この姿勢、虎姫ちゃんと恵美ちゃんからは「身体は弱くても心が強い」と言われるきっかけにもなっていた。

 恵美ちゃんに拠れば、「誰よりも強くないと気が済まない自分と違って、弱い自分を受け入れて、そのままで居ることが出来るのはとても心が強い」のだという。

 

 あたしは、強がって泣くのを我慢することもほとんどなくなった。今でも体育の授業ではちょっとした接触プレーなんかで、クラスメイトたちによく泣かされている。

 

 優子になってからは、球技大会でも、体育祭でも泣かされたし、身体の弱いあたしにとって、泣き虫のあたしにとって、本来なら体育はトラウマになるべき所。

 でも、女子のみんなはそんなあたしにいつも優しくしてくれていた。

 だからあたしも、「優子」という名の通り、クラスのみんなに優しくなれるんだ。

 そのおかげで、運動音痴だけど、体育の授業も辛くない。

 

 もしかしたら、クラス替えが行われなかったのは、この体育の授業のせいかもしれない。あたしが泣き虫だってことは、他のクラスにはあまり知られていない。

 去年の今頃まで、1ヶ月強の間、男子として過ごしたのも、結果的にはプラスだったのかもしれない。

 クラスメイトはみんな乱暴者だった「石山優一」のことを知っていた。

 だから、泣き虫になったことで、あたしがどれくらい大きく変わっていったかも知ることができた。

 

 あの時の、あたしの思いを思い出す。

 

 

「泣いてもいい、弱くてもいい、甘えても言い、かっこ悪くったっていい、だってあたしはもう、女の子なんだから」

 

 

 多分、浩介くんと結婚した後も、あたしの中で、この思いは残り続けると思う。

 女の子として受け入れてもらえない一番辛い時と、受け入れてもらえて一番嬉しかった時に発したこの思いは、今までの、そしてこれからの人生において、あたしの原点になるものだから。

 

 電車を待つホーム、電車に乗り込んだ車内。

 中には2、3人、部活などで休日登校する小谷学園の制服を見かけた。

 電車の中で、一際大きな荷物を持つあたしは目立った。

 でも、周囲の視線は荷物に行っていない。

 荷物の後、あたしの顔や服を一通り見回した後、みんな胸を凝視している。

 

 男性たちがエロい目で、あたしの胸を見て、胸の小さい女性たちが羨ましさと妬みの感情であたしを見る。

 でも、男子の視線は浩介くんを嫉妬させる諸刃の剣。

 冬場の服でも目立つくらい胸が大きいから、どうしても見ちゃうんだと思うけど。

 

 あたしは、胸の大きな女性の悩みにおいて、肩こりなんかはよく理解できるけど、「男子にエロい目で見られるのが嫌」という心理が、未だにイマイチ理解できていない。

 それは多分、あたしが17年間男として過ごしたがために、「男を理解」してしまっているが故のことだと思う。

 

 学校の最寄り駅を過ぎ、浩介くんの家の最寄駅まで来たので電車から降りる。電車の床とドアの段差、そしてホームとの段差に苦しみながらも、何とか引っ張る力を使ってホームに降り立つ。

 

 一番広い改札を使い、駅から出て、3回目の浩介くんの家を目指す。

 ともあれ、今日から3日間、浩介くんの家のお世話になる。

 浩介くん本人はもちろん、浩介くんの両親にも、かわいい所を見せないといけない。

 

 そんなことを思っていると、急に心臓がバクバクと言い始めた。

 やっぱり、緊張してしまう。

 これから起きることが心配になる。特に、「もし浩介くんの両親から評価が下がってしまったらどうしよう?」と考えてしまう。

 

 しかし、歩くスピードは同じなので、あたしの足はついに浩介くんの家の手前まで来てしまっていた。

 あうう……心の準備が出来てないよお……

 

「すぅーっはぁー」

 

 呼び鈴を押す前に、ゆっくりと一回深呼吸し、心臓さんにも何とか落ち着いてもらう。

 

「よしっ!」

 

 一言気合を入れ、あたしは思い切って呼び鈴に指を向かわせた。

 

  ピンポーン!

 

「はーい!」

 

 家の中から、大好きな男の子の声が聞こえてきた。

 

「あ、優子ちゃんいらっしゃい」

 

「……お邪魔します」

 

 玄関の段差、どうしよう?

 

「あ、持つよ」

 

 あたしがキャリーバッグを引っ張り、玄関の段差に苦戦していると、浩介くんが持つと言ってきてくれた。

 

「うん、ありがとう」

 

 あたしは素直に手を離すと、浩介くんが片手で表情一つ変えずに力強く持ち上げる。

 あたしが、全力を込めても持ち上がらなかったキャリーバッグが、まるで赤子のように軽々と持ち上げられる。

 

「ど、どうしたの優子ちゃん?」

 

「え、ああうん……その、力持ちの浩介くんに見惚れちゃって……」

 

「ぶっ……全く、優子ちゃんはかわいいなあ」

 

 浩介くんが一瞬動揺し、荷物をが揺れるが、問題なく床についた。

 

「優子ちゃん、鍵閉めてくれる?」

 

「うん」

 

 あたしは玄関の鍵を閉め、靴を脱ぎ、浩介くんの家にお邪魔することになった。

 また緊張感が高まる。

 今日はともかく、明日は丸一日、浩介くんの家で過ごすことになるんだもの。

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