永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
突然の激痛
「えー、この様にですね、二回微分を行い、二次導関数を使うことによって、これまでのグラフよりも、より詳細な再現が可能になります。つまり傾きの向きが変わる。これが変曲点です。更に、今までやってきた一次二次三次と言った関数のグラフの他にも、三角関数や指数関数などを合成した関数のグラフもかけるようになるんだ」
数学の小野先生の授業は分かりにくいと不評だが、俺はそうも思わない。
きちんとノートにとって見直しさえすればうまくいく筈だ。
残念なことに、俺は全く勉強せずに理解できるほど頭が良くないらしい。
「では、次の問題、この問題を木ノ本、解いてみろ」
「はい」
木ノ本桂子が指名され、黒板に答えを書いていく。
「……出来ました」
「よろしい。関数と微分の性質にも、皆慣れてきたと思うから、応用問題に入ります。問題集の136ページを開いてください」
授業は何の滞りもなく進む。
幸いなことに、授業はおしゃべりするバカも居ないでゆったり進んでいる。
……まあ俺が授業中喋っていて気が散ったら「授業に集中できない」と怒りに身を任せて怒鳴り散らしたせいであるが。
「では、まずは例題から解いていきます」
「んんっ……!!!!」
な、何だ? さっきよりも下腹部が……!!!
「えーまずは……石山、どうした?」
先生が声をかける、思わず声を上げてしまったのか!
は、腹が……何だこれは、目が……前が見えない!!!
痛い、痛い痛い痛い痛い!!! 保健室、保健室に行かねば!!!
ぐあぁぁっ! もう限界だ!
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「い、石山優一くん! ど、どうしたんだいきなり大声出して!」
「なんでもな……!」
「うぐがあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!」ゴン!
何でもないと言おうとしたその瞬間、俺はバランスを崩して思いっきり右側に倒れ込んだ。
そして、頭を右隣の生徒の机に強打しながらそのまま床に倒れた。頭の痛みはほんの一瞬で、下腹部の痛みが全て消してしまった。
周囲が騒然となっているのが聞こえる、小野先生がスマホを持ってる生徒に対して「救急車を呼べ!」と指示したのが聞こえた。
死にそうなくらい下腹部が痛い、まるで何か大きな穴を開けられているような痛みだ。
声にならない声を上げ、苦しみを訴えるが周囲は凍りついていて誰も助けようとはしない。
……急に吐き気がした。
「うっっっぐはあぁっ」
抵抗など出来ず、為す術もなく吐いたが、しかし出てきたのはさっき食べた胃の中のものじゃない。
「キャーッ!!」
「ちょ、ちょっと、優一! いきなり何なのよ!」
「おいおい何だよ何だよ……」
近くに居た女子生徒の悲鳴が聞こえた。木ノ本の声も聞こえる。薄っすらとした視界で痛みを堪えて見てみると、小さい赤い液体が口から出されていた。
そうだ、これは血だ。俺が吐いたのか。下腹部にわずかに痛み、しばらくして激痛になって血を吐いて……だめだ、痛みのあまり声も出ず、何も考えられない。
口から僅かに空気を出すだけで、痛みの神経はますます強まり、呼吸さえもままならない。
ああ、これはもう助からない、死ぬかもしれない。そう思った矢先、痛みが急に引いてきた。視界は相変わらずだが動けるかもしれない。
しかし、身体に反応がない。くそ、何で、何で動かないんだ!
腕を動かすように脳が命じているのに、腕には何の反応もない。おそらく、運動神経が麻痺してるせいだ。
木ノ本らしき女子がモップを持ってきて血の跡を掃除している。
今覗けばパンツ見えるだろうがそんな余裕はない。それどころかますます視界が霞んで、ぼやけ、黒く染まっていく。
もはや視覚のことにはかまっていられない、とにかく体を動かしたい。
……どれだけ時間が経ったかわからないが、反応しない身体と格闘していると、何やら騒がしくなった。
運動神経は麻痺し、視界はこの頃は完全に暗転していて、床の感触すらなくなった。
耳と脳だけが機能している状況だ。
「倒れている生徒はこっちです!!!」
「おい、大丈夫か!?」
知らない男性の声だ。大丈夫じゃない、と言いたいが言い出せない。
パンパンパンとおそらく俺の頬を叩く音が聞こえるが、叩かれる感触がない。
声も出せず、手足も動かせず、そのくせ脳と耳だけはしっかりしている。
救急隊員は必死に呼びかけるものの、応答が出来ない。時間ばかりが過ぎていき、極めてもどかしい。
「意識が無いぞ!!!」
「おいおいおい、死んじゃったんじゃねえか……!?」
「でもそんなことってあるのか!?」
「でもよ、いきなり倒れて血を吐いたって、なんか急性の持病でもあったんじゃないか!?」
意識不明という事実を伝えた救急隊員に、普段俺のことを嫌っていた生徒連中もさすがに動揺している。いくら嫌いなやつとはいえ、死体になる瞬間なんて見たくないものなのだろう。
「呼吸、心臓は正常だ! 口内にも異物なし!」
救急隊員は手早く状況確認と応急措置をしている。
運動神経の麻痺はもはや抵抗は不可能と判断すると、急に暇になった。
今の俺は目も見えない言葉も話せない、体も動かせない、感触さえわからない。耳しか聞こえない。
教室はますます騒がしくなり、他のクラスも異変に気づいていて、野次馬と思しき足音までが聞こえる。
「このまま担架で運び出すぞ」
やはり病院直行だろうとは思った、数秒の間、何やら位置に関して話し合っているようだ。
「よし、せーの!」
全く感覚がないが、どうやら持ち上げられているらしい。おそらく担架だろう。そのまま担がれている中で、もう一人女性の声が聞こえた。
「すみません、私も行きます。うちのクラスの生徒ですから」
「分かりました」
この声は間違いなく担任の「
車輪の音が消え、そのまま救急車の中に入れられたらしい。
会話から推察するに救急車の中は救急隊員が二人と、俺、そして永原先生の4人だ。
救急隊員が受け入れ先の病院に電話をかけている。
「16歳男性、高校の授業中に下腹部に痛みを訴えた後に倒れた。吐血あり。呼吸心臓ともに正常だが意識がない、即刻入院、緊急治療が必要である。急患として受け入れて欲しい」
「はい、はい、場所は
しばらくすると、例のけたたましいサイレンの音だけが聞こえ始めた。
車とサイレンの音のみが聞こえ、揺れが聞こえない。まるで寝ながら音楽を聞いているかのようだ。
……どれだけ時間がたったか、どこかの病院へとたどり着いた救急車のサイレンの音が止み、また車輪の音が聞こえ、救急隊員が誰かと話している。
知らない声だ。おそらく病院スタッフに引き継がれたんだろう
ここでまた下腹部が僅かに痛み始めたが、運動神経が相変わらず麻痺しており、痛みを訴えることは出来ない。もしかしたら反射で体が動いているかもしれないが、俺にそれを知るすべはない。
永原先生が「病室は個室でお願いします」と強く訴えていた。そしてドアを開ける音がして、そのままベッドの中に寝かされた。
徐々に痛みが増していく。だがまだ思考が停止するほどじゃない。
しかし、時間の感覚はとっくになくなっていた。倒れてから5分後なのか1時間後なのかも分からない。
下腹部の痛みはどんどん強まる、何かが動いているような気がするが何かはわからない。
今までの痛みとは比較にならないような痛み、人間ってここまで痛みを感じるのかと言うほどのような痛みが襲った。
身体の奥の奥から抉られるような痛み、もしかしたらまた血を吐いているのかもしれないがそれはわからない。
な、何だ!!!!????
突然身体の何処かに血液が大きく集まっていく感覚がする。そして、得体の知れない何かが急速に太く大きくなっていく。
いけない、いけないいけないいけない! これ以上はダメだ、やめてくれ。
身体の何処かが、俺の制服や下着に圧迫されたのを感じた。ここだけ触覚が戻った。
五体が破裂してしまうのではないのか? そう言う感覚とともに、これまでさんざん痛みに苦しんできたが、いつの間にかそれも引いてしまい、今や恐怖を感じるほどの快感に襲われる。
もう無理だと思った瞬間、ある時にいつも感じている快感を何倍にも爆発させたようなとてつもない快感を感じた。
あー! あー! あー! あー!
どこまで出るのか、かつて経験したことのないような長時間の快感が終わったと思った途端、聴覚もなくなり、頭もぼーっとしてきた。
ああ、死ぬんだな……それなら、最後に気持ちよく死ねたからいいだろう。
そう思いながら、もはや何の抵抗もできなかった。