永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「そう言えば、確かに優子ちゃんの協会での仕事、詳しく聞いてないわね」
「カウンセラー、しているんですって?」
「え、ええ……」
恵美ちゃんの話に、今度は桂子ちゃんと龍香ちゃんも乗ってきた。
幸子さんのことは確かに軽く触れる程度だった。
「ねえ優子ちゃん、その子どんな感じだったの?」
「うーん、どれくらい説明すればいいかなあ……個人情報とかもあるから」
クラスのみんなには、「最初こそ危険だったけど、今は安定している」とだけ伝えていた。
「で、今はそいつ、何してんだ?」
「うん、大学うまく行っているって。この間協会にも入ったのよ」
幸子さん、とってもかわいいから、見たらみんな驚くと思うわね。
「へー、正会員?」
「ああいや、あたしは特別。だから普通会員だよ」
そう言えば、正会員のことも、あんまり詳しく話してなかったわね。
「そ、そうか……で、やっぱそいつも美人なのか?」
「うん、あたしに負けないくらいね」
正直うかうかしてると追い抜かれそうな程度には。
「お、おい……! 優子に負けないくらいって、そりゃ相当だな……」
恵美ちゃんがやっぱりとても驚いている。
それだけじゃない、あたしの近くに居て、あたしの話を聞いていた女子のみんなも驚いている。
「次は――」
「あ、次で降りるわよ」
車内のアナウンスを聞き、降車駅であることを確認したあたしがみんなに注意を促す。
女子のみんなは、それぞれ雑談に講じていたけど、あたしの注意喚起にみんながあたしを注目してくれる。
「さ、ここから乗り換えるわよ」
電車のドアが開くと同時に順序良く降りて、電車から全員が降りたのを確認してからあたしが言う。
「「「はーい!」」」
クラスのみんなが元気よく返事し、あたしは先頭に立って地下通路を通る。そう言えば、協会に制服姿で行くのは初めてかな?
あたしは乗り換え路線に向けて、みんなを誘導する。
みんなもあたしについてきてくれる。
何だかあたし、引率の先生みたい。
そういえば、文化祭のときの永原先生も制服姿だったけど、何だかその時に何となく似ている気がするわ。
「ねえ、優子ちゃん」
「うん?」
集団の先頭を歩いていると、横で歩いていた桂子ちゃんが話しかけてくる。
「49階からの長めってどんな感じ?」
「うーん、確かに遠くも見えるけど、近くの超高層ビルの威圧感もすごいわよ」
「そ、そうなの。楽しみにしてるわ」
ともあれ、乗り換え先の路線のホームに立ち、電車を待つ。
みんな、「非日常」の鉄道とあって何処かそわそわしている。
鉄道って不思議よね、普段使ってる区間は見飽きた「日常」なのに、そこからちょっとでも出ると、「非日常」の世界になっちゃうんだから。
そう言えば、海の時も同じ風に思ったっけ?
でも、今のあたしには、この区間も「日常」の一部でしかない。
乗り換えてから協会本部の最寄り駅へは意外と近い。
予め最寄り駅は伝わっていて、今度は乗り換えについて掛け声を上げずに降りる駅で降りてくれる。
「じゃあ、改札を出るわね」
17人が一斉に改札を出るというわけではなく、何回かに分ける。既に通り終わった人は、周囲の迷惑にならないように、開けた場所に一旦集まる。
「優子ちゃん、どこ?」
全員が集まると、早速クラスの女子の一人があたしを頼ってくる。
「えっとね、N4番出口だから……」
あたしは、口でいうよりも身体を動かして誘導した方がいいと思い、いつものルートを進み続ける。
クラスの女子たちも、普段あまり来ないこのビジネス街に、ワクワクしている。たくさんのビジネスマンが忙しなく歩いていて、何だかあたしも落ち着かない。
「はいこのビルよ」
「うわあ、でけえなあ……こんな所に入居してんのか」
あたしが協会の入っているビルの前に立ち、紹介をすると、恵美ちゃんが開口一番に驚嘆の声を上げた。
「いやほら……49階っていうくらいだし、そりゃあ大きいタワーでしょ」
桂子ちゃんが身もふたもないツッコミをしてしまう。
「さ、ここで立ち止まってると邪魔になるから中に入るわよ」
「「「はーい!」」」
あたしは、まずロビーに入る。
みんなもついてくる。
「うわあ、でけえ……」
「それに人もいっぱいだよ……」
確かに、あたしもそれには驚いた。
平日ということや、時間帯もあって、サラリーマンたちが忙しなく動いている。
あたしはこれまでも休日しかここを訪れたことはなかったから。
低層用、中層用、上層用、そして最上層用の各エレベーターも、かなりの人数が行き交っている。
まさに東京を象徴する光景だ。
そんな中で、あたしは最上層用のエレベーターを目指し、みんなを誘導する。
スーツ姿のサラリーマンとOLが数多くいる中で、女子高生17人の集団はどうしても悪目立ちしてしまう。
みんな奇特な目であたしたちを見てくる。それは仕方ないと思う。
普段は、ビジネス用のビルだから尚更だ。
でも、あたしや桂子ちゃんへの視線はそれとも違う。
特にあたしの胸に対する視線はいつも通りね。
でも、優一だってあたしを見たら胸を凝視すると思うし。
「おお、これ、最上層用?」
「うん」
「53階建てなんだな。2から42までボタンがねえぜこれ」
最上層用エレベーターは、あたしたち17人で一斉に乗り、他の人は乗っていない。
まあ、乗り辛い空気ではあると思う。
むしろ積極的に乗ったらなんかそれはそれで怪しい気がするわ。
全員がエレベーターに乗ったことを確認して、あたしが「49のボタンを押す」
「うおお、はええ……」
恵美ちゃんが驚いている。
他の女子も、エレベーターの液晶に表示される回数で驚きの声を上げている。
確かにあたしも最初は驚いていたわね。でも、そろそろ騒がれると困る。
「あの、平日で仕事してる人居るから、静かにしてね!!!」
あたしが、努めて大きな声で言う。
マナーは気をつけないと。
「おう、分かったぜ」
何とか恵美ちゃんも同意して、みんな静かにしてくれる。
「49階です。 49th floor.」
「おお、英語もあるんだな!」
恵美ちゃんが驚いている。
というか、いちいちオーバーリアクションな気がするわ。
ともあれ、あたし達は降りて、協会本部へ。
今日は平日だから入居中のビルで、仕事している人も居るので、静かに移動する。
パーティも、近隣への配慮のため、一番奥の遠い部屋でやるという。
「ちょっと待っててね」
ピピッガチャッ……
「どうぞ」
あたしがカードキーを取り出して、ドアを開けてみんなを通す。
そして、全員が入り終わって最後にあたしが入る。
「うおー、このビルハイテクだなあ……」
「へえ、ここが優子ちゃんと先生がいる協会なのね」
ビルに入ると、さっきまでの沈黙が嘘のように、みんな協会本部の施設に熱中している。
確かに、女子高生がビジネスビルに入るなんて機会、普通ならそう滅多にないものね。
カードキーでドアを開けるのだって、新鮮なはず。
「いらっしゃい。小谷学園の皆さん」
「あ、比良副会長」
「「「副会長!?」」」
クラスの女子たちがはしゃいでいると、奥からあたしと外見年齢のあまり変わらない1人の少女が現れた。
その少女は御年177歳で協会副会長の比良さんだった。
あたしが「副会長」と呼ぶとみんな驚いている。
会長が永原先生だということはみんな知っていたので、つまり2番目に偉い人ということ。
……いや、あたしだってこの協会では偉い人には違いないんだろうけど……何だろう四天王ならぬ正会員の中でも最弱って立場だし。
「はい。日本性転換症候群協会副会長で、元水戸藩士の比良道子よ」
「え!? 比良さん……水戸藩士だったんですか?」
比良さんが水戸藩士だと告げると、今度は時代劇好きのさくらちゃんが食いついてくる。
「ええ」
「も、もしかして黄門様とかとも……」
「あはは、私の身分じゃ無理よ。それに、私が生まれたのは例の時代劇の『水戸黄門』よりもずっと後だし、それにあの黄門様は虚像よ」
「そうですか……」
比良さんに、あっさり否定されてしまう。
永原先生は本物の水戸黄門とも面識あるみたいだけど、そのことについてどう思っているか聞いてみたい気もする。
あーでも、藪蛇かもしれないから辞めておこう。
「比良さんって……いつ頃から生きてるんですか……」
「あらあら、ダメよ女性に年齢を聞いちゃ!」
比良さんがやんわりと咎めるように言う。
「あの……すみません……」
さくらちゃんも、失言に気付いて素直に謝る。
「まあ、天保生まれとだけ言っておこうかしら?」
あたしには年齢教えてくれたけど、まあ部外者だし、教えられるのはそのくらいでいいのかな?
まあ、深く詮索しても仕方ないかな。
「とにかく、副会長の比良さん。あたしの事実上の上司だから、みんなもあまり失礼のないようにしてね」
「お、おう……」
「うん、分かったよ優子ちゃん」
あたしは、みんなに注意喚起をする。
みんなも、「あたしの上司」という言葉に、顔が引きつりながらも答えてくれる。
「いいのよ。皆さん部外者でしょ? まあ、一般会員になってもらいたい所ではあるけどね。会費が要るけど」
でも、比良さんは暖かく迎えてくれる。
「さ、会場へ案内するわ。石山さんはお母さんがお呼びだからこっちの部屋へどうぞ」
「は、はい……じゃあみんな、ちょっと失礼するわね」
あたしは、比良さんに導かれ、みんなと別れる。
「そういえば、浩介くんたちはどうしてます?」
「ええ、既に来ているから心配ないわよ。永原会長と一緒だったわ」
別行動ということで心配だったけど、どうやらうまく行ったみたいね。
「そ、そう……」
「はい、ここです。では、私はこれで」
「はい。ありがとうございました」
比良さんが、おそらく会場と思しき部屋へと去っていく。
それを見届けたら、あたしは比良さんに指定された部屋のドアに向き直る。
コンコン
「はーい!」
扉をノックすると、そこから聞こえてきたのは母さんの声。
部屋に入ると、母さんが待ち構えていた。母さんは、パーティということでいつもとは違い、化粧も濃く、かなりおめかしをしてきていた。
年齢的に痛いと言ってはいけない。意外とおばさんにしては似合ってるし。
そして、部屋の片隅には、どこかで見たドレスもある。
「さ、優子。今すぐ制服を脱ぎなさい」
「え!? い、いきなり何……!?」
母さんの突拍子もない唐突な発言に、あたしは思わず後ずさりして両腕で胸をガードする。
「何って、今日はせっかくの晴れ舞台でしょ? いつもの制服じゃつまらないじゃない」
「うっ……た、確かにそうかもしれないけど……」
母さんのおめかしぶりを見ても、確かにそれは言えるけど、でもいきなり服を脱げって言われても困るわよ。
「ほら、パーティーでお洒落しない女の子なんてお母さん許しませんよ」
「わ、分かってるわよ」
でも、オシャレってまさか!?
「ね、ねえ母さん。もしかして何だけど――」
あたしは、部屋の片隅に置いてあったドレスに目配せをする。
「そうよ、優子には、あのドレスを着てもらうわ」
「や、やっぱり!?」
確かに、晴れ舞台のパーティには、あのドレスはぴったしだと思う。
でも、うちにあんなのあったっけ?
「で、でもこのドレス……一体どこで――」
「やあねえ! 優子が女の子になった今からちょうど1年前に、デパートで買ったじゃない!」
「え!?」
母さんの言葉に、あたしはあの日のことを思い出す。
授業中に倒れて、翌日優子になって病院で目覚め、お医者さんと面談し、健康診断を受けて、そして母さんと一緒に永原先生との最初の面談を行い、その帰り道にデパートで服選びをした時の話。
この時、母さんは謎のハイテンションで色々な服を買った。
今でも、着ている私服の大半が、下着も含めてこの時に買ったもの。
思い出したわ。その中に、パーティー用のドレスもあったんだった。
「さ、優子、もう逃げられないわよ。さ、バンザイして」
後ずさりしつつ、壁に追い込まれたあたしに母さんが言う。
「じ、自分で出来るから!」
「ふふっ、今日ぐらいいじゃないのー、優子も女の子になったばかりは着るのに苦労したでしょー」
「そ、そうだけど……」
女の子になったばかりのあたしは身体の違いをはじめ、いろいろなことで戸惑ってたし。
「ささ、今日は優子も初心に帰るのよ。だから覚悟しなさい」
「ひー、もうお許しをー」
謎のやり取りをしつつ、あたしは母さんに制服を掴まれ、ボタンを外される。
あたしはあっという間にリボンとブレザーを脱がされ、大した抵抗もできずに腕を押さえつけられて脱がされる。
ブラウスの方もゆっくりとボタンを上から外されていき、ブラジャーに包まれた巨大な胸が露わになる。
「ふふっ、優子ってこんなに大きいのね。お母さん嫉妬しちゃうわ!」
「もうっ!」
観念したあたしはもう抵抗する気力もなく、なされるがままにブラウスを脱がされ、上半身をブラジャーだけにさせられる。
「さ、スカートも脱がすわよ」
「は、はい……」
あうう、改めてこう言われると、すっごく恥ずかしいわ。
母さんにあたしのスカートの両端を掴まれ、ゆっくりと降ろされていく、ある所まで来ると、手が離れてストンとスカートが地面に落ち、ブラジャーとお揃いのパンツが露わになる。
「あらあら、ちゃんと揃えてたのね。関心しちゃうわ」
「う、うん……母さんに、言いつけられてたから」
「ふふっ、教育した甲斐があったわ。もし揃えてなかったらお説教だったわよ」
あたしには、下着を上下で揃えたがるのは理解できなかった。
でも1年前のあの服選びの時に、母さんがどうしても「揃えなさい」と言って譲らなかったので、そのまま揃えるようにしていた。
このことは桂子ちゃんにも「揃えないのは女子力低いわよ」と言われた。
男子はあんまり気にしないと思ったんだけど、見栄えも確かに、揃えたほうがいいのは確か。
「さ優子、これを着るわよ」
「う、うん……」
あたしは言われるがままに、パーティ用のワンピースのドレスを着る。というか、脱がすのはするのに着るのはしないのね。
肩が大胆に露出していて、ブラジャーが辛うじて隠れる程度。
肩の露出度が高い一方で、スカート丈は長めになっていて、更にドレスらしくフリルや飾りがあしらわれているデザイン。
いつの間にか後ろに回り込んでいた母さんに背中のファスナーを閉じられ、最後に母さんからネックレスを付けられた。
「あらあら。優子、白いドレス似合っているわ!」
「そ、そう?」
母さんが、真っ先にあたしの容姿を褒めてくる。
容姿を褒められるのには慣れてるけど、今回の褒め方はいつもと違う。
どちらかと言うと、女の子になったばかりの時の、初々しいあたしに対する褒め方だった。
「ほら、あそこに鏡があるわ。見てご覧優子?」
「う、うん……」
あたしは、母さんに言われるがままに、鏡の前に立つ。
「か、かわいい……」
そこには、かわいらしい女の子が、白一色のドレスを着て佇んでいた。
とても清楚で、ネックレスは真珠製で、これも白。
頭のリボンも白で、肌も白い。
服装など、身につけるものは清純な白で徹底しつつも、髪の毛は漆黒の黒さで、メリハリが付いている。
自分の姿を見て、「かわいい」と思わずつぶやいたのは久しぶりのことだった。もしかしたら、女の子になってばかりの時以来かもしれない。
晴れ舞台でのドレス。
浩介くんが見たら、きっと喜んでくれるわね。
「さ、優子。行きましょう」
「う、うん……」
あたしは、母さんに連れられて、本会場へと向かう。
パーティーが始まるまでは、まだ少し時間があるけど、準備の様子を、ちょっと見てみようと思った。