永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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パーティーが始まる

「あら、優子ちゃん。いらっしゃい。うわー、ドレス似合ってるわね」

 

「う、うん……ありがとう……」

 

 本会場について、早速「お義母さん」の歓迎を受ける。

 

「うわあ、石山さんすごい綺麗よ」

 

 今度は永原先生が声をかけてくる。

 

「ありがとうございます……先生も似合ってますよ」

 

「ふふっ、どうもありがとう」

 

 永原先生はと言うと、あたしのドレスが超地味に見えてしまうくらい、かなり目立つ服を着ている。

 ピンクのスカートの丈は短く、上は白いケープにハート型の黄色いリボンをした水色の服を着ている。

 袖からはピンク色の素材が見えているので、おそらくピンクのワンピースの上に水色の服を着込んでいるんだと思う。

 頭にもカチューシャと黄色のハート型のボタンを付けている。

 その少女趣味がかなり強調された服のためにいつもよりも、幼く見える。ただ一点だけ、この服は永原先生みたいにセミロングの黒髪よ(あたしほど深い黒じゃないけど)りも、ショートヘアー向けかも?

 多分、子供料金が使えると思う。あたしも今度、着てみたいわ。

 もし機会があったら、買ってみようかな?

 

「うおー、すげえな優子、見違えたぜ」

 

 恵美ちゃんがあたしのドレスを褒めてくれる。

 

「わー本当ですねえ。高そうです……」

 

「優子らしいよな。黒い髪に白い服」

 

「うんうん」

 

 恵美ちゃんと龍香ちゃんの声とともに、クラスの女子のみんなが駆け寄ってくる。

 ちなみに、クラスのみんなは制服のままパーティーに参加するみたい。

 あたしのドレス姿は、似合ってはいるんだろうけど、いつもの制服姿の女子たちに混じると浮いているのもまた事実。

 

「でもよ、先生が一番目立ってるよな」

 

「うんうん、ボタンに髪飾りまでハート型ってびっくりですよ……似合ってるのがまた悔しいですね」

 

 恵美ちゃんと龍香ちゃんがそんなことを話している。あたしの服の話題から、一気に永原先生の服の話題になる。

 

 

「うおっ、優子ちゃんかわいいなあ」

 

「こ、浩介くん!」

 

 女子の輪が解けると、今度は男子の番。浩介くんが早速あたしのドレスを見に来てくれる。

 

「やっぱ優子ちゃんって白が似合うよなあ」

 

「篠原先輩さすがです。俺もそう思ってたんですよ」

 

 天文部の後輩の男子たちが、それに続く。

 

「もしかしてさ、パンツも白とか?」

 

「ちょっ……!」

 

 天文部の男子が、あたしにセクハラをして来る。

 不快感よりも、浩介くん以外からの攻撃を予想してなかったために驚きの感情が大きい。

 

「こらあ! 俺の彼女だ! セクハラすんな!」

 

「ひぃ、すみません」

 

「おい、今のはお前が悪いぞ」

 

 でも、こうやって浩介くんがかっこよくあたしのために怒ってくれる素敵な姿を見せてくれるから、ついつい許しちゃうのよね。

 あ、ちなみに今日は水玉模様だったり。パンツも含めて純白の方が良かったかな?

 

「ふふっ、やっぱり優子は人気よね」

 

 母さんが何の気なしに、つぶやくように言う。

 確かに、いつでもあたしは人気者だと思う。

 

「うん、なんだかアイドルみたい」

 

「あら、アイドルは恋愛禁止よ」

 

 母さんの当然の突っ込み。

 でも確かに、女の子になってから、浩介くんと恋愛している期間の方がもう長い。

 アイドルは当然無理だ。

 

 それでも、彼氏が出来てからも、あたしへの注目度は高い。

 去年のミスコンだって、ギリギリ「友達」のままながらも、事実上彼氏同然だった浩介くんがいることはみんな知っていたけど、普通に優勝できた。

 

 今年の文化祭、どうなるのかな?

 

 そんなことを考えている間にも、会場には人が集まってきて結構な人数が参加してくれている。協会本部なので、見知った顔もいる。

 おそらく、大半は「あたしの1周年を祝う」というよりも、「折角のパーティーなので、ちょっと参加してみよう」という動機での参加だと思う。

 

 パーティーの開始まで、まだ結構時間がある。

 すると、参加者の多くが突然「おー」と歓声を上げた。

 あたしは、歓声のした方向へと首を向けてみる。

 

 そこには、蓬莱教授が歩いていた。

 よく見ると、もう一人、蓬莱教授よりも若い男性もいる。

 

「うおお、すげえ、ノーベル賞学者で、不老研究の蓬莱教授じゃねえか!」

 

 開口一番は恵美ちゃん、かなり興奮しているみたいだわ。

 ……って、よく考えたら恵美ちゃんってミーハーな気もするわね。

 

「あれ蓬莱教授」

 

「お、蓬莱教授だ」

 

 小谷学園の生徒を中心に、感嘆の声が上がる。

 あたしや浩介くんは、何度か会っているから感覚が麻痺してるけど、蓬莱教授って実際には下手な芸能人よりもよっぽど有名人だったりするよね。

 

「ふう、石山さんこんにちは」

 

 蓬莱教授は、まっすぐにあたしのところに寄って来る。

 

「あ、蓬莱教授、今日はわざわざありがとうございます」

 

「いいってことよ。俺としても、いくつか君と協会に中間報告をしたいところだったしね。渡りに船だよ」

 

「そうですか」

 

 蓬莱教授はさっぱりとした冷静な感じで言う。

 

「とにかく今は、永原先生に言われた安全講習を守ってくれよ。君に死なれたら、計画が大きく傾いて、最悪頓挫しかねないからな」

 

「……はい、分かってます」

 

 蓬莱教授が改めて注意して来る。

 うん、確かに確率的に低いとはいえ、常に危険から身を守るための予防手段は取らないといけない。

 

「おっと、紹介が遅れた。こちらは瀬田博(せたひろし)さん。俺の助手で、佐和山大学でも助教をしてくれている」

 

「はじめまして。あなたがあの石山優子さんですか……」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

 瀬田さんはどこか落ち着かない様子であたしを見ている。

 胸を凝視しているわけじゃないけど……

 

「さて、行こうか」

 

「はい」

 

 蓬莱教授が、あたしから離れていく。

 その先には、永原先生がいた。

 

「……あら、蓬莱先生、来てたんですね」

 

「ああ。楽しそうだったからな。最近は研究だけでなく、マスコミどもの対策もしなきゃならん。そのせいで疲れがたまってな。少し休まにゃならん」

 

「大変ですね」

 

「ああ。それにちょっと研究が遅れ気味でな。助手を募集中何だが……よさそうな人材はまだいないみたいだな」

 

 永原先生と蓬莱教授が話し合っている。

 蓬莱教授のニュースをやらないとはいえ、記者は常に何かを狙っている。

 厳戒態勢の維持も、疲れるという事だろうか?

 蓬莱教授は、永原先生の私服には何も言ってこない。見慣れているのかな?

 

「さて、優子、そろそろ時間よ」

 

「あ、本当だわ」

 

 母さんの指摘で時計を見ると、パーティーの開始まで残り1分になっていた。

 あたしは、そそくさと会場の最奥に設けられた小さな即席の台へと上がる。

 台にはマイクがついていて、あたしの高さにあらかじめ合わせてあった。

 

 すると、ざわついていた会場も、「あ、もうすぐみたい」といった会話と共に、段々と静まり返ってくる。

 

 あたしはもう一度時計を見る。

 開始まで残り20秒……10秒……3……2……1……

 

 

「えー皆さん、本日は、あたし石山優子の女の子としての1歳の誕生日パーティーにご参加くださいまして、誠にありがとうございます」

 

 参加者全員が、あたしの方を向き、あたしのスピーチに集中している。

 

「多くの皆様に支えられまして、あたしは無事、この1年を乗り切ることができました。今後とも、女の子として、至らない点はまだまだ沢山あると思いますが、皆様には変わらない支えをお願いいたします。ご清聴ありがとうございました」

 

  パチパチパチパチパチ……!

 

 あたしがスピーチを終え、お辞儀をしていると、会場の参加者か参加者から、割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 

 あたしが台から降りると、入れ替わりに、ジュースのコップを持った永原先生が台に上がり、身長に合わせてマイクの高さを低くする。

 

「えー、皆さん私のことは知っていると思いますが改めて。小谷学園で石山優子さんの担任をしておりまして、また日本性転換症候群協会会長でもあります永原マキノです。石山さんは学園でも協会でも、数多くの活躍をして来ました」

 

 永原先生がスピーチをしている間、あたしは急いで空いている場所を見つけそこに収まる。

 コップには、既にジュースが注がれていた。

 

「精神的に負担の大きいこの病気は、とても自殺率が高く、また女の子として生きる決意をし、心まで女の子になった後でも、男への未練は強く残るケースが大半です。しかし、石山さんは違いました。自分から強く女の子になろうとしていました」

 

 うん、そのことで、みんなに褒められた。

 

「それは、彼女の過去への嫌悪感もありました。ですが何よりも、彼女自身の強い気持ちによるものです。今後とも、石山優子さんを、よろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました」

 

  パチパチパチパチパチ……!

 

 永原先生のスピーチが終わり、お辞儀する。

 でも、永原先生は、台からは出ない。

 

「では、石山優子さんのもう一つの誕生日をお祝いして、乾杯!」

 

「「「乾杯ー!」」」

 

 永原先生の掛け声と共に、周囲も一斉に乾杯をする。

 あたしも、周囲の人と乾杯をする。

 すると、あたしと乾杯した人に見知った顔が見えた。

 

「乾杯ーって、幸子さんじゃない!」

 

「今晩は石山さん」

 

 幸子さんは、水色のワンピースを身に纏い、頭にも青い大きなリボンを付けている。

 幸子さんの場合、髪の色も水色なのでとても涼しそうな外見をしている。

 最も、胸元のリボンだけは、赤にしていて、またスカートの裾や服の袖や胸元の部分も白い色にもなっているのでしつこさは無い。スカートの裾の部分の青と白の境界線が山のようにギザギザになっていて女の子っぽさがマシている。

 あたしの白を基調としたドレスにも、決して負けていない輝きを放っている。

 

「遠いところからはるばる、ありがとうね」

 

「うん、会長さん副会長さんが来るっていうし、私も会員になったから、少しくらい挨拶しとかないとと思って」

 

「大学は大丈夫なの?」

 

「ああうん、今日は元々午前中だけだよ」

 

 幸子さんが不思議なことを言う。

 午前中だけってどういう事だろう?

 

「午前中だけ?」

 

「ああうん、大学の時間割は自分で作るんだよ」

 

「へー、そうなんだ」

 

 なんか不安だわ。時間割を自分で作るなんて。

 

「おや、君は?」

 

「あ、蓬莱教授! うわあ、本物だー」

 

 蓬莱教授が声をかけてきた。

 すると幸子さんも感嘆の声を上げている。

 

「いかにも、俺が蓬莱伸吾。俺のことは、既にニュースで見て聞いて知っているとは思うがね」

 

「はい、私、塩津幸子といいます。女の子になったばかりで……石山さんにカウンセラーを頼んでます」

 

 幸子さんが興奮したように言う。やっぱり有名人だ。

 

「ほう、すると君もTS病なのか」

 

「はい、去年秋に……今は東北で大学生してます」

 

「うーむ、そうか東北かあ……」

 

 蓬莱教授は何か熟考している。

 大方、あたしと同じように遺伝子を提供できないか考えているのだろう。

 

「あ、私文系なんで、蓬莱教授の役には立てないです。ごめんなさい」

 

「ああいや、遺伝子の提供だけで十分だよ」

 

 確かに、それはその通りだけど。

 

「うーん……」

 

「ああいや、無理にとは言わないよ。引き止めて悪かったね」

 

「ああいえ、それはこっちのセリフです」

 

 幸子さんが慌ててフォローしてくれる。

 

「さ、石山さん。俺の研究のことだがな」

 

「は、はい……」

 

 研究に関する報告だろうか?

 

「どうやら、例の牧師が中心になって、学会から俺を追放させる活動をし始めたんだ」

 

「え!?」

 

 蓬莱教授を追放? なんかとんでもない話な気がするわ。

 

「もちろん、今は取るに足らない運動だ。何だかんだで、俺の不応研究は待ち望まれている。だが宗教を信じている連中は違う。存在もしない神などというものを信じ込み、俺をそれの冒涜者だとでっち上げているのだ」

 

 蓬莱教授は少しだけ厳しい表情で言う。

 

「だから、今後も宗教界には注意してくれ。人は宗教にのめり込むと、根拠のないことを信じ込んで、殺人でさえ平然とするようになるんだ」

 

「はい、永原会長も、そんなことを言ってました」

 

 いわゆる「善意」がためにブレーキが効かなくなることだとあたしは思う。

 

「ああ、だからこそ、宗教は道徳の支柱にするなど論外だ。だが残念なことに、それがグローバルスタンダードらしい。くそったれなこった」

 

 蓬莱教授が吐き捨てるように言う。

 この人は、宗教が絡むといつもこうだわ。

 

「ともあれ、君も怪しい宗教には注意してくれたまえ。俺の報告は以上だ」

 

「……はい」

 

 蓬莱教授が別のテーブルへと去っていく。

 あたしは、ジュースを飲み、大皿に盛り付けられていたポテトを取る。

 

 

「ねえねえ、いいじゃん、名前教えてよ。この後もちょっと付き合おうぜ」

 

「ああいやその……私……」

 

 近くを見ると、幸子さんが天文部の男子にナンパされていた。

 うーん、助けてあげたいけど、危険という感じじゃないし、幸子さんの教育のためにも、ここはあえて無視しておこうかな?

 

「何? 固いこと言わないでさ、俺達と一緒に遊ぼうよ」

 

「いえその、私……東北から来たんで……」

 

「へえ、そんな遠くから! でもよ、いいじゃねえか」

 

「ダメですよー!」

 

 本当にがっつくわね。恋愛に飢えすぎでしょ。

 それにしてもふふっ、幸子さん、久々にあたふたしてて面白いわ。

 でも頑張って。

 今後彼氏ができた時にもきっぱり断っておく手法を学んでおくといいわ。

 

「ふふっ、ちょっとだけさ、話を聞くだけでいいから、ね!」

 

「くおらあ! 何ナンパしてんだあ!」

 

「げえ!? 田村先輩!」

 

 恵美ちゃんが、助け舟を出す。

 うん、そういうのを待つのも悪くないわよ。

 

「ったく。大丈夫か?」

 

「は、はい……」

 

 恵美ちゃんと幸子さん、何かすごい珍しい組み合わせよね。

 知り合いの知り合いだけど。

 

「おや、この子、優子や桂子に負けねえくらいかわいいな。服も似合ってるし」

 

「はい。私、石山さんにはとてもお世話になりました」

 

「ほう、優子にか。どう世話になったんだ?」

 

「私、石山さんのおかげで命を救われました」

 

 ちょ、ちょっと幸子さん、間違ってないんだろうけど、それはちょっとまずいわよ。

 

「ええ!? 命を!? ゆ、優子何をしたんだ……」

 

 案の定、恵美ちゃんが驚愕している。

 仕方ない、あたしが割り込むしかない。

 

「恵美ちゃん、幸子さんは、去年の秋にTS病になって、あたしがカウンセラーを担当したのよ」

 

「石山さんがカウンセラーになる前、私は男に戻ろうと……今思えばあまりにも愚かなことでしたが……そう思ってたんです」

 

「なるほどねえ……確かにTS病になると女として生きてくしかねえもんな」

 

「それにしても、あなたは石山さんの――」

 

「おっと、自己紹介が遅れたな。あたいは田村恵美。優子のクラスメイトだ」

 

 恵美ちゃんが、自己紹介してないことを思い出し、慌てて自己紹介をする。

 テニスのことは自己紹介しないのね。

 

「塩津幸子です。東北で大学生してます。よろしくお願いします」

 

 幸子さんが上品に頭を下げる。

 

「え!? あたいたちより年上だったのかよ!?」

 

 恵美ちゃんが驚いている。

 

「はい、この前、20歳になりました……確かに私は年上ですけど、TS病という意味では、石山さんが先輩ですし、何より、色々教わりましたから」

 

「あ、ああ……そうだよな」

 

 体育会系の恵美ちゃんにとって、年上がここまで尊敬するっていう環境はあまり馴染みがないのかな?

 あたしは幸子さんもだし、場合によっては永原先生からさえある種尊敬されることもあるんだからよくよく考えるとすごいことよね。

 

「それにしても、豪快な人ですね」

 

「おうよ。あたいのポリシーさ。ま、実は最近になって少し女らしくしてえなあって思うんだけど」

 

 恵美ちゃんは、あたしや桂子ちゃんに刺激されて、女子力を高めたいと思っているみたいだけど、いつも三日坊主で終わってしまう。

 一回堕落したら這い上がるのは難しいということね。くわばらくわばら……

 

「幸子さん、わかってると思うけど、TS病患者は土台が不安定だからね。恵美ちゃんみたいな生き方したら絶対ダメよ」

 

「わ、分かってるよー」

 

 うーん、幸子さん、もう少し言葉遣い女の子にならないかしら?

 ショートカットの髪を長くするといいと個人的には思うけど、まあロングはロングで手入れ大変だものね。

 まあ、どちらも、幸子さんにはまだ先のことかな?

 ともあれ、パーティは続いていく。まだ話し足りない人もたくさん居るし、主役らしくしないとね。


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