永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
今日は球技大会の当日。この日はあたしの「優一としての誕生日」でもある6月22日だった。
あたしも、何とか形を作ることだけは出来たけど、結局ハンデはあのままで進むことになった。
それよりも、問題はテニスウェアだった。
簡単に言うと、いつものようにあたしの胸が大きすぎて、テニス部にサイズがなかった。
そのため急遽、女子テニス部が部費であたし用のテニスウェアを買ってくれた。
下に穿くのも、フリルなどがあしらわれたアンダースコートタイプも最近では減ってきて、シンプルなスパッツタイプが多い。
でもこの球技大会の時は、折角の晴れ舞台ということで、みんな張り切っている。
あたしも、このアンダースコートなら、みんなに見せても大丈夫だよね?
どうせミニスカートタイプの中身が見えたらそれが何であれエロい目で見られるのはしょうがないし割り切らないと。
球技大会前のお披露目の時は、とにかくあたしに注目が集まっていた。
あたしも、初めて「ポニーテール」という髪型に挑戦してみて、思いの外好評だった。
でもあたしの中では、いつものストレートロングの方が好き。
みんなであたしをちやほやする中で、恵美ちゃんだけ「あー、揺れて邪魔だろうなあ……」と言っていた。
体育の授業では、あたしの胸はいつも邪魔になる。
足元が見えなくてバランスを崩したり相手と接触したりしてしまうことも結構ある。
そのせいで泣かされてしまう。
テニスなら、こういうのも少ないかなと思って、選んでみた。
ともあれ、去年と同じく、球技大会の開始が宣言された。
「浩介くん、あの、頑張ってね」
「ああ、午前中は直前練習だ。大丈夫、俺にも考えがあるからさ」
浩介くんは何か思慮をするように言う。
恵美ちゃんとどういう試合が行われるか、楽しみといえばその通り。
実際、学校中でも噂になっていて、事前の予想では、やはり恵美ちゃんの有利は覆らなかった。
さてこの日、学校の中を見るとよく知らない顔もいる。というより、明らかに日本人の顔じゃない。後で知ったことなんだけど、テニスアカデミーのスカウトさんらしい。
「グランドスラムで行われている過酷なテニスを学生がしたらどうなるか?」という意味で対外的にもかなり注目されているらしい。
1年生や2年生もそれぞれの種目へ移動する。
今回の恵美ちゃんと浩介くんの試合、カメラにも撮られているらしく、見逃した人のために視聴覚室でも閲覧可能になるとか。
さて、あたしは1セットで行われる第1試合に臨んだ。
「うおおおおおお!!!!!」
あたしがテニスコートに入ると、凄まじいギャラリー数に驚いてしまう。
テニスで使うミニのスコートは、制服よりも格段に頼りなく、風にも弱い。
また、普段は背中まであるロングストレートヘアーが頭の後ろでまとめられているポニーテールになっているのも、注目を引くのだろう。
だから、アンダースコートがある。
普段は恥ずかしがりで隠したがりだけど、今日は堂々とする。
それが、萌えポイントになる。水着と同じ理屈。
といっても、あたしの場合、強いショットを打てないから、恵美ちゃんのようにあんまり豪快に見えたりはしない。
最初の試合の相手は龍香ちゃん。
「優子さん、頑張りましょう」
「ええ」
「それでは試合開始です」
審判の人がコイントスをする。
あたしがコイントスに勝ち、サーブを選択する。
トン……トン……トン……
ボールを打ち付け、そして上に放り投げる。
「えいっ!」
何とか練習して上からも入るようになったけど、それでもコントロールを重視する。
思いっきり打った所で、あたしの力じゃたかが知れているから。
「んっ!」
龍香ちゃんが僅かに声を出す。
山なりの緩いボール。
あたしは、女の子の中でもとにかく体力がない。
だから早めに決めないと。
そう思って、あたしは軽めに打つ。
トンッ……
「0-15」
無情にも、ドロップショットがネットに引っかかってミスになり、0-15
もう一度、サーブの構えをする。
身体を前のめりにしてサーブをすると、アンダースコートがちらりとしたのか、観客が歓声を上げる。
「フォルト!」
ネットが低い中央にボールを集めたい。
でも、ラインより向こう側に行ってしまい、フォルト。
セカンドサーブ、あたしはここでもミスできるので、もう一度ファーストサーブのような打ち方をする。
今度は入った。
すると、龍香ちゃんが前に出て強めにショットを打つ。
幸いにもあたしの近くに来たので、あたしはロブを打ち上げる。
「わっ!」
龍香ちゃんがびっくりして後ろに下がる。
パポン!
「0-30」
ボールの速度は遅く、また浅いため、今度はスマッシュを打たれてしまう。
次のサーブはリターンエースを決められ0-40にされる。2バウンドまでOKだけど、速いボールはどうしようもない。
元々、サーブを落としまくるのが前提のあたしの試合。こうなったらヤケだわ。
あたしは、ドロップショットのようにゆるいサーブを打つ。
しかし、あたしのサーブの威力を知っていた龍香ちゃんが落ち着いて前に出る。
よし、今度は抜いてみよう。
「あ!」
冷静に左側にフォアハンドで前に出た龍香ちゃんを抜く。
「15-40」
その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
正直言うと、あたしと龍香ちゃんがしているテニスのレベルはあまりにも低い。
小学校低学年の女の子同士の試合と言ってもいいレベル。
それでも、普段運動がからっきしなあたしが、龍香ちゃんからポイントを取ったのは大きい。
でも、龍香ちゃんのブレークポイントは変わらない。
……というよりも、こんなレベルでサーブしている側が有利といえるのかは甚だ疑問だけど。
「ゲーム、河瀬!」
拍手が沸き起こり、龍香ちゃんが軽くガッツポーズをする。
あたしのサーブを返し、ラリー戦になりつつも、あたしが思いっきりミスをしてしまう。
ダブルス分のコートを使えるはずなのに、それさえ外してしまうとは情けない。
観客はあたしの太もも付近と胸、アンダースコートばかり見ている人も多い。やっぱり女の子のこうしたスポーツ、エロ目線も魅力になっちゃうのはしょうがないと思う。
コートがチェンジして今度は龍香ちゃんのサーブ。
あたしは、座りながら水を飲み、考える。
他の子のサーブは知らないけど
2ゲーム目、龍香ちゃんのサーブ。
ファーストサーブが入る。
「んっ!」
あたしにとっては結構ショットが強烈で、あたしは返すのがやっと。
龍香ちゃんにすぐに決められてしまい15-0
ともあれ、次に切り替えていこう。
龍香ちゃんのサーブ、思いっきり打ってネットに掛かる。
「フォルト! 15-15」
「あーそうでした。優子さんの場合、1回もミスできないんでした」
龍香ちゃんは苦笑いしながら言う。
あたしよりも威力の強いサーブとショットは、スコートをよりはためかせていて、観客の目を楽しませてくれているみたいね。
でも、当事者は一回試合に入っちゃうと、思いの外気にならなくなってしまう。
それは素直にすごいことだと思う。
龍香ちゃんは、あたしがウィナーを決めるのは少ないだろうと読んで、思いっきり置きに行くサーブをしてくる。
あたしも、最初はミスをしないように返す。
お互いがミス待ちになると、かなりの長期戦になる。
それは体力で劣るあたしには不利ということ。
とにかく、あたしは龍香ちゃんのバックハンド側に合わせて打つ。
少しでも威力のあるボールを打たれると、あたしはきつい。
だから、ある程度ラリーが続いたら、攻めないといけない。
「んっ!」
隙を見て前に出る。
あたしの足は遅いけど、それでも前に出れば威力が出るはず。
「もらった!」
「わっ!」
龍香ちゃんがロブを上げ、あたしは後ろへ引き返す。2バウンドまでOKだからなんとか間に合ったけど、距離が遠くてショットが届かずに30-15になる。
「ゲーム、河瀬!」
「優子ちゃーん! がんばれー!」
あたしへの応援の声が沸き起こる。
普段の体育の授業でも、声援はいつも判官びいき。
だけど、あたしが勝つことはめったにない。
相手側に極端なハンデが課せられることもある。それでも滅多に勝てないわけだ。
3ゲーム目、0-30になったところで審判の先生が試合を止めた。
おそらく、龍香ちゃんに新しいハンデが課せられるんだろう。
観客も、そのことを察している。
3ゲーム目途中で、あたしが奪ったのはわずかにサーブで1ポイントと、相手のフォルトで1ポイントだけ。
このハンデでも、龍香ちゃん相手に試合にならないのだ。
「えー、審判の草津です。只今より、新しいハンデが加わります。1つ目、石山さんはフォルトは全てレット扱いにします。2つ目、石山さんは2ポイント取った時点でゲームポイントとします」
審判役をしていた、体育の先生がそう告げる。
つまり、サーブは思いっきり何回打ってもいいことになった上に2ポイントであたしのゲームになる。
でも今は、相手のサーブ。
龍香ちゃんは動じずに、確実にサーブを入れていく。
威力が低すぎて、ダブルスのコートを使うくらいでは、大したハンデにならない。
とは言っても、テニスコートの広さの都合上、もうハンデとして残っているのはネットを操作してあたしの陣地を狭くするくらいしかない。
それをやるのは大掛かり過ぎる。
結局、このゲームも落としゲームカウントは3-0。
4ゲーム目、あたしは何回でもサーブを失敗していいことになったので、とにかく思いっきり打つ。
3回に1回も入らないけど、何度でも失敗できるだけで、メンタル面の余裕がだいぶ違う。
「0-15!」
問題は、思いっきり打っても、簡単に対応されちゃうところだけど。
結局、あたしはこのハンデでもサービスゲームを落としてしまう。
1ポイントも取れず、ラブゲームでブレークされてしまった。
第5ゲーム、ここも龍香ちゃんがフォルトでミスをした1ポイントのみ。
何か、ブレークのほうが簡単な錯覚を受けてしまう。
観客たちも、これほどのハンデを与えられて、なおも1ゲームも取れないあたしに、可哀想なものを見るような目が増える。
でも、そんなことも、もう慣れっこだ。
第6ゲーム、ここを取れなければ6-0、いわゆるベーグルで負けてしまう。
「うんっ!」
「んっ!」
「アウト! 15-0」
「わあああああああああ!!!!!」
龍香ちゃんのボールがミスになり、初めて、あたしがリードした。観客も、あたしがベーグルを阻止するんじゃないかと期待している。
と同時に、ゲームポイントでもある。
でも何だろう? 今の、居た堪れなくなった龍香ちゃんがわざとミスした気がする。
ううん、考えても仕方ないわね。
15-30からのあたしのサーブ。
もうあたしは勝つことは無理、せめてベーグルでも阻止しようという気持ちだったので、とにかくつなげてミスを待つテニスを心がけることにした。
龍香ちゃんが攻め急いでネットに掛ける。これもなんかわざとミスした感じが強い。
「ゲーム、石山! 5-2!」
「うおおおおおお!!!」
「いいぞお!!!」
「優子ちゃーん!!!」
本来なら「30-30」なんだけど、特別ハンデのおかげで、あたしのキープになった。
あたしのサービスゲームで2ゲーム分、もし次のゲームもあたしが取れば、5-6で一気に逆転になる。
これだけのハンデを課せられて、しかも相手の温情じゃないかと思うような状況でも、あたしに対して大歓声が沸き起こる。
それくらい、あたしの身体能力は壊滅的なんだ。
と言っても、次のゲームも龍香ちゃんのサービングフォーザマッチ。
あたしは、何のなすすべもなく、このゲームを落とし、結果的に6-2で敗れた。
多分、普通のルールだったら、あたしは1ポイントも取れなかったと思う。
「ふう、優子さん。お疲れ様でした」
「うん、龍香ちゃん、ごめんね。あたしのために」
「いいんですよ。優子ちゃん、体育の授業、いつも可哀想すぎますから」
龍香ちゃんが、あたしに優しくそう語りかけてくれる。やっぱり、さっきのは温情だったのだ。
次の試合、敗者同士でやることになっている。
でも、その相手が龍香ちゃんより弱いとは限らない。
あたしは、体育の先生に申し出て、ゲームハンデをキープ2倍、ブレイク4倍から、キープ3倍、ブレイクしたら6ゲームで即勝利に変えてくれるように申し出た。
体育の先生も、すんなりと了承してくれた。
更に既にあるハンデとして、2ポイント取ればゲームが取れ、こっちは何度でもサーブを失敗してもいいのに相手は1回しかサーブを打てず、こっちは2バウンドまでOKな上にダブルス分のコートまで使えて……これで負けたら本当にひどいとしか言いようがないわね。
2試合目は20分ほど休憩してすぐに始まる。
他の子のテニスの試合も見てたけど、みんなあたしよりレベルが高い。
他の3年生や下級生の球技大会を見る。
みんな、あたしと比べて動きも素早いし、身体能力も高い。
でも、あたしの中でこの身体能力の低さは、仕方ないと諦めることにした。
胸も大きくて、髪もロングストレートだし、元々の運動神経の悪さに加え、運動に向いてない体つきをしているせいだと思いたい。
第2試合の相手はさくらちゃんに決まった。
「あの……おねがい……します……」
「うん」
あたしは、もう一回コイントスに勝ち、今度はレシーブを選択してみる。
このハンデを垣間見るに、一回でもブレイクすれば勝ち。つまり、最初のゲームで終わる可能性もある。
さくらちゃんのテニスウェアはとても似合っていて、「先輩にも見せたかった」と言っていた。
トン……トン……トン……
さくらちゃんがテニスボールを掴み、サーブを打つ。
威力は龍香ちゃんとほぼ同じ。
あたしはフォアハンド側で打つ。ダブルスコートの方へ落ちる。
次にバック側に。とにかく左右に振ってみよう。
「アウト! 15-0」
でも現実は甘くない、あたしのコントロールミスでアウト。
さくらちゃんの2球目、あたしのリターンがネットに掛かり30-0
3球目もさくらちゃんにウィナーを決められ、40-0
次のボールもラリーが数球続いた挙句、あたしが追いつけずにあっさりとゲームをキープされる。
さくらちゃんは、テニスウェアの下はスパッツタイプだけど、それでも結構丈も短くてエロいと思う。
コートチェンジをして2ゲーム目、今度はあたしのサービスゲーム。
平均して4回程度失敗するくらい、あたしは思いっきりコースギリギリを突こうとする。
何回でも失敗できるという心理的余裕からだけど、そううまくは行かない上に、思いっきり打っても、結局相手にリターンで崩されてしまう。
サーブ側が有利と言っても、あってないようなハンデだ。
ここも結局、ラブゲームでブレークされてしまった。
まずい、龍香ちゃんの時よりも試合内容がひどい。2ゲーム終わって、あたしはまだ1ポイントも取れていない。
「優子さん……」
さくらちゃんも、あたしのことを、ある意味で「可哀想」という目で見ている。
そこできっと、どこかでメンタルが影響したかもしれなかった。
バシッ!
「フォルト! 0-15!」
さくらちゃんのボールが、ネットに掛かる。
これであたしのブレークポイント、それどころか一気にマッチポイントだ。
さくらちゃんは、落ち着いてアンダーサーブでも打てばいい。
だけど……
「フォルト! ウォンバイ石山! 6-2!」
それは、あまりにもあっけない幕切れだった。さくらちゃんのボールは横に大きくそれてフォルトになった。
本来のテニスなら、単なるダブルフォルト、1ブレイクアップで0-15の場面だった。
さっきのハンデでもまだ4-2という場面でしかない。
きっと、さくらちゃんも早く終わらせたかったのかもしれない。
「優子さん……お疲れ様です……」
「みなさん、ありがとうございます……勝てて……嬉しいです……」
あたしは、観客の前でペコリと頭を下げる。
観客はただ、困惑したように拍手をしている。
普通なら、こんなハンデで勝っても「嬉しい」とは思えない。
それこそ80代のおじいさんが、20代の孫とやるときでさえ、こんなハンデは課せられないと思う。
観客は多分、あたしが体育の授業で敗北続きなこと。そのためにハンデを貰ってさえろくに勝てないために、日常的に極端なハンデが当たり前になっていることを察しているんだと思う。
普通なら、こんなハンデで勝っても勝ちじゃないと言いたい気持ちがありそうなはずなのに、さくらちゃんも当たり前のように受け入れていることが、ますます悲壮感を演出してしまったんだと思う。
ともあれ、これであたしの球技大会は終わった。もうあたしの参加する種目はない。
後は観戦するだけ。その前に、昼食を食べよう。
午後からは、浩介くんと恵美ちゃんの試合が行われることになっている。