永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
幸いにして、この試合の内容はインターネット上ではどうやら話題にならないまま終わりそうだ。
また、あたしと浩介くんでいつも2人で下校しているため、変な声掛けスカウトもいなかった。
学校の方には電話がかっているけど、永原先生が全てシャットダウンしてくれている。
さて、球技大会が終わると、次のイベントはいよいよ修学旅行という事になる。
とは言え、まだそれには時間があってまだ準備する段階ではない。
「それでさ、この前――」
「えー、浩介くん何それぇー!?」
あたしと浩介くんは、今日も他愛もない話をしながら、笑いあって下校していた。
「すみません」
突如、30代くらいの男性が声をかけてきた。
「はい」
「君だよね? この前の球技大会で、田村選手を負かしたの」
「? 俺じゃないですよ」
浩介くんがとっさに嘘をつく。
「いやいや、嘘はいけないでしょ。映像に残っているんだからさ」
「――で? 仮に俺だと言ったらどうするんですか?」
浩介くんは嫌々ながら答える。
間違いなく、例のスカウトだよね?
「私はアメリカのスポーツアカデミーのスカウトをしている――」
「スカウトの話は、すべてお断りしています」
スカウトが言い切る前に、浩介くんがきっぱりと拒絶する。
「まあそう言うなって。君は部活天文部なんだろう? それはあまりにもったいないじゃないか」
「俺の勝手です。さ、いくぞ優子ちゃん」
「うん」
浩介くんとあたしが、無視をして歩こうとすると、スカウトが回り込んで進路をふさぐ。
「何だ!? 勝手に人の歩く進路を妨害するのは軽犯罪法違反だぞ!」
そうだったんだ。知らなかったわ。
「君はスポーツ選手として、偉大になれると言っているんです。その才能を活かさないのは、世界にとって損失ですよ」
「そうかい。俺には関係ねえよ」
浩介くんが今度は脇を通り抜けようとする。
「悪いですけど、こっちにも生活が懸かっているのでして」
「おい」
スカウトがまた、歩くのを妨害してくる。
「大方、そこの彼女さんに心酔しているとみる。世界のために、別れてみては――」
「カッ!」
その言葉を聞き、浩介くんが切れた。あたしとしても許せない。
「うるせえんだよ! てめえに何がわかる!?」
「そう怒らずに。怒っていては、パフォーマンスも発揮できませんよ。そんな女など捨てなさい」
「――これが最後の忠告だ。そこをどけ!」
浩介くんが一段と大きい声で言う。
「いえ、そう言うわけにはいきません。君を何としてでも、アメリカに連れて行かなきゃいけないんです」
「俺は同意しねえぞ」
浩介くんはきっぱり言う。
「いいえ、こちらとしも、何が何でも同意してもらいますよ」
話はいつまでも平行線、通学路の生徒たちも、あたしたちを変な目で見ている。
「もはや問答無用か……仕方ない。優子ちゃん、強行突破するぞ」
「え!?」
浩介くんが強行突破を決断した。
「うおりゃああああ!!!」
「ぐほっ……」
浩介くんが姿勢を低くし、スカウトに頭を向けて思いっきり顔めがけて頭突きをかます。
スカウトはその場で地面に倒れこみ仰向けになると、浩介くんがスカウトの腹を踏みつけ、あたしにおんぶするようにジェスチャーし、あたしが背中に乗ると一気に走りこむ。
後ろを振り返っている余裕はなかった。
「はぁ……はぁ……ここまでは、追ってこねえだろ……」
よく見ると、浩介くんの頭にはさっきスカウトに頭突きした際についたと思しき鼻血が僅かについていた。
「浩介くん、はい」
「あ、ああ……」
あたしがハンカチで浩介くんの頭を拭く。
すでに駅前に来てしまった。普段はここで浩介くんと別れる。
「浩介くん、一人で大丈夫?」
「んー今日はとりあえず一人で帰ってみるよ。このことは両親にも相談するつもり」
「そう、気を付けてね」
あたしは、浩介くんと不安そうになって別れた。
「ただいまー」
「優子、おかえりなさい。どうしたの? 元気ないわね。浩介くんとケンカでもした?」
「ああいやそうじゃないんだけど――」
あたしは母さんに、学校で取っているスポーツアカデミーのスカウト対策と、先ほど起きた出来事についても話す。
「なるほどねえ……でも、すぐに引き下がってくれるかしら?」
母さんが不安そうな表情で言う。
「うん、そのための蓬莱教授よ」
とは言え、蓬莱教授の方から連絡はまだないけど。
「じゃあ母さん、休むね」
「はーい、ご飯呼んだら来るのよ」
「分ってるわよ」
あたしは、気分を紛らわせるため、私服に着替えたら、お人形さんとぬいぐるみさんで、お遊びをする。
「ねえねえ、ねこさん、ねこさんはどうして狩りをしなくても生きていけるの?」
「それはだにゃー、にゃーには飼い主がいて、飼い主さんが餌をくれるんだにゃー」
「へーいいなあ……」
あたしは、猫さんとクマさんで、一人芝居をして楽しむ。
「優子ー! 浩介くんから電話ー!」
「はーい!」
そんな時、母さんが大きな声であたしを呼ぶ。
浩介くんの家から、テレビ電話がかかってきて、あたしを呼んでいた。
「はい、優子です」
「あ、優子ちゃん」
テレビ電話の画面には、浩介くんと「義両親」の姿があった。
「その……今日、浩介が強引なスカウトにあったんだって?」
「はい、学校から駅までの通学路で、通り抜けようとしても回り込んで通せんぼされて、いくら断っても聞く耳持たなかったので……仕方なく、頭突きで強行突破しました」
「他にやりようはなかったのかねえ……」
「お義父さん」が唸りながら言う。
「無かったと思います。あたしと別れるように持ちかけたり、あれはもう、言葉からは『アメリカに拉致してでも連れていく』かのようなニュアンスさえありました」
あたしが、あえて大言壮語気味に言う。
「んー、優子ちゃんがそこまで言うという事は、相当だったんだろう」
「でも、そこまでしつこいってことは、また来ませんか? しかも今度は複数で」
母さんが、懸念を言う。
「ああ、あの時は一人だったから、何とか強行突破できたけど、複数人が来たらわからねえ。しかもスポーツアカデミーだ。スカウトとは言えそれなりに鍛えているはず」
浩介くんがそう言う。
「あの、学校まで車で送り迎えするというのはどうでしょう? 永原先生を通して、全校に周知した上でです。これはもはや、『不審者』だとあたしは思います」
ともあれ、今日の事件は永原先生に報告が必要になる。
問題は頭突きの経緯だ。
それについては、永原先生に口止めしてもらう方法もあるが、リスクもある。
何らかしらの建前論が必要だ。
「あの、私に考えがあります」
今度は「お義母さん」が手を挙げた。
「うん?」
「スカウトは、『何が何でも』と言ったんですよね?」
「ああ」
「ええ」
あ、言いたいこと分かっちゃったわ。
「つまり、『何が何でも』ということは、それこそ『拉致監禁』も含むわけじゃないですか? つまり、『どんな手段を使ってでもと言われ、拉致されると恐怖を感じて、逃走のために仕方なくした』という事に知るというのはどうでしょう?」
「うーん、いくら何でもそれは……」
「いえ、いいと思いますよ」
母さんの異議に対して、あたしがそう答える。
ともあれ、建前論だから、馬鹿馬鹿しくてもいい。何が何でもを超厳密に字義通り解釈したで押し通せばいいのだ。
とにかく、一旦はこれでお開きとして、浩介くんの家の方で、永原先生に報告することになった。
「うまく行くといいわね」
「ええ……」
私も母さんも、不安の色を隠せない。
ともあれ、あたしは自室に戻らずに、ソファーでそっと結果を待つ。
もちろん、すぐに来るとは思えないのに。
しばらくして、テレビ電話が鳴った。
浩介くんではなく、永原先生からだった。
「はい」
「あ、石山さん、こんばんは。災難だったね」
「はい、こんばんは。永原先生」
永原先生が、テレビ電話の向こうに映る。場所は協会の本部だった。
「とりあえず、報告するね。篠原君には、車での送迎通学を許可します。っといってもする人がいないだけで、別に禁止はされていないけどね。ただ、スカウトの一件は全校に伝えて、『不審者』として注意を促すわ」
「……ありがとうございます」
浩介くんと楽しく一緒に帰ることができなくなるのは寂しいけど、仕方ないわね。
「篠原君としても、スポーツ選手になるつもりはないそうです。仮になると言い出したら両親も反対すると言ってますし、元より篠原君本人も反対してます」
「ええ」
それは分かっていたけど、嬉しかった。
「ただ、あのアカデミーはそれなりに大きいところだから、あの手この手で催促してくるわ。おそらく、石山さんにも揺さぶりをかけてくるでしょう」
「……ええ。分かってます」
あたしも浩介くんも心変わりはあり得ない。
蓬莱教授の研究への参加は、スポーツでどんな記録を打ち立てるよりも偉大なことだと知っているから。
「ですが、何か言って来たら、とにかく『話も聞かない』という態度を取ってください。今回は、マスコミほど世間への影響力がないので、徹底的に強硬手段でお願いします」
「……分かりました」
あたしは今回はそれに賛成。
それから、場合によっては警察との相談も考えておかないといけない。
どちらにしても、忙しい事になりそうよね。
翌日、永原先生がホームルーム開始を告げる。
「まず、不審者の情報です」
「不審者」という永原先生の言葉に、教室が緊張感に包まれる。
小谷学園付近は治安が良く、不審者の情報は滅多に出ない。
「昨日、アメリカのスポーツアカデミーのスカウトを名乗る30代くらいの男が、篠原君に対して執拗に転入を勧めました。篠原君が断っても一切引き下がらずに、通り道を塞ぐといった行為も見られました」
強行突破の事は話さないことにした。
「今後、外堀を埋めようと皆さんに声をかける事案が発生するものと思われますが、話には耳を貸さないで下さい。余りにもしつこく、往来を妨害するようでしたら、遠慮なく110番通報して下さい」
永原先生の口から、「警察への通報」という言葉が出る。
多分、蓬莱教授との相談の結果だろう。
「それから、篠原君についてはしばらく親御さんの車で通学することになりました。みんな分かってるとは思うけど、篠原君をからかわないで下さい」
「「「わははははっ」」」
永原先生の言葉で、教室が笑いに包まれる。
「分かってますよ先生! そのスカウトとやらが悪いんだろ!?」
「「「そーだそーだ」」」
高月くんの声と共にクラスのみんなも同調する。
ともあれ、これは全校に周知されることになった。さすがに、大丈夫だと思いたい。
その日、授業は滞りなく終わり、他の学内や天文部でも、浩介くんへの同情の声が聞こえただけで、ほぼ平穏に一日が終わった。
「じゃあ、バイバイ浩介くん」
「ああ、また明日」
「お義母さん」が操縦する車に、浩介くんが乗り込み、あたしが見送る。
さて、あたしはと言うと、一人ではなく、桂子ちゃんと一緒に帰ることになっている。
「桂子ちゃん、ごめんね。付き合わせちゃって」
「いいのよ。それに、私たちもよく一緒に帰ってたでしょ?」
「うん、そうだったね」
通学路、桂子ちゃんとのガールズトークで盛り上がる。
「それで、桂子ちゃんは誰を気に入ったの?」
「うーん、私はもう少し見極めたいわね」
桂子ちゃんも桂子ちゃんで、天文部の男子を見定めている。
だけど、今の天文部が崩壊してしまう危険性もある。
野球部の二の舞を、演じたくないという気持ちが、桂子ちゃんにはあるのだ。
「はー、ダメよねえ。あーあー、こんなんだから優子ちゃんみたく彼氏できないのかも」
桂子ちゃんは、自分がかつて「学校一の美少女」と呼ばれていたことを知っている。
この称号、今ではすっかりあたしのものだけど、でも桂子ちゃんのかわいさが損なわれたわけではなく、あたしに彼氏がいることは知られているので桂子ちゃん狙いの男子はとても多い。
だけど、あまりの人気ぶりに、男子が相互にけん制しあっている。
「桂子ちゃん、もっと肉食系女子になってみてはどう?」
「それも考えたんだけどねー」
あたしは、いつぞやと同じようなアドバイスをする。
だけど、やっぱりどうも桂子ちゃんは乗り気になれないみたい。
でも、男子が警戒しあってしまっている以上、桂子ちゃんの方から動かないと打開は難しいわよ。
しかしこの日も、桂子ちゃんはこの問題は先送りにするという。
にも関わらず、桂子ちゃんはあたしと違って、不老というわけじゃないから、「焦り」があるという。
高校生の時点で、恋愛に焦りを感じるというのは、相当自分に自信があるってことよね。
ともあれ、今日はこれでお開きになった。
均衡が破れたのは2日後だった。
それは天文部でいつものように活動していたときのこと。
コンコン
「はーい」
おや? お客さんかな?
ガチャッ
「あっ……貴様は……!」
浩介くんが驚いた顔をする。
それは先日のスカウトだった。しかも、SPらしき人を2人連れていた。
「どうやって入ったの? 学校の表には警備員が居たはずだけど」
桂子ちゃんがまず、食って掛かる。
「そんなもの、どいてもらったに決まってるでしょう」
どう考えても、穏当な手段ではない。
とすれば、間違いなく外は騒ぎになっているはずだ。
「さて、篠原浩介くん。君はこんなところで油を売ってないで、すぐにアメリカに飛んで、スポーツエリートになってもらいます」
「断ると言ったら?」
「無理にでも、引っ張りましょうか?」
2人の屈強な男が前に出る。
「ふぅー、状況が分かってないようだな?」
浩介くんが余裕の表情で言う。
「何!? 気でも狂ったか!? ここのSPは制圧のために特別な訓練を受けた。いわばスペシャリストだ」
「……戦いは、数だよ。特にこんな、素手の戦いじゃな」
「ん!?」
天文部の男子たちが、一斉に立ち上がる。
その数は、浩介くんも入れて9人。
「2対9と思うなよ。実際には4対81だ」
「やれやれ、そんなことまで知っているとは。随分と博識ですねえ。ますます、アメリカに行かせたくなります」
浩介くんがあたしにサインを作る。
うん、分かった。
あたしは、こっそり携帯電話を取り出し、電話をかける。
「おや、何をしているんだ!?」
SPの人があたしに怒鳴りつけるが気にしない。
さすがに女の子のあたしには手を出してこないはずだ。
「あーもしもし、食堂ですか? 悪いんですけど、天文部までラーメン14人前お願いできますか?」
「ありゃりゃ、そうでしたか。これは失礼。私たちにもおごってくれるとは思いませんでした」
スカウトは、安心した表情で言う。
警察でも呼ばれたんじゃないかと思っていたらしい。
……バカな人。
「石山さん、そのまま時間を稼いで」
電話から永原先生の声がする。
「はい……ありがとうございます……」
あたしは出前という建前でもっともらしいことを言う。
「それにしても、ここは部室に出前まで食堂はしてくれるんですか。さすが小谷学園ですね」
のんきなことを言っているがとにかく時間を稼がないと。
「ともあれ、何度言っても同じですから、俺の気持ちは優子ちゃんと共にあります。ラーメンに免じて、どうかお取り引き願いたい」
「いえ、私としても、これほどの原石を見つけたとなれば、昇進間違いなしですからねえ。残念ですが、あなたの気持ちを変えるのが、私の仕事です」
「ふう……そうやって、SPに守られながら言うか。そんな臆病者のいるようなへっぽこアカデミーなんかこっちからお断りだい」
浩介くんが、思いっきり挑発するように言う。
「な、ななななんですと!?」
「どうせ、ろくなスポーツ選手も排出できない。雑魚なんでしょ? 俺一人にそんなに必死になるもんな? 何の実績もない詐欺グループに違いないな」
「こ、ここっ……このお……!!! 無礼にもほどがありますよ!!!」
「べー!」
浩介くんは、まるで小学生のように「あっかんべ~」をして挑発をする。
そして後ろを向き、自分でお尻ペンペンをする。
極めて幼稚だが、こういう「意識高い系」の「真面目系クズ」にはこれが一番効く。
「よ、よろしい。そんなに馬鹿にするなら……」
「あの、挑発には乗らないほうが――」
SPの一人も、冷静になるように促す。
「うるさい! ここまで言われて、何もしないのでは私の名が泣きます!」
やっぱり、馬鹿な人よねこの人。
スカウトは、SPの静止も聞かず、前に出てしまう。
「今だあ!」
「「「おりゃあ!」」」
「うわあっ!」
天文部の2年生の男子3人が、スカウトの腕を引っ張り、強引にこっち側へ寄せる。
「おいっ!」
SPが取り返そうと前に出る。
「動くな! こいつがどうなってもいいのか!?」
浩介くんがSPに脅すように言う。浩介くんは、後ろ足をスカウトの股間の上に乗せる。
「いつでもやれる」という意思表示だ。
「な、何!?」
「あなた方を、住居侵入罪の現行犯で逮捕します」
桂子ちゃんがそう宣言する。
「な、な……」
バタンッ!
すると突然、扉が開いた。
それは、警察官5人と永原先生だった。
「警察だ! 大人しくしろ!」
SPには警察が2人がかりで逮捕する。
SPはさすがに警察には刃向かえず、おとなしく縄に付く。
スカウトは抵抗していたが、浩介くんと最後の警察官が協力して取り押さえ速やかに退場していった。
「永原先生、高島さんを呼んでください」
「え……!?」
突然の言葉に、永原先生も動揺する。
「……今回のこと、記事にするべきだと思います。スポーツ不祥事ですから」
「……分かりました」
「協会は直接関係はないので、何か言ってきたら自由裁量でと伝えてくれますか?」
「ええ、もちろんです」
こうして、強引なスカウトによる騒動も、ようやく一件落着したのであった。
当初の予定では浩介くんと天文部でこの3人をボコボコにする予定でしたが、印象的な問題もあって止めました