永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2年目の初夏

 しつこいスカウトは警察に逮捕され、拘留中だ。

 

 そんな中で、翌日、永原先生がスカウトの上司があたしと浩介くんに謝罪と慰謝料を渡してくるという。

 永原先生によれば、日本支部のスカウト長と支部長だとか。

 

 昼休み中のこと、永原先生から、「謝罪に来た」という知らせが来た。

 すると浩介くんは、「教室に通して、謝罪するべきだ。俺は今教室でくつろぎたいから」と言い放った。

 浩介くん、この一件ではかなり怒っていて、責任感が強いが故に、責任者に覚悟を求めるんだってことを思い知る。

 

  ガラガラガラ……

 

「……あの、篠原様と石山様はどちらに?」

 

 二人のスーツを着た中年男性が、申し訳なさそうに永原先生に尋ねる。

 

「今呼んできます。石山さーん、篠原君ー!」

 

「おうっ」

 

「はい」

 

 永原先生に呼ばれ、あたしと浩介くんが席を立つ。

 クラスのみんなも、注目している。

 

「この度は私の部下がお二方に大変なご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ありません」

 

「申し訳ございません」

 

 2人があたしたちに頭を下げる。

 

「……どうして、こんなことになったんだ?」

 

 浩介くんが厳しい口調で、開口一番にそんなことを言う。

 

「担当のスカウトが発掘した選手がここの所鳴かず飛ばずでありまして、他のアカデミーが永原先生に断られた時点で止めておいた中、成果を焦るあまり、強硬な手段を取ってしまいました」

 

「……元々、あなた方のアカデミーはこの手の不祥事が多いのですが、何が原因だと思いますか?」

 

 永原先生が聞いてくる。

 

「えっと、それは……その……」

 

 2人が言葉に詰まり、迷う仕草を見せる。

 

「ふぅー、具体的な再発防止策を提示して、再発防止が約束できねえなら、謝罪は受け取れねえし、俺はお前らを返すわけにはいかないな」

 

「いやしかし――」

 

「逃げようたって無駄だぞ! 俺はこれでも相当鍛えて鍛えている。てめえら2人を取り押さえることなんざ訳ねえよ」

 

「我々にもスケジュールが――」

 

「うるせえ!!!」

 

 浩介くんが大声で怒鳴る。ここまで大きな声で浩介くんが怒ったのも久しぶりだ。

 

「てめえのスカウトはな、スポーツのためだ何だ言って、俺と優子ちゃんの仲を引き裂こうとまでしたんだぞ!!! 俺だけならまだいい。優子ちゃんにひどいことしたことを、俺は絶対許せねえんだよ!!!」

 

 突然怒り出した浩介くんに、2人はただ、「申し訳ありません」と繰り返す。

 

「この……だから再発防止策は何だ!? 言え!!!」

 

 浩介くんが一人の男性の胸ぐらをつかむ。

 

「し、篠原君やめなさい!」

 

 永原先生が止めに入るが聞かない。

 

「『申し訳ありません』じゃねえだろ! 再発防止策は何だつってんだよ!」

 

「そ、その……あ……あっ……」

 

「言えねえのかゴルァ!!」

 

 こんなに怒っている浩介くんは久しぶり。

 教室でも、何事かとみんなあたしたちを見ている。

 

「言え!!! 言え!!! 言ええええ!!!」

 

 浩介くんが乱暴に背中に打ち付ける。

 浩介くんの怒りも最も。最愛の人との仲を引き裂こうとしたんだから。

 

「あ、あの……二度と、二度と小谷学園には近付きません!」

 

 いたたまれなくなったもう一人がそう言う。

 それを聞き、浩介くんがもう一人の胸倉を掴んでた人を離す。

 

「それだけじゃ不十分だな。小谷学園以外で、こういうことをするつもりか?」

 

「い、いえ……」

 

「私から。今後こういう事の再発を防止するには、社員教育の徹底だけでは不十分です」

 

 ここで、永原先生が声を上げる。

 

「え!?」

 

 アカデミーの人、胸倉を掴まれた方が、驚いた風に言う。

 

「分かっております。今後は過度な成果主義をやめ、ある程度の年功序列も混ぜていきたいと思っています」

 

 そしておそらく、こちらが日本支部長の人だろう。

 

「ったくよ、それが聞きたかったんだよ!」

 

 浩介くんが苦虫を噛み潰したように言う。

 

「だがまだ信用できねえ。誓約書を書いてもらおうか」

 

 いつもと違ってかなり用心深い。

 

「あ、あの――」

 

「書けねえってんなら、またそういうことをしますって言うとみなすぞ。いいのか? 小谷学園で噂が広まって、不特定多数の誰かにインターネットにそういうこと書かれても」

 

 浩介くんは絶対に譲歩しようともしない。

 

「……分かりました。そうしましょう。私達としても、これ以上信用の低下を引き起こせば日本撤退も余儀なくされるでしょうから」

 

「机、借りてもいいですか?」

 

「ああ」

 

 日本支部長さんの方は、まだ物分かりがよく、誓約書を書き綴り、印鑑を押す。

 

「指紋も押しとけ」

 

「う、分かりました」

 

 浩介くんが大声で怒鳴ったのが効いている。

 日本支部長さんが、朱肉に指を押し付け、誓約書をしたためる。

 

「さ、君も署名と指紋を」

 

「あ、ああ……」

 

 スカウト長と思しき人が署名と指紋を押す。

 

「よし、原本は俺が持っておく。コピーはお前たちと先生、優子ちゃんの計4枚だ」

 

「分かりました、職員室に行きましょう」

 

 永原先生の言葉と共に、あたしたちは職員室へと向かう。

 

「あの……篠原様」

 

「何だ!?」

 

 日本支部長が浩介くんに話しかけてくる。

 

「もしよろしかったら何ですが、篠原様がスポーツへの道を拒否された理由。お教えできませんか? 今後の更なる再発防止のために、知っておきたいんです。もちろん、仮に今ここで篠原様が『やっぱり、アカデミーに行く』とおっしゃったとしても、断ることは大前提です」

 

「俺には、優子ちゃんがいる。それに、もう佐和山大学に行くって決まってるんだ」

 

「何故そのような大学に!? なおのこと、スポーツの方が稼げると私は思いますが」

 

 日本支部長さんは、当然あたしと浩介くんが蓬莱教授の研究に参加することは知っていない。

 

「優子ちゃん、永原先生、話しても大丈夫か?」

 

「ええ。どうせ、もうすぐ試験の日ですから」

 

 永原先生が言うのは佐和山大学へのAO入試について。

 

「分かった。俺と優子ちゃんは、佐和山大学と言っても、蓬莱さんから推薦を受けたんだ」

 

「え!? 蓬莱って……まさか!?」

 

 日本支部長さんはやはり驚いた顔をする。

 

「ええ。ノーベル賞学者の蓬莱教授よ。あたしたち、そこで不老研究に携わることになったのよ」

 

「な、何と……!」

 

 あたしの言葉に、2人は言葉を失っている。

 

「例えどのスポーツでどんな偉大な記録を残そうが、蓬莱教授の研究に携わることの方が、世間への影響力も大きいだろ?」

 

「え!? そ、それは……」

 

 やはり、スポーツアカデミーの人は、それを肯定するのを躊躇している。

 

「もし、蓬莱先生の技術が100年前にできていたら、ベーブ・ルースやルー・ゲーリッグが、未だにヤンキースでプレーしていただろうって言えば、この技術の偉大さがわかるわよ」

 

 永原先生が、スポーツのスカウトに分かりやすく説明をする。

 ベーブ・ルースは聞いたことあるけど、ルー・ゲーリッグって誰だろう?

 

「それは確かに……素晴らしいことですよね」

 

「あ、ああ……」

 

 そんなこんなで、あたしたちは職員室へとたどり着く。

 

「じゃあ、私がコピー取ってきますから、大人しくしていてくださいね」

 

「はい」

 

 重い時間が流れる。

 やむにやまれなかったとはいえ、浩介くんは日本支部長さんはともかく、スカウト長さんにはほとんど脅迫といっていい形で誓約書を書かせた。

 もちろんそれはあたしのためで、浩介くんはあたしのために怒ってくれたこと。だから、あたしの方から浩介くんを止めるのはできない。

 だって、あたしも、愛する人を――婚約者と引き離そうとしたんだから、あの男を許せないもの。

 

「はい、4枚コピー取ったわよ」

 

 そう言うと、永原先生は浩介くんと自身を除く3人に、コピーを配っていく。

 このコピー、大切に保管しないといけないわね。

 中身はやはり、再発防止策として、過度な成果主義を改めることや、社員教育の徹底、更に小谷学園には二度と近付かない旨が記されていた他、あたしと浩介くんへのお詫びの言葉も書かれていた。

 

「では、私たちはこれで失礼いたします」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 そう言って、二人は学園を去る。

 

「ふう、やっと終わったな」

 

「うん、そうだね」

 

 あたしたちは、教室に戻る。

 せめて残りの昼休みは、関係のないことを話していたい。

 

 

「な、なあ篠原に優子!」

 

 教室に戻ると、恵美ちゃんがあたしたちに声をかけてきた。

 

「ん? どしたんだ田村?」

 

「例のスカウト事件、あたいからも、謝らせてくれねえか!?」

 

「??? な、何で田村が俺たちに謝罪するんだ!?」

 

 浩介くんが、ものすごく困惑した表情で言う。

 それはあたしも同じ。どこに何で、恵美ちゃんの謝るべき部分があるのか?

 

「すまねえ! あたいがテニス弱いばっかりに、スカウトに目をつけられて、優子と篠原に、嫌な思いさせちまった!」

 

「……恵美ちゃんのせいじゃないわよ」

 

「ああ。あんなの、スカウトが悪いだけだ」

 

「それでもよ、あたいがもう少し強ければ……最終セット、せめてもう少しまともに戦えれば……!」

 

 恵美ちゃんが謝罪の声を上げる。

 恵美ちゃんが謝っていたのを見るのはこれで2回目、1回目はもう、1年以上も前のこと。

 

「うーん……」

 

 浩介くんがますますひどく困惑している。

 気分が悪いわけではない。むしろ、極端なまでにストイックで律儀だ。

 でも、さすがにスカウト問題で恵美ちゃんが謝罪するのはやりすぎだと思うし、罪に思う必要もないと思う。

 

 あたしのいじめがなくなった時に、何人かの男子に身に覚えのない罪で謝罪されたのを思い出す。もう1年以上も前の話で、風化しかかっていたけど、何とかして思い出す。

 多分、きっとこういう感覚なんだと思う。

 

「恵美ちゃん、あまり思いつめないで。インターハイにも影響するわよ」

 

「あ、ああ……分かった。お前らがそう言うなら、そうしておくぜ」

 

 いたたまれなくなったあたしがそう言うと、恵美ちゃんはようやく納得してくれた。

 やっぱり、「他の試合に影響する」は効果てきめんみたいね。

 ともあれ、これでようやくこの問題も収束に向かってくれると思う。

 

 

「はーい、それでは、今日のホームルームは修学旅行の話です」

 

 明くる日のホームルーム。永原先生が、修学旅行の話をする。

 行先は京都。

 行き帰りとも新幹線の使用で、あたしは何度か利用があるけど、林間学校スキー合宿はバスのため、これが人生初めての新幹線だって人も多い。

 

「なあこれ、行きは2時間半なのに、帰りは4時間近くもかかってるぞ」

 

 高月くんが不思議そうに言う。

 

「行きは他校と合同で『のぞみ』のダイヤを使った団体列車ですが、帰りは一般の『こだま』を使います」

 

 確か「のぞみ」が速達列車で「こだま」が各駅停車だっけ?

 それにしても通過待ちがあるにしたって1時間以上時間がかかるって遅いわよねえ。

 

「帰りは特に周囲の迷惑にならないように謹んで行動してください。具体的には、他の車両には、なるべく移動しないようにしてください」

 

 永原先生が注意を促す。

 うん、トイレくらいだもんね。別の車両を使うのは。

 

「なお、グリーン料金はパンフレットにある通りですので先生に申し出てくださいね」

 

 小谷学園のこと。例のよってお金を払えばグリーン車に乗ることができる。最も、今までほとんど事例がないみたいだけど。

 

 ともあれ、あたしは行きも帰りも普通車で行く予定。

 

「修学旅行のパンフレットですが、部屋割についてはこちらの別紙に仮があります。もし別の部屋割りを希望する人がいましたら、1週間前までに私の方まで申し出てくださいね」

 

 修学旅行はまだまだ先だけど、グリーン車と部屋割りについての都合上、早めに案内するという。

 

 あたしはパンフレットで部屋割りを見る。

 うーん、もちろん浩介くんと一緒がいいけど、さすがに男女混合は全員の同意がないと無理だし……3人以上だもんね。

 暫定では、あたしは恵美ちゃんと龍香ちゃんの3人部屋、浩介くんは、高月くんとは別の部屋で、もしかしたら調整するかもしれない。

 

 修学旅行の本格的なオリエンテーションはもう少し先のホームルームに行われる。

 でも何だろう? 今から楽しみになってきたわね。

 

 

 さて、この季節7月に行われる授業といえば水泳の授業。あたしは3年生で、この7月が最後のプールとなる。結局男として1回、女として2回プールに入った。

 あたしは去年と同じようにクラスの女子たちと一緒に水着に着替え、25メートルを泳ごうと頑張るのは同じ。恵美ちゃんは相変わらずがさつな着替え方をしていた。

 あたしのスクール水着姿はとても刺激的で、男子は相変わらず下半身を大きくしていた。

 去年の今頃と比べて、あたしも女の子が板についてきたので、そうしたことがよく分かる。

 それと同時に、浩介くんが水泳の授業の後、いつも不機嫌になってしまう。

 

 それを解消するためには――

 

 

「あうう……浩介くん……恥ずかしいよお……」

 

「はぁ……はぁ……優子ちゃんが悪いんだぞ……あんなに……あんなに……」

 

 お昼休み、あたしは浩介くんと一緒に屋上に行き、こうして浩介くんにスカートをめくられて至近距離からパンツを見られてしまう。

 あるいは、それに加えて様々なこともさせられている。

 浩介くんのいやらしい視線が、否応でもあたしの羞恥心を激しく煽っていく。

 

「お願い……もう許して……」

 

 あたしは涙目になって懇願するように言う。

 浩介くんに喜んでもらうために、彼の嗜虐本能と独占欲を刺激する。

 そのためには、あたしも多少の演技も混ぜているけど、浩介くんの単純脳では気付くはずもなく、ますます上機嫌になってくれている。

 

「ふふっ、もうちょっとだけだよ」

 

「ふえええ……」

 

 これにも問題があって、文化祭の時以上に浩介くんに興奮してしまうため、浩介くんもテンションが上ってしまうこと。

 

「優子ちゃん、汗がすごいよ恥ずかしい思いすると興奮しちゃうんだろ」

 

「あうぅ……」

 

 そしてもう一つの問題点。こういうことをされちゃうと、やっぱりとっても恥ずかしくて、最後には演技なしにかわいく恥ずかしがってしまう。

 そうなると、こうしてじわり体温が上がり、汗がにじみ出てしまっている所を、浩介くんに生中継されて、ますます恥ずかしさがこみ上げてくるのだ。

 

 でもこうすれば、浩介くんはとても上機嫌になってくれる。

 例え水泳の授業で他の男子にエロい目で見られたとしても、肝心な所では独占できることを、浩介くんは理解してくれるから。

 問題なのは、水泳の授業の度に浩介くん不機嫌になっちゃうから、体育の授業の度に、何回もこれをしなきゃいけなかったことだけど。


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