永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
京都駅付近を歩いて思ったのは、外国人観光客がとても多いこと。
そして、至るところに図表を使ったマナーの張り紙があった。
例えば、舞妓さんに触ってはいけないとか、ポイ捨て歩きタバコ厳禁みたいな、常識とも思えるようなものも貼ってある。
「それにしても、観光客が増えるのは一般的にいいことだけど、やっぱり急激なのはよくないわね」
永原先生は、ふとそんなことを言う。
急激、確かにその通り。
今こそ3000万人に迫るくらいに急増した訪日外国人だが、小学生の頃には1000万人もいなかった。
たったの6年で3倍まで膨れ上がったら、色々と問題が起きるに決まっている。
「いかに訪日外国人が増えたからって、全体で言えば日本人の国内旅行者の方が多いわ。そうすると大変な問題になるのよ」
永原先生が深刻そうな顔で言う。
「旅の恥はかき捨て」という言葉が日本にもあるが、諸外国では多分世界的に見てもフリーダムすぎる小谷学園でさえ採用している「他人に迷惑をかけない」という道徳基盤がない。
特に、今回の修学旅行のような集団での行動の場合、群集心理が働きやすい。
「ただでさえ外国人観光客は『他人に迷惑かけない』の精神が根付いていないわ。まして遠い異国のことでしょ?」
しかも、昨今の急増のために、錯覚状態に陥った観光業界が日本人観光客より優先してしまいがちになるという。
「今関西はどこも深刻なホテル不足よ。私たちはいつも修学旅行は同じホテルだからよかったけど、出張中のサラリーマンは大変よ」
「そうでしょうねー」
あたしも相槌を打つ。
「外国人観光客の急増は一種の麻薬にも似ているわよ。確かに一時的には莫大な利益をもたらすかもしれないけど、マナーが悪いと日本人観光客がみんな逃げてしまうわ。そして、マナーの悪い外国人観光客ばかりになると、ますます観光地の評判が下がってしまうわ。やがて外国人観光客にも飽きられ始めれば、後には廃墟しか残らないのよ」
「つまり、このマナー周知のための張り紙も?」
「ええそうよ。せっかくのビジネスチャンスが損にないために、『郷に入れば郷に従え』という言葉を周知するためのものよ」
永原先生がポスターを見て言う。
いずれにしても、外国人観光客のマナー向上は喫緊の課題だという。
「昔は関西人はマナーが悪いって、関東の人はよく笑ってたのよ。でも、最近は関西人そのもののマナーが関東以上に良くなったことに加えて、外国人、特に中国人のマナーの悪さがあまりにもすさまじくて、そんなことも言われなくなってしまったわ」
永原先生によると、中華街に住んでいる古くからの在日中国人たちはそうした同胞のマナーの悪さに辟易しているという。
これは、中国政府も同じで、最近では目に余る傍若無人ぶりには、名前などを公表した上で出国禁止になっているという。
「そこまでするって、凄いですねえ」
龍香ちゃんも驚いている。
あたしたちは、食事に良さそうな一つの店を見つけた。
美味しそうだったけど、中から非常識な大声での話し声が聞こえてきてやめた。
あたしや永原先生を見たら、きっと大盛り上がりする上にナンパしてくると思ったから。
「なあ、あの4人組かわええな」
「いや、1人はいまいちやろ。黒髪の2人が別格やな」
「うむ、つーかうち、あの2人どっかで見たことある気がするんや」
「え!? どこでや?」
「うーん、思い出せへん」
関西人の女性2人組があたしたちの噂をする。
実はさっきも、何て言ってるかまでは分からないけど、2人組の白人男性が露骨にあたしたちを見て何か言っていた。
「なんかあたいがのけ者にされてる気がするぜ……」
恵美ちゃんがしょんぼりした風に言う。
確かに、あたし、永原先生、龍香ちゃんといった美人に囲まれたらどうしても恵美ちゃんは色あせてしまう。
さて、そんな中で、あたしたちはちょっと高級な雰囲気の料理店を見つけた。
中は落ち着いた雰囲気で、騒ぎ声も聞こえてこない。値段は少し高いけど、朝までの食事をコンビニで予算節約したので大丈夫。
「いらっしゃいませー、何名様ですか?」
店に入ると、レジにいた和服のウェイトレスさん(ここでは女給さんが正しいのかな? まあいいわ)が出迎えてくれる。
「4人です」
「かしこまりましたー、こちらへどうぞ」
永原先生が代表して4人と告げるとウェイトレスさんに案内される。
そこは畳のある個室、机の下で足を延ばせるゆったり仕様だ。
「ご注文お決まりでしたらこちらの呼び鈴でお呼びください」
そう言うと、ウェイトレスさんが持ち場に戻る。
あたしたちは、メニュー表からメニューを選ぶ。表にあったメニューは一部みたい。
うーん、どれにしようかな?
「優子さん、これなんてどうですか?」
「お、いいわね」
様々なお寿司のセット。回転寿司よりは高いけど、本格的な寿司屋よりは安い。そんな印象を受ける。
「これよく見ると、4人前あるじゃんか。もうこのセットでよくね?」
恵美ちゃんが指差したのは、お寿司の盛り合わせ4人前セット。
ちょうど4で割れば割り勘で簡単なのが長所だ。
「うん、あたしもこれでいいと思うわ」
みんな好き嫌いはあるかもしれないけど、写真を見た感じでは、寿司の数はどれも4で割り切れる。
「先生はどう思いますか?」
「え!?」
永原先生は少しぼーっとしていたのか、龍香ちゃんの問いに間の抜けた返事を返してしまう。
珍しい光景だと思う。
「永原先生、これですよこれ。4人前のお寿司セットよ」
あたしが指さして、永原先生に示す。
「あら、いいわね」
「おしっ、じゃあ決まりだな!」
ピンポーン! ピンポーン!
「はーいただいまー!」
恵美ちゃんが呼び鈴を押すと、別のウェイトレスさんの声が遠くからかすかに聞こえて来た。
そして静かに速く、忍者のようにテーブルへと近づき、注文を聞く。
恵美ちゃんが代表して、寿司セット4人前を頼むと、紙を取り出して筒の中に入れてきた。
メニュー表は、1セットは残り、もう1セットはテーブルに置いたままになった。
「静かね」
うん、永原先生の言う通り。
このレストランは和風を大事にしていて、とても静かに楽しめる。
かといって無音というわけではなく、小さな音での和楽器の演奏や、あえての薄暗い雰囲気に加えてししおどしと日本庭園の模型などもあって、雰囲気からして静寂性をアピールしている。
「でもよ、この店にも静かにするようにって張り紙があるぜ」
「あ、本当ですね!」
よく見ると、日本語の張り紙と、数か国語と絵が描かれた張り紙が2枚貼ってあって、前者と後者で明らかに後者のほうが新しい。
おそらく、日本人観光客ばかりだった時代からも、うるさく騒ぐ客がいたことがうかがえる。
「まあ、人間集団になればうるさくしたがるものだもん。それはみんな同じだけど、こうして多言語で書かなきゃいけないのは大変よね」
「だよなあ、これからAIで翻訳機の性能が上がってくれると助かるんだけどよ」
「でも、言語によってまちまちみたいですよ。ヨーロッパの言語同士なら比較的うまくいくんですけど、日本語と英語は機械には難しいみたいですよ」
龍香ちゃんの話、それは確かに当たっている。
あたしはと言うと、例によって日本語しか分からない。英語は高校生程度には読めるけど。
さて、張り紙を見たあたしたちも、雑談はするけど外に聞こえないように配慮する。
「そうそう、鉄道博物館は他にもあるわよ」
「そう言えば、関東にもありましたね」
そう言えば、あたしたちの普段住んでいる地域にもそんな広告があったっけ?
「ええ、国鉄から別れた会社のうち、本州を司っている3社はそれぞれ鉄道博物館を持っているわよ。今日来たのもそのうちの西日本担当の会社の鉄道博物館よ」
永原先生が説明してくれる。ちなみに、この3つの博物館には、どれも初代新幹線として、0系の展示は共通しているという。
最初の新幹線で、尚且つ栄光の名車であり、そして大量生産されたとあって、D51と並んで、大量の保存車両があるという。
「でも、博物館の展示は、私の思い出とも違うわ。私の中で、あの車両……0系は16両の長大編成で走った超特急、『ひかり』だったわ。ビュッフェに備え付けられた速度計が『210』を指して、窓から見える高速道路の車たちが、あっという間にはるか後ろの彼方へと消えていったのを思い出すわ。そして今の車両は、あの時よりも、更に75キロも速く走っているわ」
永原先生がそんなことを言う。
昔は様々なことが不便だった。永原先生が現代の鉄道に感動するのも、そうした明治や江戸時代以前の昔からの「不便な時代」を知っているからこそだという。
そして今度、中央リニア新幹線ができることになった。
最高時速は505キロ、品川と名古屋が40分、大阪に1時間強で済むという。
名古屋でさえ1時間半、大阪では2時間以上かかる現在からすると、夢のような速度である。
285キロが505キロ、2倍に迫る超高速列車だ。
「名古屋にある鉄道博物館は、そのリニアのことが詳しくやっているわよ」
「ふむふむ、機会があったら行きたいですね」
永原先生の言葉に、龍香ちゃんも興味津々になる。
「お待たせしましたー、お寿司セット4人前でございます」
「お、来たぜ」
「うわあ、豪華ですねえ、これならあの値段、むしろお得ですよ」
「うんうん」
見ると、マグロや大トロ、しめさば、アナゴといった定番から、納豆巻きやかっぱ巻き、卵焼きのようなライトなものまで、一通りがそろっていて、しかもどれも美味しそうだわ。
あたしたちは、いただきますをする前に箸をうまく使って、お寿司を4等分する。
でも何か、恵美ちゃんには足りなさそうで、あたしにはちょっと多いかも。
そんなことを考えつつ、あたしたちは均等に4等分し終わる。
「よし、それじゃあ……」
「「「いただきます」」」
恵美ちゃんも含めて全員でお行儀よくいただきますをする。
恵美ちゃんが早速醤油を取り出すと、みんなに配っていく。
あたしはまず、手始めにアナゴから食べてみる。
「もぐもぐ……うん、おいしいわね」
「ええ、さすがにこの値段とあって回転寿司とは格が違いますよ」
「ええこれはうまいわ。高級な『回らないお寿司』と、安い『回転寿司』との間をうまくバランスとっているわ」
龍香ちゃんと永原先生も最初に一口食べて大絶賛する。
「うーん、なんか美味しいんだけど、なんか物足りねえんだよなあ……」
一方で恵美ちゃんは、どこかに違和感がある言い方をする。
さっきのうどんも薄味を気にしていたし、恵美ちゃんあたしや浩介くん以上に濃い味が好きなのかな?
「田村さん、醤油かけすぎよ」
永原先生も気になるみたい。
「あー、どうも味が薄いのはなあ……」
「これが京風よ。吉良殿が昔おっしゃっていたわ。味が濃くてしつこいのが好きなのは田舎ものなんだって」
あー、何かそんな話聞いたことあるわね。
「いや、あたいらだって関東人だぞ。一応……と言うより京都より都会だと思うんだが」
恵美ちゃんが当然の反論をする。
確かに京都は昔の首都とは言え、今は関東の方が都会だものね。
「――京都の人は未だにここが首都って思っているからね。一応根拠はあるわよ」
「へー、根拠って何なの?」
あたしが質問する。
「皇室が未だに
永原先生の話によれば、あくまでも皇居のある場所が首都で、東京に都を移すという勅命はいまだにない。
だからこそ、桓武天皇の平安京への遷都の勅命が未だに有効だというのが彼らの言い分だという。
「うーん、でもなんか納得いかないわね」
あたしは寿司を食べて疑問を言う。
「石山さん、法律や勅命は既成事実では塗り替えられないのよ」
永原先生がやや強い口調で言う。それを認めれば「やったもん勝ち」の世の中になってしまい、秩序は乱れ放題になるからだという。
「お、この大トロうめえな!」
恵美ちゃんが感動のあまりやや大きな声で言う。
「しー、恵美ちゃん、声が大きいわよ」
「おっと済まねえ、でもよ、優子も食べてみなよ」
「う、うん……」
恵美ちゃんに言われるがままに大トロを一口。
「うん、確かにおいしいわねこれ」
「ほう、どれどれ……おー、素晴らしいですよこれ」
龍香ちゃんも、感嘆の声をあげておいしさを表現する。
永原先生はというと、既に大トロを食べてしまっていた。
そんな中でも、お寿司は次々に無くなっていく。
うーん、あたしこれを全部はちょっと苦しいかな。一応全部のネタはもう食べたけど。
「お、優子、あたいがもらってもいいか?」
「う、うん……お願いするわ」
恵美ちゃんが察してくれた。
こうして、4人で食べ終わって会計を済ませた頃には、夏の京都も完全に日が落ちていた。
「あー、終わったぜ!」
地下鉄経由であたしたちはホテルへと戻る。
さて、あたしたちは、少し休んで、昨日と同様に大浴場に入ることになった。
昨日は混んでいたのもあって3人ともバラバラだったけど、今日は一斉に入ろうという事になった。
あたしたちは、大浴場の脱衣所に入る。
うまく服を脱いでからバスタオルを巻いて……よし、うまく行ったわ!
「それじゃあ行きますか」
タオルを巻いた龍香ちゃんと、何も巻いていない全裸の恵美ちゃん、これも林間学校と同じ。
かけ湯をかける。
そしてあたしたちは今日の疲れを癒しに体を洗い、髪の毛を洗って湯船へつかる。
昨日よりは空いていて、お金に余裕がある人は別の温泉で代用する人もいるという。
「ふう……」
バスタオルを脱いで、温泉に体を沈めていく。安らかなひと時だった。
「あれ? あなたもしかして石山さん?」
「え!? はい、石山優子ですけど」
知らない女子が話しかけてくる。多分他クラスの人だと思う。
「うわー、近くで見ると本当に胸大きいですねー!」
「あ、あはは……」
いきなり直球的なセクハラ発言に、あたしも笑ってごまかすしかない。
なんか初めて会う人や通行人の多くが胸の話題をしている気がするわ。まあ、仕方ないんだろうけど。
「ほほう、優子さんの胸が羨ましいですか!」
もー、龍香ちゃんまでえ!
「当たり前よ。わ、私……全然胸が成長しないし」
確かに、彼女の胸は小ぶりだけど、でも膨らんでいないわけじゃない。
「大丈夫だぜ! 胸大きくても不便なだけだぜ!」
恵美ちゃんもすかさずフォローする。
「でも、石山さん程じゃなくても、せめてもう2カップは大きくなりたいです!」
と言っても、この人が何カップあるかは分からないけど。
「うーん、あたしは女の子になったその日からこの大きさだし、アドバイスはできないわよ」
「うーん、やっぱりそうですか……」
その女子は、ガックリとうなだれる。
よし、ここは――
「ふー、恵美ちゃん、肩揉んで?」
「あいよ」
あたしの声に、恵美ちゃんが後ろに回り込んで肩を揉んでくれる。
「あー、気持ちいいわー!」
もちろん、基本的に胸が大きいのはいいことだけど、小さいからって過度なコンプレックスにはなってほしくない。そういう時には胸が大きい時の不便さをダイレクトに示すのが一番いい。
「石山さんって、肩こるんですか?」
「あー、そこいいのー! う、うん……女の子になってこの胸を……あー、気持ちいい! 手に入れてからほぼずっとこりっぱなしよ」
マッサージの快感に耐えながら、あたしが言葉を絞り出す。
そう、この肩こりは、巨乳の女の子の大敵なのだ。
「やっぱり、そこですか……」
女の子の間でも、「胸が大きい女の子は肩がこりやすい」というのはかなり知名度の高いこと。
そして、あたしの胸も、そんな感じ。
蕩けるような温泉と肩もみのコンボは、あたしにとっても大きな癒やし。
その子は、そんな様子を見て、少しだけ巨乳への未練を断ち切れたようにも思えた。
「さて、そろそろ寝るか。明日は仕事なんだって? 大変だな」
部屋に戻り、就寝前になって恵美ちゃんが言う。
「ああうん、まあ、こっちの方でまたTS病が出ちゃったって言うからね」
ともあれ、「鉄は熱いうちに打て」だし、早めに覚悟を迫っておくのも悪くないだろう。
まだ寝るのには少し早いけど、遊び疲れたし早めに寝るのも悪くないだろう。