永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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修学旅行3日目 いざ大阪

「さて、私たちも出るわね」

 

 永原先生の言葉と共にみんなで一斉に体を拭き、脱衣場へと戻ってきた。

 あたしは着替えを用意していたので、私服に着替える。

 今日は浩介くんと花嫁修業の時にも着ていた白と黒の制服風の服をチョイスした。

 頭の白いリボンや黒い髪、見ていいのは浩介くんだけだけど、白いパンツと白いブラとも合わせて、白黒のデザインになっている。

 

「おお、石山さんその服かわいいわね」

 

 永原先生が褒めてくれる。

 一方で、永原先生は、制服風のあたしのミニスカートよりも短い黒のワンピースで、永原先生の黒い髪、更に黒のハイソックスと合わせて、絶対領域がより眩しく見える。

 スカートには赤色の蛇のようなよくわからない模様も書かれていて、胸下のリボンも赤色だけど、それらの小さな「赤」がより「黒」を引き立てている。

 でも何だろう、この服、髪がショートの方が似合う気がするわ。

 

「永原先生も、今日は結構大胆ですね」

 

「あはは、修学旅行はいつもこんな感じで気合を入れてるのよ」

 

 永原先生がそんなことを言う。その時の顔は、どこか文化祭で制服を着たがっていた時に似ている。

 昨日今日と黒で決めているし、レディーススーツも黒かったし、永原先生は今回そう言う気分なのかな?

 

「やっぱそうだよな、修学旅行の時くれえはな」

 

 恵美ちゃんの言葉にみんなが振り返る。

 恵美ちゃんに珍しく、かわいらしくフリルのあしらわれたワンピースのミニスカートを着用している。

 普段が普段なだけに、ものすごくかわいい印象を与える。まあ、他の子を見ちゃうとその評価も終わりだけど。

 

「お、恵美珍しい」

 

 虎姫ちゃんが驚く。虎姫ちゃんはショートパンツで、足の露出度だけならこの中では一番高い。

 まさに夏で動きやすい格好という感じだわ。

 

「うん、やっぱり服装から変えねえと思って、今日はこれで過ごそうと思って……うー、落ち着かねえなあ……」

 

 でも恵美ちゃんも慣れないのか、やっぱりそわそわしている。

 

「みんなオシャレですよね」

 

 やはり白いワンピースでオシャレした龍香ちゃんが言う。

 膝下丈の純白のワンピースは、上品で落ち着いた印象を与える。

 

「あれ、龍香、それデート服?」

 

「はい、この後彼と二人っきりになったら超露出度の高い服にチェンジしてます!」

 

 桂子ちゃんの質問に、龍香ちゃんが笑顔でそんなことを言う。

 そう、これは男の嫉妬心と付き合うために、あたしがアドバイスしたこと。

 

「もう、私の彼ったら家の中で露出度の高い服に着替えると興奮して興奮してとっても激しいんですよー」

 

 龍香ちゃんの彼氏さんも、やっぱり浩介くんと同じ。

 独占欲が満たされると、とっても満足してくれる。

 

「もしかして、篠原もそんな感じなの?」

 

 桂子ちゃんが、あたしに聞いてくる。

 

「うん、浩介くんも二人っきりになった時にエロい格好すると必ず興奮するわよ」

 

「やっぱりですかあ! 優子さんのアドバイスは的中ですよ本当に。私の彼も、分かってても興奮しちゃって性欲押さえられないって言ってました!」

 

 龍香ちゃんがニッコリ笑いながら言う。

 

「なあ、男ってなんであんなにバカなんだ?」

 

「ふふっ、男の子は性欲がすごいからね」

 

 恵美ちゃんの疑問に、永原先生がニッコリ笑って言う。

 そう、独占欲が満たされると、性欲まで増幅されて、男はとっても単純な生き物になる。転がされているとは、男は気付かないものだし、気付いたとしてもそれを受け入れてしまう生き物だ。

 

「やっぱり、ファッションもおしゃれも、そんな馬鹿に合わせたほうがいいのかなあ……」

 

 桂子ちゃんがそんなことをつぶやく。

 桂子ちゃんの服はそう、確かミスコンの私服審査で見せた青い服。

 

 あたし達と比べても、そのおしゃれ度では負けていない。

 少女性は強いけど、男受けだって決して悪くない。

 

「桂子ちゃん男受けはいいわよ」

 

「うん、一応それを目指してたからね」

 

 そう、そう言う意味で、桂子ちゃんは他の女の子の一歩先を行っていると思う。

 女の子だから男に好かれたい。同性受けは狙わない。あたしも、どちらかと言えばそれに近い思想の持ち主だけど、TS病患者ということで、同性から嫌われては居ない。

 

「じゃあ、堂々とすればいいのよ。さ、そろそろ部屋に戻ろうか」

 

「うん」

 

 あたしの発案で、あたしたちはそれぞれの部屋に向かっていく。

 永原先生から、午前中に行くことになっているので、朝食は早めに取ることを言われた。

 今日は午後浩介くんと合流して、いっしょに観光する予定になっていて、忙しい一日になりそうだわ。

 

 

「それじゃあ恵美ちゃん、龍香ちゃん、行ってくるわね」

 

「おう、気を付けろよ」

 

「行ってらっしゃいませ優子さん」

 

 荷物をまとめたあたしは2人に見送られ、あたしは部屋を出る。

 恵美ちゃんと龍香ちゃんも、今日はそれぞれ別のグループで活動することになっている。

 永原先生とは、ホテルのフロントで待ち合わせの予定――

 

「あ、石山さん、おはよう」

 

「永原先生、おはようございます」

 

 ――だったんだけど、エレベータ前で落ち合ってしまった。

 

「さて、場所はもう把握してあるから心配しないでね」

 

「うん、分かってるわよ」

 

 あたしと永原先生は、ホテルのフロントに部屋の鍵を預け、地下鉄で京都駅に行く。

 

 

「新快速に乗るわ。在来線はこっちよ」

 

 京都駅に到着したら、大阪を目指し「新快速」を使用する。

 新幹線は新大阪までが同じ会社で、地下鉄は京都市営だから、今日は生まれて初めて西日本の会社を使うことになる。

 

 京都駅の構内はとても広く、迷いがちになる。

 特に様々に入り組んでいて、「京都線」のホームを探すのにも苦心する。

 それでも何とか到着し、案内に従って「△」の列の先頭に並ぶ。

 

「間もなく、5番乗り場に9時45分発、新快速、姫路、行きが、12両でまいります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。5番乗り場に、電車が参ります。ご注意ください」

 

 オルゴールにありそうなメロディーが何度も流れ、やがて新快速が入線してくる。

 結構ごつい銀色の電車で、永原先生曰く「この会社の新型車両」だという。

 

「わっ!」

 

 あたしは、車内を見て驚く。

 首都圏によくある向かい合わせの座席ではなく、進行方向に向かって座席が取り付けられていて、むしろレイアウトは新幹線の席に近い。

 

 車内はラッシュ時を過ぎているのに、かなりの人が乗っていて、はっきり言うと混雑が激しい。

 ドアの数も心なしか首都圏の通勤電車より少ない気がするわ。

 

  ピンポーンピンポーン!

 

「京都、京都です。お忘れ物の無いようにお降りください。乗り降りの際には――」

 

 ドアの開く音と共に駅の自動放送が流れ、それを聞きつつ降りる人がいなくなってからあたし達も車内に入る。

 京都駅で降りるお客さんが多かったことと、あたしたちが、列の先頭だったことも手伝い、あたしたちは新快速の4列シートのうちの右側の2席を何とか取ることができた。

 その後、補助席が使われたり、ドア付近だけではなく、車内中ほどのあたしたちの椅子の近くへも人があふれてくる。

 

「ふう、よかったわ座れて」

 

 永原先生が笑顔で言う。

 やっぱり、なかなか座れないのかな?

 

「ラッシュ後にしては混んでますね?」

 

「ええ、新快速はとっても便利だけど、この電車はとにかく混雑するのよ」

 

「新快速電車発車いたします。ドアにご注意下さい」

 

 女性の車掌さんの声が聞こえ、チャイム音とともにドアが閉まると、電車が動き出した。

 やっぱり、こっち向きの座席は快適だった。

 正面には液晶モニターが見える。座席のリクライニングに座ると自然に見える位置で、関東の電車よりもいい位置にあると思う。

 

「この電車は、新快速電車の姫路行きです。電車12両で運転しております前から――」

 

 車掌さんが号車案内をする。そして、トイレの場所と、8両目と9両目の間が通り抜けできない旨を放送している。

 途中、車窓には昨日観光した鉄道博物館のある公園も目に入る。

 

「――これから先止まります駅は高槻、新大阪、大阪、尼崎、芦屋、三ノ宮、神戸、明石、西明石、加古川、終点姫路の順に止まってまいります。次は高槻、高槻です。高槻を出ますと次は新大阪にとまります」

 

 へえ、結構停車駅少ないわね。よく分からないけど。

 案内はかなり丁寧で、途中で最初の駅を通過してしまうくらいだ。

 

「京都と新大阪の間、停車駅1駅だけなのね」

 

 つまり、新幹線と停車駅が1駅しか違わないということ。

 

「ふふっ、石山さん、それどころか昔は高槻どころか新大阪まで通過だったのよ」

 

「ひえー」

 

 永原先生がさらっとすごいことを言った。新幹線の、それも大阪の中心駅を在来線の快速が通過するってすごい話だと思う。

 

 そんなことを思いながら、電車はどんどん加速する。

 って、めちゃくちゃ速くないこの電車? あたしたちが普段通学に使ってる電車や、近くにある急行や快速とも比べても、音も大きいしスピードも明らかに速い。

 そう言えば、この電車姫路まで行くんだっけ? 滋賀県の方から来るわけだから、走行距離長いわよね。

 

  ソミドミソミド~♪

 

 新快速が高音の独特なメロディーを流しながら、駅を通過する。あまりの速度に、「向日町」と書かれた駅名票を見るだけでも一苦労だ。

 

「今のメロディ、歌詞は『どけどけ轢くぞー』って言うのよ」

 

「ふえ!?」

 

 永原先生が冗談交じりにそんなことを言うけど、なんかこの電車に凄くマッチしてるのが何とも言えない。

 とにかく速い。速すぎる。新快速恐るべし。

 

「それにしても本当に速いわね……」

 

「新快速はJRにとっては看板列車よ。この電車が私鉄から次々と乗客を奪っていったわ。とにかく便利で早いのが特徴ね。最高時速も130キロで、これは一般の在来線としては最速タイよ」

 

 永原先生が説明してくれる。

 あたしは、そんな話も尻目に、これから会いに行く新しい仲間のことを考えることにする。

 鞄から資料を取り出して読むと、この女の子は、夏休みすぐに女の子になってしまい、新学期をとても心配に思っているということが書かれてある。

 

「ともあれ、夏休み中に、女の子としての日常生活を覚えていかないといけないわね」

 

 永原先生がそう言うけど、夏休み始まったばかりで女の子になったのはむしろ「不幸中の幸い」と言っていいと思う。

 夏休みは長いし、多分タイミングとしては一番いいタイミングだと思う。

 

 資料を読んでいる間も、先頭のほうからは新快速がメロディーを時折流しつつ、高速で爆走している。

 

「永原先生、この電車、下手したら特急より速いんじゃないですか?」

 

 やっぱりまた、新快速の話題に戻ってしまう。

 

「ええ。新快速は下手な在来線特急よりも速いわ。もちろん、並行している競合私鉄は言うに及ばずね」

 

 そんな電車が、15分置きに、長距離を短時間で結んでいるんだという。トイレに快適なシートにと、サービス面でも充実している。

 これには、あたし達関東も完敗だ。

 

 それにしても、中々次の駅に着かない。次の停車駅まで、かなり長い。

 それだけ長距離をノンストップで走り続けている。

 それでも、新快速が速度を落とし始めた。

 

「ご乗車ありがとうございました間もなく高槻、高槻です。お出口は左側6番のりばに着きます。高槻を出ますと新大阪に止まります。途中この電車の通過駅へお越しのお客様、普通電車の新三田行きはホーム変わりまして4番、5番乗り場の発車です――」

 

 車掌さんのせわしない案内と共に、新快速が高槻駅に停車する。

 やはり新快速が止まる駅なのか、車窓で見た範囲では駅の周辺はかなり発展していて、かなりまとまった人が乗り降りしている。

 むしろ、かつて通過駅だったのが信じられないくらいの人出だ。

 

「すごい人ね」

 

「ええ、京阪神は日本第二の大都会よ。特にこれから行く『大阪』はね」

 

 うん、地理の授業でもやった。

 だけど今まで、テレビに出てくる大阪といえば「道頓堀」「通天閣」「たこ焼き」「大阪のおばちゃん」「食い倒れ人形」「グリコ」といった程度のもので、大阪について特に積極的に調べなかったせいで、東京でよく映される超高層ビル街などのイメージが沸かない。

 一つ上げられるとすれば、日本一高いと言われている「あべのハルカス」くらいだ。

 

 電車が再び高槻駅を発車する。

 

「次は新大阪、新大阪です。新幹線、特急はるか、くろしお、大阪市営地下鉄線はお乗り換えです。新大阪の次は続いて大阪にとまります」

 

 新快速がまたスピードを上げる。すると、しばらくして、「各駅停車」と書かれた電車を走行しながら追い抜いた。

 関東でも多くは見られない、いわゆる「複々線区間」の走行間追い抜きだ。

 

「何から何までスケール大きいわね」

 

「ええ、この辺りは西明石まで複々線なのよ。これは日本一長い複々線区間よ。関東の鉄道にもないわ」

 

 永原先生が言う。確かに、西明石といえば兵庫県でもそれなりの場所になる。

 明石は地理の時間でやった「標準時子午線」の通る町だわ。

 

 さて、新しいTS病の女の子の資料もすべて読み終わり、電車は間もなく新大阪駅に到着した。

 車掌さんが忙しそうに乗り換え案内していて、その時間も必要なのか、新大阪駅手前の通過駅を通過する前に放送が始まっていた。

 さて、新大阪駅を過ぎると続いて大阪駅、こちらはそこまで距離は遠くない。

 速度もそれほど速くなく、あたしたちはおびただしい数の乗客とともに、新快速を降りた。

 

 ここからは「大阪環状線」に乗る。

 この大阪駅、かなり真新しくて上を見上げると大きな屋根になっていた。

 吹き抜け構造は開放感があり、あたしたちは大阪環状線のホームにたどり着く。

 大阪環状線はオレンジの電車、昨日博物館で見た電車と、色合いは同じだけど、顔つきはさっきの新快速とほとんど同じだ。

 永原先生曰く、「ここはある時から、この顔つきが大好きになった」らしい。

 

 

 ともあれ、環状線の駅から、更にいくつかの駅を過ぎて、駅から少し離れたところに、その家があった。

 

 

  ピンポーン、ピンポーン!

 

「はーい!」

 

 奥から聞こえてきたのは中年女性の声、恐らく今回の患者さんの親御さんだろう。

 果たして、玄関から出てきた女性は、母親を名乗った。

 

「本日はよろしくお願いいたします」

 

「はい、よろしくお願いします。申し遅れました、私は日本性転換症候群協会会長の永原マキノです。こちらが正会員の石山優子です」

 

 永原先生があたしたちを紹介してくれる。

 

「よろしくお願いします」

 

「ええこちらこそ」

 

「遠いところから、わざわざありがとうございます」

 

「いえいえ、私達も、それが仕事ですから」

 

「そ、そうですよね。え、えっと――」

 

 どうもお母さんは落ち着かない様子。やっぱり、子供がTS病の当事者になって心理的にも動揺があるのかな?

 

「と、ともあれ、上がってください」

 

「「はい」」

 

 ともあれ、お母さんに落ち着いてもらいながら、中に上がらせてもらう。

 今度の患者さん、資料を見た感じだと、あの時の幸子さんほど深刻な状態じゃないと思うけど、果たしてどうだろう?

 本物を直接見ないと、分からないこともたくさんあるもんね。


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