永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
浩介くんとは大阪駅で待ち合わせということになっている。
合流して、梅田の地下で昼食を取り大阪の名所を回ろうということになっている。
「じゃあ私は明石の方に行くから」
永原先生がそう言い残すと、新快速を待つおびただしい人だかりの前に消えていった。
そう言えば、明石は新快速があったんだっけ?
まあいいわ。ともあれ、浩介くんを待つため、駅の比較的上層部にある「時空の広場」と称する場所に立つ。ここで浩介くんを待ち合わせすることになる。
金色の眩しい時計の前に立つと、嫌でも目立つ。
幾多の通行人が容赦なくあたしの胸に視線を集めるのは関東と同じ。
よく見ると、この駅は外縁部が青色、中が黄色の丸印の付いた「OSAKA STATION CITY」と称する旗がたくさんある。
聞くところによると、この大阪駅、隣接する梅田駅などと併せて駅の利用客数が世界4位だという。
そんな大きな駅の片隅で待ち合わせをするというのは、ある意味でとても大変だ。
浩介くん、迷っていないといいけど……
「あ、優子ちゃん!」
「え!? ああ、浩介くん!」
浩介くんが横から現れた、どうやら、この時計の影で見えなかっただけらしい。
「いやー、この駅やっぱ広いよな」
「うんうん、やっぱり大都会だよね。ニュースだとなんかそういうの見せてくれないけど」
「あはは、きっと関東のテレビ局だから大阪に対抗心があるんだと思う」
浩介くんが笑いながら言う。
でも、ある意味それも当たってなくもない。
大阪に対して、立派な高層ビルが立ち並ぶ大都会というイメージは、東京のマスコミしか見ていないとほとんどイメージすることは出来ない。
「さて、この駅を巡ってみようぜ」
「そうね、何だか駅だけで1日過ごせそうだわ」
実際誇張じゃない気がする。
事前に調べた所、7年前に大規模なリニューアルをしたという。
眼下を見下ろすと、多くの電車がひっきりなしに動いていて、決して関東にも本数で負けていないように見える。
この広場、両側に2つの大きなビルがあって、歩いてみた結果、どちらも百貨店だということがわかった。
どちらも買い物には良さそうだけど、さて……
「食事しようか」
「あ、そうだね。ちょっとお腹空いたもんね」
案内を見ると10階で食べることが出来るという。
あたしたちは北側のビルの中に入り、エスカレーターで10階まで一気に上がることにした。
「浩介くん、左右逆なの気をつけてね」
あたしも、最初はやってしまいそうになるけど、慣れるとどうってことない。
「うん、喋り方は仕方ないけど、エスカレーター間違えたら関東人丸出しになっちゃうもんな」
浩介くんとそんなことを話しながら、前の人に続いて右側に立つ。
いつもは左側に立っていて、関東と関西の習慣の違いを感じることが出来る。
フロアの中を見ると、服売り場ということになっていた。
「なあ、優子ちゃん、帰りに寄っていく?」
「うーん、服をお土産にしてもねえ――」
あたしは、そこまで服を新しく買うことに関心がない。
母さんが最初に服を買った時、かなりたくさん買わされたからだ。
とは言っても、服は着ていれば傷んでくるものだし、いつかは買い換えないといけない。
その時の服の買い方とかで、またあたしの女子力の低さが露呈しそうで怖い。
何だかんだ言っても、あたしはTS病患者だから、どうしても「ツギハギ」の女子力になってしまう。
でも、そんな時にクラスのみんなが助けてくれる。
大学はどうだろう? 大学に入ると、あたしがTS病だということを知っている人はほぼ居なくなるし、男だった頃を知っている人となると、小谷学園の2年2組の中で、あたしと浩介くん以外に、佐和山大学に進学する人を探さないといけない。
でも、何も知らない大学の他の人は、驚くに違いない。
あたしは、確かに鍛錬の成果もあって、女子力については定評がある。行きの新幹線では、女子校という「女子力低下学校」の実態についても学んだ。
しかし、あたしの場合、まるで凹凸みたいに女子力の高低の差が激しい。
その時に、多分周囲は驚いてしまうと思う。
それを少なくするためにも、あたしは服選びの訓練をした方がいいんだけど。
「優子ちゃん、どうしたの? 何か考えているみたいだけど」
そんなことを考えていると、浩介くんが声をかけてきた。
「ああうん、大学に入ったら周囲はどう思うんだろうって? 今まではあたしが男だった頃を知っている人ばっかりだったけど、大学はそうも行かないでしょ?」
「うん、それでどうしたの?」
「あたしはね、以前女子力について『ツギハギ』って言われたことがあるのよ」
「ほほう、ツギハギ……確かに、分かる気がするで」
浩介くんが、ちょっとだけ関西訛りになりながら言う。
関西弁って、伝染りやすいってよく言うよね。もしかして昨日あたり伝染ったのかな?
「もし、女の子になったのが優子ちゃんじゃなくって俺だったらさ、やっぱり女子力はすごい高かったり低かったりすると思う。でも、TS病になって日が浅い女の子なんてそんなもんじゃないの?」
確かに、永原先生みたいに、よほどの長生きでもない限り、それは解消するのが難しいと思う。
あたしは年齢こそ18歳だけど、女の子としては1歳2ヶ月の赤ちゃんみたいなもので、優一時代の貯金で勉強や常識などの知識があるだけ。
今まで触れてこなかった女の子としての学習は、まだまだ道半ばなのだ。
もちろん、さすがに赤ちゃんよりは学習スピードは速いから、こうやって女の子らしく振る舞えてるけど。
「う、うん……」
「女の子になってからはまだ日が浅いんだし、そのことを言えば割合大丈夫だよ」
浩介くんが優しくそんなことを言ってくれる。
そして、レストラン街の10階に到着した。
中は既に、かなりの人で賑わっていた。
「うわー、色々な店あるわね」
「迷うなあ、どうしよう?」
どれも高そうなお店、お肉屋さんが多い印象。
とりあえず、浩介くんと一週見て回った限り、お店の数は結構あることが分かった。
「お! 関西風うどんってのもあるな」
「美味しいみたいよ」
あたしたちは、関西風のうどんを売りにしているお店を見つけた。
うどんと言えば香川県だけど、西日本ではそばよりポピュラーらしく、関西風うどんと言えば、結構名の知れた存在らしい。
「お、ざるうどん美味しそうだな」
浩介くんが見本を見ながら言う。
「いいわね、ここにしようかしら?」
「そうだな」
ここも結構いいお値段だけど、幸いなことに蓬莱教授の援助に加え修学旅行そのもの予算もダダ余りだったので余裕がある。
もちろん貯金してもいいんだけど、せっかくの修学旅行だし、さすがにけち臭いのも良くない。
ともあれ、レストランの中に入る。
中に入ると意外に早く席に座われた。
あたしは普通のざるうどん、浩介くんがざるうどんの特盛りを頼んだ。
「浩介くん、お金余ってる?」
「ああ、昨日は高月たちとユ何とかっていう遊園地に行ってたんだけど、それでもかなり余ってるよ」
ユ? どこのことだろう?
「うん、あたしも。昨日は永原先生の引率で鉄道博物館に行ったんだけど、永原先生、すごく鉄道に詳しくてびっくりしたわ」
待っている間は、お互い昨日のことを話すことにする。
「へえ、先生ってなんで鉄道に詳しいんだ? 確か教師を始めたのは――」
「うん、当時新橋横浜に最初に開業した鉄道を見て、衝撃を受けたんだって」
あたしは、永原先生の昨日の話を思い出しながら言う。
永原先生が、あの時鉄道を見なければ、もしかしたらあたしたちは別の先生が担任で、TS病に対処できなかったかもしれない。
そう言う意味で、大きなイベントだと思う。
「そうかあ、確かに、移動すると言えば歩くことしか知らない人にとって、鉄道は衝撃的だもんなあ」
永原先生はそれ以来、自らを変えた鉄道について、よく知るようになったという。
「そう言えば、最初に鉄道が開業したのっていつだっけ?」
「確か明治5年って書いてあったから……146年前。で、永原先生が教師を始めたのが136年前だから……少しだけ時間が離れているわね」
「まあ、教師を始めるにも、色々資格とか居るからな」
浩介くんの言う通りだわ。何となく流していたけど、永原先生はそれぞれで大変な苦労をしていたはず。
それに、最初の鉄道開業から、鉄道網が張り巡らされるまでに、それ相応の時間がかかったはずでもある。
いずれにしても、永原先生の人生を変えたことには間違いない。
浩介くんは、色々なアトラクションを楽しんだ。
あたしも、また機会があれば行ってみたい気もするわね。
「お待たせいたしましたー、こちらざるうどんと、ざるうどん特盛りでございます」
ウェイトレスさんの声と共に、あたしたちは雑談を中止し、「いただきます」をしてご飯に集中する。
ずるっ……ずるっ……
「おおうまい!」
「うん、美味しいわね」
うどんはよくモチモチ感が出ていて、いい感じに仕上がっていた。
つゆもうまく工夫されていて、さすがにこれだけの値段を取るだけある。
「それで、優子ちゃんは鉄道ってどう思ってるの?」
「うーん、よく分からないわ。でも鉄道も昔よりかなり便利になったと思ったわよ。あの博物館で、永原先生が昔話をしてくれたけど、とにかく大変だったのよ」
あたしは食べながら永原先生の受け売りで昔の鉄道の話をする。
蒸気機関車の激務や人員が2人必要なこと、ポイント切り替えや、信号でさえ手動だったこと、そもそも所要時間も、今とは比べ物にならないくらい必要だったこと。
浩介くんはそれらを聞いて、今の便利な世の中を絶賛していた。
「「ごちそうさまでしたー」」
「ありがとうございましたー!」
あたしと浩介くんは、美味しいおうどんを完食し、同時にごちそうさまをして、店を出る。
お腹も満タンになったし、あたしたちは本格的に観光をしようと思った。
話し合った結果、手始めにまずはこの駅と駅ビルを巡ってみることにした。
案内を見た限り、ここのビルは28階建てになっていて、上層部はオフィス、最上階は結婚式場になっていることが分かった。
「とりあえず、この『天空の農園』ってのが気になるな」
「うん、どういう意味なんだろう?」
今いる10階の現在地から、まずは「和らぎの庭」に出て、そこから上層を目指すのがいいだろう。
というわけで、早速「和らぎの庭」という場所に出てみた。
そこは、屋上庭園になっていて、眼下には大阪の大都会が見える。見てみるとかなりの人数が、ここに居て結構混んでいる。
爽やかな風が、あたしたちを包み込む。
でも、あんまり強くなりすぎないでほしいかな。
「この1個上が、『風の広場』っていうらしいな。同じルートで『天空の農園』にも行けるみたいだ」
「うん、行ってみようか」
「あ、ちょっと待って!」
浩介くんが先行するような形になった所をちょっと止める。
「どうしたの優子ちゃん」
「あたしが先に行くよ」
「んー、ああ、そうだな」
浩介くんが、あたしが後ろだとスカートの中を覗く男がいるかもしれないことを理解してくれた。
あたしが前、浩介くんが後ろになって階段を登り、あたしたちは「風の広場」に到着した。
「風の広場」と言っても、1階上層に上がっただけだから、風はまだほとんど強さがない。
そして、1階上層に上がっただけで、人の数はめっきり減ってしまった。
「どうやら、ここには映画館もある見てえだな」
おそらく、映画館で映画を待っているお客さんや、映画を見終わったお客さんが、ここを主に使っているのだと思う。
いろいろな樹木やバラが植えられていて、あたしたちと同じカップルがいる。
「おい、何見てんだ! うち見てや!」
「すんまへん」
「ったく、かわいい子にはホント目がないんやから!」
あたしの胸を見てきた男性が、彼女に叱られている。
うーん、彼女さんもう少し寛容になったほうがいいと思うけど。まあ、あたしには関係ないかな。
それにしても、浩介くんも植物や庭園よりも、あたしのこの大きな胸を気に入っているのか、植栽はあまり見ないで、あたしを見る片手間に見ているという感じ。
「浩介くん、植物よりも胸が気になる?」
あたしはちょっと意地悪に言う。
「うっ……あ、当たり前だろ……優子ちゃん、大きいし」
浩介くんが照れたように言う。
あんまり意地悪しすぎるのもダメかな? 浩介くん嫉妬深いからね。
「そ、それよりさ、そろそろ上に行ってみようぜ」
浩介くんが照れをごまかすように言う。
「うん」
天空の農園の場所、そこはこの「風の広場」から階段を登って更に上層へと進む。
昼間とはいっても、長い階段を登る必要性があって、誰も登って行かない。
かなり長い階段が見えたので、あたしはもう一回先に歩く。
下を時折見下ろしても、あたしたちに続く人は全く居ない。どうやら貸し切りになりそうだ。
普段からこうとは限らないけど、どうやらあたしたちは運がいいみたいだわ。
階段を登りきり、右に180度回転する。
「うーん、見た限り普通の農場? でもこんな大都会で植えられてるのはすごいわよね」
誰もいない農園で、あたしが浩介くんに感想を言う。
浩介くんの方を振り向くと、下を気にしている。大阪の街も、さっきより更に遠くまで見渡せるみたいね。
農場は段差になっていて、階段で少しだけしたに降りる風になっている。
ぴらっ
「きゃあ!」
浩介くんに、後ろからスカートをめくられ、純白のパンツを見られてしまう。
「もうっ!」
ぺちっ!
あたしは浩介くんの方に振り向くと、照れ隠しにぺちっと一回平手打ちをする
「浩介くんのスケベ! もー、恥ずかしいからやめてよ!」
「ごめんごめん、誰もいないと分かると、つい……」
「むー、浩介くん最近どんどんエッチになってるよ!」
浩介くんのベタな言い訳に、あたしも抗議する。
最近、結構外でも誰もいないとわかるとこういうことをすることが多い。
「そ、そりゃあ優子ちゃんみたいな女の子を彼女にしたら、誰だってそうなっちゃうだろ!」
一言で論破されてしまった。
「あうぅ……何も言い返せないよお……」
「ふふっ、そうだろそうだろ? 白いパンツ今日もかわいいね」
「むー、でも出来れば、こういう所では辞めてほしいかな。誰かが隠れてるかもしれないからね」
幸い浩介くんもよく見ててて、他の人に見られたことはないけど、それもいつまで続くかは分からない。「壁に耳あり障子に目あり」って言うし。
「うっ……わ、分かった」
何とか浩介くんも納得してもらったところで、農園を見渡す。
どうやら、稲や野菜なんかが植えられているみたい。
「これはさ、どこで売ってるんだろう?」
「量も少ないし、多分このビルのレストランの足しにするんじゃない?」
浩介くんの話は多分あっていると思う。本当のところは知らないけど。
「でも、あんまり見るべきところはねえな」
「うん、収穫の時期とかだとすごいと思うけど」
現に、この「天空の農園」には一向に他のお客さんが来る気配がない。
「よし、じゃあこんなところにして、大阪観光しようぜ」
「うん」
あたしたちは、本格的な大阪の観光へと繰り出した。