永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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修学旅行3日目 神戸のお肉屋さん

「ここね、うわー、いかにもな高級店ね」

 

 あたしたちは、その外観からして高級感あふれる様相に圧倒される。

 一応店の前にあるメニューに値段は書かれているけど、どれも数千円はする。コース料理っていうのもあるけど、どれもこれも1人1万円以上するんだから驚きだ。

 しかも、メニューの上には「最高級A5」と言う文字が踊っている。

 

「浩介くん、A5って?」

 

 あたしはスマホを持ってないので、浩介くんに聞いてみる。

 浩介くんは、すぐに意味を調べてくれる。

 

「うーん、どうやら肉の質の等級で、理論上A5は一番いい肉らしい」

 

 浩介くんがスマホの画面を見せてくれる。ABCは歩留まりの良さを表していて、数字は4分野の質を独立して精査して、そのうち最も悪いものに等級される。つまりA5は歩留まりが最も良く、なおかつあらゆる肉質で優れた肉ということになる。

 ちなみに、和牛と国産牛の違いとか、肉のブランドの違いなんかもあるらしい。

 

「にしても神戸牛と神戸ビーフって違うんだな」

 

 浩介くんがそう話す。

 他にも、ブランド条件に合わずに「〇〇牛」と名乗れないのを「〇〇産牛肉」とごまかす例もあるという。

 

「うーん、あたしも女の子として、主婦としてそういうの覚えないといけないわよねー」

 

「そうだよなあ……優子ちゃん大変そうだ」

 

 浩介くんがどこか浮いた感じで言う。

 もう、結婚について意識しすぎて自制するようなことも少なくなった。

 多分、今更もう婚約の破棄は出来ない。

 3月のあの日、遊園地で浩介くんが観覧車で……今思えば、あれがプロポーズになったと思う。

 

「ともあれ、入るか」

 

「はい」

 

 あたしの財布の中には数枚の諭吉が入っている。いくら高級店と言っても、まず問題がない金額だと思う。

 

 

「いらっしゃいませー! 2名様ですか?」

 

 いかにも上品そうなウェイトレスさんが出迎えてくれる。

 

「はい、2人です」

 

 あたしも、少し襟を正す感じで言う。

 あたしたちもお客さんだから、雰囲気に飲まれて威圧されちゃいけない。

 

「かしこまりました。只今ご案内いたします」

 

 そう言うと、丁寧に先導してくれる。

 ちなみに、入り口には別のウェイトレスさんがすかさず立つ。

 多分、誰かがドアを開けた時にすぐに対応できるようにしているんだと思う。

 

「こちらへどうぞ」

 

「はい」

 

 扉付きの小さな個室で、机と椅子がある。

 和牛のお店だけど、一応「洋食店」と言う体裁のため、個室も洋風な感じでまとまっている。

 昨日永原先生たちと食べたお寿司屋さんでの個室とは好対照をなしている。

 

「それで、どうする?」

 

「うーん、焼き肉にしようかな?」

 

 メニュー表を見ていると、やはり焼肉やすき焼きなど、肉系のメニューが豊富で、焼き肉用の台も置いてある。

 

「ともあれ、エネルギー使わんとな。今はシーズン夏だし」

 

 う、うん……!

 浩介くんが何種類か肉を注文する。

 どれもこれも高級品で、4桁はくだらない。でも、財布には余裕がある。

 

「とりあえず、神戸ビーフの焼肉と、それから小ステーキを山分けしようぜ」

 

「うん」

 

 浩介くんは、なるべく最小単位で注文して、品目数を増やす、いわゆる「浅く広く」を狙っている。

 あたしが少食なのも鑑みて、ゆっくりと焼くとも言っていた。

 

「よし、こんな感じでいいか?」

 

 浩介くんが、メモ帳に手書きした字であたしに見せてくる。

 あたしと浩介くんの食べる量を鑑みて、支払金額は1:2.5程度の割合で分けていくという。

 このあたりのデート代については、あたしたちはかなりきっちりしている。どちらともなく、その方がいいということで、特に異論がない。

 

「お肉ばっかりだね」

 

 まあそう言う店だから、当たり前だけど。

 

「ああ。特に肉類は、鍛えて筋肉つけるために重要だからな。優子ちゃんを守るためにも、高級なお肉をここでたくさん食べないと」

 

「うん、ありがとう浩介くん……こんな時まで、あたしのこと思ってくれて」

 

 正直に言うと、ここまでしてくれるのはとても嬉しい。

 食べる時くらい、食欲に身を任せてもいいのに。

 それなのに浩介くんは、それさえもあたしのため、あたしを守るためと言ってくれる。

 その一言一言が、あたしを浩介くんから逃げられなくさせる。

 

「どういたしまして……ど、どうしたの急に? 俺の顔、何かついてる?」

 

「うん、すっごい素敵で、あたしをメロメロにさせちゃうフェロモンがついてる」

 

「うっ……」

 

 浩介くんが一気に顔を真っ赤にして、あたしもセリフ言った後で恥ずかしくなっちゃって、肉の赤身のように顔が赤くなってしまう。

 

「優子ちゃん、その……想ってくれるのは嬉しいんだけど……さすがに恥ずかしいというか――」

 

「だって、浩介くん素敵すぎちゃって――」

 

  じゅううううう……

 

 鉄板じゃなくて、顔で焼き肉が焼けそうだわ。

 

「はぁ……はぁ……ちょっと落ち着こう」

 

「う、うん……そうだわ、注文、しましょう。そうすれば冷静になれるわよ」

 

「だ、だな」

 

 浩介くんはボタンを押す。

 ずっと遠くで何かが鳴っている音がした気がする。

 とにかくこの個室、かなり防音がなされていて、隣の焼き肉の音どころか、上のスピーカーから静かに流れてくる音楽しか聞こて来ない。

 やっぱり高級店はこういう所からお金使っているのね。

 

  コンコン

 

「失礼致します」

 

  ガチャッ

 

 ノックの音の後、男性の店員さんが現れる。

 

「ご注文伺います」

 

「えっと、小ステーキ1つ――」

 

 浩介くんが、1つ1つメモ帳を読みながら注文していき、店員さんがそれを機械に読み取る。

 あたしはそれをじっと眺める。

 

「――それからオレンジジュース2つで」

 

「はい……ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

「ご注文確認いたします、小ステーキが1点――」

 

 店員さんが、注文確認として復唱し、浩介くんもメモ帳を見ながら間違えていないか確認する。

 

「――オレンジジュース2つ、以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

 どうやら、間違いはなかったみたいね。

 

「ではごゆっくりおくつろぎください……失礼致します」

 

 店員さんは丁寧に頭を下げて、ドアまできちんと静かに閉めてくれた。

 とにかく動作が一つ一つ上品だと思う。

 

「すげえ上品だよなあ」

 

「うんうん、あたしもあんなふうに上品なお嬢様になりたいわね」

 

 そうすれば、浩介くんも喜んでくれそうだし。

 

「ふふっ、優子ちゃんはそのままでいいんだよ」

 

 浩介くんのベタで優しいセリフ。

 でもあたしは、これをあえて否定したい。

 

「残念、そのままじゃ堕落しちゃうわ。初日の新幹線で見たでしょ? 龍香ちゃんのお友達の、女子校の2人組」

 

「あっ!」

 

 浩介くんがはっと思い出したようになる。

 

「それに、浩介くんさっき、お肉食べて鍛えてあたしのこと守ってくれるって言ったでしょ? 浩介くんだけ変わる努力させておいて、あたしがそのままじゃダメよ」

 

「うー、何も言い返せない」

 

 浩介くんはあっさりあたしに論破されてしまう。

 あたしも、男の子の操縦の仕方も、大分分かってきた気がするわ。

 まああたしもあたしで、浩介くんにうまく操縦されちゃってるけど。

 

  コンコン

 

「失礼します」

 

  ガチャッ

 

 そんな話をしていると、先程の店員さんがジュースを持ってきてくれた。

 

「こちらオレンジジュースになります」

 

 そしてさりげなく、コップの右側にストローを置いてくれる。

 

「失礼しました」

 

 また丁寧な所作で扉を締めてくれる。

 あたしたちは、とりあえずオレンジジュースを飲む。

 ちなみに、オレンジジュースの値段は、他のレストランとほぼ同じでライスなんかもおそんな感じだ。

 つまり、この店はあくまで「お肉」のお店としてオープンしているため、それ以外のメニューについては重きを置かれていないのだ。

 一応、コース料理にすると、単品よりも高級な品も出てくるらしい。

 ただ、コース料理だとあたしが食べきれない可能性があるので、こっちにした。

 

 あたしもあたしで、食べる量について考えることがある。もちろん太り過ぎなのは良くないけど、今のムッチリとしたエロい体格を維持するためにも、今の量だとちょっと少ないとも思っている。

 特に食べる量が少なすぎると、胸に蓄えられている脂肪を使われちゃうかもしれないという何となくの恐怖感があった。

 何とかして、胸とお尻に脂肪をつけてこの体型を維持したい。肩は今まで以上にこっちゃうけど。

 

 そんなことを考えているとオレンジジュースが空になる。

 

  コンコン!

 

「失礼します」

 

 そして、今度はウェイトレスさんが、一気に注文した肉を持っていってくれる。

 これで、残りはステーキだけ。

 ちなみに、箸やナイフとフォーク、タレと言ったものは全て机にあるので、小ステーキを山分けするには問題がない。

 

「さ、焼くぞ」

 

「うん」

 

 店員さんがさり気なく置いてくれていた長い取り箸を使い、浩介くんは網の上に肉を置くと、「じゅううう」という美味しそうな音が聞こえてきた。

 

「そう言えば、いつの間に点けられていたわね、これ」

 

「ああ、全然気付かなかったよ」

 

 このあたり、高級店の店員は普通のお店とは違うんだろうか?

 それとも、遠隔操作かな?

 ……まいっか。

 

 とりあえず、適当に肉汁が浮き出てきたので、あたしがひっくり返す。

 あたしたちは急いで焼肉のタレをかける。

 ちなみにこのタレも、近所の有名店のものらしくて、小さな紙の宣伝広告のフリーペーパーまで机の上には置かれている。

 

「さ、食べるか」

 

「うん」

 

「「いただきます」」

 

 あたしは1枚、浩介くんは2枚の焼き肉を取り、それぞれ口に運ぶ。

 

「んーーー!!!」

 

 口に入れた瞬間、とろりと蕩けるような脂身が口いっぱいに広がり、柔らかい食感、そして脂身がたくさんあるのに、むしろあっさりしたような味わいがする。

 

「うおー! すげえ!」

 

「ものが違うわね!」

 

 このお肉は、普通にお肉屋さんで買えば、100グラム1000円はくだらない高級肉だと思う。いや、もしかしたらもっとするかもしれない。

 浩介くんは、夢中になって次々に取り箸で肉を焼いていく。

 どれもこれも、あたしたちが食べた今までの肉とは比べ物にならない様な美味だった。

 

  コンコン

 

「はーい!」

 

「失礼します」

 

  ガチャッ

 

 お肉を焼いて食べていると、また店員さんが現れた。

 

「お待たせいたしました、こちら小ステーキになります。ご注文の品物は以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

「それではごゆっくりおくつろぎください」

 

 店員さんが会計の時に使う紙を置いていってくれる。

 

「うわあ、これはすごい……」

 

 浩介くんが中身を見せてくれる。

 

「ひゃー、次に食べられるのは何年後かな?」

 

 会計を見ると、2万3328円とあった。凄まじいわね。

 浩介くんとあたしは1:2.5の割合よりは少しあたしが多いので、あたしが7328円を払って、浩介くんが16000円を払うことになった。

 

「ま、それでも財布はあんまし痛まねえけどな」

 

「なんだかこれだけのお金を払って……セレブ気分よね」

 

 あたしと浩介くんが、そんな話をする。

 あたしと浩介くんがレシートの上にお金も置いたので、あたしたちは食べることに専念できる。個室だから盗難の心配もない。

 次々と肉を食べていく。とにかくどれもこれも、「最高級」を謳うだけあって絶品だ。

 

 そして、今届いたステーキ、これも浩介くんと山分けするがここだけは半分半分だ。

 浩介くんが、ナイフで切ると、あたしにもナイフとフォークをくれるので、机に備え付けの取り皿を取り出して持っていく。

 

 更に細かくナイフで切ってっと。ふう、ナイフなんて久しく使ってなかったけど、女の子の身体でも問題なく切れたわね。

 

「ぱくっ……うーん! おいしいわぁ!」

 

 これもまた、思わず声に出てしまうくらいに感激するような美味しさだった。

 ほっかほっかの出来たてステーキだけど熱さが味を殺していない。

 味付けもまた、絶妙な絶品だ。

 とにかくこの最高級肉の特徴は、霜降りで脂も凄まじいのに、口に入れると味がしつこくないことだ。安物の肉は何度も食べたけど、その時の脂が凄まじかったりするのは、とにかく強引で濃い味付けになっている。

 

「さ、優子ちゃん、残りも焼こうぜ」

 

「うん」

 

 あたしたちは次々と肉を完食する。

 追加での注文はいらなさそうだけど、ともあれ全部食べ終わった。

 

「ふう、食った食った!」

 

「美味しかったね」

 

 あたしたちはもう一度金が足りるか確認し、レシートを持って部屋を出てレジへと向かう。

 それを見ていた店員さんが全く無駄のない動きでレジに素早く行く。

 

「えーそれではお会計――」

 

「ちょうどいただきました。本日は誠にありがとうございました。お気をつけていってらっしゃいませ」

 

 あたしたちはお会計を払い、深々と頭を下げてお辞儀してくれた店員さんを尻目に店を出る。

 外はもう、すっかり日が落ちていた。楽しい時間、本当にあっという間に過ぎてしまった。

 

「さ、京都へ帰るか」

 

「うん」

 

 あたしたちは行きと違い、JRの「三ノ宮駅」に来る。

 

「結構運賃掛かるわね」

 

 京都までは1080円かかる。

 阪急線でも帰れるけど、途中駅で乗り換え必須な上に、所要時間もかなり遅い。

 

「うー、混んでいるわね……」

 

 たまたま少し前に新快速が出ていったので、列の最前列にこそ並べたけど、12両編成の新快速への待ち客がどんどん並んでいく。

 独特なチャイムとともに放送が流れ、新快速電車が到着する。

 

 そして、大勢のお客さんがこの駅で降り、あたしたちは再び、何とか進行方向左側の座席を取ることが出来た。

 列の後ろのお客さんは、着席にはありつけずに立つことになる。

 行きに乗った電車より、やや古びた印象で、電光掲示板などを考えると、おそらく行きに乗った電車よりも旧式の電車だと思われる。

 

「お待たせ致しました。本日もご利用いただきまして誠にありがとうございます。この電車は新快速電車の――」

 

 行きと同じように、停車駅案内が流れる、京都から先は後ほど案内とあったけど、まあいいわ。

 車掌左側にはチョコレート色の電車が走っている。

 さっき「阪急梅田駅」で見たものだ。というと、これが阪急線だろう。

 

「それにしても、あの会社すげえよな」

 

「うん、色がどれもこれも全く同じって――」

 

 一応、沿線はブランド価値高いらしいけど。

 ともあれ、新快速は芦屋駅まで止まらない。

 乗ってすぐに分かったが、さっき乗ってきた阪神線の電車とのスピード差は明らかだ。

 

「新快速、速いなあ」

 

「関東にも欲しいよねこれ」

 

「あーでも、関東でこの座席だったら混みすぎてやばいでしょ?」

 

 確かに、大都会とは言え比較的関東よりは人の少ない関西で12両編成、でもこの混雑。関東だと破綻は目に見えている。

 

 

「間もなく芦屋、芦屋です。芦屋の次は尼崎に止まります。この先各駅に止まります普通電車の高槻行きは――」

 

 新快速は、格段に速い。

 これでは、私鉄は競争力が落ちてくるのも無理は無いと思った。

 

「間もなく尼崎、尼崎です。宝塚線はお乗り換えです。尼崎の次は大阪に止まります――」

 

 

 車掌さんの案内放送とともに、電車は尼崎駅に到着する。

 

「あれ? 同じ駅名なのに、さっき乗ってた阪神線の電車が見えねえな」

 

「言われてみればそうね。位置が違うってことかしら?」

 

 確かに、放送でも乗換案内はしていない。

 ということは、駅名は同じだけど、位置が違うことになる。

 浩介くんがスマホを取り出し、地図を見ている。

 

「うん、やっぱそう見てえだな」

 

「あ、本当だわ。紛らわしいわね」

 

 地元の人も、どうやって区別しているのかが気になるわね。

 多分「JR尼崎」とか「阪神尼崎」って区別しているんだとは思うけど。

 

 そして、あたしたちは新快速に乗ってあっという間に京都駅に到着した。

 1時間位かな?

 

 そして、地下鉄を乗り継ぐ、こちらは朝のことを思い出して、乗れば問題ない。

 楽しい時間はあっという間で、あたしたちはもう、ホテルの部屋の分かれ道に着いてしまった。

 

「あーあ、修学旅行も明日で終わりかあー」

 

「そうだねえ、ま、いい思い出になったよ」

 

 一歩が踏み出せず、つい話題をつなげてしまう。

 

「それじゃ、また明日ね」

 

「うん」

 

 ホテルの鍵はフロントに問い合わせたらあったので、つまりあたしが一番乗り。

 あたしは鍵を開けて部屋に入る。予想通り無人の部屋だ。

 

「ふー」

 

 あたしはゆっくり休みながら、今日のことを思い出し、恵美ちゃんと龍香ちゃんの到着を待った。

 この後は、夜お風呂に入って寝るだけとなる。


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