永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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久々の安息

「優子ー! 起きてご飯手伝ってー!」

 

 土曜日、女の子として学校に戻った最初の一週間が終わって最初の休日、母さんが起こしにかかる。

 制服から着替え終わったときもファッションに迷うわけだが、朝起きた時に迷うのとはややベクトルが違う。

 母さんが急かすのもあって久々にラフなズボンを穿く。

 

「おはよー」

 

「おはよう。あれ? ズボン久しぶりね」

 

「へへ、1週間大変だったから今日はちょっと楽になりたくて」

 

 一昨日は痴漢されたばかりだし。

 

 復学して初めての休日は、まず朝ごはんの手伝いから。

 そして昼と夜の食事や家事の手伝いをする。

 

 これらはカリキュラムを受けた時とほぼ変わらない。同じことをやっていれば大丈夫だ。

 

「優子、一週間どうだった?」

 

 朝食準備中、母さんが話しかけてくる。

 

「うーん、あまり良くなかったかな?」

 

「お母さんも分かってたわ、優子が何か悩んでいるって」

 

「……」

 

「無理に、とは言わないけど。お母さんに話してご覧なさい」

 

「……う、うん。わかったわ」

 

 私は母さんに今週私の身に起こったことを話した。

 クラスの男子が故意に「優一」と呼ぶこと。

 理解してくれたのは木ノ本とそのグループの女子だけということ。

 田村とそのグループの女子はまだ判断を決めかねていること。

 

「桂子ちゃんって言うのは、もちろん木ノ本桂子ちゃんでしょ? あの子は小学校から一緒の学校だったから……思ったより深刻よそれ」

 

「そ、そう」

 

「でも、どうしたら良いかなあ……うーん、今はその『田村さん』っていうのを味方につけることよ」

 

「どうやって?」

 

「それはお母さんにもわからないわ。ただ、意外な所にきっかけは潜んでいるものよ」

 

「うーん、何なんだろう?」

 

「お母さんが思うに、多分今の優子は皮だけ女だと思われてると思うのよ。ニューハーフとか性別適合手術を受けた人とは違い、本物の完全な女の子だということを、どこかで示せればいいのよ」

 

「つまり、昨日痴漢されたと言っても説得に応じてくれなかったのは……」

 

「優子が本当に改心したことを示すか、他の証拠を見せて内面から女の子であることを、クラスに示すしかないわよ」

 

「……分かったわ。私、頑張ってみる」

 

 

 家族で朝食をとった後、自分の部屋に戻る。

 今日はやることもない。どうしようかと迷う。

 今までは、カリキュラムとして色々なことをさせられた。

 先週の今頃は初めて女子の制服を着て、着付けや態度が悪いと「おしおき」されていた。

 

 でもそのおかげで、内面も女の子になれたと思う。

 とりあえず、教材として渡されていた少女漫画や女性誌、これらがまだ読んでないのがほとんどだ。

 回収に来ないのを見ると、これも最初に渡された服と同様、プレゼントなのかもしれない。

 

 ……少しトイレに行きたくなった。

 考えてみれば、パジャマ以外のズボンでトイレに行ったのも久しぶりな感じだ。

 

 トイレに入って鍵を締め、まずズボンを脱ぐわけだがえっと上のボタンをはずしてチャックを下して余裕を作って下すっと。

 その後で再びパンツを下す。

 

 ……な、なんか面倒だ。パジャマなら緩いからすんなり降りるけど、これは不便だ。

 ましてスカートならぴらりとめくりあげればすぐにパンツを下せた。

 女の子になってからというもの、トイレが近くなったから、ズボンのトイレの不便さはちょっと問題だ。

 

 

 ともあれ、用を足し終わって流したら元に戻す。これもスカートより一回作業工程が多い。

 何だろう、久々にパンツ見られる心配がなくて楽をしたいからズボンはいたけど、またスカートが好きになった気がする。お、女の子らしくなれていいのか、な?

 

 

 ともあれ自室に戻る。部屋のレイアウトはまだところどころ男の部屋だった頃の名残が残っている。

 机の上の雑誌置き場に、若い女性向けの美容・ファッション雑誌が目に入る。

 

 これを読んでみるかなあ……女性の考えを理解するのも、大事だしなあ。読み進めてみよう。

 うーん、この雑誌、ちょっとよく分からない。というのも、「これはいけないぞ、男性受けしないよ」と思ってしまう記述が多々ある。

 女の視点で可愛い、女に好かれる女というのはどういうものかというのを知るにはいいが、木曜日に木ノ本が田村と喧嘩している中で「同性に好かれたいとかあんたレズなの?」って言ってたしなあ。

 

 うーん、ちょっとまだこの辺がよくわからない。まだまだ女の子になり切れてないのか、それとも、男の感性を「知識」として知っているせいなのか……

 

 母さんたちも言ってたよな、「男に好かれてこそ女の子らしくなる」って。木ノ本も同じ考えのはず。

 でも何で女性は同性受けを優先する人がいるんだろう?

 雑誌だって売り上げが大事だから、それなりの数がいるはずだ。

 

  コンコン

 

 部屋で、主に成人女性向けとされている美容関係の女性誌を読んでいると、母さんがドアをノックしてきた。

 

「優子! 買い物に付き合ってくれる?」

 

「あっ、はーい今行くわー!」

 

 返事もそこそこに母さんとともに玄関へ。すると見慣れない靴が置いてあった。

 

「じゃあ優子、これを履いてくれる?」

 

「え?」

 

 母さんが指さしたのは、靴のつま先からかかとにかけて傾斜があって、かかとには柱が立っている靴。いわゆる「ハイヒール」と呼ばれるものだ。そういえば最初の買い物の時買ったっけ?

 

「ど、どうして?」

 

「ふふっ、カリキュラムにはなかったけど、ハイヒールに慣れるのも、女として重要と思ったのよ」

 

「どうして?」

 

「どうしてって、ハイヒールは女の子のファッションの一つよ。それに化粧はともかく、これなら少しだけ背を伸ばせるわよ」

 

「うん」

 

 正直背を伸ばしてどうするんだろう? 男なら重要だけど、女の身長ってそこまで重要か? 実際男子はそんなこと殆ど気にしていないし。

 と思ってしまったが、まあ反論しないでおこう。

 

 ともあれ、ファッションの幅が増えるのは魅力的だ。カリキュラムを受けた当初のことを思い出し、チャレンジ精神でハイヒールを履いてみる。

 ハイヒールの入れるところにめがけて足を移動していく。

 

「あっ!」

 

 足がやや右にずれていたせいで履くのに失敗し、ハイヒールが倒れた。これはしゃがんで直す。ここはズボンだから問題ない。

 

「お母さんは手伝わないからちゃんと履いてみて」

 

「う、うん」

 

 もう一回チャレンジする。今度は座って靴を持って足に入れていく。

 もちろん反対側も同じようにする。

 

「できれば、立ってやってほしかったけど、今はいいわ」

 

 とりあえずこれで立ち上がって……ってうわっ!

 

「おっと、大丈夫? 気を付けてね」

 

 かかとを支えるヒールが心もとなく、立ち上がるときにバランスを崩してしまった。母さんに支えてもらわなかったら転んで大惨事だった。

 

「今みたいに、立ち上がるときにはヒールに力が入るのよ。そして、ヒールがタイルなどとの凸凹に当たってしまうと、今みたいにバランスを崩してしまうわ」

 

「う、うん」

 

「もちろん、道端の障害物は気を付けて。今はズボンだからまだいいけど、スカート、特にミニだと下手したらすってんころりんで丸見えよ、後はハイヒールでミニだと階段もいつも以上に気を付けてね」

 

「き、気を付けます」

 

「後、ハイヒールを履くときに注意すべきことは、ハイヒールを履きすぎないことと、履くときもつま先に力を入れすぎないことよ。外反母趾(がいはんぼし)になりやすいわ」

 

「外反母趾?」

 

「足の親指が曲がっちゃうのよ」

 

 うげっ、それは嫌だ。

 

「本当はハイヒールそのものを履かないのが一番いいんだけど、女社会そうもいかないからね。もし外反母趾になりそうで心配なら、それ用のサポーターを買ってくるから付けてみてね」

 

「さて、ハイヒールはここまでにして、買い物に行きましょ」

 

「はーい」

 

 

 母さんの案内で、また区役所のある中心街に電車で行く。駅まではかなり慎重に歩いたので幸いにもハイヒールで躓くことはなかった。

 また、電車賃は母さんがその場で往復分を払ってくれた。現金ではなくICで処理したので、IC料金を現金で手渡ししてくれた感じだ。

 

 今回は駅の目の前にあるスーパーマーケットが目的だ。最寄駅にも同系列のスーパーはあるが小さく、品ぞろえはこちらが比較にならないほど良く、また安売りセールも多いため、電車賃を余裕で回収できるらしい。

 

 母さんはさっそく安売りセールの部分に向けて進んでいく。

 

「いい? 安売りセールは逃しちゃダメだけど、買いすぎも駄目よ。こういうのは裏があって賞味期限が近いだとか、品質に問題があることさえあるわ。特に口に入れる食品は安売りを見ても飛びつくんじゃなく、理由をよく考えから買いなさい」

 

「は、はい。でもどうやって判断するの?」

 

「賞味期限が近いだけなら比較的大丈夫。だけどその場合でもなるべくすぐに調理するのよ。安全性は……そうねえ産地とかを見るといいわ。後は見た目ね。安いアウトレット品は形が崩れているだけで味が変わらないと言っても、あんまりに形が崩れているといろいろ良くないことがあるわよ」

 

「……」

 

「そんな所ね、他に質問はあるかしら?」

 

「ううん、ない」

 

「じゃあ、買い物始めるわよ。優子はこれをお願い。手分けして買うわよ」

 

「はーい」

 

 買い物に付き合った後は、そのまま家に帰りあわただしく昼食の準備を開始した。

 

 昼食中、ふと思う。ズボンで外に出たのは、入院したあの日以来だ。

 カリキュラム中はずっとスカートを穿いていたし、制服はもちろんスカートだ。ここ一週間も、学校から帰ったらそのままパジャマか、あるいはスカートだった。

 

 普通の女子でも、ここまでスカート率高くないんじゃないかな? と思う。

 

 

「それにしても、優子のズボンも久しぶりね~」

 

「うん、お父さんも久しぶりに見た気がするよ」

 

 昼食中、母さんが話しかけ、親父が同調する。

 

「う、うん。考えてみたら、カリキュラム開始してからパジャマ以外ほとんど……というよりも全部スカートだったよ」

 

 もちろん、スカートだけと言ってもバリエーションはある。

 家の私服に関しては、やっぱりまだまだミニを穿くのは少なくて、ロングスカートやひざ丈スカートが多いが、その中でもマキシやシフォンなどバリエーションもある。

 スカートを穿く動機としてもう一つ、母さんが色々買ってきてくれたので、今後女の子として生きていく上で、着心地を一個一個試してみたいという動機もあった。

 

 

 そのことを母さんに話すと、とても喜んでくれた。教科書によると「成績不良者は、カリキュラム終了後になっても頑としてスカートを穿かなくなってしまう」んだそうだ。

 既に分かっていたこととはいえ、他の子よりも「成績優秀」と言われるのはやっぱり嬉しい気分だ。

 

 そういえば、そんな私でも、タイト系のスカートだけはまだ穿いてないことに気付いた。

 あれは何となく窮屈で動き辛そうで、スカートのメリットが活かせそうになさそうという予感と、個人的にも男の頃からそこまで好きなタイプのスカートじゃなかったからかなあ……

 とはいえ、いつかは穿く機会があるだろう。直前になって慣れるのもいいし、特に意味なく衝動的に挑戦してみるのもいいかな。今は考えないでおこう。

 

 とにかく、ズボンは男の頃も穿けたけど、やっぱりスカートに比べると地味って感じがする。

 

 そう言えば、木ノ本も「地味な格好だと痴漢されやすい」って言ってたな。母さんの意見も聞いてみよう。

 

「そういえば、桂子ちゃんがね、地味な格好だと痴漢されやすいって言ってた」

 

「あー、そうみたいね。私からすると挑発的な格好の方がされやすいと思うんだけど、実際には違うみたいなのね。変質者とかもそういう叫ばなさそうな地味な子を狙うんだって」

 

「でね、髪は染めたくないから、外出時もなるべくスカートにしようかなって」

 

「うん、それがいいと思うわよ。優子、ズボンだと結構お尻が強調されちゃうし。後、ハイヒールも速く走れそうにないから狙われやすくなるみたいよ」

 

 そうは言っても時と状況はあるから、ズボンやハイヒールも残しておく必要があるとは母さんの言葉。

 ともあれ、変質者対策については母さんも同意見のようだ。何も変質者は電車の中だけじゃないだろう。

 それも踏まえて、外出の時はなるべくスカートを穿くようにしよう。

 

 

 日曜日、この日は完全にお休みの日だった。

 家事を手伝った以外は、服もパジャマのままで、インターネットとゲームをやり続けて1日が過ぎた。少女漫画や女性誌も読まずに画面と向き合居続けるのも久しぶりな気もする。

 女の子になりたいのはやまやまだが、最近根を詰めすぎていた。こういう休日も悪くないだろう。

 

 ただ、日曜日の昼食以降、少し気分が悪くなった。

 母さんにそのことを話したら「疲れが出たのよ」ということだった。

 でも、疲れと気分の悪さのほかにも、少しだけお腹も痛い気がする。明日は大丈夫だろうか?

 

 何せ明日は月曜日、もう休みはない。

 私は月曜日の朝とかよりも、日曜日の夜が憂鬱な気分になるタイプだ。

 先週は、明日からの女の子としての学校生活のことを思い、楽しみな月曜日だったのに。

 

 女の子になろうと頑張っても、女の子として扱ってもらえない悲しみ。今は田村が判断待ちで、男子連中はいまだに男扱いをやめていない。

 今日は痴漢の証拠提出のためのスカートも戻ってきたが、明日から学校だということを思い出してしまった。

 親父も「明日から月曜だ」というため息混じりの声はよく日曜夜に言っていたが、まさか自分がそうなるとはな……

 それにしても、気分が悪い。これは単に明日が憂鬱だからなのか? よく寝ればよくなると信じたい。

 そう思って、やや気分が悪い中で、布団へと入った。とにかく今は、寝て忘れよう。

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