永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「へえ、いいじゃない! バーベキュー!?」
「うん」
夏休みのある日、あたしは浩介くんの家族と合同でバーベキューをすることになった。浩介くんの提案で始まったけど、トントン拍子に決まってしまった。
その予定では、午前中はあたしたちはプールでデートして、その間に両親たちはキャンプ場で設営して一泊すると言う日程だ。
最近だと予約も取り辛いと思ったけど、ピーク期を外せば、意外となんとかなることがわかった。外国人観光客は多いけど、いわゆる東京から京都までの東海道の「ゴールデンルート」や、有名な観光名所を外しさえすれば、まだまだ静かな観光地も多いみたいね。
ともあれ、あたしは保管してあった去年の水着を取り出す。
もしかしたら、胸が大きくなってなんてこともあるかもしれないので試着をしないといけない。
「うーん、でもブラジャーは同じサイズだし……」
もちろん、1年も経ってくると、服もそれなりに入れ替わっている。
そんな中でブラジャーのサイズは買った当時と変わっていない。浩介くんと付き合うようになって、ちょっとだけ大きくなった気もするけど。
問題なのは、あのデパートでしか買えないこと。本来なら大きいサイズの専門店でもないと売ってない代物で、あのデパートに売っていたのは奇跡としか言いようがない。
服を脱いで、水着を試着。誰も見ていないので全裸から着る簡易的なやり方。
うん、ちゃんと着られるわね。
このエロい水着、去年散々悩んでチョイスしたものだけど、今年もちゃんと穿けてよかったわ。
直立だとギリギリ中の水着が見えない超ミニのパレオ付きが、とってもエロい。
これで後患の憂いなく出来るわね。デートは結構後だけど、今から楽しみだわ。
ピピピピッ……ピピピピッ……
「うーん……」
ゆっくりと目覚まし時計に合わせて意識を回復する。
今日は待ちに待った浩介くんとの夏休みデートの日。
母さんたちは山へ、あたしたちはプールへと行く。
その間、夏休み中にテニスのインターハイがあった。恵美ちゃんの強さはますます圧倒的になっていて、浩介くんとの試合で何かを掴んだのか、ついにゲーム一つ落とすことなく優勝してしまったのだ。
それと同時に、いくら男女の違い、そして5セットという優位性があれど、あそこまで強い恵美ちゃんに、一ヶ月半の練習で勝利をした浩介くんは、間違いなく天才だと思った。
さて、プールに行く前に、服を考える必要がある。
服は2着持っていく。
パジャマと翌朝の服は母さんが持っていってくれるので、あたしはプールに行くまでとプールからキャンプ場までの服で変えることにする。いや、キャンプ場はテントなので、テントの中用の服にしておこう。
で、やっぱり夏真っ盛りということで、涼しい青色のワンピースを着ることにした。
浩介くんも、この服は気に入ってくれるみたいで、プールへと至るには最適。
あたしはもちろん泳げないので、浮き輪の用意も忘れない。
ちゃんと膨らませられるかは心配だけど、浩介くんに作ってもらうのも悪くなさそうだわ。
ともあれ、あたしはこれでいいわね。
いつも付けている頭の白いリボンも、今日は水着用に花の髪飾りに変える。ピンで留めればそう簡単には落ちないので大丈夫だわ。
「おはよー」
「あら優子おはよう。プールデート、頑張ってね」
母さんが出迎えてくれて、応援してくれる。
「うん」
あたしはニッコリと答える。
「優子、水着新しいの買った?」
「え? 去年のままだけど――」
母さんの問いにそう答えると、母さんの顔色が変わった。
「――もうっ! いい、優子? 水着には流行というものがあるのよ!」
うー、また母さんにお説教されちゃったわ。
もう1年以上女の子をやってるけど、今でもこうしてお説教されてしまう。
「でも母さん、男の子はそんな女子の流行何て見てないわよ」
「……」
母さんのお説教には反論できないことも多いけど、あたしの中に残り続ける「男の知識」に反する「女性視点」に関してはこうやって反論をすることが多い。
浩介くんの魅力をあたしが考えるように、浩介くんだってあたしに理想の女の子になって欲しいと思っている。
確かに女の子にとって流行は大事だけど、男の子はそういうのを気にしない。
だから、もっと別のことで魅力を示すべきだというのがあたしの主張。
あたしは桂子ちゃんを始めとする他の女の子にも「女子力」について「建設的な衝突」がよく起きる。
男が見ると重要でない「女子力」と、確かに直さなきゃいけない「女子力」を自分の中で取捨選択していくこの作業は、いつまでも続く。
ちなみに、同じTS病患者の永原先生は、そのあたりもよく心得ているので、永原先生にお説教されちゃうとまるっきり反論できないのも事実。
「と、とにかく、浩介くんが喜んでくれた水着だから、問題ないと思うわ」
「……そう、そうね。優子が選んだなら、私はこれ以上は言わないわ。さ、私は準備に戻るわ」
「父さんは?」
「ええ、力仕事をさせてるわ」
我が家は優一時代男手2人だったが、今は父さんしか男手は居ない。
しかし、母さんがちょっと甘えたりおだてたりすると、すぐにやる気になるらしい。
何だか、浩介くんみたいだわ。
実際、父さんもいい年のはずなのに、男って本当に単純だわ。
「いってきまーす!」
「はーいいってらっしゃーい」
朝食を食べ、もう一度身なりを整えて、あたしはプールのある駅まで行く。
3月に行った遊園地のある路線に乗ればプールに着く。
遊園地からは離れているものの、比較的近くにあるプールで、はしごして利用するお客さんも多い。
流れるプールにウォータースライダー、あるいは普通に静かなプールなどもある。
水深の深いプールでは、飛び込みをすることも出来るが、高いところからの飛び込みは特別な許可がいる。浅いところなら監視員さんの立ち会いでOKみたい。
……まあ、どっちもあたしには縁がないことだと思うけど。
今回も、乗り換える駅の改札口で待ち合わせをする。
夏はどうしても私服の露出度がアップし、それはつまりあたしの豊満な胸を目立たせてしまう。
そうすると、あたしは男たちから視線を集めることになる。
夏休み中に出かけると、これは毎回のことで、もうすっかり慣れちゃったけど、それでもやっぱり、ちょっとだけエロい目で見られていることに、女の子として自信がつくと同時に、「浩介くん嫉妬しちゃわないかな?」という気持ちになる。
普段から腕を組む時、無意識的に胸を盛り上げて強調しているけど、ちょっと考えを改めたほうがいいかもしれないわね。
さて、もう一つの路線に乗り換えるため、あたしは改札口を出る。
「お、優子ちゃんおはよう!」
「うん、浩介くんおはよう!」
そこにはすでに浩介くんがいた。
今日はプールデートで、文化祭の時ぶりに、あたしの水着姿を見ることになる。
浩介くん、ちょっと落ち着かない感じね。
「浩介くん、緊張している?」
「え!?」
浩介くんがあたしの言葉に驚いている。
その態度が「緊張しています」と言っているようなものね。
「久しぶりだもんね。あたしの水着」
「お、おう……」
「ふふっ」
ちょっとギクシャクしたやり取りをしつつ、浩介くんが頬を赤く染めながら答える。
その様子を見ると、あたしも自然と笑みが溢れる。
電車の中で、あたしは浩介くんと談笑しつつ、今日のことも話す。
話を聞く感じ、今はあたしの水着のことで一杯らしい。
「優子ちゃん、水着エロいよね」
「うん、浩介くんに喜んでもらえるために、頑張るわよ」
「お、おう……」
「ふふっ、ヤキモチ妬いちゃってもいいわよ。恥ずかしいけど……後でちゃんとご機嫌直してあげるからね」
あたしがニッコリと言う。
ご機嫌を直してあげるという言葉に、浩介くんは顔を赤くしてドギマギしている。
浩介くんは、あたしが他の男に性的な目で見られるとよく不機嫌になってしまう。そしてその度にあたしが浩介くんにだけしてあげることをしてあげると、すごく上機嫌になって、それの繰り返しは浩介くんを手のひらで転がしているみたいでとても楽しい。
今も手をつないでいるだけで、浩介くんもドンドン上機嫌になってくれている。
電車は次々とお客さんを乗せては下ろし、やがてあの時の遊園地の最寄り駅に到着する。
「浩介くん、次だわ」
「ああ、そうだな」
遊園地とプールは1駅分の距離にある。
なので、各駅停車で次の駅に行けば、もうそこはプールの近く。
夏休みも後半に入り、プールオープン前の早い時間だけど、プール目的と思しきお客さんが結構降りている。
あたしも、浩介くんに続いて改札を降り、プールまでの道のりを歩く。
「間もなく、開場いたします!」
そしてプールの正門前には、そんな係員さんの言葉が拡声器越しに聞こえてくる。
あたしたちは既に出来ていた列に並ぶ。
そこにはやはり結構な人がいる。いかに娯楽が多様化したとは言え、こうも暑いとプールは人気だ。
「はーい! 開場いたします! 危ないから柵に触れないでください!」
門が開き、あたしたちも中へと入る。
ここのプールもやはり規模が大きい。以前は小さなプールがあちこちに点在していたらしいけど、閉鎖が相次いで、逆にここばかり大きくなったらしい。
いわゆる「一極集中」と呼ばれる現象が起きている。
あたしたちは、まっすぐと進む。すぐに男女の更衣室が見えてくる。
「じゃあ浩介くん、またね」
「おう」
男女で更衣室は当然別なので、あたしも浩介くんとここで一旦別れる。
プールのロッカーは、殆ど開いているため、あたしはわかりやすく「1」のロッカー番号を選んだ。
まずはパンツを脱いでノーパンになり、そこから水着のショーツを穿く。
上のブラジャーもうまく服を着たまま脱ぎ、そして水着のブラジャーに変える。
水泳の授業でも、久しぶりで最初こそちょっと戸惑ったものの、すぐに思い出せた。
そしてそれ以降は、きちんと着替えられたので、人間の記憶力ってすごいと思う。
上下水着になっているのをもう一度確認し、水色のワンピースの服を思いっきりめくり上げて服を脱ぐ。
そうするとあたしは水着姿になったので、最後に水色のパレオで超ミニスカート風にして完成!
周囲のお客さんも手早く着替えている。もうすっかり何も感じなくなっちゃった女子更衣室、女の子になったばかりの頃はドキドキしていたのも、今は懐かしい思い出になっている。
あたしは、財布から100円玉を取り出し、萎んだ浮き輪を取り出して、鍵を閉めてロッカーキーを腕に巻く。
「お、優子ちゃん」
外に出ると、浩介くんが待ってくれていた。
「浩介くん待った?」
「ううん、そ、それにしても――」
浩介くんがもじもじしながら言う。
「うん?」
あたしはすっとぼけたように首を傾けた。
「やっぱりその水着、かわいいっていうかエロいっていうか――」
「ふふ、ありがとう浩介くん」
浩介くんの言葉に、あたしがニッコリと笑って言う。
さて、入口に入って最初の所。子供用のプールが一番手前にあって、家族連れが遊んでいる。掲示板には水深や飛び込み禁止などの案内が書いてある。
さすがに水深が50センチから80センチでは浅すぎて、あたしたちには向かない。
次に、一般的な学校にある25メートルのプールと同じサイズのプールが目に入る。ここでも、既に何人かが遊んでいて、あたしたちはまずおなじみのここで遊ぶことにした。
「あ、浩介くん、これお願い」
あたしは、萎んだ浮き輪を浩介くんに見せつつ、ちょっとだけ浩介くんに胸を当ててあげる。
「おっしゃ! 任せとけ優子ちゃん!」
浩介くんが途端にやる気になってくれる。
本当にバカな人だわ。でもそこが、頼もしくもあり、大好きなんだけどね。
「ふうーーーーー!!!」
人通りから外れた所に移動し、浩介くんが息を吹いて浮き輪を膨らませてくれる。
浩介くんの角度からは、パレオの中の水着が丸見えの位置に無自覚を装って立つ。
もちろん、水着だから見られても平気。ということで、去年同様、普段は恥ずかしがるのに堂々と見せるところに興奮して欲しいと思う。
まあ、去年は、あたしがまだあまり女の子になりきれてなくて、色々と失敗しちゃったんだけど。
「はいできたよ!」
浩介くんがパンパンに膨れ上がった浮き輪を見せてくれる。
「わーいありがとう! 早速遊ぼうよ!」
「おう」
あたしが笑顔になると、浩介くんも笑顔になる。
ちなみに、「危険! 絶対に飛び込むな!」という、おどおどしいフォントでの飛び込み禁止の看板があるため、あたしたちは普通にプールサイドから丁寧に入ることにする。
まず浩介くんが入り、浮き輪を浮かせて手で固定くれたので、あたしがゆっくりとその中に入る。
水深は1.3メートルなので、問題なく背が立つんだけどね。
プールの水中では超ミニのパレオもゆらゆらはためいている。
泳ぎの練習をしてもいいんだけど、せっかく空いているので、あたしたちはルールも何もない、あてもない水遊びをすることにした。
「えーい浩介くん!」
「お、やったなあ優子ちゃん!」
遊んでいるうちに人も増えてきて、あたしたちも派手な遊びは出来なくなっていく。
看板には、「定期的に休憩を取る」ようにも書かれていて、監視員さんも目を光らせている。
「人多くなってきたな」
「うん、でも水気持ちいいね」
人が増えて暑いと言っても、芋洗いで温いと言う感じではなく、水温は冷たいままだ。結構管理はしっかりしている。
遊び疲れたあたしは、浮き輪に腕を預け、プールの底に足をつけてゆったり休む。
さらーり
「きゃっ!」
突然、水中から手が伸びて、あたしのお尻に触れる手があった。
よく見なくても浩介くんの仕業だった。
「もー、浩介くん!」
「悪い悪い、さっきから優子ちゃんエロすぎて、つい我慢できなくて」
そして浩介くんがいつもの言い訳をする。
あたしも、この水着はとてつもなくエロいと思っているし、そうじゃなくたって胸もお尻も大きくて、こんなかわいくて美人な女の子の彼氏じゃあ、性欲を抑えるのも大変だということも分かっている。
「浩介くんって、いつも触りたくなるよね。あたしってそんなに魅力的?」
意地悪して聞いてみる。返答なんて分かりきっているのに。
「うん、当たり前じゃん。ここのプールに来る前も、優子ちゃんのこと、他の男たちがエロいだの何だの話してたぞ」
「そ、そう……」
気付かなかったわ。まあ、いつものことで気にもとめなくなったせいかもしれないけど。
「さて、そろそろ休憩しようか」
「う、うん」
遊び疲れたあたしを見て浩介くんが言う。
あたしたちは備え付けのはしごでプールを上がり、備え付けのベンチに座った。水面から出ると、パレオがお尻に引っ付いている。脱いで入ったほうが良かったかな?
「濡れてる優子ちゃんかわいいね」
「えへへ、ありがとう」
やっぱり、何回言われても「かわいい」って言ってもらえるのはとても嬉しい。
ましてや、好きな男の子から言われたら、メロメロになっちゃいそうだわ。
「飲み物買う?」
「うーん、まだいいわ」
「よし、じゃあこっちへ行ってみようぜ!」
浩介くんが指差したのは、流れるプールだった。
「うん!」
あたしも、特に異論はないので、浩介くんに引っ張られて、流れるプールまで歩く。
太陽が燦々と輝いていて、徐々に気温も上がってきた。