永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
意識が朦朧としながら徐々に回復する。
布団から出たくない。精神じゃなくて、体がだるい。
めまいがする、病気にでもなったのか?
「はぁ……はぁ……」
また意識が朦朧とし始める。とにかく気分が悪くて眠い。
もう少しだけ寝よう……
「優子ー! 起きなさーい!」
大きな母さんの声が聞こえる。
「んあぁ……?」
「ほら、時間よ!」
ああ、そうか、今日は月曜日だ。
母さんに促され、起きる。
やっぱり体が重い。苦戦しながらもいつものように制服を着る。スカートを短くするのを忘れずにっと。
猫背になりながら身体を傾けながら、ふらふらして食卓へ付く。
確かに起きるのはいつもより遅いが、そんなに慌てる時間ではなかった。
「さ、食べて食べて……って、優子、大丈夫?」
「大丈夫じゃない……体がだるい。後ちょっとお腹痛い……」
「あらあらそうそう、でも大丈夫よ。優子、今までの訓練を思い出してみて。必要なものはカバンに入ってるから、学校で役に立つわ」
「う、うん」
ご飯を食べながら母さんの優しい声と言葉で自分の症状に気付く。
そうだ、私、とうとう生理が来てしまったんだ。女の子にだけ来る、強烈な症状。だけど、女の子の特権である子供を産むのに必要な症状。
これが毎月襲い掛かってくる。しかも他の女性と違い、私の場合死ぬまでだ。しかもその死もおそらく数百年数千年、ひょっとしたら数万年先の話になる。
あー、すごく憂鬱だ。これから、何回これと戦わなきゃいけないんだ。
朝ごはんを食べ終わると、もう行く時間になった。いや、実際には少し早いが、こんな状況だ。早めに出て帳尻を合わせないと。バランスがおかしいが、学校には行かなきゃ。
……いつもより駅までが遠い、というかバランス感覚もおぼつかない。
保健体育の教科書に拠れば、初経はそこまで強烈なものじゃないから、徐々に慣れることも出来るけど、私の場合いきなり成熟した女の子の体になったから、慣れないうちにいきなり「大人の生理」を体験する羽目になった。
女の子らしく生きていき、なおかつこれを止めるは難しい以上、来月以降、慣れるようにしていかないといけない。
少しだけ、だるい身体にも慣れてきて、駅に到着。
相変わらず、おっぱいに突き刺さる男どもの視線。いつもならばまだある程度余裕も持てるが、こういう時に来るのは本当に嫌な気分だ。生理の時で気分の変化でもあるのだろうか?
とにかく来た電車に入る。残念ながら座席は空いて無い。優先席でも座りたい気分だがそこも六人の老人がそれぞれ座っていて断念した。
結局、学園最寄り駅まで座れなかった。駅についても跨線橋への階段を上るのはやめて、エレベーターを使うことにする。
普段なら階段の方が早いんだけど、流石にこの日は体力的にも時間的にもエレベーターがいいだろう。
見るともう一人、リボンの色から一学年下と思われる女子生徒も、だるそうにしながら並んできた。
もしかしたら、「同志」かもしれないな。
そう思いつつ、来たエレベーターに乗り、誰も乗ろうとしないのを確認してからエレベーターを操作して、出る時は私から出る。
改札に定期券のICをタッチして通学路へ。
通学路、一歩一歩が重い。歩幅も小さくなったし、足も上がりにくくなっている。そのうえややよろめきながらの歩きだ。後から歩いてきた生徒に続々と抜かれているが、心配そうに振り返る人も多い。
とは言え、学校が近づくに連れて気持ちが楽になったのか、少しだけ体調も良くなる。
校舎に入って永原先生の言いつけ通りに何とか下駄箱を開け、靴を履き替える。
「ふぅ……ふぅ……」
荒くあえぎながら、廊下を進む、またかなり気分が悪くなった。そういえば、ナプキンをしていない。
まだ朝の休み時間もあるし……いや、でもまずは少し休みたい。
教室の扉を開け、よろけながら机に向かう。
「おい、優一のやつ、風邪引いたんじゃねえか?」
「どうだかね、ま、俺達の知ったこっちゃねえな」
「女になって弱い子ちゃんアピールしてんだろ」
「ったくよ、それで男だった頃の免罪符にしようってんだからな」
またこれだ、最近この手の「聞こえる陰口」が多い。
女の子として認めてくれないのが、とにかく辛い。でも今は、この直接的な「これ」のほうが辛い。
「優子、どうしたの?」
木ノ本桂子だ。
「あ、ああ。うん、桂子ちゃん。ちょっと気分悪いだけ」
「そ、そう?」
「うん。昨日悪いもの食べちゃったみたい。お腹も痛い……はぁ……はぁ……」
「あ、うん。分かったわ、耐えられそうになかったら、保健室で休んでもいいからね。でも、ちゃんと『処理』するのよ」
さすが女の子、男子にわからないようにそれとなく会話している。
こういう技術の有無が、やっぱりまだ私の至らない点だなあと思いつつも、いつもより遅かったのか、すぐに永原先生が入ってきた。
「はーい、ホームルーム始めるわよー。石山さーん? 大丈夫ー!?」
「だ、大丈夫……です」
本当は大丈夫じゃないんだけど、ともかくホームルームを聞く。
頭に余り入ってこない。連絡事項はなんだっけ?
……まあいいや、ともかく、1時間目までの間にナプキン付けなきゃ。
そう思い、鞄の中からナプキンの入ったポーチを取り出し、女子トイレに向かう。
さっきよりも更に体がだるい。これは保健室に行かないと行けないかもしれない。
「痛っ!」
「あだっ!」
「す、すいません……」
だ、誰かとぶつかった。
「お、何だ石山か? 何か今日は気分悪そうだな、どうした? ……って悪い! 今のは、なしにしてくれ」
田村恵美だ。どうやら気分が悪そうなのと、ポーチを持ち歩いていたことで、察してくれた。本当、男とは違う。
「あ、うん、ありがとう。私、急いでるから」
「お、おう。邪魔してすまない」
よろけながら女子トイレに入り、個室のドアを開ける。
鍵をしっかり締めて座り込む。本来はスカートをめくってからだが今はそんな余裕はない。
パンツを脱ぎ、先日の訓練の通り、ナプキンを併せて穿き直そうとする。
「んんっ……!」
まずいまずい、かなり下腹部が痛い!
そう思った瞬間、いつものあれとは違ったものが流れた気がした。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
苦しさであえぐ。ともかく一旦収まったみたいなのでビデに入れる。
「んぁあああ……!」
久々にビデで声が出る。そして入念に洗う。予鈴がなっていたが気にしない。
羽つきナプキンをもう一度確認し、パンツを穿き直す。
「ふぅ……ふぅ……はぁ……」
しばらく休み、立ち上がって便器を見る。赤い液体が目に入った。
ああ、やっぱり。と思った。気分は改善するどころか、めまいが酷くなった。
そういえば、この箱にナプキンが入ってるんだよな。女子トイレ独特の匂いの正体ってこれなのか? 今は考えている余裕はない。
1時間目は永原先生の古典だ、うん、男の先生はもちろん、他の女の先生でも、理解してもらえないかもしれないけど、永原先生なら理解してくれるだろう。
そう思い、向かう先を変更。教室を過ぎて保健室の方向に、よろめきながら進もうとしていた。
「い、石山さん! 大丈夫!?」
下向きに歩いていたので、声をかけられるまで気付かなかった。
わざわざ廊下に永原先生が出てきてくれていた。永原先生は私を心配そうに覗き込んでいる。私はなんとか顔を上げる。
「ぜ、全然駄目です……ぜえ……めまいがして……頭と下腹部が痛くて……はぁ……はぁ……重いです」
「そ、そう……保健室で休みなさい」
「はい……そうします」
というよりもこんな体調じゃ止められたとしても保健室に行くだろう。
保健室への道のりは幸いにして短く、階段を降りればいいだけだ。人気がなくなった廊下を進み、扉を開ける。
ガラガラガラ
「はーい」
保健の先生が立ち上がる。
「どうしましたー?」
「き、気分が悪いので……休ませて下さい」
「どういう症状です?」
「その、せっ、せい……ふうっ、下腹部が痛くて重くて体がだるくてめまいがしてます」
「ああ、はいはい。じゃあそこのベッド使ってね」
保健の先生が指差したベッドのカーテンを開ける。保健の先生も当然生理のことはよく知っているが、やはり直接口にするのは、どうしてもはばかられる感じだ。今も危うく言ってしまいそうになった。気をつけないと。
そして布団をずらして、中には入れるようにする。
靴を脱いで、横になる。中でスカートがめくれてパンツが直接布団についていたので入って直す。
目をつぶる。とにかく、今は休みたい。辛くてたまらない。
だるさと疲労、倦怠感から意識が飛ぶのには苦労しなかった。
……ふと起きる。お腹すいた。人参が食べたい。ほうれん草が食べたい。
まだ気分の悪さは続いているが、寝る前よりはかなりマシだ。
とにかく布団を起こして座り、スカートとリボンを直して上履きを履いて立つ。
そしてカーテンを開ける。
「あら? 起きました?」
保健の先生が声をかけてくれる。
「はい……眠って少し良くなりました」
「まだ顔色がよくありませんので無理しないで下さいね」
「は、はい」
時間を見ると昼休み少し前、2時間目の途中だ。この時間なら、学食もまだ空いてるし、早めの食事と行こうかな。
さっきよりはやや軽い足取りで、それでもいつもよりはかなり重い足取りで、少なくともよろめかずに学食の前まで来た。
誰もいないが、この時間には準備はほぼ終わっている。
食券欄を見る。「野菜ラーメン」という文字か見えた。
よし、これにしよう。なぜか分からないが、猛烈に野菜が食べたい。
「あれ? 授業はどうしたの?」
食堂のおばちゃんが声をかけてきた。
「そ、その、すごくお腹痛くて……気分が悪くて、保健室で休んでました……今もまだ気分が悪いです……」
「あ、あらそう、それは大変ね……って、あなた石山優子さんじゃない!?」
「え、わ、私を知ってるんですか?」
「知ってるも何も、あなた今学園で一番の有名人よ」
し、知らなかったわね。
「『外見は小谷学園一の美少女、木ノ本桂子をも遥かに超える美少女。しかしその中身は乱暴で問題児だった石山優一』ってことで、学校中であなたが男なのか女なのかで論争中よ」
というか、木ノ本ってクラス一でも学年一でもなく、学校一だったのかよ。そっちの方が驚きだ。たしかに木ノ本は美人でかわいいけどまさか学校で一番だったなんて知らなんだ。
「私、女の子扱いして欲しい」
「……そう思うのね。永原先生が感心してたわよ。稀に見る立派な子だって」
「そ、そうですか、ありがとうございます」
「でも、そう言う永原先生だって、若いのに立派だと思うわねえ」
「そうそう、もう一人の古典の先生、あの人おじいさんでかなりのベテランなのに、『永原先生はわしより知識も教え方のスキルも段違いにいい。学ばせてもらっている』なんて言うんだもの、びっくりしちゃったよ」
私は、「おばちゃん、それは永原先生の実年齢が若くないからよ、むしろそのおじいさんよりずっと年上よ」と言いたいが、狂人扱いされるのがオチなので止めておく。
「おっと、長話しすぎたね。ともあれ注文を聞くわよ」
「これ、お願いします」
「はーい、野菜ラーメン入りましたー!」
この学食を独占する気分。悪くないわね。
普段のこの時間は、下ごしらえが中心だが、たまに用務員さんや休憩中の教員が軽く食べたりもするらしい。
学生に不人気なメニューはそう言う意味で残っているそうだ。
「はい、野菜ラーメンよ。野菜たっぷり食べて、元気を取り戻しなさい」
「あ、ありがとう」
トレイを取り、適当なカウンター席に座る。
そして野菜をむしゃむしゃと貪るように食べる。カウンターということで足も開く。向こうの壁から見てる人が居たら丸見えだ。そして食べ方もいつになく、男の頃のような荒っぽい食べ方だ。
もしこれがカリキュラム中だったら、とっくにスカートめくりの羞恥プレイだ。
みるみるうちにラーメンがなくなっていく。今は麺もスープも完食したい。
まるで食欲だけが男に戻ったようだ。
太ったりしないだろうか? むしろこの頃は食べたほうがいいのかな?
久々にスープまで完食し、トレイを取ろうとすると、誰かが注文していたのが見えた。
……よく見ると永原先生じゃない。どうやら食パンをかじっているようだ。
邪魔すると悪いだろうし、見なかったことにしよう。
相変わらずだるい身体を返却口に持っていき、気付かないふりをしながら食堂から出ようとする。
「……石山さん!」
「!!!」
本来なら授業に戻らなきゃいけない時間帯、思わず身体がびくってなる。
「大丈夫よ、怒らないわ。石山さん、今日は初めての女の子の日でしょ。保健室どころか本来なら家で休まなきゃいけないくらい具合悪くしてまで学校に来て……人混みを避けたいと思うのは当然よ」
「あははっ、す、すみません」
「謝ることないわよ、今日は特別。私はもうとにかく苦しかったことしか覚えてないけど、TS病の子の最初は本当にみんな苦しむのよ」
「あ、ありがとうございます」
「確かに教師としては叱らなきゃいけないところだけど、TS病のカウンセラーとしての知識も加味すると、今は優しくしなきゃいけない場面なのよ」
ともあれ、この場は見逃してくれるみたいなのでありがたく受け取っておこう。
「で、石山さんに確認しておきたいことがあるの。これは、女の子になるための最後の大きな関門よ」
「う、うん」
キーンコーンカーンコーン
「あ、ここはまずいわね。相談室に行きましょ」
「は、はい。相談室ってどこですか?」
恥ずかしながら、行ったことがない。
「ええ、職員室の向かいにある2室よ。放課後にスクールカウンセラーの先生が来ていて、昼休みは基本的に誰も使わないけど、今回は入っていいわよ」
「だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、これは教師としてと言うよりは、日本性転換症候群協会の会長として、TS病のカウンセラーとして、石山さんと話したいのよ」
「どういうことですか?」
「いい? 私は教師として小谷学園2年2組の担任だけど、同時に日本性転換症候群協会会長として、石山優子さんの担当カウンセラーでもあるのよ。さ、行くわよ」
永原マキノは2つの顔を持ち、それを使い分ける女性、ということね。
両者が相反した時には苦渋の選択もありそうだ、今の私の場面みたいに。
ともあれ、初めてきた生理のことの他にも話したいことがあるから、お言葉に甘えさせてもらおう。