永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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母と「義母」との大浴場

「よし、後片付けは任せろ!」

 

 バーベキューが終わり一段落し、そろそろ後片付けしないといけないとあたしがつぶやいたところ、浩介くんが腕まくりをしてアピールしてくれた。

 それに続いて、あたしの父さんも「お義父さん」も続く。

 父さん、最初は「お前たちも手伝え」とか言っていたのに、母さんがちょっと耳打ちするとすぐに気分が高揚してやる気になっていた。

 女におだてられた男って、バカ過ぎて可愛くなってくるわね。

 でも、そんな男ほど頼もしいのよね。

 

 さて、男たちが後片付けをしている間、あたしはテントに戻る。

 この間に、お風呂の準備をすることになっている。お風呂セットとパジャマを出すだけで完成だけど……

 

 

「……ふう」

 

 今日は素晴らしい1日だったわね。

 浩介くんとのデートは、いつだって楽しい思い出になるけど、今日はまた特別だと思う。

 最近、浩介くんはますますスケベになっちゃっているけど、それはきっと、あたしと長く付き合うにつれて、遠慮なく気軽になったためだと思うわ。

 

 それと、あたしとの結婚が近くて、それを意識しちゃっているのかもしれないわね。

 そう言えば、結婚式の資金の出処は分かったけど、日にちはいつになるのかな?

 

 

「優子ちゃん、戻ったぞー!」

 

「おかえりなさい浩介くん」

 

 後片付けが終わった浩介くんがテントの中に入ってくる。

 もうしばらく休んだら、あたしたちはお風呂の時間になる。

 

「ちょっと食べ疲れた。休む」

 

 浩介くんも休みたいみたいね。

 浩介くんとゆっくり話す。特に話すこともないけど

 

 

「優子、お風呂行くわよ!」

 

「あ、はーい! 浩介くん、お風呂行ってくるわね」

 

「おうっ」

 

 浩介くんの返事を尻目に、あたしはお風呂セットとパジャマを持ち、テントを出て母さんたちと合流する。

 お風呂場の場所は、母さんが案内してくれる。

 

「優子とお風呂入るの初めてね」

 

「あ、そう言えばそうよね」

 

 確かに、優一だった頃はもしかしたら幼い時にあったかもしれないけど、優子になってからは家族と一緒にお風呂に入ったことはまだない。

 異性の浩介くんと一緒にお風呂に何度か入ったことがあるのに、母さんとは入ったことない女の子って、世界広しといってもほとんどいないと思う。

 

「こっちよ、このまままっすぐ」

 

 あたしたちは、母さんの案内で小さなホテルビルの大浴場へと行く。

 浩介くんとキャンプ場に着いてから行くまでの道のりとほぼ同じ、にしては何かちょっと違和感があるわね。

 

「そう言えば、さっきよりテントが減っているわね」

 

 違和感に気付いたあたしがm思わず口に出す。

 

「うん、一部のテントはホテルのお客さんだったり、日帰りのバーベキュー客だったりするのよ」

 

「へー」

 

 母さんが、そんなことを教えてくれる。

 背を向けていたからわからなかったけど、もしかしたらあたしたちのテントも、狭い所にぽつんと密集してるみたいになってるかもしれないわね。

 

 ともあれ、ホテルの棟に到着する。

 大浴場は1階に露天風呂と併設となっている。

 

「ここが大浴場よ」

 

「はい」

 

 このホテルの大浴場は男湯と女湯が隣接している。ちょうど男湯から、男性のお客さんが数人出てきた。

 あたしは、いつものように女湯ののれんをくぐる。

 

「あら、優子ちゃん緊張しないの?」

 

 あたしの行動に、「お義母さん」が違和感を感じたように言う。

 確かに、元男と考えれば、女湯には躊躇しそうなイメージはあるとは思う。あたしも最初、林間学校の時はそうだったけど、他の人よりも頻繁に、朝夕に入ることで慣れることができた。

 

「もう慣れたわ。今はむしろ男湯の方が嫌な感じよ」

 

 最も、女の子になったばかりの時でも、この体で男湯に入れと言われたら拒否したとは思うけどね。

 だけど、すんなりと女湯に入れるかどうかとは、また別の話になる。

 

「まあ、そうよね」

 

 脱衣所では色々な女性たちが服を脱いでいる。

 あたしたちは、籠が3つ空いている場所を探し、そこにパジャマを入れ、髪をお団子にしてから服を全部脱ぐ。

 ちなみに、あたしたちは3人ともタオルを巻いている。

 

「へえ、優子ちゃんうまいわね」

 

 あたしの身のこなしを見て、「お義母さん」が驚く。

 

「うん、最初はちょっとだけ失敗しちゃったけどね」

 

 あたしが笑顔で言う。

 やっぱり、女の子になって1年ちょっとしか経ってないというのが、信じられないという感じなんだと思うわ。

 同じTS病患者だった永原先生や、他の協会の会員さんもそんな反応だったし。

 

「さ、入りましょう」

 

 母さんの先導で、扉を開けて大浴場の中に入る。

 あたしたちはまずいつものようにかけ湯をする。

 そして体を洗う。頭もしっかり洗う。プールに入った後だから、いつもよりも入念に洗わないと。

 

 ……よしっ。

 

 さて、歩くときはタオルを巻いても、実際に入るときは外さないといけなくて、これがまた難しいのよね。

 幸いにも、ここの温泉には色がついていて、あたしの体が全部丸見えになるわけではないので、うまく見えにくいように工夫する。

 

「ふー、疲れたあ!」

 

 全身を湯船に入れると、温泉が体に染みて来る。そしてプールとはまた違った快感が、あたしを包み込む。

 

「それにしても優子ちゃん」

 

「ん?」

 

 近くで寛いでいた「お義母さん」が声をかける。

 

「花嫁修業の時も思っていたんだけど、どうやったら優子ちゃん見たくあんな胸が大きくなるの?」

 

「うーん、あたしも女の子になって目が覚めたらこの大きさだったので」

 

 この質問はいろいろな女性からされる。

 やはり、胸が大きいのは羨ましいポイントなんだろう。

 

「ふふっ、優子はそれだけ女性ホルモンが多いってことよ」

 

 母さんが微笑みながら言う。

 女性ホルモンというと、どこか甘美な響きがする。

 あたしも、女性ホルモンが胸を大きくし、お尻を大きくし、女性らしい体つきを形成することは知っている。

 

 つまり、あたしの体はとても女性らしい体つきということになる。

 

「ねえ優子ちゃん、肩こってる?」

 

 そして、胸が大きいが故の悩みと言えば、肩こりはあまりにも有名なことだ。

 

「うん、温泉の中での肩もみは好きよ」

 

 あたしは「お義母さん」に肩を預けると、指で押される感覚を受ける。

 

「あー、気持ちいい」

 

「優子ちゃん、すごい肩こりよ。やっぱり、噂は本当なのね」

 

「噂?」

 

「胸が大きいと肩がこるって」

 

 てっきり有名な話だとばかり思っていたけど、やっぱり大きな人に直接聞かないとわからないものかな?

 

「優子は加えて髪も長いから、肩に『こってください』って言っているようなものよ」

 

 母さんが付け加える。

 

「うん。でもあたし、髪も切らないし、胸を小さくするなんて絶対嫌だわ」

 

 多分、髪はともかく、胸を小さくしたら、浩介くんの受けは絶対に悪くなると思うし。

 

「ええ、もちろんそれがいいわよ。胸は女性の象徴だもの、小さくするのは身を刻むようなものよ」

 

 カリキュラム中、一度だけ「髪を切りたい」と母さんに持ちかけて却下されて以来、あたしは髪を切るという話題をしていない。

 もちろん、定期的な手入れは欠かしていないけどね。

 

「そう言えば、協会の人も髪長い人が多いわね」

 

 ふと、協会のTS病患者の人達の顔を思い浮かべる。

 あたしみたいなストレートロングもいるし、永原先生はあたしほど長くないけどセミロング、比良さんと余呉さんはそれぞれ結んでいるけど、下ろしたら結構長くなると思う。

 一方で、ショートなのは幸子さんくらいだけど、彼女でさえ男子の中では長い方になる。

 そしてベリーショートの人は、誰一人思い浮かばなかった。

 

「そりゃあ、髪は女の子の生命線よ。協会の人は女性らしさを支えにしているんだから、男性にはできない髪型にするのは当然よ」

 

 母さんが、鋭く指摘する。

 確かにその通りだと思う。いろいろな髪型に出来るのも、ある意味で女の子の特権だし。

 

「ふう、マッサージ、この辺でいい?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 あたしは、軽く肩を動かし、ほぐれたことを実感する。

 もっとも、マッサージはあくまで一時しのぎ。あたしはほぼ、肩こりの解決については諦めている。

 それでもやっぱり、肩もみは気持ちいいわね。

 

 その後、あたしたちはいくつかのお風呂を体験した。

 母さんと、「お義母さん」、そしてあたし、周囲から見ると何だか不思議な3人組でのお風呂だと思う。

 もしあたしがいなければ、古いママ友くらいな感じだと思うけど、若いあたしがいることで微妙な空気を醸し出している。

 レズカップルとその子供には到底見えないのも、更に不気味さを増大させている気がする。

 ちなみに、あたしが揉んでみたら、2人の肩はあたしよりこっていなかった。あたしのほうが若いのに。

 何だか負けた気分だわ。

 まあ、仕方ないかもしれないわね。胸で勝ったとポジティブに考えましょう。

 

 

「あれ? 優子虫よけスプレーは?」

 

「え?」

 

 脱衣所でパジャマに着替えていると、母さんに声をかけられた。

 虫よけスプレーは、もちろん持って来てはいるけど、ここには持ってきていない。

 

「持ってきて無いの?」

 

 母さんがさらに厳しく追及するように言う。

 

「は、はい……テントに置きっぱなしです」

 

「もうっ! ダメじゃないの! いい優子? このあたりはあらゆる所に虫が潜んでいるわよ。虫はお肌の大敵でしょ?」

 

 あたしはまた失敗をしてしまい、母さんによるお説教が始まった。

 

「虫が多くて、肌の露出も高くなるこの時期、虫よけスプレーは大切よ。お風呂では体を洗うんだからなおさらよ。そもそも、お風呂上りの肌の手入れというのはですね――」

 

 とにかくガサツで女子力の低い行動は許されない。それは、あたしが立派に女の子らしい女の子になるために必要なこと。

 このお説教の一つ一つが、不注意で男が出てしまったあたしを、もう一歩女の子にしていく糧になる。

 あたしの修行は、まだ終わっていない。

 

「ま、とにかく今日は母さんのを使いなさい。次は気を付けるのよ」

 

「はい」

 

  シュー! シュー!

 

 あたしは、母さんに言われた通り、特に手足を中心に虫よけスプレーをかけていく。

 

「さ、行くわよ」

 

 虫よけスプレーをかけ終わったら、あたしたちは、母さんの誘導でテントに戻る。

 

「じゃあ、今日は解散よ。また明日よろしくね」

 

「「はい」」

 

「あ優子、浩介くんとしちゃってもいいけど、くれぐれも大きな声は出さないでね」

 

「ははは、分かってるわよ」

 

 母さんの忠告と共に、2人はそれぞれのテントへと戻っていく。

 

「ただいまー」

 

「優子ちゃんおかえり」

 

 あたしたちがお風呂に入っている間、浩介くんも済ませたらしく、お風呂上がりでパジャマに着替えてた。

 

「今日は楽しかったね」

 

「うん、優子ちゃんの両親もいい人だったし、うまくやれそうだよ」

 

 そう言えば、浩介くんはあたしの両親にあんまり会ってなかったんだっけ?

 

「ふふっ、それは良かったわ」

 

 あたしがニッコリと笑い、浩介くんと横になる。

 あうー、浩介くんの顔が近くて緊張するわ。テントの中、案外広いようで狭いのかもしれないわ。

 

「ゆ、優子ちゃん……」

 

 浩介くんの顔がほんのり赤くなっていく。

 

「浩介くん……んっ……」

 

 あたしは目を閉じて、ほんの少し口にるをとがらせ、「キスして」のアピールをする。

 程なくして、浩介くんのものと思われる唇が、あたしの唇に触れる。

 

  ちゅっ

 

 浩介くんとの楽しいデートの後は、こうしてキスもする。

 でも、ここまで狭い空間でのキスはあたしにとっても特別だわ。

 とても狭くて薄暗くて閉鎖的なはずの場所なのに、一歩出ればそこは屋外、テントという空間はそう言うところ。

 

「じゅるっ……ちゅぱっ……んんっ……れろっ……んあああ」

 

 横向きでキスをしたので、舌から出た糸は、いつもと違う切れ方をした。

 

「なんかこれ、新鮮だな」

 

「うん」

 

 あたしは、本能的に手を浩介くんの下に伸ばす。

 

  さわさわっ……

 

 まだ大きくはなりきってなかったけど、あたしが触れただけで、すぐに成長した。

 

「ゆ、優子ちゃん!」

 

「えへへ、ここ触ると落ち着くわ」

 

 実際、「ここ」に癒しの効果があることを知ったのは女の子になってからで、多分女性ホルモンがそうさせているんだと思う。

 そう言う意味で、男が触っても何も起こらないと思う。

 

「じゃあ俺も!」

 

  ぼいんっ

 

「きゃはっ! 浩介くん本当におっぱい大好きだね」

 

 浩介くんに胸を触られる。今日だけで何回目だかもうわからないわ。

 

「あははっ」

 

 あたしは、母さんに言われたことを思い出す。

 いつ妊娠してもいいと。

 今は8月の後半で、卒業まで後半年程度となった。

 でも、今妊娠しちゃったら、大学生活で出鼻をくじかれること。でも、やっぱりあたし……

 

「優子ちゃんダメだよ!」

 

 ズボンを弄って、浩介くんの下半身を出そうとして、浩介くんに止められてしまった。

 

「そ、その……」

 

「まだだよ。もう半年、半年ちょっとだけ、我慢しようよ。約束したでしょ?」

 

「あ、うん……ごめんなさい、あたしつい」

 

 しょんぼりした顔で、あたしが謝る。

 

「いいんだよ。俺だって我慢してるんだから」

 

 うん、そうだったわね。

 ありがとう浩介くん、あたしに理性を取り戻してくれて。

 

「そうだ、星を見ようよ」

 

 ごまかすように、浩介くんが話題を変えてくる。

 

「うん」

 

 あたしたちは、テントからひょいと顔を出す。

 頭上には、普段住んでいる地域では到底見られないような星空だった。

 

「きれいね」

 

「すげえよな、この星々の多くがさ、俺たちが想像もつかないような、はるか遠くで輝いているんだからな」

 

 星はちょうど点光源で、ほとんど動いていないようにも見えるけど、実際にはものすごく遠くだから祖雨見えるだけで、星々は猛スピードで動いているから、星座だって変わってくる。

 永原先生の人生よりもずっとずっと長いペースで、だけど。

 

 ただ静かに、星座だけを見る時間が過ぎていく。

 しばらくして、あたしたちはまたテントに戻り、ディープキスをする。

 そして、お互いの体に触れあっていく。星空を見た後のテントの中でのキスは、いつもよりもずっと幻想的な味がした。

 普段と変わらないはずなのにね。


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