永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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思い出の数々

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

「うーん……」

 

 目覚まし時計の音、今日は待ちに待った文化祭の日。

 今年も去年と同様2日構成で、1日目は学内生徒のみで、2日目は一般にも公開されて行われる。後夜祭も例年通りの開催になっている。

 あたしは去年と同じく浩介くんと見回りすることになっている。

 

 覚醒したら、ベッドから起き上がってハート型のクッションに立つ。

 このクッションも、何だかんだで1年以上愛用している。

 

 パジャマと下着を脱ぎ、すっぽんぽんになってから、下着選びを行うのもいつも通り。

 ……よし、今日は青白の縞パンにしよっと。

 

 あたしは手慣れた手つきで制服を着込み、鞄を持ってリビングへと行く。

 

「おはよー」

 

「優子おはよう。今日は文化祭?」

 

「うん」

 

「頑張ってね」

 

「分かってるわよ」

 

 と言っても、去年と似たような感じにはなると思う。

 浩介くんと一緒に回る。去年はまだ婚約者どころか正式な彼氏彼女でさえなかったけど。

 

 それにしても、去年の文化祭は大変だったわ。

 メイド喫茶にミスコンに、浩介くんも嫉妬しちゃって、でも後夜祭では浩介くんに告白されて、永原先生に渡された紙、あれのお陰で、あたしは、本当の意味で「女の子」になれた。

 

 何故かは分からないけど、今年の文化祭も、何か大きなことがありそうだわ。

 

 

「行ってきまーす」

 

「行ってらっしゃーい優子、鍵は閉めておくわよ」

 

「はーい!」

 

 母さんの声をバックにあたしは小谷学園へと向かう。

 通学路の雰囲気はいつもと違うけど、これがあたしにとって3回目の出来事でもある。

 今日からの文化祭を、みんな楽しみにしていた。

 教室の前には、ミスコン代表の桂子ちゃんの写真が大きく張られていた。

 今年はもうすでに当確ランプがついてしまっていて、無風選挙になると見込まれている。

 

  ガラララ……

 

「おはよー!」

 

「あ、優子ちゃんおはよう」

 

 今年の文化祭仕様の教室は、今回椅子がない。

 男子は床に座り込んでいる人もいるけど、あたしは壁のロッカーの方に寄りかかる。

 何故ならそこが浩介くんの隣だから。

 あたしの後も生徒たちが次々と教室に入ってきて、今日はいつもと違う面持ちになっている。

 

  ガラララ……

 

「みんなおはよー」

 

 文化祭前のホームルーム開始よりも、かなり早い時間に、制服姿の永原先生が入ってきた。

 

 

「おい、永原先生、また制服姿だぞ」

 

「結構かわいいよな。先生の制服」

 

「というか、どう見ても最年少にしか見えないよなあ……」

 

「今年はミスコン出ないんだってなあ……」

 

「まあそりゃあそうだろ? 先生なんだから、むしろ去年が特殊でしょ」

 

「ま、そのおかげで、今年は桂子ちゃんが本命だな」

 

 永原先生のいつもと違うけど去年も見た格好に、うちのクラスの生徒達も興味津々になる。

 永原先生の制服姿はちょうど去年の文化祭以来で、あの時はミスコンでの撮影とかで制服姿になっていた他、メイド服姿も披露して、メイド喫茶もしていた。

 元々、レディーススーツのお陰で、少しだけ大人っぽく見えているけど、実際には永原先生は背も低いしあたし以上の童顔だ。そのため、制服姿に違和感がないどころか、むしろ女子中学生が背伸びしているようにさえ見えてしまう。

 いつもは下ろしているセミロングの髪も、今日はツインテールにまとめられていて、それが一層幼さを強調する。

 身長はあの時代の人にしてみれば高いけど、やはり現代人からすると、「ロリ」の域は出ない。

 

 皆が注目する中、永原先生が教室の中央に移動し、そこで立って展示の全体を見ている。

 

「あの、永原先生」

 

 あたしは、永原先生に近寄って声をかける。

 

「石山さん、どうしたの?」

 

「その、何でまた、制服に?」

 

 あたしが恐る恐る聞いてみる。

 

「ああうん、せっかく文化祭だから、と思ってね。去年限定じゃあもったいないでしょ?」

 

 永原先生はさらりとした表情で言う。

 永原先生、そう言えばあたしがきっかけで青春へ興味を持ったんだっけ?

 

「もったいないのかなあ?」

 

 よく分からないわ。

 

「うんうん。TS病の先輩として言っておくわね。これからの人生長くても、10代は一度きりだし、時間は巻き戻せないわよ」

 

「知ってるわよ」

 

 そのことは、あたしだって重々わかっている。

 今は高校生活の、最後の文化祭だってことも。

 

 その後も次々と、クラスメイトたちが集まって来る。

 永原先生は相変わらず凄い溶け込み具合で、毎日顔を合わせているうちのクラスメイト達も、一瞬「あれ? 誰だっけ?」という顔をする。

 もちろん、顔や体型をよく見直せば、それは2年間担任をしている永原先生だとわかる。

 

 しばらくすると、ホームルームの時間になってくる。

 すると永原先生が再び教室の前の教卓部分に移動する。

 

  キーンコーンカーンコーン

 

「はーい、みなさん、ホームルームを始めますよー!」

 

 チャイムが鳴ると、永原先生が号令をかけ、教卓の方に移動する。

 

「えーっと、皆さん、本日は文化祭です。3年生は大半が自由時間ですが、こちらの展示物の見張り役や、各自の部活の担当を忘れないように、くれぐれも注意してください。また、最後のお祭りですが、羽目を外しすぎないように、最後まで気を抜きすぎないでください。よろしいですか?」

 

「「「はーい!」」」

 

 永原先生の言葉に、みんなが返事をする。

 やっぱり、制服姿の永原先生はとてもかわいくて、先生というよりも、小さなクラス委員長という感じがするわね。

 

 ピンポンパーンポーン!

 

「えー、こちらは生徒会です。ただいまより、2018年度、小谷学園文化祭1日目を開始します!」

 

 そして、永原先生の話のすぐ後、生徒会長さんによる文化祭開始の合図とともに、あたしたちは一斉に教室を駆け出していく。

 

「浩介くん、行こう?」

 

「おうっ!」

 

 あたしたちはまず、隣のクラスを見て回ることにした。3年2組なので、去年はメイド喫茶をしていたクラスになるけど、もちろんメンバー的には去年の2組は1組になっている。

 

 今年はというと、去年の林間学校をまとめた写真展になっている。

 この時間は、あまり3年生の所には人がいない、その分、落ち着いて見ることができる。

 

 ちなみに、教室の前に貼ってあったミスコン代表は、去年見ない顔で、一目見ただけで桂子ちゃんの相手にもならなさそうな顔だった。

 多分、女性票でごり押しになったんだと思う。

 

 ともあれ、中の林間学校の写真展を見て回る。

 

「あ、石山さんに篠原さんいらっしゃい」

 

 見張り役の女子2人のうちの1人が声をかけてくる。

 

「写真、見ていきますね」

 

「ええどうぞ」

 

 林間学校の写真は、このクラスの生徒のみならず、全クラスから満遍なくチョイスされている。

 写真はバスにみんなが乗り込むところから始まっている。4台分あるけど、黒くて長い髪がないから、あたしの姿は映っていない。

 

「懐かしいわねえ……」

 

 浩介くんにおんぶしてもらった山の登山、これは別のクラスに焦点が当たっていたけど、山頂ではいくつかあたしたちのクラスの写真もある。

 最も、あたしは写ってないみたいだけどね。

 

「山登りさ、優子ちゃんおんぶするっていうの、勇気が要ったよ」

 

 浩介くんが懐かしそうに言う。

 

「うん、でも本当にありがとう。もし浩介くんがそう言ってくれなかったら、あたしきっと、麓のホテルでずっと一人泣いていたわ」

 

「優子ちゃんの背中に胸が当たって、もし今だったらもっと興奮しちゃってたと思う」

 

 浩介くんが、ちょっとうつむきながら言う。

 

「それって、あの時よりもあたしのこと好きになっちゃったから?」

 

 あたしが顔を赤くしつつも、ちょっと意地悪っぽく聞いてみる。

 

「う、うん……」

 

 浩介くんが、顔を真っ赤にして頷く。

 

「ふふっ、あたしも、今の浩介くん大好きだわ」

 

「優子ちゃん……」

 

 おっと、あんまりいちゃつくのもまずいかな?

 

 気を取り直して、あたしは次に3日目の写真に目が行く。

 森林公園の様子は、人間ではなく森を映していた。

 そして自由時間の写真に入る。

 

「あれ? これ優子ちゃんじゃない?」

 

「どれどれ……あ、本当だわ!」

 

 それは、ホテルのロビーで少女漫画を読んでいるあたしだった。メインの被写体は明らかに別で、偶然映り込んだという感じになっている。

 

「優子ちゃん、少女漫画が好きだよね」

 

「うん、カリキュラムの時から読んでいたもの」

 

 少女漫画は恋愛ものがとても多くて、女の子の恋愛を学ぶことができた。

 今思えば、浩介くんって少女漫画の男の子みたいにかっこいいよね。

 凛々しくて頼もしくて、力持ちで、あたしを守ってくれて、責任感も強くて。

 

「やっぱり、少女漫画読むと女の子らしくなってる感じする?」

 

「うーん、そこまで実感はないけど、たぶんボディーブローのように効いているんじゃないかな?」

 

「ふーむ」

 

 浩介くんが何やら考える仕草を見せる。

 あたしは、林間学校のことを思い出すけど、この手のカメラを向けられた記憶がない。

 花火の様子や、バーベキューにも、あたしたちは映っていなかった。

 

「あ、これ俺たちじゃん」

 

「どれどれ……あ、本当だわ」

 

 ホテルから出て、バスに入ろうとするあたしたちが映っている。

 そしてその次は、別のクラスのバスの車内の様子が写っている。しかしあたしたちのクラスだけ、帰りの写真がない。

 

「やっぱり、あの事件のせいだよな」

 

 あたしが恋に落ちるきっかけにもなった事件、浩介くんがナンパ男からあたしを守ってくれた。

 

「うん、あの時は本当に怖かったわ。浩介くん、今更だけど、改めてありがとうね」

 

「あ、ああ……」

 

 林間学校の様子をレポートすることで、あたしたちも懐かしい思い出に浸ることができる。

 でも、このレポートは、あたしたちにとっては不完全な思い出になっている。

 そう、あの後、あたしと浩介くんは、永原先生と彼女の故郷巡りをした。

 その事実は、ほとんどの人は知らない。蓬莱教授には少しバレちゃったけど、永原先生の、秘密にも関わるから。

 

「さ、次に行こうぜ」

 

「うん」

 

 浩介くんに連れられて、あたしは隣の教室に行く。

 やはり教室前にはミスコンの宣伝ポスターがあったけど、こっちも男受けの悪そうな感じになっている。

 もしかしたら、「男子受けは桂子ちゃんが全部持っていくから」という意見でゴリ押ししちゃったのかな?

 

「いらっしゃいませー!」

 

 こちらは、男子生徒の声がする。

 中はスキー合宿のレポートになっている。

 林間学校ほどじゃないけどもう懐かしい思い出だわ。

 

「もう8か月も前なんだな」

 

「うん、随分長かったわね」

 

 こちらは、パッと見た感じでは、スキーそのものよりも、ホテル内部の写真が多い。

 誰も入っていない大浴場や、レストランの写真、また部屋の写真もある。

 

 説明文の多くには「これらはもう、取り壊されて見ることはできない」とある。

 

「これだけ見ると、いかにも『もったいない』って演出になるよなあ」

 

 浩介くんがややあきれた感じに言う。

 

「そうよね」

 

 実際には、あちこちがガタついたオンボロホテルで、むしろ建て替えが遅すぎたくらいの代物だったのに。

 

 そして、スキーには上級班の写真もある。

 

「この中に浩介くんもいるの?」

 

 正直、スキーウェアとスキー帽で、しかも遠くからの写真なので顔が分からない。

 

「うん、えっと……どれだったかなあ……?」

 

 浩介くんが必死に思い出そうとしている。

 

「……うーん、まいっか!」

 

「うん、どこかに居るってだけでいいわよ」

 

 実際、被写体とカメラマンの位置関係や、時間がわからない以上、どれが浩介くんかを突き止めるのは至難の業よね。

 そして、このレポートにも、あたしたちに欠けているところがある。

 

「やっぱ、家族風呂の写真は無いわよね」

 

「あはは、もしあったら盗撮だろ? 今頃大騒ぎだって」

 

 浩介くんが笑いながら言う。

 うん、実際の所、あたしにとってのスキー合宿はスキーそのものよりも、浩介くんと一緒に家族風呂に3回入ったことの方が思い出に残るイベントだった。

 浩介くんと一緒にお風呂、結婚したら当たり前になっちゃうのかな?

 うーん、考えるのはやめるわ。

 

「お、俺の滑りもあるじゃんか」

 

 写真には、浩介くんの独演会もあった。解説文字には、「2組の篠原浩介君による滑り、上級者コースを難なく滑る彼は、1級の実力だ」とある。

 

「あの時の浩介くん、本当にカッコよかったわね」

 

 うん、うまく滑れてよかったわよ。

 そしてレポートの写真は最終日に入る。

 消えゆくホテルということで、閉店後の食堂や、大浴場の写真もあり、更には従業員たちの帽振れや、後日送られてきたと思われる従業員たちのお別れパーティの写真、現在の建て替え工事の様子や、次のホテルの完成予想図もある。

 

「へー、こうなるんだな」

 

 現在工事は急ピッチで進められていて、「2021年3月に全館開業予定」と書かれている。

 東京オリンピックのは間に合わないけど、まあスキー場のホテルだしそんなに大きな問題じゃないのかな?

 

 ともあれ、出口に到着したので、続いては4組、恐らくここは、この前の修学旅行だろう。

 

「お邪魔しまーす」

 

「あ、おはようございます。石山さんに篠原さんですね」

 

「はい」

 

 あたしたちは、学校でもすっかり有名人で、こうやって名指しで声をかけられることも多い。

 ちなみに、イベントのレポートの展示で一番難易度が高いのがこの修学旅行になっている。

 何故なら、小谷学園の修学旅行は自由度が高く、そこをどうアピールできるかが大きな課題になっている上に、他のイベントに比べて注目度も高い。

 最初の写真は、やっぱり新幹線だった。そして、車窓の写真、特に富士山に力が入っていた。

 

「よく集めたな。富士山ばっかり」

 

 浩介くんが、ややため息をつきながらも感心している。

 実際、修学旅行は京都以西に行く人が多くて、富士山を見る生徒はいない。

 富士山と言っても単なる通過点だから、あまり強調しすぎるのもどうかと思う。

 

 そして1日目の展示は、やはり京都の町が多い。あたしたちもホテル周辺を散策したものね。

 

「へー、こんな名所もあるのね」

 

「ああ、盲点だったぜ」

 

 そしてこの展示、世界遺産の寺などのメジャーな名所ではなく、いかに多くの「穴場の名所」を持ってくるかが大事になってくる。

 修学旅行は自由時間が多いことをアピールするために「他の学校とは違う」ということをアピールするためにも、こうした展示は必要不可欠だ。

 

「あれ? これ、あたしたちが行ったところだわ!」

 

 よく見ると、人は写ってないけれども、例の転車台付きで、大量の蒸気機関車が展示されている写真を発見した。

 他にも、博物館内の写真がいくつもある。冷水器や昔の信号の展示、更には永原先生と鉄道車両の2ショット写真まであって、解説文には「永原先生が同行していた生徒に分かりやすく鉄道の解説をしていました」と書いてある。

 あれ? あたしたちこんな写真なんて撮ってたっけ? 他の写真は恵美ちゃんか龍香ちゃんの提供だと思うけど。

 

「ん? どうしたの優子ちゃん?」

 

 首を傾げているあたしに浩介くんが気になるように言う。

 

「いやその……博物館で永原先生の写真なんて撮ってなかったから……」

 

 実際、このシーンは記憶にない。

 

「ああこれ? 合成写真よ」

 

「「え!?」」

 

 横から突然、背の低い女の子が話しかけてきた。

 よく見ると、それは制服姿の永原先生だった。

 

「な、永原先生」

 

「いやね、文化祭の展示で、鉄道博物館を提供しようと思ったんだけど、私の写真がなくてね。だからこの博物館にあるDD54の写真と、後で撮った私の写真で合成したのよ」

 

 い、いいのかそれで?

 

「そうだったのね」

 

 ちなみに、解説文の続きには「永原先生は、『この機関車DD54は欠陥機関車として大失敗作だった』と説明していました」と書いてある。

 写真はフェイクなのに、説明はフェイクではないのがまたシュールな感じを生み出しているわね。

 

 さて、鉄道博物館の紹介が終わると、展示は3日目のコーナーに移る。

 ここでは、和歌山に行った生徒や、嵯峨の「トロッコ列車」に乗った生徒などを紹介している。

 これを見た永原先生は「いいわねトロッコ列車、山陰本線の旧線を使っていて、私も次は乗ってみたいわね」と言っていた。

 

 そして最終日、そこはあたしたちが廻った4つの寺ではなく、4組が廻った大阪の観光地がある。

 

「お、ここは俺たちも行ったな」

 

 浩介くんが写真の一つを指さして言う。

 

「あ、うん」

 

 そこには、何を隠そう道頓堀川の「グリコ」のある場所だった。

 他にも「くいだおれ」と称するピンクの服の人形の写真もある。

 こちらは自由時間とは違うので、メジャーな場所で攻めている。

 この前日、あたしたちは偶然ここを訪れていたのだ。

 

 そして最後、富士山の写真は1枚だけで、「こだまで帰った」ということで、途中で何度も抜かされる様子が主に撮影されていて、修学旅行の展示も終わりになった。

 

「石山さん、篠原君、じゃあ私は、別の所を回るわね」

 

「うん、永原先生、いってらっしゃい」

 

 あたしたちは永原先生を見送る。

 

「優子ちゃん、俺達はどうする?」

 

「うーん、2年生の教室を回りましょう」

 

「そうだな」

 

 こうして、2度目の文化祭が幕を開けた。


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