永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
浩介くんとの2回目の文化祭は、3年生のスペースを終えて2年生の所に進んだ。ここは模擬店の他に、去年あたしたちが企画したメイド喫茶もあった。
「浩介くん、入ってみる?」
「あ、ああ……」
今は……ちょうどミスコン出場の女の子がいるみたいね。
「あ、石山先輩……じゃなくってお帰りなさいませご主人様、お嬢様ー!」
去年よりも露出を控えたメイド服の女の子が出迎えてくれる。
ちなみに、男子陣が厨房を担当しているのは去年と同じ。
メニュー表を見ると去年よりも品揃えはやや豊富と言った感じかな?
「どれにする?」
「うーん、俺はコーヒーとサンドイッチでいいかな? 優子ちゃんは?」
「オレンジジュースとミニトーストで」
「分かった。すみませーん!」
「はーい、今覗いまーす」
浩介くんの声かけに、メイドさんが1人駆け寄ってくる。
どうやらミスコンの子みたいね。
「ご注文伺いいたします」
「コーヒー、オレンジジュース、サンドイッチ、ミニトースト」
「はい、コーヒー、オレンジジュース、サンドイッチ、ミニトーストいただきましたー!」
メイド服の女の子が、厨房にオーダーを入れる。
多分、そう待ちはしないと思う。
「ねえねえあの2人」
「石山先輩と篠原先輩よね。何時もラブラブらしいよ」
「篠原先輩ってカッコいいよね。あーあ、いい男はかわいい子にすぐ取られちゃうわね」
「本当、世の中不平等よねえー」
他の席で、女子の2人組が話している。
あたしのことをかわいいという噂話はよく聞くけど、浩介くんに「かっこいい」というのは、はじめてに近いわね。
あたしのかわいさが目立つというのを差し引いても、浩介くんの方は彼氏になったばかりでは「不釣り合い」なんて言われていたのに。
「ねえ浩介くん」
「ん?」
男の子の恋については、浩介くんに聞いてみよう。
「よく恋は女の子を変える。恋をするとかわいくきれいになるって言うのよ。浩介くん、男の子も、恋をするとかっこよくなるのかな?」
「え!? うーん、優子ちゃんはどう思う?」
浩介くんが逆に聞いてくる。
「あたし、女の子だからよく分からないわよ」
あたしも元男だけど、あえてこう言う。
「いやいや、優子ちゃんだって男だったんでしょ?」
浩介くんが「おいおい」というジェスチャー付きでツッコミを入れる。
「うん、分かってるわよ。でも、優一の頃は恋愛なんててんで縁がなかったもの」
「とすると、他の彼女持ちの男子の話を聞くしかないかなあ……」
「でも、浩介くん、あたしの彼氏になったばかりの頃は『不釣り合い』なんて噂までされてたのよ。だから、あたしとしては、恋って男の子もかっこよくすると思うわよ」
「あー、そう言えばそうだったなあ……」
実際、あたしもどんどん浩介くんにのめりこんでいくのが分かる。
それは結局、浩介くんが、女の子にとってかっこよく魅力的な男子になったということでもある。
でも、よく考えたら男の子の方が性欲も強いし、それを満たすために彼女好みになろうとするんだから、かっこよくなるのも当然かな?
あたしもあたしで、浩介くんに好かれるために頑張っているものね。
「お待たせしました。こちらコーヒーとオレンジジュースになります……こちら、サンドイッチとミニトーストになります」
メイドさんが、あたしたちの席に飲み物と食べ物を持ってきてくれる。
あたしたちは手を挙げて、どっちがどっちかを示す。
「では、ごゆっくりおくつろぎくださいご主人様」
メイドさんはその言葉と共に、次のお客さんを応対する。
やはりメイド喫茶というのは文化祭でも注目度が高いのか、去年のあたしたちほどじゃないけど、それなりに賑わっているみたいね。
「はむっ……うん、うまいな」
「去年のあたしたちは……どうだったかしら?」
正直に言うと、忙しく応対していたこととか、浩介くんが嫉妬しちゃったことばかりが印象に残っていて、味は全く覚えていない。
「うーん、あんまし覚えてねえなあ。後夜祭の最後の時に、優子ちゃんが淹れてくれたコーヒーの味は、一生忘れねえけど」
「もう、浩介くんったら!」
去年の文化祭のメイド喫茶は、あたしに桂子ちゃん、永原先生までメイド服になっていて、それに加えて龍香ちゃんもいて大人気を博した。
また、恵美ちゃんも普段とのギャップもあって人気メイドになったのを覚えている。
「あ、お2人さん」
「ん?」
少し忙しさが一段落したのか、さっきのメイドさんがまた話しかけてくる。
「もしよろしければミスコン、私に清き一票をお願いいたします」
「あ、うん。考えておくわ」
とは言ったけど、もちろん投票先は桂子ちゃんに決めている。
多分、殆どの人はそんな感じだと思う。
「ミスコンかあ……」
浩介くんが最後の一口を頬ばった後に言う。
「去年はすごかったよねえ……」
あたしにとっても、忘れられない思い出になったと思う。
「最後まで接戦で、優子ちゃんが優勝できてよかったよ」
「うん……さ、混んでるし、行きましょう」
「おう」
あたしも食べ終わったので、席を立ち出口へ向かう。
「行ってらっしゃいませご主人様ー!」
メイドさんのそんな言葉を背後に聞きながら、あたしたちは他の2年生の出し物に移る。
他のクラスにはゲームや占いのコーナーもあったけど、恋愛占いでは浩介くんが無言の圧力をかけて、占い師さんが「必ず成就するでしょう」と言わされていた。
正直、「それじゃ占いじゃないわよ」と言いたいけど、まあいいわ。占いするまでもなく、成就するに決まっているもん。
そして、あたしたちはちょうどいい時間になったので、食堂で昼食を食べる。さっきメイド喫茶でも軽く食べたので、あたしも浩介くんも、いつもよりも軽い感じにする。
その食堂では、生徒たちの会話はミスコンの話題が多いけど、「誰に投票した?」という問いには、桂子ちゃんの名前ばかりが飛び交っていた。
「そうだ、俺たちもミスコン投票しようぜ」
浩介くんが思い出した様に言う。
「うん、浩介くんも桂子ちゃんに投票するの?」
「ああ、日ごろ天文部で世話になってるのもあるし、やっぱり、出場者中で圧倒的美少女の木ノ本一択だな」
「うん、あたしも桂子ちゃんがいいと思う」
国際的なミスコンでさえ、どう考えてもあたしや桂子ちゃん、永原先生の方がかわいくて美人にしか見えない人が優勝している。
というよりも、実際に歴代のミスコン優勝者たちと、メディア取材を受けた時のあたしと永原先生の顔を比較した画像では、ミスコン優勝者が誹謗中傷の材料にされていたし。
低身長でのロリ巨乳というちょっと偏った属性のある永原先生には、「いやこの年のこの子のほうがかわいいだろ」という指摘もいくらかあったけど、あたしは胸も大きくて顔も歴代の誰よりもかわいいということで辛口のネット住民からも太鼓判を押されていた。
……顔だけ見たらあたしと永原先生は五十歩百歩の童顔だとは思うけど。
ちなみに、稀にあるミスコン擁護派の議論として、「あの手のミスコンは容姿だけじゃなく内面も審査する」というものがあるけど、あたしからすればブスを選んだという批判をかわすための言い訳に見えてくる。
そんなちょっとの審査で、内面なんか分かりっこないもの。小谷学園のミスコンは、そう言う意味ではかなり正直なミスコンだと思う。変な利権やゴリ押しもないし。
そんなことを考えつつ、あたしたちは投票所へ移動する。
去年と同じ体育館で、生徒会の人が受付をしている。
「すみません」
「はーい」
「ミスコンの投票に来ました」
あたしが代表して告げると、生徒会の人は去年と同じ手続きをして、投票用紙を渡してくれた。
投票所の場所も、去年と同じね。
あたしは投票用紙に「木ノ本桂子」と書き込んで投函する。おそらく、浩介くんも同じ名前を書いて投函したと思う。
ざわざわざわ
投票が終わると、急に体育館が騒がしくなった。生徒会の一人が、スマホを使って誰かと連絡を取っているのが見えた。
大きな紙が丸められているのも見える。
「もしかして、中間発表じゃない?」
「ああ、ちょっと見てみるか」
あたしが言うと、浩介くんも反応してくれた。
いいタイミングだし、見ていこうと駆け出したその直後、生徒会長さんから中間発表の放送が流れた。
「ナイスタイミングだな」
「うん」
あたしたちは、他の生徒たちと一緒にポスターを見る。
「何これ」
「もう圧倒的すぎるでしょ」
「石山先輩と永原先生がいないだけで、こうも違うんだな」
「うーん、これもう明日の審査中止でよくね?」
周囲が既にお通夜モードのような会話をする。
それもそのはず、桂子ちゃんだけで総投票数の95%以上を集めていた。2位の女の子でさえ10票にも満たない。
あたしたち3人が独占していた去年以上に、下位の候補は惨めになっている。
だけど実際、こうやってポスターにすると、桂子ちゃんのかわいさは群を抜いている。
むしろ、よく去年こんなにレベルの高い子に勝てたと、我ながら感心してしまうくらいだわ。
「すげえなあ木ノ本」
「うん」
「でも、去年のミスコンも似たようなもんじゃねえの? 木ノ本に優子ちゃんに先生で、これだけ集中していたし」
確かに浩介くんの言う通りだけど、1人で独占するのと、3人で寡占するのとでは大違いだと思う。
寡占なら、独占と違ってまだ寡占している人同士での競争があるから面白みは維持できるけど、独占にはそれがないし。
「やっぱ今からでも永原先生を出すべきじゃね?」
「いやでも去年が特別でしょ?」
「じゃあまた石山か?」
「連覇させちゃいけないだろ」
桂子ちゃんの圧倒的な成績の前に、周囲もそんなことを話題にする。
まあ、今更変えられないと思うけど。それにしても圧倒的よね。
「ねえ、桂子ちゃんにも報告しようよ」
「ああ、今は……天文部にいるな」
あたしたちは、いつも使っている部活棟を目指す。途中、色々な部活が出し物をしていたけど、これらは明日見にいけばいいだろう。
あたしたちは、まっすぐに天文部を目指す。ちょうど桂子ちゃんの見張りの時間のはず。
コンコン
「はーい」
中から桂子ちゃんの声がする。
ガチャッ
「あ、優子ちゃんに篠原じゃん。どうしたの? ミスコンの結果?」
桂子ちゃんに、何の用事で来たか当てられてしまった。
「うん」
「どうせ見るまでもないわよ。私がダントツの1位でしょ?」
桂子ちゃんが、PCから目を離さず、あっさりとした口調で言う。
その顔は、「当然でしょ?」と言っているようで、実際その通りだ。
「うん、2位の人でも1桁投票数だった程度には」
「優子ちゃんも先生もいない……ライバルいないものね。唯一脅威があるとすれば去年いなかった1年生たちだけど、私が見た感じでは、今年の1年は女子が強くて、女子受けしかしなようなパッとしない人しか出てこないし……勝って当然だわ」
桂子ちゃんがあっさりした風に言う。
確かに、あの得票差では、もはや無投票当選に等しく、決まったようなものよね。
「全く本当、女どもは分かってねえよなあ。男前な女なんて、男で十分だっての。んなやつミスコンに出す意味なんかねえよ」
もう一人いた1年生の天文部の男子が愚痴をこぼす。
「クラスに誰かもっとよさそうな人がいたの?」
あたしが聞いてみる。
「ああ、男子がクラスで1番の美人と2番目の美人、これがまあ、木ノ本先輩には負けるけれども、甲乙つけがたかったんだ。男子の間でも意見が分かれていて、2人のうちのどちらかにするか議論してた所に、男っぽくて女子ばかりに人気だった生徒をごり押しされちゃって」
「……あーあ、可哀想に。レズビアンじゃ無いなら、男に好かれる方が、よっぽど女の子として大事なことなのにね」
桂子ちゃんがあきれ気味に言う。あたしも同意見だわ。
「聞くところによると、その美人2人組は女子グループじゃあ孤立してたらしいぜ。当人たちは女子ウケが悪いことについては全く異に返してなかったけど、2人のうちの1人は、ミスコンに出られなくてかなり怒ってたよ」
「無理もないわね」
ましてや、自分よりも明らかにかわいくない子に出場権取られたら……本当に心中察するわね。
「で、もう1人の方はどうだったんだ?」
浩介くんが効いてくる。
「ああ、そっちの子は何かあんまり乗り気じゃなかったみたいだよ」
「そう、いい機会だと思うのに」
あたしが残念そうに言う。
「うーん、でも、石山先輩や木ノ本先輩の方が例外的で……実はミスコンって本当にかわいい子はあんまり興味を持たないし、推薦しても出たがらねえんだよ」
天文部の男子が言う。
「え!? そうなの!?」
あたしが驚く。
「ああ、だからこそ、去年は俺たち1年の間でも伝説になってんだ。文字通りの頂上決戦ってことで、小谷学園始まって以来なんだぜ」
「へー、そう言えば、一昨年のミスコンで優勝した先輩も、桂子ちゃんがいない優勝でケチ付けられていたわね」
あたしが思い出すように言う。
「ああ、実際には毎年毎年、そんな感じだったらしいぜ、『お前よりもかわいくて美人いるだろ』って言われてな。そういう意味でも、木ノ本先輩と永原先生を退けて優勝した石山先輩の『ミス小谷』は、他の年より価値が高いんだぜ」
「そうなのね」
1年生の男子の言葉に、あたしはちょっとだけ誇らしくなる。
確かに、去年の盛り上がり様はすごくて、教師票もいつもより入ってたらしい。主に永原先生にだけど。
それにしても、「本当にかわいい子は出ない」かあ……まだまだあたしの中でも、女の子の知らない価値観があるのね。覚えておこう。
「だとすると、私の優勝もあまり価値が無いかなあ……」
桂子ちゃんがちょっと残念そうに言う。
「ううん、そうは思わないわよ。あたしは規則で出られないし、去年の結果は桂子ちゃん2位だったから、桂子ちゃんも、価値ある優勝になりそうね」
桂子ちゃんの言葉に、あたしがニッコリ笑って言う。実際に、桂子ちゃんほどのかわいい子の優勝に価値が無い訳がない。
「ええ、確かに優子ちゃんには負けちゃったけど、今年これだけ差をつければ誰も悪く言わないかもしれないわね」
そもそも、あたしがかわいくて美人すぎるだけで、桂子ちゃんや永原先生だって、ミスコン優勝レベルどころか、それこそ全国アイドルでも十分にやっていけるレベルの容姿がある。
「学校を代表する美人」として、全く恥ずかしくないと思う。
コンコン
「はーい!」
扉をノックする音に、あたしが返事をする。
ガチャッ
「あ、交代です」
見張りの交代時間になったためか、天文部の男子が2人入ってきた。
「はーいありがとう……優子ちゃん、篠原、私文化祭見てくるわね」
「うん、行ってらっしゃい」
あたしが桂子ちゃんを見送る。
「じゃあ俺たちも行くから」
「うん、見張り役お願いね」
「おう、任せておけ」
あたしたちは天文部男子にその場を任せ、残る1年生の出し物を見に教室へ向かうことにした。